初タッチまで何マイル?1

最終更新:

d_va

- view
管理者のみ編集可
空から光が零れ落ちてくる。
密林の中はまだ明るい。日の暮れないうちに今日のメニューをこなしてしまおうと
アキリーズは体を動かしていた。
両方の足に体重を平均してかけ、右へ、左へとすばやい動きが取れるようにする。
すぐに汗が噴出した。すごい運動のように見えないが、自分の体を1つの機構の
ように捕らえ、行動を逐次プログラムして動かしていく作業は骨が折れるが、
さらに精神を集中させて仮想敵をイメージする。

銃撃は無効化された、では近寄ってそこから銃を奪う最短距離は
銃が阻害されるのであれば、ナイフなども止められるだろう。
訓練を繰り返し、敵の動きをシミュレートしていく。
勝てないといわれて悔しかった。
それ以前に、腕の問題ではなかったということが余計癪に障った。
評価では拮抗していたように思うが、なぜか攻撃が打ち消された。
あれだけ正確に狙っていたのであれば、自分の銃を暴発させるのも
簡単だったろうに、それをしなかったことが、余計腹が立つ。
気分が一瞬乱れ、型が崩れた。アキリーズは舌打ちをして姿勢を正す。

そのときふいに、物音がした。密林には危険な生物もいる。
とっさに身構えて銃を手にする。
気を緩めずに、物音のした方角に照準を合わせて愕然とした。

物音の主はとても見慣れたものだったからだ。
イロイロ物好きなヤガミと一緒にいたり、
ひねくれたガキと一緒にいたりしたヤツだと
気がつくのにそう時間はかからなかった。
構えていた銃をおろす。見慣れた銀の髪はあいかわらずきずかずに
こちらに近づいてきているようだ。
無防備といえばいいのか、危機感がないと怒ればいいのか。
俺が敵だったら死んでるぞと、思った。

そういえば塹壕で敵国にありそうな名前を呼んで顔を出したヤツを狙撃するという
話があったが、真っ先にそれにひっかかりそうなヤツではある。
鍛えるっていったしなぁ、と、銃をしまいこんで、やってきた影に近づいた。

