202X年の3月某日に地上波で流れたボクシング世界スーパーフェザー級のタイトルマッチの動画は、
ひとときの間SNSや投稿サイトで広く流布された。バズったのだ。

その内容はプロ入りから2年もせずに頂点へと上り詰めた、チャンピオンの強さを改めて認識させるだけのものだった。
キャリアだけは長い無名のチャレンジャーを1ラウンド目、1分も経たずにテクニカルノックアウト。
圧倒的な強さを誇っていたチャンピオンからすれば珍しくない試合内容であり、
今回はたまたまちょっと早めに決着したにすぎなかった。

バズった理由は負けたチャレンジャーにあった。
強烈なフィニッシュブローを受けてロープを乗り越え、リングを転げ落ちるほどの派手な倒れぶり。
ボクサーパンツから流れ出る黄土色の液体。それらが深夜帯とはいえ、隠す暇もなく地上波に流れた。

敗北されたチャレンジャーは"素材"となった。
"脱■KO"と検索エンジンに入力さればそのチャレンジャーの名がサジェストに挙がり、
ゲイポルノビデオの切り抜きと一緒にコラージュ動画化され、
彼の本名と排泄物をもじったあだ名は動画投稿サイトのタグとして残った。
良心あるボクシングファンが動画サイトの運営に通報しても"消したら増えます"などといったタグが付いて
結局今もインターネット上をデータとして漂い続けている。

幸いなのはSNSが動画共有のメインとなり、流行り廃りのサイクルが早まったことだろう。
その衝撃的なノックアウトシーンは1週間程度でインターネットの住民に飽きられ、
以後は下火となった動画共有サービス内でひっそりとおもちゃにされる程度のものとなるはずだった。

だが、その元チャレンジャーの"人気"は再燃した。
彼が河川敷でロードワークに勤しむ動画がSNSに投稿された。
もはや誰の眼に留まることもなく、タイムラインの果てに流れ去るだけの動画――ではなかった。
彼とすれ違う人、追い抜かれる人、追い抜く自転車、その全てが鼻と口とを押さえて飛び退くように彼を避けていた。
彼のスウェットパンツの裾からボロボロと、黄土色の泥状の物体が絶え間なくこぼれる様子が、
彼の走った軌跡にその汚物が列をなして残る様子が、その動画には記録されていた。


    ▲    ▲


おれは まけたのか

ちゃんぷ つよかったなあ

ぜんしん いたいし うまく しゃべれない

かんごしさんは おれを そとに だしてくれないし

こーちも おれに あいに こなくなった

もう じむにこなくて いいんだぞって

もう くるしまなくて いいんだぞって

おれもう ぼくしんぐ できないのかなあ

からだ こわれるまで がんばるって ちかったのに

まだ からだ うごくのに

ても あしも うごくのに

いたいの なんて もうなれっこなのに

なあ だれか おれをここから だしてくれよお

おれの てじょうを はずしてくれよお

からだが なまっちまうよ ちゃんぷに かてねえよ

とれーにんぐ させてくれよお


『――その望み、儂が叶えよう!』


    ▲    ▲


深夜、客の姿もまばらとなった中華料理のチェーン店でのことである。
店長である壮年の男は画面に表示されたオーダーを認めた。
客席のタブレットから遠隔で送られてくる注文である。

案内も待たずに席について、オーダーを寄越す客に少々の苛立ちを感じたが、
店長は3人前の油淋鶏を仕上げ、配膳ロボットで送り出した。

次の注文は生中ジョッキ。
店長自身で客に出そうとしてフロアに出て、違和感に気づいた。
客がいない。そして、鼻が痛い。鼻腔を冷たい刃物に刺されたような痛み。思わず鼻を押さえる。
あえぐように口で呼吸をして、痛みの正体に気づく。

