第一話 ラーハルト、異世界に召喚されるの巻
のどかな日の光が一面に広がる草原を照らしていた。しかし、その空気とは裏腹に、地上に根を張る草花は強風に煽られたかのように天高く舞っていった。
強風、もとい爆風の発生源、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールは自身の魔法を発現する杖を振り下ろした格好のまま、目の前で蠢く人物を凝視していた。
ここは、トリステイン魔法学院。魔法を使う貴族、メイジの教育をその旨とする学校である。
学院では、進学時に生徒の使い魔を召喚する儀式を行う。今日がその日であり、各人、長きに渡り自身に仕える使い魔を召喚していった。
ルイズの召喚はその最後に行われた。もっともこれには理由があるのだが…
ルイズは目の前のものを再び、今度は足の先から頭まで、その形を確認するように視線を走らせる。
ルイズが自分の使い魔が何者か認識するのに数秒かかった。そこにいるものの正体、それは“人間”だった。
肩まで伸びたブロンドの髪、顔たちは整っていて、鋭いという言葉が当てはまる吊り上った目つき。
マントを羽織っているが、杖を所持しているようには見えないので、貴族ではない。服装は大きな布を襷掛けしているような感じだ。
肌が露出した部分から見える、戦いを生業にしているのか、鍛え抜かれた肉体はその者が只者でないことをうかがわせる。
しかし、目の前の男は人間ではない。
それもそのはず、と言えるかもしれない。その男には人間に見られる色が無かった。肌の色が青いのだ。
さらに目元には、くまなのか、頬を伝うように黒いラインが走っている。耳も天に向かって尖っていて、いずれも人間には見られない特徴だ。
ハルケギニアに住む人間は、このような異形の人をこう呼ぶ。亜人、と。
「あ、亜人か、あれ?」
「でも人間に近いな」
「もしかして…エルフ!」
「馬鹿。エルフの耳は横に突き出てるんだよ」
召喚の終わった生徒らが、それぞれ感想を述べる。
皆、亜人の召喚という反応に困る出来事にいつもなら発している言葉が出せないでいる。
一方、召喚された男は、己に降りかかった状況が理解できない人にもれなく、首を回して辺りの風景を見渡している。
抜けるような青空にもかかわらず、そこにいる人々の空気はどんよりとした雲で覆われかけていた。
その空気に飲まれたくなかったのか、はたまた、こうしなければならないと思ったのか、ルイズの口から言葉が漏れた。
「あんた…誰?」
この正体不明の男、かつて世界の命運をかけた戦いでその身を削った戦士の一人。竜の騎士の忠実な部下あり、陸の竜の覇者。
その名はラーハルト。これは、陸戦騎と呼ばれた彼の異世界における冒険の記録である。
最終更新:2008年06月27日 19:45