東京の一角、神田近くにあるありふれた六畳一間の安アパート。
更にその一室に青年の姿はあった。
モンゴロイドではない、浅黒い肌のその青年は、何かに対し一心不乱に祈りを捧げている。
その対象は、部屋中央にある安物のリビングテーブルの上に鎮座している。
蛍光灯の光を反射するのは、傷一つない新品の液晶。
手のひらサイズのそれは、俗に言う――何の変哲もないスマートフォンであった。

「何をしているマスター。祈りを捧げたところで電子機器の性能は変わりはしない」

そんな青年を見つめるのは奇妙な男であった。
長袖の軍服――しかもその全身は真紅に染まっている。
だがそんな奇妙な格好すら打ち消すのは男の顔だ。
顔つきだけ見れば特徴のない、北欧系の男性の顔立ち。
だがその顔には一切の表情というものがなく、まるで肉でできた人形のような不気味さだけがあった。

「……うるせえアサシン、こういうのは気分だ気分。
 素晴らしいものには敬意を払う……それが魔術であれ、機械であれだ」

そういって褐色肌の青年――ガデッサはスマートフォンを恭しく手に取った。
ガデッサの生まれは中東の魔術師の家系である。
古式ゆかしい家系であるガデッサの家は機械を嫌い、買い出し等での最低限以外の接触を禁じていた。
だが彼は街に出るたびに、人々が持つこのデバイスを羨望の目で見ていたのだ。
――それこそ隠して持ち帰った日本語の説明書を擦り切れるほどに読むぐらいには。

そして今、なんの因果か彼は憧れの日本、それも秋葉原近郊に存在していた。
オタクの街として有名になったアキハバラではあるが、今でも一角の電気街であることには違いない。
そこかしこに怪しげな部品屋があり、千差万別の機械が溢れている。
……正直ここにきてから一ヶ月、仕事以外の時間は毎日出かけて散策していたりする。
ガデッサにとっては至福の時間であった。

「了解(ダース)。マスターにとって、意味がある行為だと理解した。
 だが、そろそろ決定しなくてはならない。この聖杯戦争において積極的に動くのか、それとも消極的に行動するのかを」
「……そんな事言われてもな」

ガデッサは端的に言ってしまえば、この聖杯戦争に乗り気ではない。
大きな理由は2つあるが、そのうちの一つが眼の前のサーヴァントだ。

「……どっちにしろ目立つ行動は避けるべきだろ。……お前、強力なサーヴァントじゃないからな」
「肯定(ダー)。私のステータスは平均的なサーヴァントを下回っている。
 なおかつ私の宝具も暗殺に特化している。マスターの選択は現状正しい」

表情一つ変えず、自身を評価するアサシン。
そこにはマスターから受けた侮辱とも取れる評価に対して何も感じていないということだ。
何を考えているのか、わからなすぎて正直ガデッサはやりにくいことこの上ない。
願いを訪ねたときも「特にない。マスターの願いを助けるだけだ」とそれしか返してこなかった。
慣れぬ手つきで検索した真名から、人間であることは間違いないと思われるが……果たして本当にこんな人間がいたのだろうか。
そんな疑念の目を向けても、アサシンの表情はピクリとも変わらない。
感情の全く浮かばない瞳を、変わらずに自分に向けている。

「だが長期的なプランは持つべきだと提言する。戦況は都度変化する。
 その際に選択をスムーズにするためにも"方針"は必要だ」
「……だったらお前の好きにしたらいいだろ」
「否定(ニェット)。
 その提案は4回目だが、回答は変わらない。行動の決定権はマスターのみにある。
 サーヴァントにその譲渡は認められない」

頑固――ともまた違う機械的な反応。
そう、まるで機械だ。
『最初からその操作が設定されていない』かのような融通の効かなさをこのアサシンからは感じるのだ。

「私の存在意義はマスターの願いのために動くことだ。
 そのために提言はする。だがあくまで決定はマスターがしなければならない」

そういって感情の浮かばない瞳でこちらをじっと見つめてくる
忠誠とも違う。『そうであることが前提』の奇妙なサーヴァント。
何故コイツは"相性が最悪"の俺に召喚されたのだろう、とガデッサは思う。
もしもこいつが自分の願いを持って動くタイプだったら、自分は流されて動いていただろう。
……例えそいつがなんの役に立たないサーヴァントだったとしても。
そう。聖杯戦争に乗り気ではないもう一つの理由、それがガデッサ自身の使命感がほとんど消えている、ということだ。

