小さい頃、闇の中で悪魔に出会ったことがある。
あれは閉じ込められた押入れの中だったか、迷い込んだ夜の森だったか、もう思い出せないくらい昔のことだ。
暗がりが怖くて泣いていた私に、彼は取引を持ちかけた。
――――お嬢ちゃん、俺と賭けをしないかい?
――――遠くに見えるあの光に、追いつけたらなら君の勝ち。
――――背後から迫るあの闇に、追いつかれたなら君の負け。
――――勝てば君の夢が叶う。
――――負ければ魂を頂くよ。
――――さあ、追いかけっこのはじまりだ。
小さい頃、光を目指して駆け出した。
あれは隙間からもれた電光だったか、雲間に見えた星光だったか、もう思い出せないくらい昔のことだ。
あの日から私は、一度も足を止めたことがない。
遠くに見える光を追って、背後に迫る闇から逃げて。
追って、逃げて、私は走る。
走って、走って、走り続ける。
遠ざかるスポットライト、縮まらない星との距離、背後に迫る悪魔の気配。
怖い、怖い、恐ろしい。
それでも、振り返らずに私は走る。
いつか恐怖を振り切って、伸ばすこの手が―――目指した光に届くまで。
◇
正直言って、私の人生は順風満帆なものとは言えなかった。
むしろ苦難の連続だったと言えるでしょう。
昏暮満点(くれぐれ まんてん)、17歳、女子高生、そして一応……一応これでも現役アイドル。
芸名は煌星満天(キラボシ マンテン)。自分では気に入ってる名前なんですが聞いたことないですか? ない? まあそうでしょうね。
ろくすっぽテレビにも出れないし写真集も売れてない、名前負けした私のことなんて、だーれも知らないでしょう、ええ。
でも私は今日まで諦めなかった。
不器用で何やらせてもダメダメな私の、唯一の取り柄は諦めが悪いことだと思う。
トップアイドルを志し、実家を飛び出してから今日まで一度だって夢を諦めたことはなかった。
つらい思い出は幾つもある。
私の夢に反対する両親と大喧嘩して勘当を言い渡された日。
ダンスのレッスン中にずっこけて捻挫して泣いた日。
歌が下手すぎてボイストレーナーに歌詞カードと匙を投げつけられた日。
インフルエンザでバイト入れなくなって電気止められて悲鳴を上げた日。
やっとの思いで出せた写真集がまるで売れなくて周囲から冷たい目で見られた日。
所属してた地下アイドルグループがロクに活動しない内から揉めまくって解散した日だって、私には諦めるなんて発想は微塵もなかった。
転んでも絶対に起き上がるのが私、最強アイドルを目指す煌星満天の生き方。
だけど、まあ、あの日ばかりは流石に凹んだ。
『輪堂天梨に新たな疑惑!? 終わらない炎上騒ぎ!! 事務所関係者から新たな証言が!!』
推しが燃えた。
ファンと付き合ったらしい。
なんてニュースがSNSで回ってきた日。
いやいや、そんなわけないじゃん、輪堂天梨が、あの〈天使〉がそんなプロ意識ないコトするわけないでしょ。
そりゃ、彼女のプライベートなんて私は一切知らんけどさ。喋ったことないし、客としてしか会った事ないし。
むこうは木端アイドルの私のことなんか、まるで認識してないだろうし。
でも、私は彼女のデビュー当初からずっと見てきたのだ。こんなの信じられない、信じたくない、解釈違い!
私は自分がショックを受けているという事実に、なんだかショックを受けていた。
そりゃあ? 嫉妬? ええしてますよ。
私より可愛いし歌上手いし、とっても輝いてる天才アイドル。アイドルになるために産まれてきたような美少女。
私なんて中学からアイドルやってたのに、未だにオーディションに落ちまくってるこの体たらく。
対して、高校からデビューした輪堂天梨が爆速でシンデレラストーリーの階段を駆け上がる姿を見てると、こう胸の奥がムクムクっとしたものよ。
だからこそ、キツいレッスンや仕事の増えない現実に悩んだとき、テレビやスマホの画面に映る〈天使〉を見て、私は自分を奮い立たせてきた。
同い年のスターが放つ強烈な輝きを見ると私もじっとしていられなくなる。
あのコに負けたくない。相手が天才だろうが負けられない、凡人舐めんな絶対倒す、私だって魂賭けてやってんだからって。
一方的にライバル視して。
そして炎上騒ぎがあって。その時になってやっと、ああ、励まされていたんだと気付いた。
胸の内が冷えていく。肺の空気がツーンと冷たくなって、気力が萎える。
ネット記事が掻き立てるセンセーショナルな言い回しが気持ち悪くて、スマホをベッドに叩きつけた。
その時だった、部屋のインターホンのチャイムが鳴ったのは。
届いた宅配便の送り主の欄に、ここ数年、一切連絡の無かった両親の名前が記されていた。
もう完全に愛想をつかされていると思っていた私は、びっくりしながらも無警戒に包みを開き。
そして、あの古びた懐中時計に触れてしまったのだ。
◇
私の最大の弱点はコミュニケーション能力の欠如。
そんなことは誰に言われるまでもなく知っている。
頭の中でごちゃごちゃーっと考えた十分の一も上手く言葉で表現できない。
この欠点はアイドル活動を行う中で、今日に至るまで長く私を苦しませた。
面接形式のオーディションは尽く落ち、トーク力が求められる現場に放り込まれた日には悪夢のような惨状が展開された。
現場の同業者ともスタッフとも上手く連携できない私は段々と孤立していって。
それでもって、すっかり私に失望した事務所の社長は以下のように発言されました。
『満天ちゃんさあ……ファンとまともに交流できないアイドルなんて成り立たないんだよ。
君はそのへんの子に比べれば可愛いけど今ひとつ華がないし、他にコレといった長所もない。
……もうハッキリ言うけどさあ……むいてなくない?』
うるせー!
