草原の中に少年少女達が円を描くようにして集っていた。
その中心に立つ桃色の髪の少女が朗々と呪文を詠唱し、それに応じるかのように奇跡の業が顕現する――わけではなく味も素気もない爆発が起こった。
そこまでは周囲の予想通りであったため動揺も何もない。すでに地面には爆発によって散々穿たれた跡がある。
だが、少女は息を呑んだ。今回は立ち上った煙の向こうに影が見える。
(やった……!)
女は召喚の儀式によって使い魔を呼びだそうとしていた。
普段から魔法は失敗ばかり、起こるのは爆発のみ。周りの人間からもバカにされ、「ゼロのルイズ」という有り難くない名前もちょうだいした。
だが、使い魔の召喚に成功すれば――欲を言えば強力なものならば今までの蔑視や嘲笑を叩き返してお釣りがくる。次第に煙が薄れていくのを、目を皿のようにして見つめている。
煙が消えると一人の青年が立っていた。
頭の角や額の中央にある第三の眼が人間ではないことを何よりも雄弁に物語っている。
瞼は閉ざされており、腰までとどこうかという長い白銀の髪が風に揺れた。身に纏う衣は上質なものであり、佇んでいるだけで上に立つ者特有の空気をまき散らしている。
少年達が口を開きかけ、虚しく閉ざした。彼の眼が開かれ周囲を睥睨したためである。
彼の眼には呼び出した少女も取り囲む子供達も映っていないようだった。
他者が存在しないかのように視線が動き、己の両腕に留まる。全身を――世界を照らす光が信じられぬというように。
その顔がゆっくりと空に向き、彼は手を上げた。そのまま天空に輝く日輪を掴み取る仕草をする。
彼を囲む者達は凍りついていた。本来ならば失敗してばかりの少女の成功に何らかの反応を示すところだが、中央に立つ者の姿がそれを許さなかった。
しばらくの間両腕を広げて存分に光を味わっていた彼は、ようやく自分の置かれた状況を確認する気になったのか正面に立つ少女に視線を向けた。
「わ、私はルイズ。……あなたは?」
頭と舌がうまく働かず、そう言うだけで精いっぱいだった。いつもの彼女ならば「アンタ誰」で済ませただろうが、そのような態度を取るのはさすがに躊躇われた。
青年は不敵な笑みを浮かべ、答えた。
「余はバーン。大魔王バーンだ」
最終更新:2008年06月26日 23:39