支配の"腕"が行き渡ったこの鎌倉において、浅野學峯の名を知らぬ市民など恐らく一人とて存在しないだろう。
 センセーショナルな条例を打ち出し、一種強引なやり口によって街の"不純物"を狩りだす話題沸騰の新市長───というのは確かにある。
 支持率9割を優に超える圧倒的人気を誇る、市民にとって最大の好感を抱くに足る傑物であるから───というのもある。
 しかし鎌倉市民のそれこそ全員と言っても過言ではない者たちが彼の名を脳に刻まれている事実には、彼の持つ"話術"こそが最も大きく起因していることは語るに及ばない。

 例えどんな思想を抱いていようとも。仮に初対面で彼に対して抑えきれないほどの憎悪を抱いていたのだとしても。
 一語の下に一切合財を捻じ伏せ、相手の思考に自らの言葉を無理やりねじ込み上書きする条理逸脱の言論の才を持つ彼にとって、
 他者とは支配する対象でしかなく、支配者たる彼を無視できる人間などいる道理はない。

 この鎌倉市において彼の言葉を───例えテレビ画面越しの間接的なものであろうとも───聞いた者は、ただ一人の例外もなく彼の存在を頭の中心に刻み込まれている。


「故にこそ、皆さまの協力が不可欠なのです」

 静かに落ち着いた、しかし聴衆の全員に聞こえる大音量で、その声は議場と傍聴席の全てに響き渡った。
 聴衆たちはその全員が言葉も動きもなく、統率された軍隊であるかのようにただ一点を注視している。

「今この街は未曾有の窮地に立たされています。
 度重なる爆発事故、止むことのない連続殺人、沖合に停泊する正体不明の戦艦。
 それら現実的な脅威だけではなく、市民の皆様の不安を煽るかのような不確かな噂や都市伝説の数々も後を絶ちません」

 それは例えば生者を食らう屍食鬼の存在であるとか。
 あるいは夜な夜な人を襲う怪人や怪生物であるとか。
 もしくは覚めない眠りに誘う善意を装った怪異であるとか。

 多少なりとも好奇の感情を持つならば誰もが知っている噂の数々。まるで90年代に流行ったオカルトブームの残り滓であるかのようなそれらを、市長たる彼は大真面目に語っている。

「断言しましょう。それら多くの都市伝説は真実であると」

 その言葉に、今まで精巧な人形のように固まっていた聴衆たちの間に、にわかに動揺が走ったのを、彼は見逃さなかった。
 それはこの場に集った面々のみならず、インターネット生中継でこの場を見ている者らも同様のはずだろう。
 笑えぬ冗談か乱心か、はたまた本気で狂ってしまったか。
 ともすればそんな風に取られるであろう妄言を、しかし浅野は狂気の色など微塵も見えない決然たる顔つきで、一切臆することなく断言してみせた。

「無論、市井に囁かれる噂話の一つ一つを検証したわけではありません。
 夜の高徳院で剣を構える鎧武者が本当にいるのか。
 八幡宮の屋根上を駆ける西洋の騎士が本当にいるのか。
 建長寺の境内で土の怪物を生み出すローブの女が本当にいるのか。
 それについて明言はできません。しかしそれら都市伝説が実在し得る土壌は確かに存在しているのです」

 荒唐無稽な言説だ。しかしだからこそ、人々はその言に耳を傾けざるを得ない。
 この男は何を言っている───疑問は興味関心となり、意識は自然と彼の言葉を耳に入れる。
 大仰な身振り手振りも、静かながらも鬼気迫る語り口も。
 全ては人々の視線を自身に集めるためのものだ。これだけの大人数を前に堂々と周知させることで、既成事実であるかのように逆に説得力を持たせている。

 何か箱のようなものを運ぶ職員が数人、議場に立ち入る。それには布がかぶせられ、中では何かがもぞもぞと蠢いているのが見えた。

「その証拠をご覧に入れましょう」

 そして、聴衆の関心を最大まで高め、"もしかしたら"と思わせたその瞬間に。

「これこそ、私が都市伝説の実在を訴える最たる証拠であり───」

 浅野は壇上から降り、運ばれてきた箱にかぶせられた布を思い切り引っ張り除けた。

「そして、この街を襲う災厄そのものなのです!」

 ───一瞬の静寂。
 ───そして、議会場を埋め尽くすどよめきの嵐。

 そこに入っていたのは、誰の目にも明らかな死体であった。皮膚は腐り爛れて変色し、全身の至る箇所からは肉が削げ落ち、窪んだ眼窩は眼球が存在せず、このようなものが生きていられるはずもない。
 腕を後ろ手に縛られ猿轡を噛まされ、それでも"それ"は抵抗をやめることなく蠢き続けている。凄惨な死体ではあったが、同時にそれは正体不可解な物体であった。果たして人であるのかさえ。