知ってるよ。
分かってるけどどうにもならないんだって。
それでも、アイドルという夢を追い続ける以上、コミュニケーションは避けて通れない。
今日だって、
「煌星満天さん、どうぞ」
扉のむこうから声がする。
審査員が私を呼ぶ声。
ああ、嫌だ。本当に嫌だ。
この瞬間だけは、何度経験しても慣れない。
自分を試される恐怖と失望される悲しみ。
値踏みされる目線の不快感と、上手く出来ない自分への憤り。
ああ苦しい。いっそ逃げてしまおうか。
そう思う自分が確かにいる。
そして、そんなときになると必ず見えるものがある。
「―――――ぁ」
来た。視界の端に影が映る。
それは焦点を合わせると消えてしまう、些細な闇だ。
だけど同時に、絶対に無視できない、私の恐怖の根源でもあった。
―――終わり?
揺らめく影は端的に問う。
賭けは終わりか、自分の勝ちでいいのか。
お前は夢を諦めるのか。
腕のカタチをした影は私を抱きしめるように、肩に手を置いて。
―――俺に魂をくれる?
「――――ッ!」
まだだ。まだ私は諦めてない。足を止めてない。
賭けは続いている。絶対に、お前に追いつかれたりしない。
最後まで逃げ切ってみせる。だって私は、
「アイドルになるんだ」
ドアノブに手をかけ、背後の影を振り切るように、私は扉を押し開いた。
◇
「では、煌星さん。早速ですが一発ギャグをどうぞ」
「……ァ……ワァ……ァ……」
「はい。面接は以上です」
男は座ったまま私の書類をゴミ箱に投げ込むと、足を組んで休憩のジェスチャーをとる。
「ちょっとキャスター!」
真昼の芸能事務所の一室にて、怒りに震える私の声が響き渡ろうとも、目の前の男――サーヴァントはどこ吹く風でコーヒーを飲みだした。
どうやら本気で模擬面接は打ち切りらしい。
「この程度の無茶振りに対応できないようでは話になりません。明日の本番でも今のような醜態を晒すつもりですか?」
「ぐぬぬぬ……」
速攻論破されて歯噛みする私を尻目に、彼は使い魔の元素霊を呼び出し、事務所の台所に向かわせる。
まるで冷静沈着が服を着て歩いているような男だった。
纏う灰色のスーツにはシワ一つなく、すらっと長い脚の先に履いた皮靴はピカピカに磨かれている。
七三分けの髪型に黒縁メガネといった生真面目な装飾すら、鋭い洋風の面立ちと合わされば独特の凄みとなっていた。
敏腕ビジネスマンな見た目をした彼はキャスターのサーヴァント、ゲオルク・ファウストと名乗った。
「それから、前にも言いましたがもっと堂々と話してください。立ち振舞いは演者の基本です。
ハツカネズミのようにビクビク縮こまっていても大舞台には立てません。穴蔵で一生を終えたいなら止めはしませんが」
「ひっど……でもでも」
「煌星さん、最初に約束しましたよね」
彼はクールなイケメン外国人だけど時折目が怖い。
吸い込まれそうな真っ黒い瞳、奈落のような深い眼をしていた。
「あなたのアイドル業については私が全力でサポートします。だたし、私の育成方針は?」
「……絶対」
今みたいに、あの眼でじっと見られながら言い聞かされると、なんだか反論できなくなる。
「よろしい。では少し休憩がてら明日の対策を練りましょう、座ってください」
もやもやしながら男の正面のソファに座る。
すると、こぶし大の火元素霊がふわふわと飛んできて、コーヒーを運んできた。
軽く頭を下げながら受け取り、口をつけると緊張で乾いた喉にじんわりとした苦みが広がり、少し心が落ち着く。
その間にもファウストの講義は続いていた。
「期間限定アイドルグループを結成するための公開オーディション番組。
周期的に放送され、次は3回目の特番になりますが、毎回若年層を中心に凄まじい反響を得ています」
事実として、彼は細かく、口うるさく、言い方はキツい、けど一方でどこまでも正しかった。
彼と出会って、ある契約を交わしてから、仕事の風向きは明らかに変わっている。
実際、仮想の東京だったとしても、こんな大きな案件は少し前までは挑戦する機会すら与えられなかった。
「オーディション番組はハイリスクな仕事です。
審査員との絡みに見どころがなければ、出演していないのと変わらない群衆(モブ)に落とされます。
ただ、その分、上手く目立った場合のリターンも大きい。
加えて今回は初の公開生放送。前の事務所を辞めて干され気味なあなたにもチャンスがあるでしょう」
歌やダンスのレッスン内容や営業方針も私にぴったり合ったもので、しかも業界の人間との交渉が抜群に上手い。
挙げ句、人工の元素霊によるスタッフ確保と陣地形成スキルによって、都内高層ビルのワンフロアに快適な芸能事務所まで立ち上げてみせた。
まさに私の欠点を完全に補完する、最強のマネージャー兼トレーナー兼プロデューサー兼CEOの登場だった。
ただ、一つだけ、気になる点があるとすれば、
「ふむ、何か言いたげですね。不安ですか、今の生活が?」
そう、単純に、私はこんなことをしていて大丈夫なのだろうか、ということだ。
えっと今って魔術師同士の殺し合い……やってるんだよね、違ったっけ?
