聖杯戦争の参加者である俺は、今日も夜の歌舞伎町に出かける。
目的地はホテル街の近くにある公園だ。
そこには何人もの女がスマホを弄りまわしながら突っ立っているので、俺はその中から一人を選んで声をかける。
連れ出すのに面倒な交渉はいらない。ここにいる女どもは金をちらつかせただけでホイホイついてくるからだ。
そんな女を一人連れて、俺はラブホテルにチェックインする。

買春のためかって?馬鹿を言うんじゃあない。
こんな汚い女ども、金をもらっても願い下げだ。
俺のサーヴァントの餌にするために決まっている。
男女の営みをする場に監視の目など届かないし、立ちんぼなんかしている女であれば足がつきにくい。
少々リスキーではあるが、魔力を大量に喰らう反面強力無比なバーサーカーを問題なく運用するためなら十分飲み込める程度の軽リスクだ。
とはいえ聖杯戦争の会場にいる女だ。何人もひっかけていけば、中には護身術の一つも身につけている女がいてもおかしくはないと思っていた。
まさか女の手袋を外したら令呪が刻まれているとは思わなんだが、特に障害になるとも思わなかった。
聖杯戦争のマスターになってもなお淫売なんぞをしている論外の馬鹿に、「ともちん」などと馬鹿みたいな名前で呼ぶことを許容しているような程度の低いサーヴァントに、春秋戦国時代に武名を轟かせた俺のバーサーカーをどうにかできるはずがないと思っていたからだ。
刀を携えた敵サーヴァントを、俺のバーサーカーの大剣の錆にしてやったら、その後は馬鹿女もろとも巨大な魔力リソースである令呪をバーサーカーの糧にしてやれるとほくそ笑んでいたのだ。

…まさかそのバーサーカーが、三合と打ち合えずに斬り伏せられるなんて微塵も想定していなかったのだ。


◆◆◆


翌朝、池袋に建つ狭い1Kアパート。
けばけばしい化粧をした若い女と、むさ苦しいおっさんが小さなローテーブルをはさんで向かい合う。
女は左手でスマホを操作しながら、机上にパーティ開きされたポテトチップスに右手を伸ばす。
「ともち~ん。今日はあんがとね」
「礼には及ばん」

感謝を伝えられたおっさんはしかめっ面を崩すことなく首を振る。
「しかしそろそろ夜鷹のような真似はやめてはいかがか」
「え~『夜鷹』って何?」
「あの身を売る行いのことだ」
「や~、店の締日も近いしさ~
担当No.1にしてあげたいし?」
「先にも申したが、その担当とやらはこの仮想都市におらん。
 それに、ここで稼いだ金を元の世界に持ち帰れるとは限らん」
「でも持ち帰れないとも限らん、でしょ?」

ぱちり、とポテチを歯で割りながら女は笑う。
「あ~しは1円でも多くここからお金を持ち帰って、推しに貢ぐんだ~」

(文武の誉に類なしと言われた北畠家の子孫がこの有様とは…
偉大な父祖たる雅家様や親房様にはとても顔向けできんのう…)
思わずため息が漏れ出てしまう。

己の血を引く者からの召喚に応じてみれば、そこにいたのは、金に強い執着をみせる女。
稼ぐ方法が愚かしければ、稼ぐ目的もまた愚かしい。
春売りと謀りごとで稼いだ金を、商売男に入れあげているというのだから救えない。
こんなうつけ女はお家の恥というもの。
さっさと斬って捨てて英霊の座に還ろうかと柄に手をかけてはみたものの。
けばけばしい化粧に彩られた女の目が、生前、具教と共に命を散らした亀松丸に少し似ていたような気がして。

聖杯を求める意志が強固である以上、目的は同じであるともいえる。
目的が同じであるうちは、まあ、共に戦ってやってもいいか。と、そんな風に自らに言い聞かせて刀を収めてしまったのだった。