「選挙権保持者の確認───通称浮浪者狩りとも言われていましたか。ともかく、その対処に追われていた職員たちが偶然発見したのがこの"屍食鬼"です。
 "これ"は噂にある通りに人を襲い、あろうことか罪なき人々を殺傷しました。お分かりでしょう皆さん、今この街に蔓延る怪事件の一端を!」

 平素であれば、あるいはよくできた作り物と弾劾する者もいただろう。精巧なメイクであると一笑に付す者も少なからずいただろう。
 しかし今この瞬間、この光景を見ている者でそんなものを想像する人間は一人も存在しなかった。そうなるように浅野が思考を誘導したのだ。
 このゾンビは本物である。噂される怪事件は本物である。街に迫る危機は本物である。
 非日常に興奮し、浮かれた思考は冷静さを失わせ、ただ言われるがままを頭に叩き込まれる。
 なまじショッキングな現物を見せられた以上は言葉の全てを無視することができず、故に鈍麻した脳は安楽な道を求め、こう結論を出すのだ。
 ───浅野學峯の言っていることは正しい。だから何も考えず従ってしまおう、と。

「このようなものを見せて何がしたいのだと、そう仰る方もいるでしょう。
 そんなものは警察なりに任せていればいいと、そう憤慨する方もいるでしょう。
 しかし私は敢えて言いたい! このまま坐して眺めるだけで何が人間であるのかと!」

 浅野の口調に熱がこもり始める。淡々と事実のみを口述してきた舌が、今度は人々を駆り立てるための昂揚を紡ぎ始める。

「私の話をしましょう。私はこの鎌倉において教職を勤め上げ、皆さまの支持あって市民の生活と安全を守る立場に就きました。そして全国を、国際社会を知る者としてこの街の隅々を眺め、その素晴らしさに驚嘆の念を抱きました!
 この街に住む人々は皆誇り高い! 格式と伝統を重んじ、人々の和を尊び、街には日夜多くの笑顔が溢れている!
 日本有数の観光地として活気を見せながら、古きものの価値を認め新しきをも受け入れ、実り豊かな自然を拝するこの街には暖かな情と秩序が保たれている!」

 何とも歯の浮くような綺麗事だ。鎌倉が観光地として有名なのは事実だが、言ってしまえばそれまで。住まう人間の民度などそこらの地方都市と何も変わらないし、何か特筆して優れたものを持ち合わせているなど浅野とて思ってはいない。
 だが、住まう人間は凡俗だとしても、この地そのものへの誇りというものは確かに存在している。古都鎌倉、その史料的価値は誰もが知るところであるし、自分たちはそれを守ってきたのだという自負もまた彼らにはある。
 例え口には出さず日頃無関心を貫こうとも、人は自分の所属する集団を賞賛されれば自然と昂揚する。全体への賛美を個人のものとすり替えて勝手に自分のことであると錯覚してくれる。
 そして熱狂は集団の間を駆け巡り、累乗倍となって全体を支配する。一人ならば落ち着ける程度の盛り上がりも、一つ箇所に集まればあとは止めることのない雪崩が如しだ。

「しかし今、この街は脅かされています! 経済や政治の危機といった目に見えないものではない、屍食鬼という確固たる外敵によって! そして数多存在する無数の都市伝説によって!
 今我々は警察消防と手を組み必死に事態の解決を担っています。しかし我々だけでは手が足りない! この未曾有の脅威を前に一部の人間だけが奮起するのみでは全く手が追いつかないのです!」

 語気は荒く、しかし早口でまくしたてることはしない。十分に時間を取り、自らの放った言葉を理解させるだけの猶予を与える。人々が向けるべき敵意の矛先をイメージできるよう仕向けるのだ。
 政治経済といった目に見えない大局的な代物で動ける人間はそういない。目先の利益につられる人の性もそうだが、自分がどう動いた結果どういう影響が出てどう反映されるのかという具体的なイメージが掴めないのだ。
 しかし浅野が言う敵は違う。鎌倉を襲う怪異には確かな姿があり、それに対する行動目的も明瞭だ。自分たち人間とは明確に区別される人外であり、物理的な排除という子供でも分かる対処法が存在している。