なんで私はこんなにしっかりアイドル業に専念しているんだ。
「まあ、その疑問はもっともです。一度キッチリと説明しましょう。
煌星さん、あなたは私と初めて会ったときに交わした契約を憶えていますか?」
うん、はっきりと憶えている。
彼が言っているのは主従契約のコトじゃない。
私達が更に続けて交わした、ビジネス契約のことだ。
ゲオルク・ファウスト。ファウスト博士。
16世紀ドイツに実在した、誘惑の悪魔と契約したとされる錬金術師。
その伝説の最後は、悪魔によって爆殺されたとか、魂を奪われたとか、神によって救われたとか。
彼と悪魔の伝説を取り扱った書籍は多数あるけれど、その顛末は作者によって様々な解釈があった。
私も諸事情で悪魔についてよく調べたものだから、彼の伝説はここに来る前から知っていたけど。
「前に伝えた通り、最期の瞬間、神の助けによって私の魂は救われました。
しかし賭けに負けた私の魂は今も、一部は悪魔に奪われたままです」
私の読んだ伝説の中に、そんなオチはない。だけどまあ、落とし所としてなくもないとは思った。
生涯何をしても満たされずにいたファウストと、"瞬間に留まりたいと願う程の充足"を与えんとした悪魔の賭け。
最期は神によって救われたけど、賭けに負けたファウストの魂は完全に無事では済まなかったのか。
「それを取り返すのが聖杯にかける私の望み。
よって私も負けるわけにはいかないのですが、一方で私の宝具は非常に特殊です。
端的に言って、殴り合いで勝つ部類のものではない。これも前に説明しましたね」
契約宝具。
悪魔と契約した男、ファウスト。
転じて、ファウストと契約する者は悪魔であるという因果に基づき、契約対象者をそれに準じた存在へと変貌させる。
うん、ハンコまで押したしよく憶えてる。
悪魔の契約ってキッチリ紙に記名押印するんだーって思うと、なんだかおかしかったな。
「では、契約書の内容はちゃんと憶えてますか?」
なんか悪魔になって強くなれるんでしょ、私が。
文章長すぎるし字ちっちゃすぎるしで、流石に全部は読んでないけど。
「…………」
ファウストの眉間にシワが寄った。
こころなしか、呆れられているような気がする。
「契約内容は『このファウストに、再び"瞬間に留まることを願うほどの希望と充足"をもたらす』こと。
その方法として、あなたは自らの大願成就をもって応ずると言った。トップアイドルという夢を叶えるに至る姿を照覧せよと」
うん、確かに言ったし、心からの本心だ。
自分の夢が彼の充足に足りうるなんて、過信しているわけじゃない。
ただ私に出来る最大限の感動を送る方法があるとすれば、それしかないって思ったから。
「これは我々の間で取り交わした"賭け"です。あなたは既に悪魔の力を得た。そして私はあなたの従者として、目的遂行の為にサポートを行います。
ですがもし、志半ばであなたの心が折れ、契約が果たされなかったとき、あなたは取り憑いた悪魔に魂を奪われるでしょう。
末路は分かっていますね。あなたに、死後の安息はありません」
それは契約前に何度も聞いたし分かってるよ。
ファウストはキャスターとして戦うすべが無いわけじゃないけど、戦闘用の宝具がない。
在るのは契約対象者(マスター)を変質させる異質な宝具のみ。
だったら、今の私に選択肢なんてない。生きるため、夢を叶えるために出来ることをやらなくちゃ。
それに、こちとら悪魔に憑かれるのは、これが初めてじゃないんだから。
「あなたは怖がりのくせに変なところで豪胆ですね」
キャスターはメガネを押し上げ、私をじっと見ていた。
その眼は相変わらず死んだ魚のように黒々としていたけど、先ほどとは違ったものを宿しているように感じる。
お、ひょっとして、ちょっと感心した?
「いいえ、呆れているんです」
ちえー……っと、思ったところで、ふと気づく。
「なんですか?」
私さっきから喋ってなくない?
「そうですね」
思考、読まれてない?
「そうですよ」
「えええええぇぇぇぇええぇえぇえぇえぇぇーーーーー!?」
「通常の主従契約ではそこまでの結びつきはありませんが、契約宝具が交わされた今、私はあなたの思考をある程度一方的に把握できます。
こうして正面から向かい合っているとき限定ではありますが」
聞いてない聞いてない聞いてない!!
「契約書には書いてますが」
ふーざーけーるーな! この詐欺師! 思考盗撮犯!
乙女のプライバシーの侵害だ! 一旦解約しろ! クーリングオフだ!
「駄目です。話を先に進めますね」
思考で喚く私を無視して、彼は無情に言葉を紡いでいく。
「とにかく、我々は正面から敵と戦える戦力を有しておりません。
ちまちまと陣地を形成しようが使い魔を増やそうが、対軍、対城宝具を有する英雄が攻めてくれば容易く瓦解するでしょう。
よって生きる道は一つ、煌星さん、あなた次第です」
我が陣営の活路はサーヴァントではなく、マスターにあるという。
それはつまり、
「あなたに憑いた悪魔はあなたの名と混ざり、もはや同義。
その力はサーヴァントと同じく、土地の知名度補正を受けます。
つまり、あなたの名声がそのまま悪魔の力となる」
吸血鬼伝説を持つ領主が故郷で召喚された際、地元民衆の信仰によって強大な力を得たように。
ヨーロッパ圏では伝説的な力を誇る英雄が、知名度のない極東の島国では存在の劣化を免れなかったように。
「あなたはこの仮想の東京で、最も高名な偶像を目指す」
―――即ち、トップアイドル。
「ここで夢を叶えてください。それが我々にとって唯一の、生きる道です」
私は今まで、夢を叶えるために生きてきた。
だけど今は、生きるために夢を叶える。
「上等」
ならばこれは、今までやってきたことと全く同じ。
魂なんて、とっくの昔に悪魔の質に入れているのだ。
精一杯、足掻いてやる。
歌は下手、見た目にも華がない、特別な才能にも恵まれなかった。
何の取り柄もない私だけど、諦めの悪さにだけは自信があるから。
「ふむ……しかしその認識は正しておいたほうが良さそうですね」
「え?」
「煌星さん、あなたは自分に対する理解が足りていないようだ」
なんだコイツ、急に。
人が決意を固めている最中に水をさす気か?