ガデッサの家に伝わる魔術刻印は幼年期に魔術回路を5分割し、一定年齢まで五大属性それぞれ鍛え上げ、最終的に殺し合わせることで統合。そうすることで擬似的なアベレージワンを作成し、引き継がせる――というものだった。
何千年も続く伝統――それが終わりを告げたのはほんの偶然。
とある無名の強盗団に目をつけられたということだけ。

ガデッサの家系が機械を毛嫌いし、見下していた。その結果だった。
強盗団の所持していた機関銃から放たれる銃弾の嵐。
数人は軽く倒せたがその物量に耐えきれず、あっさりとみな殺された。
あれほど強大だと思っていた親は、銃弾の嵐に耐えきれず脳をぶちまけた。
最終的には殺し合うと知りながら共同生活を送っていた兄弟たちは、一瞬で肉片になった。
その死の嵐の中でガデッサが死ななかったのは本当にたまたまだ。
自身の担当していた魔術が生存に特化したものであったこと、それに最初で頭と心臓を吹き飛ばされなかったことだ。

血の海の中で目覚めたガデッサが思ったのは――虚しさだった。
魔術師の端くれであったから、根源へのあこがれもあった。血をつなぐという使命感もあった。
だが、こんな簡単に。魔術と一つも関係ない出来事で、たった10gにも満たない金属で、ガデッサたちが数千年繋いできた魔術は無価値になった。
血溜まりに転がっていた見覚えのない時計を拾い上げてこんな場所まで来てしまったが、その虚しさは消えていない。
「聖杯を使えば根源への道も開かれる」……そんなことを聞いても心に訪れるのは、いつか街角で見た錆びついたTVを見たときのような虚しさだけである。

「……まぁ、まだいいだろ。それよりも今からスマートフォンのマニュアルを読み込むんだ。……放っておいてくれ」
「了解(ダース)。ではまた6時間後に再度確認をする」

そういってアサシンは姿を消した。

――――――

霊体化したアサシンはマスターの決定をただ待つ。
そこには不満も焦りもない。もとより自分はそういう存在であるからだ。
『この姿』になったのは、混じりこんだ要素の影響でしかなく、本来英雄でも、そもそも意思ある存在ですらない。
英霊として定義された自身に定義したルールは一つだけ。
持ち主(マスター)が引き金を引いたとき、敵を撃つ。ただそれだけである。
――"自分たち"が生まれて以降、ずっとそうしてきたように。

アサシン、その真名はカラシニコフ。AK-47。
近代で最も用いられた殺戮機構の一つ。
――かつてガデッサたちの命を奪った、どこにでもある死の形である。

ガデッサの家に伝わる魔術刻印は幼年期に魔術回路を5分割し、一定年齢まで五大属性それぞれ鍛え上げ、最終的に殺し合わせることで統合。そうすることで擬似的なアベレージワンを作成し、引き継がせる――というものだった。
何千年も続く伝統――それが終わりを告げたのはほんの偶然。
とある無名の強盗団に目をつけられたということだけ。

ガデッサの家系が機械を毛嫌いし、見下していた。その結果だった。
強盗団の所持していた機関銃から放たれる銃弾の嵐。
数人は軽く倒せたがその物量に耐えきれず、あっさりとみな殺された。
あれほど強大だと思っていた親は、銃弾の嵐に耐えきれず脳をぶちまけた。
最終的には殺し合うと知りながら共同生活を送っていた兄弟たちは、一瞬で肉片になった。
その死の嵐の中でガデッサが死ななかったのは本当にたまたまだ。
自身の担当していた魔術が生存に特化したものであったこと、それに最初で頭と心臓を吹き飛ばされなかったことだ。