「皆さまに戦えと、私は言いません。しかし自分たちが何に追われ、何によって危険にさらされているのかを知っていただきたい!
 今こうして皆さまが住む家を追われ避難民としての立場を余儀なくされているのは天災や事故などではない、形ある外敵の仕業であるのだと理解してほしい!
 そして皆さまには自分にできることをやってほしい! 自衛の手段を確保し、避難の経路を覚え、一体となって速やかに行動する。それだけで我々の活動にとっての大いなる助けとなるでしょう!
 重ねて申し上げます───この危機において、皆さまの協力こそが不可欠なのです!」

 屍食鬼の存在を受けて当初、困惑と警戒の色に染まっていた聴衆の声。それは今や、抑えきれぬ熱狂の色へと塗り替わりつつあった。不安というマイナスからスタートした演説は、昂揚というプラスに置き換わりより大きな揺れ幅を聴衆たちに叩きつける。
 語る浅野の口調は本気そのものだ。拳は強く握られ、強い眼差しが人々を見下ろす。
 本気にならなければ人はついてこない。本気で自分の言葉を信じ込まねば、誰かに信じてもらうこともできない。

「対抗策はあるのか、そう問われる方もいるでしょう。
 ご安心ください! 我々には確かな対処法が、この事態を解決する術が存在します!」

 そして、ここからがキモだった。
 熱狂し視野が狭まった聴衆たちは"それ"を拒むことができない。普通ならおかしいと感じられる違和感を、誰もが察知することができない。
 つまり。

「体の何処かに赤く発光する痣を持つ人間、それこそが屍食鬼を無尽蔵に増やすウィルスキャリアであるのです!」

 それこそが、浅野の真意をねじ込ませる最大の隙間であるのだ。





   ▼  ▼  ▼





「暴動モンだなこりゃ」

 怒号とざわめきと激しい靴音が絶え間なく響く階下を見下ろし、窓のバインダーから手を離してドフラミンゴが言い放った。
 その口調は誰の目にも明らかな嘲笑で彩られている。熱に浮かされ奔走する民衆を文字通りに見下して、その全てを徒労であると鼻で笑っている。

「珀鉛病の名目で滅ぼされたフレバンス王国もかくやって勢いだな。あァ、こっちの世界風に言えば魔女狩りか?
 どいつもこいつも目の色変えて赤痣持ってる奴を狩りだそうとしてやがる。どこまでも馬鹿な連中だ、哀れで仕方ねェよ」
「あまり彼らの悪口を言ってやるのはやめてあげたまえよ。そうなるよう仕向けたのは私だ。まあ」

 二人は共に、その口許に嘲りを浮かべて。

「それもこれも、全ては彼らが『弱い』から、なのだがね」
「『弱者』は強者の餌となる。フフフ、言うまでもねェ当たり前の話でしかねェなァ!」

 浅野の『教育』は今度も滞りなく最良の効果を発揮した。
 教師の説明を聞き実践する生徒のように、彼の演説を聞いた聴衆たちは皆一様に"殺意"を刷り込まれ、そのように行動を開始した。
 赤い痣、令呪を身に宿す者を探しだし、その都度殺すようにと。

 暴徒と化した民衆は正義の名の下に殺戮を繰り広げるだろう。
 その際、些細な行き違いや勘違いによって無為に命を落とす者も出るだろう。
 殺意の教育が薄れた時に、人々は自らが行った所業を激しく後悔するだろう。
 その過程で更に多くの人間が命を絶ち、全ての咎を向ける相手を求め、その矛先は浅野へと向かうだろう。

 そんなもの、浅野はこれっぽっちも知ったことではないが。

「民衆の暴動は良い隠れ蓑になる。そして炙り出しとしても非常に有用だ。
 つまるところ、"これ"に呑まれぬ者を見つければそれでいい。異常が大半を占めれば正常こそが異常となる、そして大勢からはじき出された異常を探し出すのは容易い」
「呑まれちまうマスターは放っておいても自滅する。強引な手だが悪くはねェな。今回ばかりは事後処理の心配をする必要がねェってあたりが特に、な」

 この聖杯戦争は数日以内に終結する。勝ち上がり聖杯を手にしたならばもうこんな世界に用はなく、浅野は自分の元いた場所へと帰還するのみ。
 飛ぶ鳥跡を濁さず、などという殊勝な考えを浅野は持たない。たかが一人の人間如きに翻弄される弱者の群れ、そしてそれらの後始末など一考の価値すら存在しないのだ。