怪訝な目で見返してやると、男はメガネを押し上げながら、淡々と述べた。
「あなたの長所は急変する現実を許容する懐の広さと、目の前の問題に対応するメンタル構築の速さです。
自分への客観視を保ち決して過信せず、さりとて絶望も許さない。
壊滅的なコミュニケーション能力というハンデを抱えて今日まで活動を続けてこられたのも、全てはあなた自身の胆力によるもの」
彼は淀み無くつらつらと、血も涙もなさげな無表情のままに。
まっすぐに、私を肯定した。
「短所はコミュ障でも音痴でもありません。それらは工夫次第で幾らでも味になります。
あなたの欠点は、現実主義と悲観主義を混同しているところです。悲観によって、本来宿るはずのカリスマを損なっている。
いいですか、足りないのは自信だけです、なぜなら―――」
そうして彼は当たり前のように、呆れるくらい簡単に言い切った。
今まで誰一人、私に言わなかったコトを。
「―――煌星さん、あなたにはアイドルの才能があります」
なにそれ、やめてよ。
じんわりとした熱が、胸の中に灯る。
目頭が熱くなって、何かが喉元にぐっと込み上げてくる。
「よしんば本当に才能が無かったとしても関係ない。私が、あなたをトップアイドルに導きます」
なんだこの肯定感。
「煌星さん。今まで、よく頑張ってこられましたね」
身体が浮き上がるような気分になって、頬が上気して目が潤む。
なんで彼は、私が欲しい言葉を知っているんだろう。
「煌星さん」
この人には心が読める。
乗せられているだけかもしれない。
分かってるのに、救われたような心地よさが指先まで広がって。
心が満たされそうになって。
私は、ああ、ああ――――
「どうして、怒っているんですか?」
視界の端に、黒い影が映る。
黒い手が背後から伸びて、私の心臓を掴む。
いつかの悪魔はきっと耳元で嗤ってる。
ああ、分かってる言われるまでもない。すっこんでなさいよ。
怒ってる? どうして?
そんなの、決まってる。
「ムカつくから」
腹が立つから。
これしきで、救われた気になれるような安い魂に。
初めて他人からマトモに認められた。肯定された。なんて"その程度"で。
"ただそれだけのこと"で舞い上がるような、感動して泣きそうになるような軽い心に。
ちょろい私自身に、心底腹が立ってしょうがないから。
「泣きそうなってんじゃないわよ……」
満たされてんじゃないわよ。
「嬉しくなってんじゃないわよ……」
救われてんじゃないわよ。
だって私は、
「私は、褒められたくて頑張ったんじゃないッ……!」
いつだって心は恐怖で支配されている。
私が今日まで走ってこれた理由なんてそれしかない。
長所なんてあるものか、才能なんてあるものか、強い心なんてあるものか。
そう、いつだって私に在るのは恐れだけだ。そして恐怖こそが、私をここまで連れてきた。
もういい良かった。十分やった。満足だ。いい思い出になったじゃないか。
そんなふうに満たされた瞬間にこそ、足が止まると分かっている。
幼少の頃に賭けをした、あの日の悪魔に追いつかれると知っている。
だから―――
「夢を叶えるときまで、私は救われちゃいけないのよ……!」
私は走り続けなきゃいけない。
闇から逃げて、光の方へ、スポットライトの中心へ。
「なんて……はは、いや意味分かんないよね……。
……ごめん! 顔洗ってくるッ!」
もうそれ以上、彼の前に留まることは出来なかった。
踵を返して洗面所にダッシュする。
あーあ。これも悪い癖だな。
普段はロクに主張できないくせに、かあっとなると抑えが効かない。
ほんと私、アイドルむいてないよ。
◇
「いやはや、パーフェクトコミュニケーションだと思ったんだがな……年頃のガキは難しい」
芸能事務所の一室にて一人、男は窓から夜景を見下ろしながらコーヒーを飲んでいた。
「俺も、ちょっと露骨に押しすぎたか? まあ、いいさ、全部これからだ」
ゲオルク・ファウストを名乗る男、ファウストを騙る悪魔は計略の最中には嗤わない。
無表情のまま、片手に握ったスマートフォンを画面も見ずに高速で操作している。
世間への情報操作、そして関係各所への根回し。
彼の仕事量は膨大なものだ。マネジメント、スケジューリング、取引先との交渉、マスターの体調管理、そこにはメンタル面も含まれる。
