伝説の勇者ミドSS(第二回戦)

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dangerousss

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第二回戦第四試合 伝説の勇者ミド

名前 魔人能力
のもじTHEアキカン・クイーン・ヘッド 超強奪拘束裁判~DP奪取ver
伝説の勇者ミド おもいだす

採用する幕間SS
【クイーン・のもじ幕間SS『貴方の注目の選手を教えて!』】
(のもじは股ノ海を応援している)
【† 勇者ミドの伝説 幕間 『めいれいさせろ』】
(石田と対局してセックスした)
【† 勇者ミドの伝説 幕間 『ウェイティング・フォー・マイ・オカマ』】
(バロネスからスカーフとナイフを譲られる。股ノ海は空腹である)

試合内容


† 勇者ミドの伝説 第ニ章 『最後の武器』


「D・P・戦略ぅ~~!!」

どこか能天気さを含んだ謎のかけ声が響き、周囲の空気を一変させた。
景色は今までのジャングルと似た感じではあるが、
木々の奥にうっすらと階段のようなものが見え、女の声が聞こえる。

『きっと無罪を主張する被告席に告げる』
『ダンゲロスポイントを手に入れろ――DPなくして無罪なし』

なるほど、これが相手の能力による異空間か・・・
ミドは自分の格好を確認する。

勇者というのが影響したのだろう、頭には宝石のついた額当て。
メガネっ娘という点も影響したのだろう、メガネは元のをかけたまま。
そして、ビッチというのが影響したのだろう。


首から下がパンツのみだった。


強いて言うなら、両手は手錠で拘束されている。
他は、着ていた服も、バロネスのスカーフも伝説の剣もナイフも全部消えていた。
もはや勇者というより、オークションにかけられる雌奴隷といった感じである。
それこそ、もう本当に丸腰だ。

「こ、これは・・・」
状況を確認したミドは、脳裏にある言葉をよぎらせた。
それは勇者である以上、絶対口にしてはいけない単語であるように思われたが――
しかし、この能力に対してそれを思うのも仕方ない事なのかもしれない。
ミドはため息とともに、その言葉を・・・吐き出した。

「――無理ゲー。」


【ニ回戦 第四試合】
のもじTHEアキカン・クイーン・ヘッド VS 伝説の勇者ミド


†††


OP『勇者の伝説のテーマ』

ガンガンいこうぜ 振り返ることなく
みんながんばれ 力を合わせて

それでもやっぱり いのちだいじに
何よりまずは いのちだいじに
負けそうなとき くじけそうなとき
「にげる」を選べば いいんだよ

おもいだせ 宿されし使命
おもいだせ 仲間との絆
おもいだせ あの熱い夜
そして思い出して あの甘い蜜の味

たたかえ まもれ 脱げ たたかえ
押し出せ うっちゃれ 上手を取れ
Go! Go! RIKISHI fighter
Let's SUMOU battle!! (DOSU-KOI)


†††


時は、試合開始直後までさかのぼる。
ジャングルに放り出されたミドは石田歩成から聞いた話を『おもいだし』て確認していた。

石田には将棋(?)の対局をした後で、文字通りの「密着取材」を行っている。
もちろん、今回の対戦相手の能力について知るためだ。
一回戦で直接、のもじの能力を味わったのは石田だけ。
ならば、彼が一番詳細な情報を話してくれるはずだ。

「目の前でヤツが『DP戦略』とか叫んだんだ、そしたら、変な異空間にワープ
させられて・・・持ち物も全部奪われた」
「服もなぜか着替えさせられていて、手錠をかけられて拘束されていたんだ」
「あとは全く抵抗できなかったよ・・・いたぶられるがままさ。ああ、思い出すだけで
ゾクゾクする・・・! だからもっと、もっと縛ってくれ!!
ああっ、成っちゃう! そんなトコ攻められたら、と金に成っちゃうよおぉ!!」

こうしてミドは、敵能力の概要と石田の性感帯をほぼ把握した。
今回は、主に前者の情報を使って戦うことになるだろう。
そして改めてこれらを確認、整理した結果・・・結論は出た。

能力を使われたらまず勝てない。

有無を言わさぬ論理能力の類である。いかなる状況からでも逆転できる力を持っている。
しかもミドにとって、「まるごし」やナイフといった道具は生命線と言って良い。
奪われれば直接戦闘はかなり不利になる。
つまり、面と向かって『開廷宣言』される――これを、できるだけ避けるしかない。