「私が求めるのは『強者』だよ。見つけ出した彼らを誘導し、相模湾に停泊する軍艦のサーヴァントに仕向ける。
 たった一日でこれほどまでに街を破壊し尽くす体力の余りっぷりなのだ、無駄にさせることなく余さず潰し合いに注いでもらうとしよう」

 理想としては相討ちの形に終わることだが、どちらかが生き残ったとしても相当の消耗を負わされるのは想像に難くない。
 幸いドフラミンゴは単独戦力としても中々の力量を持つサーヴァントだ。尋常なる決闘ならまだしも、手負いのサーヴァントを相手に負ける道理などない。そして不測の事態に陥ったとしても、こちらには虎の子の令呪が四画も温存されている。

 立場と情報収集能力において浅野を上回る陣営など他にはいまい。そして聖杯戦争における自分たちの立ち位置を知る者は浅野とドフラミンゴ以外誰もおらず、こちらが一方的に他陣営の情報を掴んでいる状態にある。
 状況は完全に自陣有利。バーサーカーが残した破壊工作と相まって戦略的にこちらを侵せる陣営などありはしないのだ。

「さて、あとは釣り出されるのを待つのみだが……ライダー、万が一に備えた防護策は万全かね?」
「勿論だぜマスター。このチンケな市役所も、おれの手にかかりゃァそこらの要塞すら目じゃねェ代物に早変わりだ」

 サングラスの奥の瞳を細め、ドフラミンゴは応える。そこにあるのは強者の余裕か。

「建物丸ごと一つ使った完璧な布陣だ。
 敷地内には蜘蛛の巣がきによる防御反応結界30層。全域に寄生糸による身体強化済みの職員138人を配置、その全員に『覚醒』強化済みの銃火器を装備させ、壁や廊下には接触感知式のトラップを無数に施してある。魔力に余裕があったから影騎糸による分身も総勢20体は各所に配置済みだ。
 馬鹿正直に乗り込んできやがったら例え三騎士だろうと仕留められる自負があるぜ。まあそこまで到達できる奴はどれほどいるんだって話なんだがなァ!」

 哄笑するドフラミンゴの言は、決して慢心でも誇張でもない。
 触れれば攻撃が射出される蜘蛛の巣の多重層、防御結界故に力づくの破壊が困難なそれらを仮に乗り越えた先に待つのは、弾糸が空間を埋め尽くす弾幕の嵐。そこから更に逃げ切ったとてただ歩くだけで致死の罠が絶えず襲い掛かる異界にも等しい建物内部を潜り抜ける必要があり、最奥で待つのは無傷のドフラミンゴなのだ。
 例えアサシンに潜入されたとて、二人が動くまでもなく早期の討伐ないし発見が可能であるだろう。

「まァあんたのおかげでやりやすくはあったぜマスター。乱の奴じゃこうはいかねェ、元村組のアホ共でもだ。こうして手を組めたのはラッキー……いや、運命だったのかもしれねェな!」
「そういう意味では我々を巡り合わせたランサーには感謝しなくてはならないな。そして、愚鈍な君の元マスターにも、ね」
「違えねェ!」

 二人に翻弄されて散っていったランサーと少年を想起し、ドフラミンゴは愉悦の笑みをこぼす。

 ランサー。最初から最後までどこまでも愚かだった小娘。結局掌で踊る駒から脱することなく無様に死んでいった。
 乱藤四郎。自分は何をするでもなく戦争の趨勢をドフラミンゴに任せたきりの無能なマスター。だから最後には捨てられ、負け惜しみの絶叫を上げることしかできず死んでいった。
 どいつもこいつも自分が勝てると思いあがって、糞ほどの価値もない人間(ゴミ)と道具(カス)の分際ででかい口を叩いていやがったが。

「あァ、あいつらの死に様は傑作だったなァ。最期まで虫みてェに吠えてよ。
 だが吠えたところで現実は変わらねェ。運命も覆らねェ……!
 全てはおれたちの掌の上、良いように転がされてンのが人間(ゴミ)には相応しい。
 この戦争の始まりから終わりまで、そして未来永劫に!
 神たるおれには完勝が約束されてンだ、それすら分からねェ馬鹿共の吠え面ほど笑えるモンはねェよ!」