アンモニア臭。フロア全体を満たしている。
客はテーブルに勘定を置いて逃げ出していた。生中を注文した客もだ。

   あの臭い男をなんとかしろ

というなぐり書きと千円札2枚、そして食べかけのギョーザ定食がテーブルに残っている。

アンモニア臭の源は、最後にやってきた油淋鶏の客か。
だが入口から最も近いその席には、もう誰もいなかった。

あいつはホームレスか何かだったのか。
支払いは、スマホ決済とやらでレジに行くことなく終えている。
無銭飲食で警察を呼ぶこともできない。
悪い口コミが広まらなければいいがと、諦め顔で窓と扉をあけ、皿を片し始めた店長。

油淋鶏に味噌カツソースを掛けたおぼえはない。

中の肉だけが食われた油淋鶏の衣に、黄土色のソースが絡まり、鼻を刺す鋭い悪臭が漂っている。
取り落とした皿は割れることなく、粘ついた音を立てて床に張り付いた。
注文用のタブレットに、ベタベタと茶色い指紋が塗りたくられている。
座席には黒褐色の歪んだサッカーボール状の――硬い大便が、黄色い腸液とともに鎮座して湯気を立てていた。

生理的な嫌悪感が店長の背筋を電撃となって走った。
脳天で怒りへと変わったそれをぶつけるため、店長は店外に飛び出し、周囲を見回す。
泥のようなもので汚れたスウェットの後ろ姿を見つけ、怒声を投げつける。言葉にならない。ただ、怒声だ。

スウェット男は怒声に気づく前に、鼻を手で覆った警官に呼び止められていた。
男は警官のアゴにかすめるように腕を振った。寝落ちするように崩れおちる警官。

そのまま走り去ろうとするスウェット男を囲むようにパトカーが何台も現れ、
バタバタと現れる警官隊は、みなスウェット男の発する悪臭にたじろぎ、後ずさり、顔を歪めた。
中華屋の店長も、もはや遠巻きの野次馬の一人と仮していた。


盾持ちの警官が三人がかりでそいつをようやくおさえこんだところで――


そいつは


      ゴ  ボ  ッ


突如として膨れ上がり



      ボ チ ュ ン ッ ッ


爆ぜた。


      ズ バ ー ー ー ー ー ー ー ン!!



男の尻が爆発し、褐色の粘液が武装警官を高々と弾き飛ばした。


 ブリュバババババブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ
 ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ


消火栓を壊したかのように、男の尻から糞が吹き出していた。


 ギョボボボッボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ
 グッボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ


吹き出た糞が、道路を糞浸しにしてゆく。


 ドババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ
 ザババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ



応援に来たパトカーが、糞でスリップして電柱にぶつかった。
緩やかな坂道だったそこで、糞浸しになった道路に流れが生まれ、ゆっくりと周囲のモノと人を押し流し始めた。


 ニュルゥーーーーーーーーーーーッ ズルゥーーーーーーーーーーーッ ヌチュゥーーーーーーーーーーーッ


カンカンカンとけたたましいチャイムの音が近づいてきた。消防車だ。
糞の河のなかでうつ伏せ、今や糞スーツをまとった怪人と化したそのスウェット男がゆらりと立ちあがった。
銀色の防火服に身を包んだ消防隊員がホースを向けた。
人体を破壊する水圧のホースを、だ。

 バシュウウウウーーーーーーーーーーーー

男が尻を向け、


 ビチィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ


下痢便の噴射を以て、消防車の水圧に真っ向から挑む。
吹き出る水と糞が激突し、拮抗する。アニメや特撮でしばしば見られる、破壊光線の力比べのように。
そして、あっさり糞が勝つ。ホースにねじ込まれる、超高糞圧の噴射。
消防車のタンクに叩き込まれた下痢便は、あっさりとその圧力限界を打ち破った。


     バ チ ィ ー ー ー ー ー ン

 ビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャ
 バチャバチャバチャバチャバチャバチャバチャバチャバチャバチャバチャバチャバチャバチャバチャバチャバチャ


