桜場コハル作品エロパロスレ・新保管庫

2

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2.

みんなで海へ行った日からだいぶ経ったある日のこと。
私は今日もチアキの家にお邪魔していた。
今年はいつになくチアキの家に行っている様な気がするけど、内田に至っては自分の家の様にほぼ毎日通っているとか。
内田はさておき、今日も藤岡くんが居て、相も変わらずチアキの椅子にされていた。
チアキの家に行くと必ず藤岡くんが居るから不思議だ(私が来た時は居なくても、後から来たりするんだ)。
もちろん藤岡くんに会えるのは凄く嬉しいんだけど、チアキの家以外では中々会えないのがちょっぴり残念。
しかも藤岡くんが居る時は、チアキが決まって"指定席"に座っている。
何でだろう。あんなに気持ち良さそうにしているチアキを見ると、なんか凄く悔しい気分になる。
別に私はチアキが嫌いじゃないし(むしろ大好きだ)、チアキもただ藤岡くんを気に入っている『だけ』の様で、私に意地悪をしているつもりは無さそうだ。
今までは「兄妹みたいでいいね」と言えたハズなんだけど、今は「いいなぁ」としか思えない。
だからと言ってチアキの邪魔をするのは藤岡くんやチアキに嫌われる以前に、人としてやっちゃダメだと思う。
私はただただ、二人の様子を外野から見守る事しか出来ずにいた。
というか─────、

自分の親友を"こういう"目で見てしまう自分が凄く嫌だ。



「ん? どうした? 吉野」
藤岡くんの膝に座るチアキが、いつもの眠たそうな目で訊いてきた。
「え? な、何でもないよ…………えへへ」
「何かいつものお前らしくないな? 私の顔に何か付いているのか?」
「チアキの頭のソレが気になってるんじゃ…「お前は黙ってろ!!」
 ぼふっ
「うぎゃっ?!」
カナちゃんが横から茶々を入れると、チアキは抱いていた"ふじおか"をカナちゃんに投げつけた。
ふじおかはカナちゃんの顔にクリーンヒットして、カナちゃんは床に倒れてしまった。
……カナちゃん、大丈夫かな。
「で、何か付いているのか?」
「………いや、ホントになんでもないから」
「…………。そうか……」
「そうだよ」
流石にこの空気では「一度でいいからそこに座りたい」とは言いづらい。だから私は黙っていた。
ふと藤岡くんの方を見る。
(あ…)(あ…)
目が合っちゃった!!
私も藤岡くんも、半ば反射的に顔をそらした。
あれ? 藤岡くん、顔が少し赤いような気がするんだけど……。


その時だった。
「ふっふ〜〜ん」
いつの間にか復活していたカナちゃんが、私と藤岡くんを交互に見て、ニヤリと笑う。
この顔は……明らかに変なコトを考えている顔だ。
「チアキ、アイスでも買いに行こうぜ?」
「嫌だよ。アイスが食いたきゃお前一人で買いに行ってこい」
たまにはいいじゃねぇか。ハルカとなら喜んで行く癖に」
「う、五月蠅いな!! お前とは行きたくないんだよバカ野郎!!」
突然カナちゃんがチアキに一緒に買い物に行こうと言い出した。
もしかして、私と藤岡くんを二人きりにするつもりなの??
「ほほーう。んじゃ、お前の炭酸をみんなで飲むとしよう。あと四本残ってたよな?!」
「ぬっ……。分かったよ。付き合ってやるよバカ野郎」

散々揉めた挙げ句、カナちゃんとチアキはアイスを買いに出かけることになった。
「んじゃ、行ってきまーす」
「きまーす……」
チアキは明らかに面倒臭そうに言って、玄関の扉をがばっと開けた。
沼津特有の湿気たっぷりの不快な熱気がむわっと入り込んできた。
続いてカナちゃんが玄関を出かかったところで私たちに振り返る。そして、こう言った。
「しばらく留守番を頼むけど………」

「"おかしなこと"、するなよ?」
悪意をたっぷり込めて、悪魔の様にニヤニヤしながら出て行った。
カナちゃん、一体何を企んでいるのだろう。

「行っちゃったね」
「そうだね」

それで……、

「藤岡くん」
「なに?」
「"おかしなこと"って、なぁに?」
「え……………」
"おかしなこと"が何なのか分からない私は、藤岡くんに訊いてみる。
「い、いいいいいいや、な、ななな何のこことだろうねぇ……あ、あは、あは、あははははは……」
訊かれた藤岡くんは何故か顔を真っ赤にさせ、口をどもらせながら苦笑い。
ヘンな藤岡くん。



みなみけから近所のお店までは歩いて往復十五分ほど。
チアキとカナちゃんはしばらくは帰ってこないだろう。
ちなみにハルカちゃんは片浜に住んでいるアツコちゃんの家に行っているという。
つまり、今ここに居るのは私と藤岡くん"だけ"なのだ。

(──言うなら今しか無いよ)
何処からか声が聞こえたような気がする。
誰?
振り向いても藤岡くんの他には誰もいない。
(──ほら、言っちゃいなよ)
もしかして、私の心の声?
「どうしたの?」
(──言うなら今しか…)
「な、何でもない……よ?」
「……ほんとに?」
「うん、ホントに」
「そうか」
「うん………」
藤岡くんは柔らかい笑顔でそう返すと、しばらくの間沈黙が続いた。