 弱者を踏み躙るのは強者の特権である。足元に集る蟻を潰そうが咎められる謂れはなく、また咬みつく窮鼠を捻り潰す快感は何とも言い難い。
 それが許されるのは天下にただ一つ、神たる天竜人であり、つまりこの世界においてはドフラミンゴ一人を除いて他にはいない。
 今この瞬間、ドフラミンゴは確かに世界の覇者なのだ。彼が覇を唱えるべきは偉大なる航路をおいて他にないが、それでも愉快な気分であることは間違いない。

「さァ永遠に踊れや間抜け共。最後の最期でおれたちに搾取されるためによォ……!」

 階下で蠢く民衆たちにも負けぬほどに、ドフラミンゴの熱狂は最高潮に達して。
























「───活動(アッシャー)























 ───夜闇を切り裂く轟音と閃光が、灼熱の太陽であるかのように轟いた。

 鎌倉市役所、浅野たちの仮初の城が燃え落ちる。
 周辺地形ごと市役所を呑みこんだ業火は、次の瞬間には空へ立ち昇る巨大な火柱となって街並みを照らした。
 悲鳴も怒号もなかった。辺りはただ、コンクリートの焼け付く蒸発音が響くばかりで。それはあたかも不浄の温床が炎で清められているかのような印象を見る者に与えた。





   ▼  ▼  ▼





「やった……?」
「いや、手応えがない。曲がりなりにもここまで生き残ったサーヴァント、この程度で死ぬような輩ではないということだろうよ」

 紅蓮に燃え落ちる市役所跡を見下ろして、二人の人影が言葉を交わす。
 一人は少年。少女と見紛うばかりの外見をした、失った右手の跡が痛々しい、短刀持つ和装の子供。
 一人は女。ナチスドイツの鉤十字をあしらった軍服を身に纏う、炎が映える赤髪の女。偉丈夫と言ってもそのまま通じてしまうのではないかと思うほど鍛え上げられたその体は鋼の如し。

ドンキホーテ・ドフラミンゴ。糸使いの異能を持つ海賊のカリスマ、だったか。なるほど分かりやすい。
 事前情報が無ければ話は別だがね、こうも厳重に糸を張り巡らせたとなれば自分はここにいると喧伝してるに等しい。
 ……そら、巣を追われた蜘蛛が逃げ出してきたぞ」

 エレオノーレが指し示す視線の先、燃え盛る火の海から黒い影が飛び出してきた。別の誰かの首根っこを掴み、全力で駆けている。その顔は見覚えのあるもので、しかし優美さの欠片もない焼け爛れた装いと必死の形相は初めて見るものだったから。

「ライダー……」
「……乱か。ああなるほどなァ、テメエまだ見苦しく生き足掻いていやがったか」

 見下ろす少年と睨め上げる天夜叉の視線がかち合う。不遜な態度はそのままに、しかしドフラミンゴの語り口には隠し切れない怒りの感情があった。

「復讐でもしてやろうとここまで来たのか乱。チンケなサーヴァントをこしらえて、一丁前におれに挑みに来たのかクソガキィ!
 てめェみてェなガキが、一瞬でもおれに勝てると思い上がりやがったか! 世界一気高い一族"天竜人"たるこのおれに、てめェ如き三下が!」

 全身は黒煤と熱傷に覆われ、豪奢な服は見る影もなく焼け落ちて、それでもドフラミンゴの瞳から闘志が消えることはない。
 あるのは膨れ上がった自尊、放つは自らに逆らった者への殺意一色。彼は掴んだ浅野を放り捨て、勢いよく地面に掌をつく。

「おれの一番キライなことを教えてやるよ。見下されることだ……!」

 ドフラミンゴの掌を中心に、周囲がにわかに震えだす。
 固体であるはずの地面がまるで波打つ水面であるかのように。

「おれに使われる程度のクソガキが、調子に乗ってんじゃねえええええええええええええッ!!」

 喝破と同時、周囲30mの地面全てが突如として"白い糸束"となり、白亜の高波となって藤四郎らに殺到した。
 海原白波(エバーホワイト)。己の肉体のみならず接触した無機物に至るまで糸として操作する覚醒段階の能力。
 視界を埋め尽くし迫る糸の波を前に、それでも藤四郎は表情を変えることなく。

「うるさいよ」

 ───爆轟と、散らされる赤と白。
 藤四郎たちを避けるように白亜の大津波に巨大な穴が空き、糸の燃えカスがばら撒かれる。
 後ろから進み出るように、一歩、赤騎士は足を踏み込んで。