そのためには、遠距離から勝てる方法が必要だ。


†††


「足払いと見せかけDrop kick~~ 隠した刃でDestroy chop~~」
『だから歌うなと言っとろうが、アホでこ娘ーーーー!』
どこか緊張感を欠落させた様子でジャングルを歩く、のもじとクイーンである。

「しかし女王、士気の高低は戦の勝敗に関わる問題でありマス! ですから私めは、
最高潮の勇気を、ブレイブハートを持って敵を殲滅すべく」
『黙れっ! 貴様がバカでかい歌声なんか響かせたら、敵に気付かれるだろうが』

そうなのである。のもじは試合が始まってからというもの、ノリノリで熱唱中。
これではクイーンが怒るのも無理からぬものである。
『ジャングルでの心得はあれほど叩き込んだであろうが! ただでさえ獣も多いと
いうの・・・に!? ――右向け右ッ!!』

ギュルン! ゴキィ!
突如、何かに気付いたクイーンが頭部を急激に右回転させた。つられて、のもじの
首も強制的に90度ひねられる。

「サー! 痛いであります、サー! ギブ! ギブ!」
『敵だ!!』

クイーンが捉えたのは、右の遠方を通り過ぎるミドの姿であった。
『チャンスだ。獣の足音に紛れて、慎重に接近しろ――わらわの間合いまでな』
「タップ! タップ!」
『返事は!』
「サー! イエス、サー!」

そうして、のもじは木々をかきわけコソコソと、しかし足早にミドへ接近を試みる。
ジャングルは様々な動物の鳴き声や足音に満ちている。
まだ距離もあるし、この程度で気配を悟られることはまずないだろう・・・

が、歌声などというものはさすがに他にないのであった。
ミドはのもじの存在に気がついていた。距離も場所もあまりわからないが、方角だけは。
そしてミドは、何食わぬ顔で歩行を続ける。

追うのもじ。さすがにもう大声を出したりはしない。首が痛む。
(サー、じきに射程圏内でジ・エンド・オブ・メガネであります、サー!)
『意味はわからんが良し。もう少し足音を殺せ』
(了解の賛成のAll rightでありま――)

「すブッ!!」『――!?』

その時。のもじの顔面に、白色でクリーム状の何かが強烈に叩きつけられた!
クイーンは即座に敵を確認する。・・・変わらず背を向けて前方を進んでいる。
これを投擲した様子はない。いったい何が?

その答えは足元にあった。
のもじは薄い木の板を踏んでいた。丸い石の上に置かれており、シーソーのような形に
なっている。どうやら反対側に、この謎の物体が配置されていたのだろう。罠だ。

「臭ッ!? くっさーーーーーーーーーーー!!」
『きいーっ、小癪な真似をォ』

ミドは逃げる時、よほど余裕がない状況でない限り、何も考えず逃走する事はない。
つまりミドの逃げる方角には、ほぼ罠があるのである。それは段差など天然の罠かも
しれないし、落とし穴などの人為的なものかもしれない。

ちなみに、今のもじにぶつけられたのは「ドリアンボール」。
ジャングルで見つけたドリアンの果肉をくり抜いて丸めたステキなボールだ。
七つ集めても特に願いは叶えてくれないが、強烈な悪臭を放つ。
なお、ミドはバロネスから貰ったスカーフで鼻から口元を覆っている。
当然作成者は、泣きたくなるくらい臭かったのだ。

「目がァ! 目がァーーーーーー!!」
『落ち着け、でこ娘! さらに近づいてしまえば良いのだ! 追い詰めろ!』

のたうち回るのもじ。ミドは距離をとりつつ振り返る。


†††


チャンコ。
それは宇宙。

様々な食材が混然一体となり、調和の中にひとつの世界を創出する。
とてつもない質量を内包した、力士にとって欠かせないエネルギー源である。
その宇宙を前に――股ノ海は静かに合掌する。

チャンコに、1人で立ち向かおうというのだ。
その鍋は特注で、通常の15倍はあろうかという大きさである。
彼ははやる気持ちをおさえ、深呼吸を繰り返す。そして・・・機は熟した。

「い た だ き ま す」
股ノ海は目をカッと見開く。箸を取る!

豚肉!
白菜!
油揚げ!
もやし!
鶏肉!