エアコンの音がごうごうと鳴り響く。
やけに静かなみなみけのリビングで、私と藤岡くんは黙ったまま何故か正座で向き合っていた。
話題が全く無い訳ではない。私はともかく、藤岡くんも何か言いたそうにしているんだけど、お互い話を切り出せないで居た。
(そろそろチアキ達が帰ってくるな……)
そうだ。
流石に"あの事"をここで話すのもどうかと思ったので、日にちと場所を改めて、二人だけで話せる機会をつくろう。
頑張れ私。

「あ、「あの」」
!!
全く同じタイミングで出てしまった。ちょっと気まずい
「「え、えっと………」」
まただ!!
「あ……」「えっと………」「さ、先いいよ」「キミから……」「いや、藤岡くんから…………」
ハタから見れば本当に焦れったいコンビだと思われるのだろう。
「じゃ、じゃあおれから」
「うん」
「あ、あのさ……これ…………」
藤岡くんは頬っぺたを少し赤らめて、ハーフパンツのポケットからかみ切れの様なものを取り出した。
「そ…それ……」
「うん。良かったら、と思って」
その紙切れは、何と西伊豆にあるあの水族館の割引券だった。
しかも小学生用と中学生用が1枚ずつ。
「ほら、前にさ、『魚が見たい』って言ってたでしょ? 母さんが町内会の時に貰ってきて、それで……もし良ければ」
えっ………。
もしかして、これって………。
「い………いいの………?」
「うん。一緒に行こうよ」
うそ…………。

まるで夢を見ているようだった。
まさか、藤岡くんから"お出掛け"のお誘いを受けるとは夢にも思わなかった。
「ほ……本当の本当にいいの?」
「うん。おれ、でなかったらこれ…他の誰かにあげるつもりだったから……」
「行く!!」
「ぁ………うん、じゃあ決まりだね」

こうして私と藤岡くんは、夏休み最後の日に、一緒に西伊豆のあの水族館へ行くことになった。
……何だろう。
その後の藤岡くんの表情に少しだけ『違和感』を覚えた。悪い意味では無さそうだ。

こうして私と藤岡くんは、夏休み最後の日に、一緒に西伊豆のあの水族館へ行くことになった。
……何だろう。
その後の藤岡くんの表情に少しだけ『違和感』を覚えた。悪い意味では無さそうだ。



「ただいまーー!!!」
「ただいま……」
「おじゃましまーす!!」
しばらくして、チアキとカナちゃんが買い物から帰ってきた。
外は相当暑かったのだろう。二人とも汗だくだ。
何故か内田までやって来た。
「途中で内田を拾ってきた」
「カナちゃんが腕引っ張って来たんでしょ?!」
突然家の中が賑やかになった。やっぱりカナちゃんが居ないとみなみけは盛り上がらないね。
「あぁ頼むから喧嘩するな。私は暑くて死にそうなんだよバカ野郎」
「じゃあ、早速アイスを食べるとし…………げげっ」
今にも溶けそうなチアキをよそに、カナちゃんは保冷バッグを開けてアイスを取り出そうとするが……」
「どうしたの? 南?」
「そ…総員に次ぐ。たった今、アイスの…………アイスの全員死亡を確認致しました…………はぅ」
「「「「えぇぇぇええええ!!!!」」」」
その後の事情聴取によると、アイスを買った『後』にカナちゃんが内田を見つけ、あーだこーだ言い合っているうちに時間が過ぎてしまったとのこと。
道理で二人(プラス内田)の帰りが遅かったわけだ。流石の保冷バッグも長時間の運搬には耐えられなかったか……。
楽しみにしていたアイスが全滅してしまい、みんなでいっせいに溜息をつく。
「全部お前のせいだ。どうしてくれる。このアイスを受け取ろうとしている私の腕をどうしてくれる?」
「仕舞ってきてあげようか?」
「仕舞えねぇよッ!!」
チアキは半泣き状態でつぼみの様に萎んでしまった。これは大変だ。

その時だった。
「ただいま〜」
ハルカちゃんが帰ってきた。手には買い物袋と銀色の大きな保冷バッグ。
「あら? カナ、どうしたの?」
「アイスが………アイスが………」
「アイスなら買ってきたけど……?」
そう言ってハルカちゃんは、すっかり落ち込んでしまったカナちゃんと、
望みを全て失ってしまったかのように凹んでいた私たちの前に、大きな保冷バッグを差し出した。
「本当か?! 本当に本当か?!」
箱の中は、アイス屋さんにありそうな大きな箱に入ったバニラアイス。BiViのあのお店で買ったのかな。凄く高そう……。
「えっと…みんな食べたいかなぁと思って買ってきたんだけど……。他のが良かった?」
「アイスがいい!!」
「私もです、ハルカ姉さま」
「私もアイス!!」
「おれも!!」
もちろん、
「私も!!」

カナちゃんのアイス騒動は、ハルカちゃんのお土産のお陰で一件落着。
その後みんなで美味しい夕ご飯を食べて、デザートにみんなで食べた。
結局カナちゃんは本当に何をしたかったんだろうか。
カナちゃんは本当にアイスを買いに行っただけだったのだろうか?
もしかして、私と藤岡くんが話せる機会を与えようとした……というのは考えすぎかな?
うーん、まぁいいか。
「カナちゃん」
「何だー?」
「ありがとう」
「へ?」
「え……」

カナちゃん、本当にありがとう。
藤岡くん、最後の日、楽しみにしてるからね☆


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