ポテチを食べ終わり、仕事に行くと言って着替えだす女。
恥じらいもなく服を脱ぎだす女から目を逸らしたおっさんの背に、女の声がかかる。
「ところでともち~ん」
「何か?」
「Wikiでともちんのこと調べてたんだけどさ~。
 ともちんが暗殺されたときって『刀の刃を潰されて抵抗できなかった説』と『大暴れして20人斬り殺した説』があったんだけど、ぶっちゃけどっちがホントなん?」

担当とやら以外にはほとんどのことに興味を示さず、知識を蓄えてもいない様に辟易していたが、どうやら相棒については知識を得ようとしていたらしい。
最も女にしてみれば、担当に貢ぐための道具について知識を深めようとしただけだったが。
女の思惑を知ってか知らずか、おっさんは少し得意げに息を吐き
「どちらも本当だぞ」
と答えた。

途端に不機嫌な顔になる女。
「あ~し馬鹿だからそ~ゆ~ふわっとしたこと言われても理解できないんだけど」

歳相応の少女のような表情を見て、おっさんは難しいことではないぞ、と笑う。
生前、最期の記憶。
死んだように生きた人生の最期に充実した瞬間を過ごせた。

「なに。刃を潰された刀で、20人斬り殺してやっただけのことよ」

具教にとってその瞬間は、何度思い出しても清々しい気分になれる思い出だ。


【クラス】
セイバー

【真名】
北畠具教

【属性】
混沌・中庸

【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷B 魔力E 幸運E 宝具EX

【クラススキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。

騎乗:C
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
正しい調教、調整がなされたものであれば万全に乗りこなせ、野獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。

【保有スキル】
鹿島新当流:A
鹿島新当流の奥義を修めている。
塚原卜伝に師事し剣を学んだ彼は奥義である『一之太刀』を伝授されている。

君主の器:C
カリスマと反骨の相の複合スキル。団体戦闘において自軍の能力を向上させると共に、同ランク以下のカリスマの効果を無効にする。
伊勢一国の長であろうと信長と戦い、敗れ臣従した後もその野望を捨てなかった逸話から。

無窮の武練:A
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。極められた武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
刃を潰されるなど、たとえ如何なる状態であっても戦闘力が低下することがない。過度の修練により肉体に刻み込まれた戦闘経験ともいえる。

無刀取り:B
剣聖・上泉信綱が考案し、柳生石舟斎が解明した奥義。
上泉信綱からも剣の手ほどきを受けた具教はこの技術を積極的に用いて戦場で暴れまわった。

【宝具】
『一之太刀(ひとつのたち)』
ランク:なし 種別:対人魔剣 レンジ:1 最大捕捉:1
剣聖・塚原卜伝が編み出した鹿島新当流の奥義。
コンクリートすら打ち砕く剛の剣と卵の殻をも割らずに両断する柔の剣という相反する2つの性質を持った剣閃を繰り出す。
特筆すべきは、この剣を繰り出された者はあらゆる防御を行うことができないという点。
防御しても無駄、とかではなく、防御のための行動を一切起こすことができなくなる。
「戦わずして勝つ」を美徳としていた卜伝が伝える『戦うことなく一方的に殺す』剣技である。
鹿島新当流スキルがAランク以上でなければ使用できない。そのため動作を模倣する類いのスキルや宝具を以てしても、それのみでは使用不可能。

【weapon】
『銘 正重』
千子村正の一番弟子である千子正重作の打刀。
本来凄まじい切れ味を誇る刀だったが、具教の逸話により刃が潰されている。

【人物背景】
室町時代末期から安土桃山時代の戦国大名。
伊勢国司を務め、対立する勢力を滅ぼし北畠家最盛期を作り上げた
しかし織田信長の侵攻に遭い、信長の息子・信雄を養子に迎え入れる条件で降伏。
信雄に家督を譲渡した後信長と不仲になり、伊勢国の主として再び返り咲かんと武田や将軍と内通。
それらが露見し信長・信雄の命を受けた旧臣たちによって襲撃され死亡した。
その際、刀を抜くことができないよう鞘に細工され、刀の刃も潰されていたにも関わらず、20人の敵兵を斬り殺し、100人以上に手傷を負わせた。