人心を掌握し操作すること。それはまさに彼の得意分野と言える。この、誘惑の悪魔の。
「暇つぶしにしては忙しいが過ぎるな。あの阿呆ガキ、本物の悪魔をこき使いやがる。
しかも誰かが先に唾を付けてやがっただと? まったくいい度胸だぜ、嗤えねえ」
口から出てくるのは文句ばかりだが、依然として無表情。
淡々と、彼は己の目的に向かってコマを進める。
詐称者(プリテンダー)、メフィストフェレス。
それが彼の本当のクラスであり真名だった。
彼がマスターに伏せた事実は2つ。
自身の正体と、宝具の全容。
彼は"悪魔に魂の一部を奪われたファウスト博士"ではなく、その逆、"ファウストの魂を一部奪った悪魔"である。
彼の宝具はマスターに呼び出した悪魔を憑かせるモノではなく、彼こそがマスターに憑いた悪魔本人。
言葉の上では真実と虚実を織り交ぜ。
マスターは真面目に読んでいなかったが、契約書の文面も都合の悪い内容にはあえて触れないことで成立させていた。
逆に言えば、彼は己の正体を除いて特に嘘は言っていない。
自身の能力も宝具の効力も真実だ。契約の果てに至る末路も、ある意味では真実を告げている。
契約を果たせなかった者は、賭けに負けた者の末路は、魂を喰われ、ファウスト博士のように悪魔の一部に成り果てる。
完全な肉体を得た悪魔がこの地に降臨する。
ならば、それが彼の目的なのか。
「なあ、お前はどう思う。ファウスト?」
彼はタッチパネルを操作する手を止め、ふと呟く。
窓ガラスに薄っすらと映る己の姿に問うように。
「お前なら、俺の考えが分かるか?」
彼の霊基は紛れもなく悪魔、メフィストフェレスのものだ。
だが、同時に彼はファウストでもある。ファウスト博士の魂の一部を喰らった彼の霊核には、確かにそれが存在している。
既に意思も声も無く、気配すらなくなるほど、微弱な鼓動であろうとも。
24年の月日を旅した博士と悪魔は今も共にいる。
―――おお、瞬間よ止まれ、汝はかくも美しい。
最期の時、言ってはならない契約の言葉を発した博士の瞳は既に光を失っていた。
賭けに負けた博士は己の内の想像にこそ、希望と充足を見出したのだ。
対して勝利した悪魔は、しかし最期まで、自らの力で希望を見せることが出来なかった。
それどころか、博士を充足させた想像の景色を、共に見ることすら許されなかった。
挙げ句、神の横槍で博士の魂の殆どを掠め取られ。
「なあ、俺はお前に勝ったのか、それとも負けたのか」
負けたとすれば、彼は己を負かしたものの正体すら知らない。
悪魔は創造を否定する。そんなものは馬鹿げていると嗤う生き物だ。
創造に悩み苦悩する人の性質を否定する。
苦痛の果てに創り出す一切が、やがて消え果てるなら、それは無駄なもの、無いものと同じだから。
故に悪魔は虚無を好む。
人を誘惑し、惑わし、堕落させ、悦楽に沈めて嗤う。
だが、そんな己が、人の想像に負けたとあっては嗤えない。
「お前はあの日なにを見た。俺はそれが知りたい。
そうでなければ、お前との賭けは終われない」
ファウストが見たという、人の想像が生み出す希望を知りたい。
その瞬間こそ、悪魔は今度こそ創造を否定し、心の底から嗤うことが出来るのだ。
「或いは―――」
そして或いは、結末はもう一つ。
「そろそろだな」
思った通りのタイミングで届くメール。
オーディション結果を知らせるその内容は、以下のようなものだった。
『残念ながら今回のオーディションは不合格となります。
そのうえで――』
「あのガキ、俺の予想を下回る無能だな。しかし――」
悪魔の傍ら、机の上で開きっぱなしのノートPCの画面には、凄まじい勢いでスクロールするSNSのタイムラインが表示されていた。
『そのうえで、次の番組企画に関するオファーについて、このメールをもってご連絡を――』
「しかし、俺の予想を上回る馬鹿でもあったらしい」
急速に増えていくSNSフォロワーの数、上昇する知名度に応じて増幅する魔力の胎動。
悪魔は嗤わない。
だが、興味深そうに眼鏡を押し上げた。
何処にも届かぬ、それこそ嗤えないほどあり得ない諧謔を添えて。
「煌星満天。或いは、お前が俺に言わせてみるか?