爆ぜた消防車タンクの水と混じり合ってふやけた糞は高々と舞い上がり、ビチ糞の雨となって降り注いだ。
店も、道路も、街灯も、民家も、車も、人も、全てが糞色に染まった。
中華屋の店主は笑っていた。

近辺の店舗はすべて、業種にかかわらず無期限の営業休止を宣言したという。


    ▲    ▲



春に3日の晴れなし、という言葉がある。
それはこの東京23区を模した箱庭でも同様であるようで、何もないはずの東京区外、はるか西の洋上で
爆弾のように育った低気圧が今まさにこの箱庭に来襲していた。

こんな日でも休みなしなのが辛いところだ、とラッシュアワーのビル街を行き交う人、人、人。
彼らの事情など素知らぬ顔で、湿り気混じりの突風がビルの谷間を吹き抜けた。

すると一拍の間をおいて、人波が止まる。
誰かがつぶやく。
臭い、と。

誰かが手の甲を見る。誰かが顔をぬぐい、突風がもたらした湿り気の正体を知る。
糞。雨粒のように細かい、糞混じりの突風。
群衆のそこかしこで挙がる、男と、女の、絶叫。

春の気まぐれな大気がうねり、再び突風が迫る。黄土色に――いや、黄金色に穢れた風が。
ビル陰に隠れようとへし合うサラリーマン、コンビニに駆け込もうとして、店員に押し出されるOL、
先を急ぐあまり横断歩道に駆け出し、信号無視のスポーツカーにストライクされる小学生の列。
もうどうでもいい、といった風に立ち尽くす、女学生たち。

風上には全高200m超の超高層ビルがそびえていた。
八重洲セントラルタワー。本来ならばで朝日を照らし鏡のように輝いているはずのガラス張りの巨塔が、
今やくすんだ黄金で穢されていた。
頂上から地階までが、滝のように流れ落ちる人糞によって。


ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ


「うっし あと じゅう おうふく」

『その前に屋上で一息ついていけ。そろそろインターバルの時間じゃ』

「おお そろそろ めしにしよう さらだちきんに ばなな
 いっぱい ただでくれた ふとっぱらな みせだ」

『あの店は閉めるそうじゃったからな。在庫処分をもらえてよかったのう』


ビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチ



    ▲    ▲




 あさしん おれ ちゃんぴおんに かてるかなあ

『貴様の戦いぶりの記憶をのぞいたが――』

 うんうん

『もっと強く生まれ直さないと無理じゃと思うぞ。
 (せっかく拾った命を捨てるとは、もったいないことをする)』

 ほんねでも たてまえでも ぼこぼこかよ
 おれは やるからな しんでも やるからな
 それしか おれには もうないんだ

『そうしたければ、まずはこの戦いで生き残ることじゃ。サーヴァントは世界チャンピオンの1000倍は強いぞ』

 あんたも さーゔぁんと だろ

『儂は別じゃ、この蝿の体で戦える訳なかろう。聖杯戦争に、フライ級だのといった階級はないんじゃぞ。
 対戦相手は無差別級、この街すべてがリングと心得ろ。今は逃げ回って、敵が潰し合って減るのを待つんじゃ』

 にげてばかりの やつは げんてんくらうんだぞ

『剣や槍や弓矢や騎馬でガチガチに武装した連中に、素手で挑む酔狂がどこにいる。
 奴らに遭ったら逃げろ。(そして東京を糞で覆うんじゃ)』

 でもな あさしん
 もし

 もしも だぜ
 もし さーゔぁんとに なまみの こぶしで かてたら
 おれは せかいちゃんぴおんより つよい ってことかなあ

『――夢物語のようなことを言う』

 ずっと そういわれてきたよ
 おれ ずっと な
 ゆめみたいなことを って


【クラス】
 アサシン

【真名】
 "糞山の王"ベルゼブブ@コラン・ド・プランシー著『地獄の辞典』など

【属性】
 混沌・悪

【ステータス】
 筋力E 耐久E 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具E

【クラススキル】
 気配遮断:A
 サーヴァントとしての気配を絶つスキル。
 攻撃態勢に移った際は大きくランクが落ちるが、そもアサシンは攻撃能力がほぼ皆無である。