【外見・性格】
蓄えられた口ひげに鷹のように鋭い眼光
鍛え抜かれた丸太のような両手足
狩衣と烏帽子を着用し、戦闘時にはタスキで袖を縛る。

質実剛健な武芸者といった立ち振る舞いをする男。
口数は多くなく泰然としている。
北畠家は公家でもあり文化的教養を身につけた文化人でもある。
家族に対しては情け深い一面があり、あまり有能とはいえなかった息子や、北畠家乗っ取りのために遣わされてきた信雄に対しても親愛を持たずに接することはできなかった。

【身長・体重】
181cm・79kg

【聖杯への願い】
伊勢の主に返り咲く。

【マスターへの態度】
その愚かさにはほとほと呆れ返ってこそいるが、子孫に対する慈愛から裏切れない。
……強かに聖杯を狙い続ける限りは見限らないでやろう。とかサーヴァントっぽいことを考えつつなんだかんだ従っている。
おじいちゃんは孫娘に強く出られないのだ。


【名前】
伊藤 美佳子(いとう みかこ)

【性別】

【年齢】
19

【属性】
混沌・悪

【外見・性格】
ウェーブがかった金髪でオレンジのインナーカラーを入れている。
整った美しい顔に施された濃いめのギャルメイク。
露出の多い服装を好み、チャームポイントである美脚を惜しげもなく晒している。

一つのことに夢中になるタイプであり、担当ホストと彼を輝かせるための金以外にはほとんど興味がない。
美貌を保つ努力も、男を悦ばす性技も、男を躍らせる嘘も、金を稼ぐための道具でしかない。
年齢を詐称して2年前からホストクラブ通いをしており、ホスト通いの資金稼ぎのために様々な悪事に手を染めているがそれについて思うところはない。

【身長・体重】
157cm・38kg

【魔術回路・特性】
質:C 量:C
特性:判断能力を鈍麻させる

【魔術・異能】
『精神操作』
魔術回路の装填によって発現した固有魔術。
精神を操作する魔術。
他者の思考・判断能力を僅かに鈍麻させ精神に隙を作り出すことができる。

その隙間に入り込むことで、美佳子の美貌に惚れこませたり、美佳子の言葉を疑いたくなくなるよう仕向けたりする(これらは魔術ではなく、聖杯戦争参加前に身につけた技術である)

Eランク程度の対魔力スキルでもほぼ無効化と言っていい程度に効果を減衰させることができる。
具教が彼女に甘いのは本人の気性によるもの。

【備考・設定】
歌舞伎町の風俗店で働く女。休みの日には公園で立ちんぼやパパから騙し取るなどしてお金を稼いでいる。
お金の使い道はホスト。
ホストクラブ『赤光―SYA-KO―』所属のホスト・リューキを売上No.1とするべく多額の金を貢いでいる。
立ちんぼで引っかけたおじの財布から金を抜き取ろうと鞄を漁っていた際に〈古びた懐中時計〉を発見。仮想都市へと転移した。
仮想都市内でも元の世界と同じような生活を送り、金を稼いでいる。
北畠具教は彼女から見て直系の先祖であり、その血を触媒に彼を召喚できた。
父親は幼少期に蒸発、母親は元ホス狂いで、妹はメンズコンカフェに入れ込んでいる。

ちなみに『赤光―SYA-KO―』に出入りする客には美佳子と同じような女性がたくさんおり、騙し取った金であることを承知の上で受け取っているホストや犯罪を唆すホストも複数人いるため、摘発は時間の問題だったりする。

【聖杯への願い】
担当に貢ぐための金が欲しい

【サーヴァントへの態度】
頼りになるおっちゃんだと思ってたけど……、ひょっとしてあ~しが思ってたよりヤベェ人?

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最終更新:2024年06月18日 00:23