「ヤスリ、これ、やる」
8歳の透が差し出したのは、オリハルコンでできたチューリップ。
母に指導をされながら、初めて自分で型を抜いた、宝物だ。
「わあー! きれーい! おまもりにするね」
5歳のヤスリは、家のせんべい布団に寝転がりながら、太陽のような笑顔でチューリップを手にした。
「おまえがげんきになったら、もっとキレイなのぬいてやる」
「えへー、たのしみー」
ヤスリは、チューリップを大事に懐にしまった。
「ヤスリ、お兄ちゃんのカタヌキ、だーいすき!」
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《あなたがここにいてほしい》
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西日が差し込む、病院近くの駅。電車なんて一日に一本程度しか来ない、単線のさびれたホーム。
透は、ヤスリの遺品として受け取った、自分が幼少期に作ったオリハルコン製のチューリップを右手に持ち、ベンチに座ってただ虚空を見つめていた。
体が、動く気がしない。16歳の女の子の遺品が、パジャマと、このチューリップだけ。その事実が、透にとって何よりも重いものだった。
昨日の夜。集中治療室で。いつこうなってもおかしくなかったと、医者は言った。精神的なストレス。肉体的な疲労。それらは全て、副次的な要素でしかないと。
ヤスリの死を止めることは、誰にもできなかったのだと。
その後のことは、よく覚えていない。医者に何を言われようとも、ヤスリであったものの横にいたはずだ。居続けた。泣いて、叫んで、自分を殴って。
一晩明けて、残ったのは虚無だった。悲しいとか、辛いとか、そう言った感情は不思議となかった。
ただ、何もやる気がしなかった。現実に向き合うのが、苦痛だった。何も考えず、何も思わず、通過していく電車をただ眺めて、こうして一日を過ごしているのが、一番楽だと思った。
懐から、不快な警戒音が鳴り響いた。
もぞもぞと、灰色の作業着のポケットを探る。C2カード。そう言えば、昨日から服を着替えていなかった。ありすとの戦いを終えた後、ここに入りっぱなしだったのだろう。
けど、C2バトルも、もはやどうでもいい。最多勝利できる可能性は、もはやない。ヤスリは、生き返らないのだから。
目の前に、電車が止まる。扉が開くと、モーニングスターを背負った少女が、目を丸くして透を見ていた。
C2カードには、「物部ミケ」と表示がされていた。
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「仙波透……よね」
ミケが、電車を降りた。
きっと、C2バトルでの勝利を望むなら、何度もテレビで見たこの男。憔悴しきっている仙波透に向かい、モーニングスターを振り上げるのが正解だったのだろう。だが、ミケがそれをためらうほど、透は憔悴しきっていた。
「何してるの。こんなところで」
再度、声をかける。透は、ぼんやりと頭を振り、何も見ていない目で、ミケを覗き込んだ。
「……てめえは」
「物部ミケ。C2バトルの参加者よ」
「はっ、そいつはどーも」
透は、忌々し気に吐き捨てた。C2バトルなどどうでもいい。そう思った矢先に、対戦相手が現れるとは。
しかも、目の前にいるのは、こんなにも弱弱しい女の子一人。自分が勝利を望んでいたならば、すぐさま心臓を抉ってやっただろう。
「賞金が欲しければ、降参してやる。さっさと消えろ」
捨て鉢な透の言葉。ミケは、何かが心に沸いてくるのを感じた。
彼の妹が倒れたのは、先の対戦の映像を見て知っている。透の現状を見るに、彼女に何かあったことは、言わずとも想像はつく。
だからこそ、ミケはイラついていた。
「本気で言ってるの」
「もう、どうでもいいんだよ。妹は死んだ。ヤスリがいなきゃ、俺なんてどうなってもいい」
透は、いつになく多弁な自分に気づく。これは、ただの八つ当たりだ。初めて会った見ず知らずの女の子に、やり場のない感情をぶつけているだけだ。そんな自分がひどくみじめで、情けなくて、怒りが沸いてくる。
だが、もういい。兄らしいところを見せるべき妹は、もうどこにもいない。
どこまで落ちたって、構うことはないだろう。
「俺は今、せいせいしてるんだ。ヤスリが死んで、肩が軽くなった。もう、俺は自由なんだ」
「……よかったじゃない。あんたの望み通りになったわけね」
「うるせえ!」
透は立ち上がり、右手に持っていたオリハルコン製のチューリップを、地面に向かって投げつける。
コンクリートに花の部分が突き刺さったそれを、ミケが無表情で引き抜いた。
「ヤスリがいるから、俺は好きなことができなかった! あいつが、カタヌキが好きとか抜かすから、俺はカタヌキから離れられなくなった! あいつが病気だから、俺は金を稼がなくちゃいけなくなった!」
『そう思っている自分が、どうしようもなく嫌いなの。お兄ちゃんは、自分が嫌で嫌で仕方ないのよ』
「全部、ヤスリの所為なんだ!」
『一緒に死んでやればよかったと思っているのに、まだ無様に生きているって。もう、生きてる意味もないのにって。お兄ちゃんは、そう思っちゃってるの』
透は、力が抜けるように、ベンチにドカッと座り込んだ。もう、すべて吐き出した。だが、すっきりなんてするはずがない。
「……殺すなら、殺せ。さっさと」
『お願い。ヤスリちゃんの……私たちのお兄ちゃんを、助けてあげて』
《『万物の主』》は、手に持つオリハルコン製のチューリップの、悲痛な叫びをミケに届かせた。
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「ヴィンセント、いい?友達って、そんな簡単になれるものじゃないのよ」
