プロローグ

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『希望崎学園祭』プロローグSS



「希望崎学園生徒のみなさん……。お、落ち着いて聞いてください。先程、『転校生』の迎撃に向かった生徒会役員、並びに番長グループですが……。全滅した……との報告がありました。学園祭は中止します。落ち着いて避難し、『転校生』が立ち去り次第、速やかに下校して下さい。繰り返します。『転校生』の迎撃に向かった生徒会長と番長は――」

 教室のスピーカーから、教師の震える声が響いて――、しかし、そこにいた生徒たちのどよめきはその声をかき消すばかりに肥大していく。絶望の音色を滲ませて。

「お、おい……。生徒会がって。まさか、ド正義会長がやられたってのか」
「範馬さんも、一刀両(いとり)ちゃんも……。番長の邪賢王(じゃけんのう)までもが、かよ……」
「も、もうおしまいよ! あ、あたしたち、みんな、『転校生』に……」
「オイ、早まるな……。まだ『転校生』がオレたちを殺しに来たと決まったわけじゃない!」
「分かるもんか! あいつらの目的がなんだろうと、オレたちを殺すなんてアイツらにとっちゃ造作もないんだぜ!」

 芸術校舎、音楽室での一幕である――。突如現れた『転校生』。そして、彼らに惨殺された生徒会、番長グループ。この緊急事態に生徒たちは絶望の色濃く慌てふためいていた。だが、

「おい、両性院……」
「うん。まずいことになったね」

 狂乱渦巻く教室の中で、逆に静かに言葉を交わしたのは両性院男女(りょうせいいんおとめ)。そして、その親友、川井ミツルであった。彼らは吹奏楽部の知り合いに頼まれ、音楽室での準備を手伝っていたのだが――、

「ミツル。とりあえず新校舎に戻ろう」
「そうだな、沙紀が心配だ。まずは合流した方がいい」

 天音沙紀(あまねさき)――。両性院とミツルの幼馴染であり、昨年の文化祭ではミス・ダンゲロスに輝いた美少女である。

「まさかとは思うが――、『転校生』のやつら、沙紀を狙って来た可能性もあるよな」
「そうだね。でも、それより心配なのは……」

 と、両性院が言いかけた、その時――。
 彼の憂慮した異変は、まさにそのの目の前で生じ始めていたのだ。
「もうダメだわ」「みんな殺されるのよ!」などと呟いていた女生徒が、突如絶叫すると――、


 がりがりがりがりがり。


 猛烈な勢いで頭を掻きむしり始めたのだ!
 彼女の両の爪は頭皮まで抉るほどに喰い込んで、黒髪は指の間から束になって抜け落ちていく。さらに女生徒は頭皮を鷲掴むと―ー。


 ぶちぶちぶちぶち――。


 と、力任せに黒髪を引き抜いていった。
 視線は虚ろに宙空を漂い、口元には微笑さえ浮かべながら――。
 世にもおぞましき、狂気の如き光景であった。

「な、なな……、何を、やってるんだ……。一体……」
「クソッ、もう始まってしまったか!」
「知っているのか、男女!」
「見てろ、ミツル! あれが、こうなってしまった者の末路だ――!」

 恐怖に駆られた哀れな少女は、ついに中央部分のみを残して頭髪を全て毟り終わると、その一直線に残った頭髪を不意に逆立て、そして叫ぶ――!


「ヒャッハー!!!」


 さらにはどこからか取り出した謎のトゲ付き肩パッドを身に着け、手には鉄の棍棒を振りかざしたのである――! そう、その姿は、まさに……、

「モ、モヒカンザコ……!」

 ミツルは愕然とした様子でやっとこれだけを呟いた……。

「そう。モヒカンザコだ。ああなってしまってはもう手遅れだ」
「あ、あれが伝説の……。で、でも、どうして女の子がモヒカンザコに――!」
「ミツル――。震災現場や大火事の後に、現場でレイプが多発するという話は知ってるね?」
「あ、ああ……。危機敵状況にあって種の本能が遺伝子を残そうとして、性衝動が高まるって言うあれだろ……」
「そう……。でも、性衝動が高まる程度は、まだ危険が少ない時のことだよ。本当の危機敵状況を前にした時、種の本能はどう対処するか――。生き残るためには手段を選ばず、あらゆる正義感を打ち捨て、恐怖を忘れて戦い、時には恥も省みず強者に媚を売り、無慈悲に弱者を虐げる。そうして、ただ食料と水を貪欲に追い求めるんだ――。荒廃した世界において、サバイバルに最適化された人類の最終形態。そう、それが――」
「モヒカンザコ――」

 その時には、既に少女だけではなかった。周りの生徒の間にも次々とモヒカンザコ化は進み、みな、それぞれのモヒカンをおったててトゲ付き肩パッドを装備し始めている。そして、棍棒を振り上げ、口々に叫ぶのだ。「ヒャッハー!」「ヒャッハー!!」と。

「お、おい……。このままじゃ、『転校生』にやられる前に沙紀がモヒカンザコに襲われちまう……」
「それもだけど……。沙紀自身がモヒカンザコになる可能性だってある。早く合流して彼女を安心させないと」
「い、急ごうぜ、男女……!」

 二人は顔を見合わせ頷くと、直ちに走りだそうとした。
 だが、その時である――。

「うゥ――ッ!」

 両性院男女が頭を抱え、その場にうずくまったのは。

「お、男女ッ――!」
「ク、クソッ! まさか……。僕が、こんなに、早く……」

 両性院男女は苦悶の表情を浮かべ、必死に何かに耐えようとしている。だが、抵抗も虚しく、彼の両手指は自身の髪の毛をぶちぶちと引き抜き、止まらない――!

「ミ、ミツル……。僕は、もうダメだ……。早く……。沙紀の下へ……。沙紀を、頼む……ッ」
「ば、ばかやろう! 諦めんなよ、男女――ッ!!!」
「もう、手遅れだ……! ミツル……、早く行ってくれ……! 早く……ッッッ!!!」
「うるせえ――!!!」

 ミツルは両性院の手を取り、彼を強引に引っ張ろうとする。
 だが、その直後には。
 彼の視界は真っ赤に染まっていたのだ――。

「あつ……。なんだ、これ……。あ、熱い……?」

 何かが、頭の上に乗っかっている。えらく重たい、何か金属の塊が。彼の頭頂に――。そこから、温かいものがなみなみと溢れ出している……。
 そして、彼――、
 川井ミツルの目の前には。


 トゲ付き肩パッドを身に付け、
 モヒカンを逆立てて、
 手にした鉄の棍棒を親友の頭頂へ無慈悲に振り下ろしたばかりの、
 両性院男女の姿があった――。

「おい、男女……ウソ、だろ……」

 どさりと、川井ミツルは血溜まりの中へと倒れ……。

「男女……。沙紀を……沙紀だけでも……。お前が……たの、む……」

 だが、親友の末期の言葉も虚しく、
 モヒカンザコと化した両性院男女は、あの言葉を、
 あの呪われた、『忌まわしき言葉』を、
 絶叫したのである――。



「ヒャッハー! 食料と水をよこせー!!!」



 私立、希望崎学園、通称『戦闘破壊学園ダンゲロス』――。
 突如、現れた『転校生』の襲撃により、学内は混乱を極め、一般生徒の約九割はモヒカンザコとなってしまった。主力を失った生徒会、番長グループの残党は果たしてこの事態を収束できるのか? そして、学園を訪れた『転校生』の真の狙い、とは――?



 2010年11月6日。
 第二回『希望崎学園祭』


 開幕――!

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