「ハフッ! ハムハフ・・・ガツ! ガツガツ! ハフッ!」
箸先が不可視となるほどの速度で、股ノ海は鍋の具を吸い込んでゆく。
その姿はまさしく、宇宙で万物をその身に取り込むブラックホールがごとし。

豆腐!
白菜!
油揚げ!
豚肉!
エノ・・・

エノキ!?

「ぐっ・・・・・・!!」
思わず立ち上がり、後ずさって鍋から距離をとる股ノ海。
バカな、自分の鍋に、なぜエノキが!
眩暈を覚え、額に手をやる。あの強靭たる戦士の面影は影をひそめている。
その表情に浮かぶのは・・・怯えだ。

後ずさった足の位置。そこに股ノ海は、土俵際を見た。
ここから押し返さねば、白星はない――汗を拭く。
前に。前に進むんだ。前に! 力士とは、そうあらねばならない!!

「う・・・うおお・・・うおおおおおおおおおおおおあああ!!!」
魂の咆哮が部屋を震わせた。


†††


バレたとわかって潜む意味は、もはやなかった。
のもじ&クイーンが選択したのは全力での突撃である。
もちろん、足元には細心の注意を払いながら。

しかしそれもミドは計算に入れている。
足元にご在宅という事は、正面がお留守になるはずなのだ。
ミドは、よくしなる木の枝と植物のツタで作ったパチンコのようなものを取り出し、
ドリアンボールを次々に射出する。

「ヒャッハー! そんなもん、止まったハエより遅く見えるゼー!」
しかし、のもじはこれを軽い身のこなしでかわす。
言っている事はよくわからないが、さすがに運動能力では彼女が上だ。
これを見てミドは、切り札を取り出して両手で振りかぶった。
「それなら・・・こいつを食らいなさい!」

ジャイアント・ドリアンボール!
ちょうどラグビーボールのような大きさと形状の、凶悪で非人道的な悪魔兵器である。
それをミドは、回転を加えながら下手投げで思い切り投げた。

のもじは今、それまでの動きで若干バランスを崩している。それも前進を続けながら。
その状態でこの砲弾をかわすのは、いくら彼女といえど――

『でこ娘っ! お辞儀だっ!』
「サー!」

そこへ、クイーンのかけ声。のもじは反射的に頭を下げる。訓練のたまものか、
その動きは素早い。そして・・・ドリアンは、頭部のクイーンで防御された。

――カァン!

甲高い金属音が響く。
『ぐえっ!? き、貴様・・・』
ダメージは少なそうながら、いまいましげに呟くクイーン。
なんとミドは、ジャイアント・ドリアンボールの中にナイフを埋め込んでいたのだ!
のもじに命中していれば大事に至るところであった。

「げっ」
困ったのはミドである。ナイフを一本使ってもダメージがないのは想定外だった。
もはや攻撃手段は、ひとつしか残っていない。
「仕方ない・・・」
ミドは、もう1本のナイフを握りこんだまま伝説の剣を抜き放ち、構える。

バロネスの脚を切り裂き、練道の頭を貫かなかった、あの剣だ。
つまるところ、一回戦の時点でのこの剣についての情報は、
「結局切れるのか切れないのかよくわかんない剣」という程度に留まる。

ミドは剣を右に振り、ナイフの刃先で木の枝を落としてみせた。
さらに左にも振り、今度はナイフの刃のない部分で別の木を透過してみせる。
そして、前進してくるのもじに対して・・・

「さあ、どっちかなっ!」
疑問を投げかけながら剣を振りかぶる。――さあ、混乱しろ!

が。
前方からのもじが投石! ミドは剣を構えたまま右にステップしてかわす。
大丈夫だ、まだ間に合う。着地しながら剣を振りぬくべく、緑色の地面に足を、

葉が積もっている。

常緑樹ばかりのこの森でも、獣が動けば葉が落ちることはある。
しかし、誰が落ち葉掃除をするわけでもないのに、こんなに山となるものだろうか?
答えは簡単。誰かが集めたのだ。誰が? ミドでないとすれば、それは。

『やれやれ、やっとソコに行ってくれたか』
クイーンは不適に、仰々しく語った。
『罠に導いていたのはどちらだったか、という話よ』

ミドが着地する。ぐんにゃりとやわらかい。明らかに葉の感触ではない。
葉の下に何かが隠れているのだ。のもじが、高笑いとともに叫んだ。
「ヒャッハァーーー! ポケモン、言えるかなっ?」

――ラフレシア!!