【保有スキル】
 暴食の大罪:A
 アサシンを貶めた神格によってあてがわれた罪業。無辜の怪物に類似するスキル。
 マスターに無限の食欲と消化能力を付与することができる。
 気休め程度の魔力の補充のほか、後述の宝具の"材料"にもなる。

 人体改造:C
 ハエの姿で現界したアサシンは、ハエ目の生態を以て人体を改造する。
 すなわち、ウマバエ科の一種が蝿蛆(ヨウソ)症の一種として人体に寄生するように、
 アサシンもマスターの脳内をすみかとしつつ、認識の改変などを伴う脳改造を施す。
 現マスターには既に自身の排泄物への忌避感を奪う、
 アサシンの任意の相手を敵対者と認識させるなどの脳改造を済ませている。
 また、傷口に蛆虫を植え付けて損傷した肉体組織を喰らわせ、傷の治癒を促す。

 人間会話:E
 ハエの姿であるアサシンは人語を発声することができないが、羽音で人語を再現し、発話することができる。
 念話は普通に使えるため、マスターとのコミュニケーションをとるという点では無意味。


【宝具】
 『最も卑近な呪われし黄金(Tsunami of Gold)』
 ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
 宿主とするマスターから途方もない量の人糞を排泄させる、ただそれだけの宝具。
 この宝具により生成された人糞は、排泄直後なら武器に塗りつけることでサーヴァントに有効な攻撃手段となりうるが、
 それ以外に特別な効果を持たない。ただただ不潔で不快な、人糞を撒き散らすだけの宝具である。

 一タルのワインに糞を一片落とせば、それは一タルの糞と化す。
 いかなる聖剣だろうと、糞を断てば、それは糞の付いた聖剣となる。
 英傑、聖女、神格――糞を浴びせれば、それらは"糞にまみれた"という枕詞から逃げることができない。

 1gの人糞には大腸菌群だけで10億個が含まれるとされる。
 それを水で希釈して、水浴に適した水質とするには約30万リットルの水が必要である。
 人糞を肥料として利用するには、季節にもよるが肥溜めで1週間以上の発酵を要する。
 黒色火薬の材料とするには、少なくとも1年以上。
 大量の新鮮な人糞は、誰にとっても手を焼く厄介者なのである。

【weapon】
 ハエの姿であるアサシンに、他サーヴァントに対する有効な攻撃手段は何ひとつ、ない。
 宝具により排泄させたマスターの糞が唯一の武器である。
 それを振るうにも、マスターに寄生して上手く操らなければならない。
 マスターが倒れた場合の最後の手段として、別のマスターの体内に入り込むことができる。
 ただし、そこからサーヴァントとしての契約を結ぶには当然、マスターの同意を得る必要がある。 


【人物背景】
 かつてカナンの地(現在のイスラエル)でバアル・ゼブル(至高の王)として崇められた神格は
 他の神格により、悪霊の頭として、また、蝿の王として貶められた。
 彼を貶めた神格は時を経るごとに強大さを増し、汚名を返上することはもはや不可能だった。
 彼と同様に貶められ、忘却の果てに消えていった神格に比べれば、
 名前が残されている彼はまだ幸運な方だと思った。
 ゆえに彼は、蝿の王、糞の王などといった悪名を、喜んで被るようになった。


【外見・性格】
 全長1cmに届くかどうかの、ハエの姿。羽にはドクロが描かれている。
 上述の経緯で、完全に心を折られた彼は、ひたすら卑屈で、生き汚くなってしまった。