「下らん話は終わったか」
「うん、もういいよ」

 二人の背後に、巨大な魔法陣が現出し。
 そこから膨大な熱量が顔を見せ。
 二人は───

「ならば死ね」

 ───二人は、共に見下ろして。



『C-3/鎌倉市役所跡地/一日目・夜』

乱藤四郎@刀剣乱舞】
[令呪]0画
[状態]右腕欠損、大量失血、疲労(大)、精神疲労(大)、思考速度低下、令呪全喪失、右腕断面を焼灼止血
[装備]短刀『乱藤四郎』@刀剣乱舞
[道具]なし
[所持金]燃えた
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の力で、いち兄を蘇らせる
0:鎌倉市役所はよく燃えますねぇ!
1:……僕は、戦う。
2:ライダー(ドンキホーテ・ドフラミンゴ)を殺す。
3:ランサー(結城友奈)の姿に思うところはある。しかし仮に出会ったならばもう容赦はしない。
[備考]
ライダー(ドンキホーテ・ドフラミンゴ)との主従契約を破棄されました。
現在はアーチャー(エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ)と契約しています。


【アーチャー(エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ)@Dies irae】
[状態]魔力消費(中)、令呪『真実を暴き立てよ』
[装備]軍式サーベル
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:終わりにする。
0:――それが真実か。
1:黒円卓の誉れ高き騎士として、この聖杯戦争に亀裂を刻み込む。
2:戦うに値しない弱者を淘汰する。
3:セイバー(アーサー・ペンドラゴン)とアーチャー(ストラウス)は次に会った時、殺す
[備考]
ライダー(アストルフォ)、ランサー(No.101 S・H・Ark Knight)、アーチャー(ローズレッド・ストラウス)と交戦しました。
No.101 S・H・Ark Knightローズレッド・ストラウスの真名を把握しました。
バーサーカー(玖渚友)から『聖杯戦争の真実』について聞きました。真偽の程は後の話に準拠します。
乱藤四郎と契約しました。




浅野學峯@暗殺教室】
[令呪]4画
[状態]魔力消費(極大)、疲労(極大)、全身の至る箇所に重~中度の火傷、意識朦朧、執念
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]燃えた
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する。
0:……
1:私は勝利する。
2:辰宮百合香への接触は一時保留。
3:引き続き市長としての権限を使いマスターを追い詰める。
4:ランサー(結城友奈)への疑問。
5:『幸福』への激しい憤り。
[備考]
※傾城反魂香に嵌っています。百合香を聖杯戦争のマスターであり競争相手と認識していますが彼女を害する行動には出られません。
ランサー(結城友奈)及び佐倉慈の詳細な情報を取得。ただし真名は含まない。
ライダー(ドンキホーテ・ドフラミンゴ)と主従契約を結びました。


【ライダー(ドンキホーテ・ドフラミンゴ)@ONE PIECE】
[状態]全身火傷
[装備]燃えてボロボロの服
[道具]
[所持金]燃えた
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を獲得する。
0:ガキ共が調子に乗ってんじゃねええええええええええええ!!!
1:ランサーと屍食鬼を利用して聖杯戦争を有利に進める。が、ランサーはもう用済みだ。
2:軍艦のライダーに強い危惧。
[備考]
浅野學峯とコネクションを持ちました。
元村組地下で屍食鬼を使った実験をしています。
鎌倉市内に複数の影騎糸を放っています。
如月&ランサー(アークナイト)、及びアサシン(スカルマン)の情報を取得しています。
乱藤四郎は死んだと思っています。

※影騎糸(ブラックナイト)について
ライダー(ドンキホーテ・ドフラミンゴ)の宝具『傀儡悪魔の苦瓜(イトイトの実)』によって生み出された分身です。
ドフラミンゴと同一の外見・人格を有しサーヴァントとして認識されますが、個々の持つ能力はオリジナルと比べて劣化しています。
本体とパスが繋がっているため、本体分身間ではほぼ無制限に念話が可能。生成にかかる魔力消費もそれほど多くないため量産も可能。

※市役所員は全員燃えました。
※避難民も燃えました。
※屍食鬼も全滅しました。
※影騎糸の分身も市役所に待機していた分は全滅しました。
※鎌倉市役所が全壊しました。
※用意されていた罠等も全て破壊されました。
※中の資料等も燃えました。
最終更新:2019年06月14日 10:53