これはリーネの師匠である先代スーパートランプがまだ生きていた頃のお話―――。
リーネの父親は怪盗スーパートランプ(以下、ST)というパリス同盟を中心にその名を馳せた有名な盗賊であった。
彼は不当な手口で金儲けを行った者たちの家から金品を盗み取っては、貧しい人々の元に盗んだ金品をバラ撒いていた。
また、彼は伝統ある怪盗STとして、こそこそと忍び込むような真似は決してせず、盗みを行う際には予告状を送り付け、その場に堂々と姿を現した上で、その華麗な手腕により金品を盗み取って行った。
リーネはそんな父親の背中をずっと見て育ってきたためか、少々男勝りなところはあったが、仲間想いで義理堅く、人情味溢れる人物に育っていった。
リーネが15歳になった頃のことである。
STは以前より永いこと病を患っており、よもや先が永くないと噂されていた。
そんなある日のこと、STはリーネに対し衝撃の事実を口にする。
それは、リーネがSTの実の子供ではなく、まだ赤ん坊であった頃にアジトの前に置き去りにされていたのだという話であった。
彼は、弱々しい赤ん坊であったリーネが、必死に生き残ろうとその場で泣き叫ぶ姿を見て、自分の娘として育てていくことを決めたという。
自分にはちょうど後継ぎとなる子供もおらず、自分になにかあった時のために、この盗賊団を率いていく後継ぎとしてリーネをずっと育ててきた。
そんな話をSTはリーネに語って聞かせた後、引き出しの奥の方からある物を取り出した。
それは立派なアレクサンドライトの首飾りであった。
この首飾りはリーネが拾われた時、その身に付けていたものだという。
以前、彼はこの首飾りからリーネを捨てた人間を特定できないものかと、気心の知れた鑑定屋にこれを持って行ったところ、この宝石にはなんらかの強力な力が働いており、詳細なことを調べることができなかったらしい。
そんな得体のしれない物を持っているのは危険だと鑑定屋には言われたが、この首飾りはリーネの本当の親を知る唯一の手がかり。
捨てることもできずに、こうして今まで自分が預かっていたのだと語った。
そして、自分はもう永くないからと言い、リーネにその首飾りを手渡す。
これまで、この宝石と同じ不思議な力を秘めた宝石が他にもあるのではないかと様々なところで盗みをしてきたが、自分はとうとう手がかりを見つけることができなかった。
だから、これからはお前自身の手で、この宝石のことを探り、お前の本当の親を見付けるのだ。
彼はリーネにそう言った。
それから数日後、STは静かに息を引き取った。
盗賊団では、リーネがSTの実の娘ではないとして、新しい頭(かしら)を決める際、多少いざこざが起こったが、リーネは義父によって鍛え抜かれたその圧倒的な実力で反対派の粛清を行った。
こうして、怪盗ハイパートランプは誕生したのである。
それからのリーネは義父に倣い、不当な手口で金儲けをする者たちの家に颯爽と現れては、自身の持つアレクサンドライトと同じ、不思議な力を持った宝石はないものかと探し回った。
しかし、手に入れた宝石は外ればかりであり、それを義父のように貧しい人々の元にバラ撒いているうち、いつしか怪盗ハイパートランプの名もパリス同盟中に知れ渡るほどとなっていた。
そうして今日も、リーネは仲間たちと共に、元気に盗みを行っている―――。
最終更新:2016年11月06日 21:28