―――美しい、と」
◇
公開オーディションの収録が終わり、スタジオを出ると生暖かい夜風が頬に触れた。
冬の名残のような涼しさと初夏の温さが混在する、春の風だ。
東京の街の喧騒に包まれると、さっきまでの光景が夢だったような気がしてくる。
いっそ夢だったら良いのに、ていうか夢であってほしい。
ため息をつけど、ポケットの中で震えだしたスマホが現実逃避を許さない。
「えー、もしもし、キャスター?」
「煌星さん、オーディションお疲れ様です」
「……はい」
気分が沈む。
この先の展開は予想できている。怒られるだろうなあ。
「オーディションに挑むにおいて、私が言った注意点を憶えていますか?」
「ツノを出さない、シッポをださない。いくら変身できるからって、魔術は秘匿するし悪魔の要素はちゃんと隠す」
「よろしい。それで、本番であなたがやったことは?」
「ツノを出して、シッポを出して、会場を爆破しました」
「馬鹿ですか?」
自分でも本当にそう思う。
わざとじゃない、審査員に超煽られて、ムカッと来たらつい勝手に身体が変わっちゃって、引っ込みつかなくなって。
「でもでも! ツノもシッポもトリック衣装ってことになったし、爆破もほら、ほとんど幻覚見せただけだから、チョットユカガコゲチャッタケド……バレテナイヨ」
「…………」
「ゴメンナサイ」
「私が言いたいのは、他の陣営に補足される危険を犯すなということです。
東京は広いようで狭い、まさかアイドルなんて目立つ職業(ロール)で動くマスターはあなた一人だと思いますが、テレビ業界に魔術師が潜んでいない保証などどこにもない。
あなたが"完成"する前に敵に攻められたら、我々はお終いなのですよ? 自覚あるんですか?」
「ハイ、スイマセン」
「そのうえで、まあ、今回は上出来です」
「ハンセイシテマス……え? 不合格なのに?」
「SNSを見てください」
実は怖くてずっと見れなかったSNSのアカウント画面を、スマホを一度耳から離して眺めてみる。
『オーディション番組に悪魔乱入!? 流星のように墜落した最凶アイドルが企画を荒らして途中退場!! しかし現場では拍手喝采のワケとは!? 名物パワハラ審査員に強烈な啖呵を――』
私の5分にも満たない出演シーンのショート動画が切り取られて拡散されていた。
そしてバズっていた。
さっき生放送が終わったばかりなのに、とんでもない大バズリだった。
今まで見たことない勢いでフォロワーが増えていく。
東京というハコの中での知名度上昇に伴い、私の中の悪魔が確かに強化されるのを感じる。
「早く事務所に戻ってください。今回の件を踏まえたうえで、次の一手を打ちますよ」
「う、うん! 分かった!」
人生の転機は二度目。
一度目は幼少の頃、闇の中で悪魔の影に出会った日。
二度目はここで、本物の悪魔と契約した日。
私はスマホをポケットに勢いよくしまって、まっすぐ帰路へ歩き出す。
と、そのとき、頭上の高層ビルの屋上にある、よく見た顔と目があった。
可愛く、美しく、輝く天使。正にアイドルになるために産まれてきたような美少女。
巨大な屋外広告パネルに印刷され、ライトアップされた輪堂天梨の笑顔が、夜を往く人々を照らしていた。
あーあ、悔しいけど、やっぱり私より可愛いなあ。
この仮想世界にいる彼女はきっと、影法師のようなものなのだろうけど。
それでもやっぱり美しいと、本当に天使のようだと、私は思った。
パネルの中の彼女はエンジェの歌詞の一節を添え、銃のように構えたキュートな指先をこちらに向けている。
『祝福の矢、どうか受け取って―――』
だから応じるように私も、銃のように指を突きつけ宣言する。
「―――祝福なんていらいない。私、負けないから」
私は呪われたままでいい。
たとえ始まりが、暗闇の恐怖から逃げ出すためだったとしても。
この恐怖が私を光の方角へと走らせ続けるならば構わない。
天使も悪魔も、せいぜい最期まで観るがいい。
魂を賭け、死ぬまで踊り舞うと決めた、愚かな演者の悪足掻きを。
【クラス】
プリテンダー
【真名】
ゲオルク・ファウスト(+メフィストフェレス)
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運D 宝具EX
【クラススキル】
陣地作成(事務所):B
本来はキャスターのクラススキル。
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。「工房」の形成が可能。
キャスタークラスを詐称するファウストは、演者(マスター)の人生を過激に演出する「芸能事務所」を構築した。
道具作成(偽):B
本来はキャスターのクラススキル。
魔力を帯びた器具を作成可能。
一部地域では有名な「消滅と出現の鞭」の他、様々な悪魔アイテムを作り出す。
例えば綺羅びやかなステージ衣装とか、光る棒とか、スモークの出る機械とか、飛び出す銀のテープとかetc。
【保有スキル】
エレメンタル:D
五属性に対応した人工霊を使役する能力。
錬金術師であったファウスト博士が生前呼び出していた魔術的存在。
ランクはあまり高くなく、単体では戦力として心もとない上に、属性によって完成度にムラがある。
手間暇かけてじっくり大量に作れば、ある程度は戦闘に耐えうる使い魔として機能する。
虚仮威しであれば様々な演出に加え、もちろん人手が足りない事務所の雑用程度ならしっかり任せられるだろう。
高速詐唱:A
悪魔にとっての高速詠唱に相当するスキル。
魔術の詠唱速度を高速化する。
加えて、狡猾なる二枚舌は詠唱している見せかけの内容と全く別の魔術を行使することが可能。
ランクAにもなると業界人との交渉も容易く進められるはずだ。
悪魔の忠言:B
軍師系サーヴァントに与えられる「軍師の忠言」スキルが変質したもの。
古代ローマ帝国を勝利に導いた戦略の手腕から、味方に的確な助言を与えることが出来る。
マスターが厳しい芸能界を生き抜くために、彼の悪魔的頭脳は日夜フル回転を続けている。
愛すべからざる光:EX
人間観察の変異スキルにしてファウストを詐称者たらしめる特殊能力。
擬似的な気配遮断と察知に加えステータスを完全に改竄し、周囲について一方的な理解を得る。
このスキルの効果対象は自身のマスターも例外ではなく、むしろマスターに対して最も強力に作用する。
マスターがファウストの能力の全貌を把握できないのに対して、ファウストはマスターの思考をある程度読むことすら可能。
【宝具】
『装飾、指名、実演(D.D.D)』
ランク:D+++ 種別:契約宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
ファウスト博士との悪魔契約。
Decoration Designate Demonstration.
