丸焼き職人の朝は早い。
ここヌルポガの森で丸焼きを作り続けるサイクロプスのロクさんの一日は、森での食材探しから始まる。
いい丸焼きを作るにはいい材料が欠かせない。
「一番いいのは人間のメス、それも二十代前半の処女なら最高だね」
今日は運よく最高の食材が手に入った。
早速仕込みに入るロクさん。
まず食材から余分な装飾を取り除く。
この場合も単に全裸にするのではなく、ブラジャーやパンティ、ガーターベルトにストッキングの類は着け
たままにしておくのがコツだという。
続いて代々伝えられてきた秘伝のタレに漬け込む。
食材を性的に興奮させる効果のある薬草が混ぜてあり、食材をこのタレに漬けることによって、肉がほぐれ
て旨みが増すというロクさん自慢の逸品だ。
タレに漬け終わったらいよいよ食材を火にかける。
ここで丸焼きの味の大半が決まるという大事な工程だ。
ロクさんの丸焼き作りはまさに職人芸だ。
普通の丸焼きはどんなに時間がかかっても一時間少々だが、ロクさんの丸焼きは、オークの丸太にハシバミ
草で編んだ縄に縛りつけた食材を囲炉裏で炙ること約半日、じっくりと時間をかけて焼き上げる。
表面はパリパリで中はジューシー、それでいて中の肉汁が逃げてしまわないよう、常に火を当てる向きを変
えながら、全体が均一の焼き具合になるように火を通していく。
まさに匠も技だ。
集中力が途切れると火の通りが不均等になって、微妙な風味が損なわれるのだという。
この手焼きの風味だけは、いくら高性能のものが登場しても機械では出せない
「コツを掴むまでは師匠に散々殴られたよ」
こうしてじっくり時間をかけて作られたロクさんの丸焼きは、はるばるロバ・アル・カリイエから買い求め
にやって来る常連客がいるほどである。
ロクさんの現在の悩みは後継者難だという。
「手間はかかるしそう儲かるもんでもないから、後を継げとも言えんしね」
丸焼き作りに打ちこむロクさんの、日々の支えはなんだろう?
「獲物が浮かべる恐怖に引き攣った顔、これが一番だね」
「あ…熱…い……」
囲炉裏の火が、捕われの女盗賊の瑞々しい肌を、ジリジリと焼いていく。
丸太を抱える恰好で拘束されたマチルダの全身は、止め処なく流れる汗でしとどに濡れ、燃え盛る炎の照り
返しを反射して妖しく輝く。
緑の髪が、薄紅色に上気した頬に張り付いて、艶っぽく喘ぐ口元に彩りを添える。
「ふぁ…ん、く、うぅっ!」
全身に塗りたくられた焼肉のタレは、甘い香りを放つだけではなく、タレに含まれた成分が肌に浸透するに
つれ、腰の奥からとろ火で炙られるような官能の炎が立ち上ってくる。
「あ、うぁああ……っ!」
息を荒げ、艶やかな緑の髪を振り乱したマチルダが、しなやかな肢体を切なげにくねらせ、大きさと秀逸な
形を兼ね備えた二つの胸の膨らみが丸太に押し付けられてグニグニと変形する様は、なんというか温泉街の
ストリップ劇場でステージに立つその道のプロのお姉さんそのものであった。
「ふ、くぅ!あぁッ!」
艶かしい弧を描いた細い背筋に、ゾクゾクするような微弱電流が走る。
成熟した肉体に染み渡る薬効によって、とろ火で肌を焼かれる痛みまでもが快感に変換されていく。
“くやしい…でも……ビクンビクンッ!”なんて展開になろうかというそのとき-
何処からとも無く聞こえてくるオカリナの音色。
いつの間にか空には暗雲が垂れ込め、湿った風が雷雨の接近を告げている。
次第に強さを増す風に乗って流れるメロディはアブドーラ・ザ・ブッチャーの入場曲にも使われたピンク・
フロイドの名曲「吹けよ風、呼べよ嵐」
その音色に如何なる魔術的効果があったものか、オカリナの調べを耳にしたサイクロプスは美女の丸焼きを
中断し、曲に合わせて手拍子を打ち、ステップを踏んで踊り始める。
サイクロプスの岩屋の前でオカリナを吹いていたのは頭に紫のターバンを巻き、ゆったりしたローブを纏っ
た浅黒い顔の男だった。
精悍な口髭を生やし、油断のならない目付きをした濃い悪党面のその男は、操り人形のように踊り続けるサ