【聖杯への願い】
 ただただ、消えたくない。忘れ去られたくない。
 かつての信仰を得ようとも思わない。また力を得ても、それより巨大な力に叩き潰されるのがオチだ。
 そもそも信仰という力じたい、時代遅れとなってしまった。
 ならば嫌悪される存在としての方が、まだ生き残る道がある。
 この戦争に勝利できるとは全く思っていない。
 この東京という世界一清潔な街を目一杯に汚して人々の記憶に残すことが行動原理である


【マスターへの態度】
 丈夫でよく動き、扱いやすくて重宝している。なるべく長く使いたい。
 マスターの境遇に対して、多少同情するところはある。

【名前】肥前 勉/Hizen Tsutomu
【性別】男性
【年齢】32
【属性】喪失(混沌・善)
【外見・性格】
 潰れた鼻、飛び出た頬骨と額、幾度も腫れ上がり膨れたまぶたに覆われた、細い目。
 その容貌は長くプロボクシングの世界で苦闘してきた証。
 短髪を逆立てた刈り上げの髪。焔があしらわれた派手なデザインのスウェットパーカー。
 腕には拳を保護するバンデージ。
 それら全てが茶色く薄汚れ、人糞の悪臭を放っている。
 本人がそれを気にする様子はない。

【身長・体重】
 170cm/58.5kg

【魔術回路・特性】
 質:E 量:E
 特性:なし。
 魔術とは生まれも育ちも無縁であり、この聖杯戦争に呼び出されるにあたって最低限のものを配られたにすぎない。

【魔術・異能】
 魔術や異能の類は一切有していない。
 元・プロボクシング スーパーフェザー級 世界ランキング 第10位。

【備考・設定】
 人生における青春の時節、天に輝く星に眼を灼かれた者は、数多にいる。
 彼の眼と脳を灼いたのは、12歳の頃に児童養護施設のテレビで見た、勝鬨の拳の中で輝く黄金のチャンピオンベルトだった。

 彼はひたすらに拳を振るい、殴られ、倒れ、立ち上がり、地上で輝く黄金の星へと手を伸ばした。
 反応速度・パンチ力・リーチ――ボクサーとして目立った素質は特になく――
 ただ、打たれ強さと、それを支える努力という才能だけは、確かにあった。

 たっぷり12ラウンドの泥仕合を戦い抜いて判定に持ち込む、冴えないファイトが彼の勝ち筋だった。
 プロ戦績70戦、45勝(10KO)、20敗、5引き分けという戦績は、
 チャンピオン候補としては異例の苦難の道のりといってよかった。
 それでも、彼は世界ランキングの第10位まで這い上がり、チャンピオンへの挑戦権を得た。

 2年に満たない年月で彼を追い越し頂点に立ったチャンピオンの前に、彼は1ラウンド46秒でテクニカルノックアウトを喫した。
 一方的に攻め立てられる中で放った苦し紛れのワンツーに、チャンピオンが全力の踏み込みでカウンターを合わせた。
 彼は鼻柱を完全に叩き潰されてリングロープを乗り越え、頭からリングアウトした。
 気を失ってケイレンしながら糞尿を失禁する様子までが地上波放送され、
 数々の動画の"素材"となりインターネット上で広まった。

 3日の後に意識を取り戻した彼は、目指した星の輝きで身を灼いた余燼と仮していた。
 苦闘の連続で脳や内臓に蓄積されたダメージはもはや回復不能だった。
 チャンプの拳が最後の一押しだった。
 彼は大部分の発話能力を失い、人の顔の区別がつかず――排泄の制御機能も失われ、
 自分の股から流れ出る"それら"がいかに不潔であるかも忘れ果て、バンデージに塗る松ヤニくらいにしか思わなくなった。


【聖杯への願い】
 せかいちゃんぴおんに また ちょうせんする

【サーヴァントへの態度】
 すがたを みせないが いい とれーなーだ
 すぱーりんぐの あいてを いっぱい さがしてくれるし からだの いたみも きえた

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最終更新:2024年06月15日 22:37