「きゃああああああ!! 臭ッーーーーーー!?」
『よし、良くやった! でこ娘っ、キメてやれ!』

そしてついに、のもじが「あの言葉」を口にしてしまう――

「D・P・戦略ぅ~~!!」


†††


すべての感情をカラにして、股ノ海は鍋に飛びついた。
「ハグッ、ごふハグッ! ハフ、ハフごふっ!」

全力でつっぱる時の感覚を思い出せ、集中、集中だ――!
ひたすら前へ、前へ。時々その巨体を震わせながらも、止まらない。

自分の「最後の武器」それは意志である。股ノ海は自覚している。
それだけは譲れない。最後まで絶対にあきらめない。心だけは、動かさない。
止まる事だけは絶対にしてはならない。してなるものか!

豆腐!
エノ・・・キ!
豚肉!
白菜!
エノキ!

もやし!
エノキ!
エノキ!!
エノキ!!!
最後に・・・スープ!

ラストの一滴を口に吸い込む。その瞬間、股ノ海の体に未知のエネルギーが漲った。
宇宙。いま、彼は宇宙をその身に宿したのだ。万感・・・股ノ海の心に感動が満ちる。
その頬を涙が伝い――そして、今こそ彼の口をついてこぼれる言葉があった。

「ゴッツァンデス(gots-and-death:「獲得と死」という意味の英語)」

瞬間! 彼の目の前にあった鍋とちゃぶ台が音をたてて爆砕した。
言葉と同時に、張り手が、自然と繰り出されていたのだ。
これは・・・英語! 発音は拙いものの、確かに英語であった。

日本で生まれ育ち、まして国技の戦士である彼が英語を使用した事に疑問を感じる方も
あるかもしれない。しかし、これも股ノ海の不断の研究の成果なのである。
「強さ」に国境はない。そう信じて、彼はあらゆる「力」を勉強してきた。

「来年は、初段を受けてみるか――」

静かにもう一度合掌すると、彼は稽古部屋に戻っていった。
相撲界の未来は明るい。


†††


「――無理ゲー。」

そうして、場面は冒頭へと返る。
ついに発動してしまった、クイーンの能力。全て奪われた武器と服。
互いに付着していた臭い物体も全て消し去られたようだ。

遠目には、木々の隙間に、悠々と階段を降りてくるのもじの姿が見える。
何かの毛皮で胸と下半身を隠した、ターザンスタイル。腰元はくっきり露出しており、
小気味良くくびれているのが良くわかる。

「さあ・・・裁判を始めようか。すでに敗訴は確定しているようにも見えるがナ」
のもじの口から、艶っぽい声が漏れる。余裕すら感じられるが、
なにしろ相手はパンツ一枚である。
「もうお前に武器はない。まさに丸腰ってワケだ、ヒャッハァー!」

「・・・違う」

ミドが言い返した。
確かに無理ゲーだ。無理ゲーとしか思えないけれど。
負けが確定したわけではない。それに・・・まだ『武器も残っている』。


渡葉美土は、痩せっぽちだ。

胸もないし脚も長くない。顔は整ってはいるが、地味でどことなく華がないので
赤フレームのメガネでちょっとごまかしてる。
ビッチなのに、フェロモンもあんまない。だから・・・最初は苦労した。
腕力もないから、男を組み伏せてレイプするわけにもいかない。

――そんな時。
いつも彼女の自信を支えてきたのは。彼女の最後の武器は・・・。
ミドは手錠で繋がれた手をなかば無理やり持ち上げて、こめかみを指差した。

「『ここ』が生きてる限り・・・私は丸腰なんかじゃない」


ミドの強情な笑みに、のもじもまた黒い笑みで応えた。
「たいした自信だゼ! だがここはすでに地獄の断頭台―― 処刑の時間だー!」
叫ぶのもじ。
ミドは背を向けて十八番の「にげる」。しかし、もちろんここに罠などない。

(これは・・・ちょっとどころじゃなく分の悪い賭けだけど)
そう思いつつ走りながら。ミドは能力を発動させた。
『おもいだす』のは――最初のジャングルで聴いた、のもじの歌声。
それは、とある力士に捧げられた、応援歌だ。

「大地を讃える、神の闘技場(どひょう)
国の血を背負いし闘士(りきし) 技の宝庫だ、猫ダマシ」
「足払いと見せかけDrop kick~~ 隠した刃でDestroy chop~~」
「殺せ! 殺せ! 全て殺せ!!」
※実際の股ノ海はそのような反則行為は致しません