主従契約の上から更に契約を重ねることによって、契約対象者(アクター)の魔術回路を変質させる。
「ファウスト博士と契約する者は即ち悪魔である」という因果に基づき、悪魔の権能発現と身体機能の著しい強化を付与。
契約を果たせなかった場合、代償として契約者は憑いた悪魔に魂を奪われる。
という第一宝具を詐称している。
正式名称『やがて極光に至る嘘(Mephistopheles)』。
この宝具の本質はメフィストフェレスという悪魔との段階的融合にある。
契約を果たせなかった者は、ファウスト博士と同じように悪魔と同化してしまう。
結果、博士という殻の内に潜んでいた悪魔は受肉を果たし、この世界に顕現するだろう。
悪魔の力を与えるという宝具効果そのものに嘘はない。
魂と肉体を喰われるか、悪魔に同化しその一部に成り果てるか。本質的に差はないだろうとファウスト(メフィスト)は考えている。
今回取り交わされた契約条件の全文は『煌星満天がトップアイドルに至り大願成就する姿を見せ、ファウストに再び希望と充足を与える』。
つまり実際の主眼はファウストの満足にあり、アイドルの夢は手段であるが、満天の中でそれらは過不足のないイコールで結ばれている。
満天にとって、他者に最大の感動を与えられる方法とは、それを置いて他にないと確信しているからだ。
なお、与えられる権能と強化幅は悪魔となった契約者の名声に比例する。
ファウストは元々白兵戦に優れたサーヴァントではないことに加え、第一宝具を発動した後は一部宝具と権能を損なう。
以上の特性から、この主従の行動方針は『仮想都市東京でトップアイドルを目指す』という荒唐無稽なものと化したのであった。
『瞬間よ止まれ、汝はかくも美しい(Verweile doch,du bist so schoen)』
ランク:EX 種別:対契約宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
秘匿された第二宝具。
悪魔との契約の終わり、2つの結末。時計は止まり、針は落ちる。
下記の内どちらかの達成条件が満たされたとき、この宝具は自動で発動する。
1.第一宝具の契約が果たされる見込みはもはや無いと見做され、契約不履行が確定したとき。
メフィストは契約対象者の魂を食い尽くし、真なる悪魔が受肉し顕現する。
2.メフィストであると同時にファウスト博士でもある今の彼に、自らこの宝具(セリフ)を使わせたとき。
悪魔との契約は果たされるという。
【weapon】
五元素の人工霊の使役。
黒の鞭をはじめ、道具作成による様々な武器や小道具を扱う。
この他、爆破現象に関連した第三宝具が存在したが、第一宝具の発動にあたり失われている。
【人物背景】
ゲオルク・ファウスト。
或いはそれを騙る悪魔。
ファウスト博士。16世紀頃、ドイツに実在したとされる錬金術師であり降霊術師。
生前は様々な研究功績を打ち立てたものの、錬金術の実験中に壮絶な爆死を遂げたとされ、彼の人生に関する詳細な記録は殆ど残っていない。
一方で博士は魔術に通じ、悪魔メフィストフェレスと契約した人物として広く知られている。
悪魔との賭け。望みを叶えてもらう代わりに、賭けに負ければ即座に魂を捧げるという契約。
博士と悪魔は24年の月日を共に旅し、多くの悦楽や絶望を味わったという。
作者不明の民衆本をはじめ、数多くの著名な作家達がファウスト伝説を書き残しているが、彼と悪魔の物語の結末は作品によって実に様々。
悪魔が賭けに勝ち、救われぬファウストの魂を手に入れるもの。
あるいは神の奇跡によってファウストが救われ、無事天上に召されるもの。
この地に降り立った彼の正体はそれら様々な伝説・伝承の集合体であり、同時に彼らが同化した悪魔本人の仮初の姿である。
つまり、魔術師(キャスター)ゲオルク・ファウストを騙る、詐称者(プリテンダー)メフィストフェレス。
かつて紆余曲折の末、遂にファウスト博士の魂に手を掛けたメフィストフェレスには一つだけ疑問が残った。
「瞬間よ止まれ、汝は美しい」。死に瀕した博士が最後に口にした、言ってはいけない契約の言の葉。
そのとき彼が見た景色とはどのようなものだったのか。
瞬間に留まりたいと願う程の充足を、誘惑の悪魔は遂に現実に見せることが出来なかった。
あれ程多くの快楽と悲哀を与えてなお満たされなかった博士が、光を失った目で最後にたどり着いた想像の絶景。
長き旅を共にした悪魔に、それが共有されることはなかった。
悪魔は創造を嘲り、虚無を愛する。
やがて失われるモノを造るなど馬鹿げている。そう信ずるが故に、否定してみたくなった。
神によって大半を横取りされた博士の魂。
手元に残ったほんの僅かな残滓をまとい霊基を偽装し、彼は聖杯戦争に紛れ込んだ。
再び人を誑かし、願望の成就によって幸福の絶頂に立つ瞬間を共有した上で、今度こそ、それを否定せんとする。
こうして、悪魔は一人の少女と出会い、新たな契約を交わしたのだった。
【外見・性格】
20代から30代前半くらいの年齢に見えるスーツ姿のドイツ人ビジネスマン。
七三分けの髪型に黒縁メガネが特徴的。底のない、死んだ魚のような暗い黒目をしている。
常に冷静沈着で冷酷非道な印象を周囲に与える一方、聞くものの心を掌握する甘言をストレートに吐き出す。
あまり見せることはないが、意外なものを見るとメガネをクイッと押し上げる癖があるらしい。
【身長・体重】
188cm・78kg
普段は敏腕ビジネスマン風のドイツ人だが、体格と顔はかなり自由に変更可能。
