「最近ロクな仕事がないねえ」
ウエストウッドの森から馬で二日ほどの距離にあるドナイスットシャーの町
町はずれのパブ「略奪された七人の花嫁亭」で土くれのフーケことマチルダ姐さんは
酒瓶相手にクダを巻いていた
「しょうがねえだろ、ここんとこの内戦騒ぎで景気がいいのは傭兵ばかり。
“まっとうな”裏稼業の人間はみんなアルビオンを見限って下に降りてるよ」
そうぼやくのはパブの主人でこの地方の裏稼業を仕切る顔役
通称「サイコロ」(本名は誰も知らない)
「お前さんもさっさと飛び降りたらどうだい、例のスケベ爺のところなら
尻でも撫でさせてやりゃあいつでもまた雇ってもらえんだろ?」
「こっちにも事情があるんだよ…」
むっつりと酒瓶に写った自分の顔と睨み合うマチルダ
確かにアルビオンに留まっていてもジリ貧だ
だがいくら頼りがいのある鰐がいるとはいえいつウエストウッドも戦場になるか
わからない状況で家を空ける踏ん切りがつかない
そんなマチルダを尻目にサイコロは鬱憤晴らしとばかりに王党派貴族派平等に
罰当たりな言葉を吐いている
「まったくヤなご時勢だよ、レコン・キスタの連中こんな小娘まで懸賞金つけて
追い回してんだぜ」
店主が取り出した手配書を見て口に含んだワインを盛大に噴くマチルダ
大分ディフォルメされているが目に優しくない原色ピンクの髪と
こまっしゃくれた顔付きは間違えようがない
半年前まで学院長秘書を勤めていた魔法学校の名物生徒だった
同時刻
レコン・キスタの拠点の一つエジンバラ城
「では乾杯」
テーブルを囲んで祝杯をあげるクロムウェルと幹部達とそしてワルド子爵
ワルドの隣りには簀巻きにされたうえ猿轡をかまされたルイズがいる
「まったく大騒ぎをしたのが馬鹿みたいだよ、トリスティンからの密使がこともあろうに
わが方のスパイだったとは!」
おかしくてたまらないといった調子のクロムウェル
じたばたともがくルイズはフライパンで炒られる蜂の幼虫のようだ
「ではワルド君、ご苦労だが明日にでも皇太子のもとに赴き
手紙を回収してきてくれたまえ」
「それはいいですが別行動をとった連中はどうなっているのですか?」
そう、このSSのルイズとワルドは才人達とはラ・ロシェールで別れているのだ
「心配無用。港という港、街道という街道にこちらの手のものが目を光らせている。
奇跡でも起こらない限り…」
「起こったんだなあその奇跡が」
自信たっぷりなクロムウエルの言葉を遮るどこかのほほんとした声
「お前は!?!」
いつの間にか中二階へと続く階段の踊り場にデルブリンガーを抜刀した才人、杖を構えた
キュルケとタバサが並んでいる
「ふぁひほ(サイト)ッ!」
歓喜の叫びをあげるルイズ
目に涙まで浮かんでいる
(ああ今なら言える、本当は私アンタのこと…)
「よおルイズ、新手のダイエットか?」
(やっぱり駄犬ッ!!)
「やはり生きていたか、それにしてもここまで追ってくるとはな…」
憎々しげに才人を睨みつけるワルド
対する才人はどこまでも人を喰った態度を崩さない
「まあ色々あったけど詳しく説明してたら夜が明けちまう、キュルケがいて助かった
とだけ言っとくよ」
色仕掛けですね わかります
「さてそれじゃあ…」
才人はじつにさりげない動きでタバサの背後を取り白いうなじに
デルブリンガーの切っ先を突きつける
「杖を捨てろ」
その場にいた誰もが何が起こったのか理解できなかった
「え~と、とりあえず起きたまま寝てるとか変な薬キメてるとかはないよな相棒?」
間抜けとしかいいようのない声を出すデルブリンガー
「ちょっと!これは一体どういう…」
再起動したキュルケの抗議を制するように才人の右腕が閃く
稲妻の速度で繰り出されたデルブリンガーの刃はタバサの着衣を切り裂き
新雪のように輝く肌に傷一つつけることなく少女を生まれたままの姿にしてしまう
そして逆手に構えた魔剣の刀身を瑞々しい張りに満ちたタバサの両腿の付け根に
押し当て感情の抜け落ちた声で繰り返す
「捨てるんだ」
【続く】
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最終更新:2008年08月12日 19:48