ミドは走りながら、この歌詞を頭の中で何度もリピート再生した。
能力『おもいだす』は任意のセリフの再生を念じたら、あとは全自動で最後まで脳内に
思い浮かべられる。些細な事ではあるが、普通に記憶を掘り起こすのに比べて
思考負担は少ないといえるだろう。なので、同時に別の事を並行して考えやすい。

「神の闘技場(どひょう)」「国の血を背負いし闘士(りきし)」「全て殺せ」――

歌詞には、作詞者の嗜好や理念が何かしら反映されているはずだ。
ひとつでいい。それを読み取る足がかりだけでも得られれば・・・

そして、やがてミドの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。

「――わかった」


†††


のもじ&クイーンは、今度はただ直線的にミドを追うような事はしなかった。
ここはすでに自らのテリトリーであるし、相手も強がってはいるが丸腰だ。
だが、ただ無策に逃げているとは思えなかった。だから手は抜かない。

接近して一撃。それでミドはすっぱだか(=敗北)だ。
のもじはわざと横道に逸れ、手近な木に登ってミドの位置把握に努める。
元々この空間には限りがあり、端は穴だ。いつまでも逃げられるものではない。

結局ミドはあてどなく走り回るしかないのだ。
そして、のもじがその姿を捉え、攻めに転じる。
相手の罠にかからず、確実な一撃を入れる。
そのために彼女のモヒカンソウルが選択した方法は、もちろん――

「――頭上背後からの、奇襲」
「『!!』」

ミドは、木から飛び降りて蹴りを繰り出すのもじに、視線を向ける事すらしないまま
大きく前方に踏み出してそれを回避した。全てをわかっていたかのように。

ミドが歌詞から読み取った内容は主に2つある。ひとつはのもじの、
モヒカンザコと同化するほどのパンクロッカー気質。そして、もう一つは。

「猫ダマシ・・・足払いと見せかけDrop kick・・・隠した刃でDestroy chop・・・
卑怯者にしても、ずいぶん手のこんだ技ばっかり使うもんだよね」

ミドは誰に言うでもなくつぶやく。
そう、一回戦で石田対策のためにマスクを用意したのも去ることながら――

「あなたって、意外に策士なんじゃない」

ミドは断じた。阿野次のもじは、ただ狂気を振りまくだけの存在ではない。
破天荒なパンク精神を持ちながら、きちんと情報を把握し、確実な戦法を取る。
だから罠を仕掛けようがない空中、それも背後から攻撃してくる可能性が高い。

なお仮に後方以外から現れたとしても、絶対に来ない方向がある。正面だ。
よって、攻撃の気配を感じた瞬間、迷わず前方に踏み出せば――

「う、うわわッ」
キックの対象を失ったのもじの足はよろめき、不安定な着地となる。振り返ったミドが
すでに迫っている。そしてミドが大きく体を沈めると・・・
のもじは何かに足をとられて転倒した。ミドを拘束する手錠の鎖がぴんと張られていた。

間髪入れずミドは手首の鉄の輪で、のもじ頭部のアキカン帽子を殴り飛ばす。
「あっ」
思わずのもじが声をあげる。甲高い金属音を響かせ、クイーンが転がっていく。
まずい。あまり離れると、能力が・・・
クイーンに手を伸ばすのもじ。しかしその首を、冷たい鎖が押さえ込んだ。


「『ここ』が生きてる限り・・・私は丸腰なんかじゃない」


ミドは確かにそう言った。しかし他に道具がないと、誰が言っただろうか?
すでに使える道具はないと思わせる、このセリフがすでにペテンであったのだ。

手錠は立派な金属器である。
本当に――丸腰なんかじゃなかった。

「は、離せ、離しやがれーーーーーーー!! ファック! デストローイ!!」
のもじは暴れるが、動くほど鎖は首に食い込む。この能力下で肉体にダメージは
ないが・・・つまり。ということは。

彼女の胸を覆っていた衣装が透けていく。
強気なのもじの目にも涙が浮かんできたように見えるのは気のせいだろうか。
そしてついに、下半身の衣装までもが――

それを見たミドはにっこりと微笑んで。

「それじゃあ判決は、その身体に聞いてみるとしようか?」
2人の裁判は、まだ始まったばかりだ。


† おわり




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