こなす仕事の内容に合わせ適した姿に変身する。
【聖杯への願い】
特になし。
目的は人間の創造行為の否定。
だが、それは聖杯にかける願いではなく、契約した演者との賭けによって果たすべきと考えている。
【マスターへの態度】
普段は恭しく付き従いながらも、思う所があれば慇懃無礼な態度で欠点をビシビシ指摘する。
彼はスキルによってマスターの潜在的な願望を把握しており、その成就と否定に向けて最短距離で指導する。
マスターの人格面と能力については正直言って滅茶苦茶バカだと思っているが、なるべく顔に出さないよう努力している。
【名前】
煌星 満天 / Kiraboshi Manten
【性別】
女性
【年齢】
17
【属性】
秩序・善→混沌・悪(悪魔化により変質)
【外見・性格】
普段は黒髪ロングをルーズサイドテールにしており、気合を入れる時は結び目を引き上げてポニーテールになる。
笑うと僅かに覗く八重歯がチャームポイントなのだが、滅多に笑わないのであまり知られていない。
クラスで3番目くらいの美人。まあまあな人数の男子から「コイツの地味な可愛さを知ってるのは俺だけだろうな……」と思われている。
ファウストと契約して悪魔の身体になって以降、昂ると頭からツノが飛び出、お尻から尻尾が飛び出してしまう。
性格は非常に臆病かつ不器用、感情を内に溜め込みがち。小さい頃から人見知りが災いして非常に友達が少ない。
その一方で隠れロマンチストの熱血バカでもあり、彼女のストレスが限界に達しブチギレたとき、その一面が垣間見える。
【身長・体重】
155cm・43kg
【魔術回路・特性】
質:A 量:A
特性:〈悪魔憑き〉
【魔術・異能】
◇メフィストの靴
サーヴァントの契約宝具により発現した異能。
本物の悪魔の魔術回路を身体に巡らせ、その驚異的な魔術と身体強化の一部を行使できる。
当然リスクも存在し、満天が自らの願望の成就を諦めたとき、心折れた時は契約の不履行と見做され、彼女は即座に死に至り魂を悪魔に喰らわれる。
引き出せる悪魔の権能の大きさは自身の知名度に比例するため、売れないアイドルである今の彼女が使える力は一割程度。
つまり彼女は生き残るためにこそ、この架空の東京で己が夢を叶えるしかなくなった。
即ちこの世界で最も輝ける光、トップアイドルになること。
夢を叶えるために生きてきた彼女は今、生きるために夢を叶えるべく、スターの座を駆け上がらんと挑む。
【宝具】
『微笑む爆弾(キラキラ・ボシ)』
ランク:E- 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1~20
契約の際にファウストから移譲された第三宝具。
名前は満天が勝手に決めた。
周囲に幻覚の爆弾を仕込み起爆する。身体を傷つけない熱、光、音は高クオリティの虚仮威し。
本物の爆弾を仕込むことも可能だが、今の満天の知名度では花火程度の威力が限界。
【備考・設定】
本名、暮昏 満点(Kuregure Manten)。
アイドル志望の女子高生。
致命的に不器用であり歌もトークもぱっとせず、コミュニケーション能力が壊滅的という欠点を抱えていた為、その活動は上手く行っていなかった。
中学生の頃は「でびるずうぃっち」という地下アイドルグループに所属していたが、殆どまともな活動を行うことなく解散。
なんとか滑り込めた小さな事務所の中でもお荷物扱いで、地道なソロ活動を続けていた。
実家は歴史こそ浅いものの魔術師の家系であり、自身の夢について両親の猛烈な反対にあった結果、現在は家出状態。
彼女に魔術の才能が殆ど見られなかったこと、三人兄妹の末っ子だったことからギリギリ勘当で済んでいる。
それ以降はバイトの掛け持ちによって、なんとか限界アイドル生活を食い繋いできた。
けして容姿に優れないわけではなく、むしろ美人の部類に入るのだが、いま一歩華がなく主役になりきれない。
アイドル志望でありながら感情を表現するのが苦手で、かなり悲観的で臆病、と自他ともに認める『むいてなさ』。
にも関わらず、幼少の頃に胸に灯した情熱と強迫観念だけで、彼女はここまで止まることが出来なかった。
もっと光を浴びたい、いつまでもスポットライトの中心に立ちたい、主役になりたい。という強烈な願望。
それは、背後に迫りくる暗影に対する恐怖の反動でもある。
幼少の頃、暗闇の中で契約した(と思っている)悪魔に関する強迫観念を、今に至るまで片時も忘れたことがない。
暗所恐怖症であり、夜の繁華街を歩けないほどではないが、真っ暗な闇は耐えられない。
彼女はその縁によってかプリテンダーを召喚し、結果として彼女に最も欠けていたもの、彼女の売り出し方を正しく理解する存在を得た。
つまり、最高のマネージャーであり、トレーナーであり、プロデューサーである。
本物の悪魔と今度こそ完全な契約を交わすことになった蛹の少女は果たして羽化に至るのか。
また、自身と同い年にも関わらず今や一躍人気アイドルとなった輪堂天梨の拗らせファンでもある。
ネット上における彼女のグループと彼女自身の炎上騒ぎを目の当たりにし、この頃は正直かなり病んでいた。
そんなある日、両親の名義で送られてきた懐中時計に触れ、彼女は聖杯戦争に参加することになる。
【聖杯への願い】
特になし。
目標はトップアイドルになること。
だが、それは聖杯にかける願いではなく、契約した従者との賭けに勝って果たすべきと考えている。
【サーヴァントへの態度】
ともに夢を叶えるパートナー。
同時に、絶対に負けたくない契約相手。
最終更新:2025年01月21日 02:46