《……そうでしょうか》
「だって、物のあんた達に言うことを利かすのだってギブアンドテイクの取引と、アフターケアが欠かせないのよ?人間となんてもっと面倒くさいにきまっているじゃない」
《友達居ないくせに言いますね》
「居ないからわかるのよ。簡単なら友達できるはずだもの」
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「……ほら、やっぱり。人間は、面倒くさいじゃない」
ミケは、きついツリ目をさらにツリあげながら、透につかつかと近寄った。透が、「なんだよ」と言いながら、面倒くさそうに目を向ける。
生気のないその顔を、ミケは素手でぶん殴った。透の上体がぐらついた。
「戦いなさい。その降参、私は認めない」
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「そうか。ずいぶんつらい思いをしたんだね」
モーニングスター三郎は、優しい声をかけた。ミケは、差し出されたお茶に口をつけながら、VINCENTとの出会いと別れ、先の戦い、そして、その時に見た夢のことを、つたない言葉で話したのだ。
「私はVINCENTに、私一人でもやっていけるって、ちゃんと見せてやりたい。でも、どうしたらいいのか、わからない」
ミケは俯き、膝に置いた手でスカートをぎゅっと握った。モーニングスター三郎は、うんうんと首を振る。
「今すぐに答えを出す必要はない。一歩一歩、君がしたいことをやっていけばいいんだよ。君の人生、一生をかけて」
「でも、それが間違ったら」
「間違ってもいいんだ。その度、やり直せばいい」
「私が……したいこと」
《あなたには、きっとこれからたくさんの友達ができる。そのことだって知っています》
夢の中で聞いたVINCENTの声が、頭の中によみがえる。
そう。私は、友達を作りたかったんだ。
お金が必要だといいわけをしていたけど、結局自分から歩み寄る勇気がなかっただけ。
私が何をしたいか、まだよくわからないけど、今はただ。
勇気を、出したい。
「……あの、えっと、馬鹿な質問って思われるかもしれないけど」
モーニングスター三郎は、耳を傾けた。この人なら、きっと馬鹿にしないで答えてくれる。
きっと、今私に必要なのは、人に尋ねる勇気。
「友達……って、どうやって作ればいいのかな」
モーニングスター三郎は、一呼吸おいて、ゆっくりと一言ずつ、言葉を紡いだ。
「自分のためじゃなく、相手のために、がんばることかな」
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ミケは、ジンジンと痛む右拳を、痛みを押さえるように、左手で握りしめた。
人を、殴った。思い切り。自分の手で。
こんなに痛いんだな、と自嘲する。そうだ。私は今まで生死のやり取りをする戦いに臨んでいたのに、相手を自分の手で殴ったことはなかった。
VINCENT。ステラーカイギュウ。地面の石。今まで、誰かに変わりに戦ってもらっていた。
でも、これは自分で。自分の拳で伝えないと、意味がないと思ったのだ。
「いい加減にしなさいよ。うじうじうじうじ」
「……ああ?」
殴られた状態で硬直していた透は、ミケの一言に、凄みの利いた声を出した。
ミケは、ただの女子高生だ。元暴力団の鉄砲玉の出す迫力に、思わず心臓が跳ね上がった。恐怖の感情に、一歩後ずさりする。
だが、また殴った。今度は、左手。透の上体は、殴られた状態で硬直した。
「妹がいなくなってせいせいした? いいじゃない。それだって本音なんでしょ」
透が、激怒を込めた目でミケを睨み付ける。
ミケは、湧き上がる怖さを押し殺すように両手を握り、叫びながら、何度も何度もポカポカと透を殴りつけた。
透は、「うぜえっ……!」と呟き、ミケの両腕を掴む。透の手は、鑢の如くざらついている。ミケは、痛みに眉をひそめたが、構わず叫び続ける。
「それでもあんたは、前に進まないといけないの! だって、妹さんは、あなたが生きていくことを望んでいるんだもの!」
透の目の奥に、激情が宿った。心臓からこみ上げる衝動のままに、叫ぶ。
「クソガキが、知った風な口をきくんじゃねえ!」
「うっさいクソ野郎! バカ! ハゲ!」
ミケがガスガスと、透の腹を蹴り飛ばす。透は、左手を離して足を掴もうとするが、今度は空いた手で頭を殴ってくる。
「妹さんは、あんたと一緒に生きていきたいと思っていたの! でも、もうそれはかなわない。だったら、あんただけにでも生きていてほしい。生きて、幸せになってほしいって! そう、ヤスリちゃんは願っているの!」
ミケは、気が付けば泣いていた。どうすれば伝わるのかわからない。この朴念仁になんて言って伝えればいいのか。
オリハルコンのチューリップから聞いた彼女の、ヤスリちゃんの想いを、言葉ではとても伝えられないことが悲しくて、泣いたのだ。
「あんた、お兄ちゃんなんでしょ! ヤスリちゃんの最期の願いくらい、叶えてあげなさいよ!」
「うるっせえええ!」
透が、ミケの胸を突き飛ばすように、右手を出した。魔人の膂力は、強大だ。思い切り押すだけでも、致命傷になり得る。
それを防いだのは、モーニングスターだった。
モーニングスター三郎が、「何かの役に立てば」と渡してくれた一品。三郎の優しさと、想いが詰まったそれが、自立稼働して透の突き飛ばしを防いだのだ。
『使いなさい。素手じゃ、伝わらないわよ』
モーニングスターの、優しい声が、ミケの頭に響いた。
『間違ってもいいんだ。その度、やり直せばいい』
モーニングスター三郎の言葉が、リフレインする。そうだ、間違ったっていいんだ。
私は、自分を信じる!
