E115SS:あたらしい都市の話

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あたらしい都市の話


 暗い部屋の中で、北国人独特の白い髪を揺らして一人の女が微笑んでいた。
 隣国、越前藩国より取り寄せた難民のデータである。ざっと手にした紙をテーブルに広げて見せる。
「難民の中の技術者をピックアップしてもらった。」
 医者、I=Dの技術者、その他面白いものには宝探し屋の項目まで用意していた。
「この国も人口がずいぶん減ったらしくてな。優秀な人材は引く手数多のようだ」
 手にしていた発泡性のリンゴ酒を口に含む。甘くわずかに苦い味をゆっくりと味わった。
 それから記述していた紙にもう1つ文を付け加える。

   ―有能なものは、人種の関係なくとりたてること―

 新領民だけでなく、旧領民にもチャンスを与えるようにとの但し書きも加える。
人が減ったため新たに人材を募集し、自分の力を試したり教育を受ける機会を与えると書いた。
この新規雇用に関しては矢上の政策を待つこととなる。

王は久しぶりに仕事をする、という顔で今知り得た共和国のデータを犬士に示す。
「共和国の情報はほとんど規制せずに流せ。それを見て帰りたいというものは
引き留めずにいかせてやるといい。」
 隣国からの情報は、新しい国民たちにしっかりと伝えられる手筈を整えた。
この国に情報規制というものはほぼない。その気になれば知りたいものを知ることができる。
ただひとつあるとすれば、缶から出た王の姿は、国民の目に触れることはめったにないぐらいだ。

「もう1つ、ワクテカ<<地下>>を開放する」

 静かに告げた言葉に、近くに控えていた犬士の一人が眉をひそめた。

「あれは…」

「あの遺跡は機密ではないよ。セベルナヤ。
 あの遺跡は、藩国上部につながる通路と、地下への入口を隠ぺいする目的があったが、
 今となってはそれはどうでもいいことだ。
 私は、あの上の世界に興味はないし、地下にはもっと興味がない。
 中にはそれなりに旧世代のトラップと、わずかながら過去の技術が眠っていると聞く。
 この際だ、この「宝探し屋」たちに探してもらおう。この国に眠る、真実を」

 地下遺跡にある謎は、軍の何人かが毎年挑戦し最後まで解くことのできない迷宮として国に存在していた。
「それに面白いじゃないか。いまも新しい区画が見つかる遺跡だよ。私が記録を見た段階では
 新区画なんて発見できなかった。あの遺跡には、まだまだ調べるべきところがある。
 周囲に町を作ってもいい。許可しよう。新都市の名前は「青嵐(セイラン)」だ」

 にこやかに唇に笑みを刷いて王はグラスを再度傾けた。

 ファンブルに続く新都市建設のはじまりであった。
 最初は、宝探し屋が軍とともに派遣され、それからその宝探し屋に物資を売り、さらに彼らが見つけたアイテムを買う商人が現れた。
もっとも軍のみている前なので、そうそう悪いことはできなかったが。
それでも他の都市とは毛色の違う迷宮都市が新たに完成することになる。


(SS:あさぎ)


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