血の海の中で目覚めたガデッサが思ったのは――虚しさだった。
魔術師の端くれであったから、根源へのあこがれもあった。血をつなぐという使命感もあった。
だが、こんな簡単に。魔術と一つも関係ない出来事で、たった10gにも満たない金属で、ガデッサたちが数千年繋いできた魔術は無価値になった。
血溜まりに転がっていた見覚えのない時計を拾い上げてこんな場所まで来てしまったが、その虚しさは消えていない。
「聖杯を使えば根源への道も開かれる」……そんなことを聞いても心に訪れるのは、いつか街角で見た錆びついたTVを見たときのような虚しさだけである。

「……まぁ、まだいいだろ。それよりも今からスマートフォンのマニュアルを読み込むんだ。……放っておいてくれ」
「了解(ダース)。ではまた6時間後に再度確認をする」

そういってアサシンは姿を消した。

――――――

霊体化したアサシンはマスターの決定をただ待つ。
そこには不満も焦りもない。もとより自分はそういう存在であるからだ。
『この姿』になったのは、混じりこんだ要素の影響でしかなく、本来英雄でも、そもそも意思ある存在ですらない。
英霊として定義された自身に定義したルールは一つだけ。
持ち主(マスター)が引き金を引いたとき、敵を撃つ。ただそれだけである。
――"自分たち"が生まれて以降、ずっとそうしてきたように。

アサシン、その真名はカラシニコフ。AK-47。
近代で最も用いられた殺戮機構の一つ。
――かつてガデッサたちの命を奪った、どこにでもある死の形である。


【クラス】アサシン
【真名】 AK-47 カラシニコフ
【属性】 中立・中庸

【ステータス】
筋力:D 耐久:B 敏捷:C 魔力:E 幸運:E

【クラススキル】
  • 気配遮断:C
 攻撃体制に移らない限り、基本的に察知されない。
 どんな達人でも放置された道具の気配を探るのは難しい。

【保有スキル】
  • 単独行動:E-
 本来単独では行動できないアサシンだが、複合したサーヴァントの影響で行動できるようになっている。
 ただし無理やり行動できるようにしているため独立行動はほぼ不可能である。

  • 戦闘続行:A+
 アサシンの極めて高い信頼性がスキル化したもの。
 周囲及び自身がどのような状況であろうと、ステータスに変動が起きず、戦闘を続行できる。
 アサシンの構造は単純かつ堅牢であったため、極寒地や砂漠地帯の兵士からも信頼が寄せられていた逸話の顕現。

  • 反神秘:A
 単純な機械構造がスキル化したもの。魔力や神秘が入り込む隙間が非常に少ないことの現れ。
 神性や魔力と言った神秘を持つ存在に対して、攻撃力が低下するデメリットスキル。
 近代の英霊だったとしても『英霊』という神秘を纏うため、マイナス補正が発生する。
 事実上、アサシンの銃弾でサーヴァントに対して致命傷を与えることはできない。
 (使い魔ならばともかく、サーヴァントに対して攻撃を仕掛けても、怯ませるぐらいがせいぜい。)

  • 血塗れのカリスマ:E-
 一部の地域で反資本主義の象徴として祭り上げられている。
 戦乱を呼ぶカリスマ。統率はできても、兵の士気が極端に下がる。
 本来機械にすぎないアサシンが英霊として成立するために必要なスキル。

  • 神性:E-
 本来アサシンが持ち得るはずのないスキル。
 「血塗れのカリスマ」によって、ほんの僅かにだが「戦乱の概念」そのものである「赤の騎士」と複合している。
 幻霊ですら無いアサシンが英霊として成立しているのはこのせいである。
 アサシンが存在するところには、必ず戦乱の火種がある。

  • 霊長の殺人者:EX
 人類に対する絶対殺害権。
 改良型や派生品、ライセンス生産品から無許可のコピー製品まで含めると一億挺をゆうに超えると言われている。
 その圧倒的な扱いやすさと生産性によって『世界で最も多く使われた軍用銃』と呼ばれている。
 人類史至上、多くの人を殺した武器の一つ。


【宝具】
 『粗雑な死、貧者の牙(アーカ・ソロキシン)』
 対霊長特攻宝具。
 相手が"人間"である場合、神秘・物理・運命――あらゆる障害を貫通し、その命を奪う必殺の銃弾の嵐。
 自身が定義した戦場(この場合は聖杯戦争)において、血が流れるたびに必殺の確率は上昇する。
 地球上で多くの命を奪った道具であるという逸話の顕現。
 獣を狩るには強すぎる威力、祭典に用いられるには無骨すぎる外観。
 ただ「人間を殺すこと」に特化したアサシン自身の宝具である。
 なお霊体であればすり抜け、獣やサーヴァントに当てても禄にダメージは通らない使い所の難しい宝具である。