「どうした?」

声をかけるとびっくりしたように顔を上げる。
どうもひとつのことに集中すると周囲が見えなくなるタチらしい。
「こんにちわ。訓練中にすみません。」
ひょっこり顔を出した青年をアキリーズはじっと見つめてみた。
初めて会ったときは、コレで気絶したっけなぁと、思うとなかなかに感慨深い。
最近は気絶はしなくなったものの、挙動不審になりだした。
「ええと・・・・」
 わたわたと言葉にならないような空気が漏れる。必死なようすに、
また以前のように倒れるのかな、とアキは様子を伺うが
どうやら踏みとどまったようだ。
「この前の時、アイスで・・・・・倒れられてたんで、心配というか・・・・その・・・・」
 前回目の前で行われる人外魔境というか、デートなのか疑問に思う会話が繰り広げられたのと、
謎のアイス「マッチャ」を食べたせいで倒れたことをずいぶん心配されているようだった。
 毎回あやしい食品を食べさせられている気がする。
 最初は確か、コーヒーという名の甘ったるい液体(カルアコーヒー)を無理やり飲まされている。
食品関係では意外にひどい目にあっているのかもしれない。
それでも「悪いな」とバツの悪そうな顔をしてしまうのは、生来の人の良さからだろう。少し微笑むと
龍樹が、ごそごそとかばんをあさりだした。
「いいえ・・・・それで、お見舞いというのか・・・どう言っていいのか、分からないですけど」
静かに差し出されたのは日本酒である。
見た目は一升瓶であるが、アキリーズは中身が何かよくわかっていない。
ただ、まともに会話するのも必死だった青年(中身は女の子なのはわかっているが一応青年だ)が
プレゼントを持ってくるまでに成長したのか、と思うと感慨深い。
「さんきゅ。これ、そのままのめるの?」
「あ、お猪口もあるので、ちょっと待ってください。」
 ごそごそと、かばんの中から小さな器がでてくる。ちょうど一口サイズの器だ。
実は何でも出てくる魔法の鞄のように見えた。そのうちハトかハムスターが飛び出てくるかもしれない。
「これどうやるの?」
「えーと、これに入れて飲む。っていうか、父がこれに入れて飲んでいるのを見たというか…」
 アキはいわれたとおりに、瓶からお猪口に注いで飲んでみる。大きな瓶からお猪口に入れるのは少々苦労した。
「コップのほうが、便利じゃねえの?」
 注ぎにくいし、量が少なくないか、と首をかしげる。飲み口は悪くなかった、水のようだが味があるし
すっきりして飲みやすい。なんといっていいのかわからなんが今まで飲んだことのない飲み物だ。
「ええと・・・・・そーなんですか?日本酒って初めて買ったので・・・・すみません。」
 相手もどうやら、コレの正式な飲み方は知らないらしい。
「いや、いいけど」
 もらったものなので一気に飲もうとラッパ飲みする。
「水みたいだなこれ」
 訓練で疲れた体にはちょうどよかった。訓練で汗をかいたぶんとりもどそうと一気に飲み干す。
「うまいうま」
 気がつくと、ぐらりと視界がゆれる。「ちょ・・・・・あ・・・・・アキさん?!」 遠くで龍樹の悲鳴が聞こえたきがするが
ぐるぐると回る視界のまま倒れた。なんだか脳そのものがぐらんぐらんゆれているように感じる。
「あわわw・・・・・あ・・・アキさん!大丈夫ですか?」
 遠くで龍樹の声が聞こえるが、なんだかひどくだるい。このまま意識を手放したくなってくる。
「み・・・水!」
 龍樹があわててペットボトルの水を鞄から取り出す。続いてタオルも現れる。タオルに水がかけられて
アキの額に乗せられた。冷たい間隔がきもちいい。ゆだった脳が急速に冷えていく。
やっぱり何でも出てくる鞄じゃないか、と
うっすら意識の端で思った。
「これ、酒か?・・・」
 なんとか搾り出すように声をだすと、もう1枚のタオルが枕代わりに差し入れられる。少し息をするのが楽になった。
「ええと、そうですよ。」
 ほわん、と言う声に一気に脱力する。
「・・・・言えよ」
 酒に弱いということはないのだが、疲れた体に一気に飲み干したのがいけなかったらしい。
「あ゛!すみません。渡すのに必死で・・・・・」
 龍樹は必死に謝っているのだが耳元で大声は逆効果だった。よけい脳がぐらんぐらんとしてくる。
アキは眼をさまよわせた。 ああ、なんかこういう状況だが変に気分がいい。
実際は、あとから悪酔いする可能性があるので、このまま埋葬という言葉が脳裏をよぎるがあえて気にしないことにした。
「そういや、はじめてまともに話すな」
 ふ、と息を吐きながら龍樹の顔をみる。
「そーですね。えーと・・・・・(何を話せば)」
 今度は龍樹が目をさまよわせる番だった。
「・・・・なんで今日はまた?」
 いつもつけてるおまけ(あえておまけというが、なんというか親友のヤガミの嫁の缶)がいないし、単独というのも
珍しいと思う。
「あ・・・・・会いたいと思ったからです。」
「なんで?」
 とっさに出てきた。よく考えればというか目の前で殴りあいのケンカをしたり、いやみをいったり
意地悪をしたりしまくった覚えはあるが「会いたい」と思われるようなことをした覚えはない。
 密林で根性を叩きなおすといわれたのも記憶に新しいが・・・しかし龍樹の返答は予想の斜め上を行く。
「なんでと言われましても、それ以外、全く考えなかったので。」
 いやいやいや、と思わずツッコミを入れそうになったが、身動きすると頭が痛い。
「俺にあいたいならなんかあるんじゃねえの?惚れたとか」
 せめて茶化してやろうと、冗談を言ってみる。
「・・・・・・あーそれは・・・・・そーです。」
 顔を真っ赤にして、急に声が小さくなる。
「へえ」
 意外すぎるというよりは、素直にごまかさず話すことに少々感動を覚えつつ、
一番聞きたかったことを聞く。
「酔った勢いできくけど、またなんで」
 あれだけいじめた押していて、惚れたとか言われるとなんだかバツが悪いというより
こうしっくりこない。
「あーそのー…一目惚れです」
 酔ったアキ以上にさらに真っ赤になって、より小さな声でささやくように龍樹が答えた。
意外というよりも妙におかしかった。ヒネていては聞けなかったことばかりだ。
少しばかりヤガミに感謝する。あくまで少しだけ。
「その割に話しかけなかったな?」
 基本的に意地悪を言い過ぎてスルーされていた気がするのだが。
「あーそれはですねぇ・・・・・緊張のし過ぎで・・・・・・・」
 龍樹は、照れ隠しに頭をかきながら言う。顔は赤面したままだ。
「今日は、うまくやってるんじゃん。へへ」
 まともに会話が成立していること事態奇跡だということを理解しつつ、
顔を覗き込む。
「そーみたいですね。」
 若干フリーズしかかっているせいか、どこか他人事のように龍樹が言う。
「ま、おれはお前がどんなやつかわからないけどな」
 お互い知っていることが少なすぎる、と思った。
 何時間か一緒にすごしていても、言葉を交わした数は思ったよりも少ない。
それに…ヤガミいわく"ひねくれていた"自分は第七世界人の言葉を
まともに聞こうともしていなかった。
「えーとー・・・・」
 龍樹が何かを言うと言葉を探している。何か言いたいのだがうまく言葉にできない
ようだった。 その姿が妙に微笑ましく、かわいらしくてアキは思わず微笑んで
その言葉の続きを待つ。
「どんなと言われても、まんま・・・・・なんですが。」
 うまく言葉にできないのか、それとも言いたいことが見つからなかったのか
迷ったように言った。
「次に会う時には、もすこしましなこと言わなきゃな」
 その言葉は、龍樹に言い聞かせているようにも、またアキ自身に
言い聞かせているようにも取れた。