ロイの過去

記憶の欠片~ロイの場合~

それは7年前、ロイがライン王国騎士団の部隊長に任命されたばかりの頃のお話―――。
ライン王国の新王として就任したばかりのエレウォンドには、アスケンブラ小国にフレイアという許嫁がいた。
フレイアはアスケンブラ小国の第一王女であり、表向き公表されてこそいなかったが、彼女は七大神の巫女の一人でもあった。
小国の王女ではあるが、巫女として強い力を持ったフレイアを王国側は放置するわけにもいかず、フレイアをエレウォンドの許嫁の地位に置いていた。
そして当時のライン王国には、新王の存在を疎ましく感じている者も少なくなく、エレウォンドは許嫁であるフレイアの身を案じて、ある時、ロイの部隊を彼女の護衛として派遣する。

ロイがフレイアの護衛の任に就いてから1年の月日が流れた頃―――。
ロイとフレイアは密かに恋仲に発展していた。
巫女という立場に縛られながらも、フレイアは誰に対しても優しさをみせ、それでいて周囲の圧力に屈することのない芯の強さに、ロイは強く心惹かれていた。
しかし、彼女との身分の差は明らかであり、また主君の許嫁であるという事実も、ロイには重くのしかかっていた。

そんな時、ある事件が起きた。
新王に対抗する過激派勢力が、アスケンブラ小国内で大規模なテロを起こしたのである。
テロ行為によってアスケンブラの街が破壊されていく中、フレイアは自国の民たちを守ろうとし、致命傷を負ってしまう。
それから程なくして、ライン王国騎士団の大部隊も王国より到着。
その部隊の中にはエレウォンドの姿もあった。
ロイがフレイアの最期の姿を涙ながらに看取る中、エレウォンドはただ二人のことを見守り、自らはテロ行為の鎮圧に奔走していた。

テロ行為が騎士団によって鎮圧された数日後、フレイアの葬儀が執り行われた。
そこにはロイはもちろん、エレウォンドの姿もあった。
ロイはフレイアの死後、この日を迎えるまでに、ある決意をしていた。
それは、エレウォンドに真実を話し、自らにその不義の制裁を下してもらおうというものであった。
ロイは、その結果、命を落とすことになろうとも構わないとさえ考えていた。
しかし、その結末はロイの予想とは遥かに異なるものとなる。
エレウォンドはロイに対し、制裁を加えることはおろか、ロイのことを責めることすらしなかったのである。
また、それだけではなく、エレウォンドはロイとフレイアの関係に事件前から気付いていたという。
「立場上、お前たちのことを祝ってやることはできなかったが、せめて来るべき時が来るまでは、お前たちを引き離すことはせず、見守っていようと考えていたが…まさかこんなことになるとは…」
エレウォンドはそう語った。
その言葉を聞いたロイは、地に膝を着け、再度涙を流す。
そしてエレウォンドもまた、その場に腰を下ろし、ただただロイの涙する姿を見守っていた。

その事件をきっかけに、ロイはあることを強く心に誓う。
それは、自らが護るべき主君を、今度こそこの命に代えても、必ず護ってみせるというものであった。
それからのロイはひたすらに研鑽を積み、王国騎士団としての任務も忠実にこなしていった。
そうしてロイは、いつしかエレウォンドの懐刀として噂されるほどの存在になっていたのである―――。

【補足】
  • アーケンラーヴの巫女であるフレイアの守護者は、前作『クルシスの冒険』のラスボスであり、彼がある任務でフレイアの元を離れている間の護衛として、ロイは派遣された。
  • 自らが守るべき巫女を失い、深い絶望を味わった彼は、彼女の面影を追い求めるようにして、数年後、フレイアの妹であるアスケンブラ小国第二王女の誘拐を実行する。
 これが後の『クルシスの冒険』の発端となる。
最終更新:2016年11月06日 21:29