イクロプスを先導して崖まで誘導する。
サイクロプスは自分に何が起こったのかも判らないまま、真っ逆様に谷底へと消えた。
男はサイクロプスの転落を見届けると、岩屋へと取って返す。
半ば失神状態のマチルダは、相変わらずあられもない下着姿で丸太に縛り付けられたまま、囲炉裏わきの地
面に放り出されていた。
男はマチルダの戒めを解くと、ぐったりと脱力した女盗賊のひと欠片の贅肉も無い、それでいて適度に脂肪
のついた抱き心地満点の身体を抱え上げ、そっと地面に横たえる。
次に腰に下げた皮袋を外し、袋の口をマチルダの艶かしい桜色の唇に寄せる。
男の手が袋を傾けると、とろりとした白濁液がマチルダの口に注ぎ込まれ、唇から溢れたイカ臭い粘液が、
細い頤を伝わり糸を引いて滴り落ちる。
あまりの喉越しの悪さに激しくむせ返り、怪我の功名で意識を取り戻したマチルダに、男は怪しさ大爆発な
笑顔を浮かべ、大塚周夫の吹き替えで言った。
「もう心配ない」
笑顔も口調も込められた感情も、お世辞にも“心配ない”と言えるものではなかった。
「あんたは…一体……」
何者だ?と言おうとした途端、男の髭面がマチルダの視界から急速に遠ざかる。
「こ…の……」
一服盛られたと知ったマチルダだが、長時間火責めにされ消耗しきった体では何もできず、あっという間に
意識を失ってしまうのであった。
森の奥深くにある岩山の麓のとある洞窟に、男のアジトはあった。
男は遠い昔、偉大な王に仕える大魔法使いだったのだが、王の愛妾を巡って己が主君と諍いを起こし―これ
にまつわる長く悲しい物語が存在する―故国を追われる羽目となった。
もともと人格的には色々問題があるもののメイジとしては有能だった男は、すっかり世を拗ねて性悪になり、
数多のモンスターを恐れて近寄るもののないヌルポガの森に秘密の隠れ家を作り、ときおり周辺の町や村か
ら家畜や人間を攫っては、悪魔の所業としか思われぬ邪悪な魔法実験を続けていたのだった。
作りかけのガーゴイルやガラス瓶に入ったキメラが立ち並ぶSAN値ギガ下がりな空間に、下衆な喜悦が滲む声がする。
「ようし、来い」
玉座に座って頬杖ついた男の前に、しなやかな影が進み出る。
深い谷間を形作る豊かな胸の膨らみと、ほどよくくびれたウエスト、キュッと締まったスポーティな尻、伸
びやかな太腿から細い脛へと流れるように続く優美な曲線。
それは薬で意思を奪われ、ボンデージ風の際どいコスチュームに着替えさせられたマチルダであった。
「ワシの前に跪け」
命じられるまま床に両膝をつき、成年向け雑誌の折り込みピンナップ風に男を誘うポーズを作ったマチルダ
が、曇りガラスのように濁った瞳―所謂レイプ目―で上目使いに男を見上げる。
「く、は…」
男の口の両端が、三日月形に吊り上がった。
「くはははははははははははははははははっ!」
両手を頭上に掲げ、狂った様な哄笑をあげる紫ターバン。
「ついにねんがんのめすどれいをてにいれたぞ!」
「ころしてでもうばいとる!!」
轟音とともに入口の扉がひしゃげた。
外開き式の鉄製の観音扉を内側に押し破って入ってきたのは、重厚な鎧と黒いマントに身を包み、右手に巨
大な戦斧を提げて直立する鰐。
「待たせたな、主役登場だ」
そう、獣王クロコダインであった。
「戦えカーリ!」
男が叫ぶと洞窟内の祭壇に安置されていた六本腕の神像が、コンボイ司令官がトランスフォームするような、
ギガゴゴゴという効果音とともに動き出す。
なんだコイツはという顔で見守るクロコダインと男の間に割り込んだ神像が、六つの手の平をグッと握ると
空っぽの手の中に奇術のように剣が現れる。
「ヤツを殺せ!」
神像は六本の腕をワキワキと動かし、六つの白刃をきらめかせてクロコダインに襲い掛かった。
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最終更新:2010年05月19日 00:51