 『戦乱呼ぶ赤い騎士(レッドライダー・レッドフィールド)』
 対概念特攻宝具。
 体から取り出した真紅の剣を地面に突き刺すことで周囲13kmを戦場(バトルフィールド)へと変貌させる。
 戦場(バトルフィールド)内部は空が赤く染まり、銃声と怒号、そして喇叭の音が響き渡る。
 固有結界にも似た特殊魔術。多くの生命が潰えた戦場のイメージが現実を塗りつぶす。
 戦場(バトルフィールド)内部では『全てのものは、戦場では死に至る』という概念によって、ありとあらゆる不死身の概念が塗りつぶされ、サーヴァント、あるいは神霊だとしても致命傷を負えば死に至る。
 戦乱の中にしか存在し得ないアサシンと、戦乱を呼ぶ赤い騎士が結びついて生まれた絶対戦場領域。
 なお通常はスキル『反神秘』によって封印されているが、聖杯戦争内で多くの血が流れるに従って封印が弱体化していく。
 また誰かが死ぬまで解除されることはない。
  『――次に現れたのは赤い馬。その馬上の者には、長い剣と、平和を奪って地上に混乱を招く権威が与えられた。』
 人も、神も、概念ですら血を流して死に至る。神秘も、すべて戦乱の中に消えゆく定めである。


【weapon】
 AK-47。使い魔はともかくサーヴァントには通用しない。

【人物背景】
 ソ連が生み出したアサルトライフル『AK-47』が英霊化した存在である。
 単純かつ丈夫な構造のそれは量産され、
 百近い国の軍隊と何百ものゲリラ、反政府グループ、民兵組織、テロリスト、犯罪組織によって使用されている。
 道具であるためサーヴァントとして本来成立し得ない存在であるが、マスターの死因や
 そして「戦乱」の概念たる『黙示録の赤い騎士』の要素が混じり込み、サーヴァントとして成立した。
 なおマスターはAK-47をデザインしたミハイル・カラシニコフと思っているが似ても似つかない。


【外見・性格】
 真っ赤な軍服を着た、中肉中背の東欧系の顔立ちをした青年。
 表情の変化がなく、肉でできた人形のような不気味さを見たものに抱かせる。
 性格は自分を道具と定義し、機械的に行動する。
 人の形を取ったこと、多少混じっている神霊の影響で多少の自我はあるが極めて薄い。
 口癖は「肯定(ニェット)」「否定(ダー)」「了解(ダース)」


【身長・体重】
 180cm・80kg

【聖杯への願い】
 なし。マスターを闘争に勝利させる。それが道具としての存在意義である。

【マスターへの態度】
 特になし。
 戦闘時の行動などを除いて、大局の判断はマスターに委ねる。
 引き金を引くのはいつだって人間である。

マスター
【名前】
 ガデッサ

【性別】
 男
【年齢】
 18歳

【属性】
 中立・善

【外見・性格】
  • 中東系の顔立ちの青年。
  • 昔から機械に興味があったが魔術のため
 そのため街に買い出しに出た際に仕入れた家電の説明書を読むのが数少ない趣味。
 機械に溢れた東京――特にアキハバラ周辺は気に入っている。


【身長・体重】
  • 175cm・80kg

【魔術回路・特性】
 質:B 量:C
 特性:『生命』
 統合されれば上位の魔術刻印であったが、1/5であるため極めて平凡なものである。

【魔術・異能】
 生物の生命力を活性化させる生命魔術の使い手。
 自身だけでなく他人の強化もできる。

【備考・設定】
【聖杯への願い】
 特になし。
 少し前までなら根源に興味はあったが、何百年も続いた魔術が一発の鉛玉で消え去ることに虚しさを覚えている。

【サーヴァントへの態度】
 何を考えているかよくわからないからちょっと苦手。

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最終更新:2024年07月28日 15:31