「うああああああああ!」
ミケは、思い切りモーニングスターを振りぬいた。透は、思わぬ攻撃に、駅舎の端まで吹き飛ばされた。
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「カ……ハッ」
透の口から、血の混じった唾液が流れ落ちる。不意の一撃。それも、渾身の。
如何にミケがたかだか女子高生とはいえ、遠心力と硬度が合わさったモーニングスターの一撃は、まともに受ければ致死に値する。
それを防いだのは、職人気質(しょくにんはだ)。透は、自身でも気づかないうちに能力を発動し、ガードをしていた。
「あなたは生きたがっている」
ミケが、モーニングスターを担ぎながら、ゆっくりと透に近づいた。透は、ペッと血を吐き、作業着についた埃を払った。
「いきなり人ぶん殴っといて、何言ってんだお前」
「自分のために生きなさいよ!」
ミケは、自分を鼓舞するように叫ぶ。間違いを、恐れない。
伝えたいことがあるのならば、今、何度でも伝えなくては、きっと私は一生後悔する。
「あんたは、自分が生きたいように生きていいの。死んでいった人を思って、立ち止まったって仕方ないじゃない!」
それは、VINCENTを失った、自分へのエールだったのかもしれない。
『今すぐに答えを出す必要はない。一歩一歩、君がしたいことをやっていけばいいんだよ。君の人生、一生をかけて』
モーニングスター三郎の言葉が、脳裏に浮かぶ。言葉は、勇気だ。それを、私は信じる。
「死んだ人がどう思ってるかなんてわからないけど、それでも一歩一歩、あんたができることをやっていくしか……」
ミケが、再度モーニングスターを振りかぶった。
『え? そこまでやる……?』
「今はそれしかないのよぉーっ!」
暴力! モーニングスターの容赦ない一撃。死が脳裏に浮かんだ透は、両手で十字を作りガードをするが、勢いは止まらず線路に吹き飛ばされた。
「ちょ、おま……!」
線路に転がされ、死を目の前にして生気を取り戻した透が、ミケに批判の言葉を向けるが、ミケには届かない。
なぜならば、ミケはコミュ障だからだ! 言葉を伝えたくて仕方がないミケに、もはや人の言葉など届かない! 正直かなりやりすぎな気もするが、もう仕方ない! 言葉の力を信じるしかない!
「いっぺん死んで、考え直してきなさああああい!」
プアーン、と警笛が鳴り響いた。透に、強い照明が当たる。透が、音の方向に首を向けた。
『ヘイヘイヘーイ! 単線生まれのオイラが、こんな派手なことできるとは思わなかったぜヒャッホーイ!』
それは、電車。
ミケが、さっきまで乗っていた電車が、スイッチバックして逆走してきた。ミケは電車を降りるとき、戦いになることを見越してすでに電車に《『万物の主』》を発動していたのだ。
人が乗っていないのが幸いであった。ミケは、頭に血が上ると、周囲をあまり気にしないタイプだということを、透は知らなかった。
そう、これこそが、無人在来線アタックだーっ!
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透の脳裏には、走馬燈すら流れなかった。
想いなどない。ただ透の体が、その術を知っていた。
走ってくる電車に、固めた右腕を向けた。息をする間もないような時間の中、突き刺し、梳り、やすり、整える。
電車の中心が抜けるように削り取られ、外壁がふわりと広がり、中心に向かって湾曲するように曲がった。
それはさながら、蓮の花の如く。
三次元立体瞬間カタヌキ、「黒蓮(Black Lotus)」。
透の人生で最大の逸品が、ここに今完成した。
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気が付いたときには、カタヌキは終わっていた。出来上がった、横向きに倒れた蓮の花の前で、透は茫然と立ち尽くす。
右腕を持ち上げ、見た。いくつもの傷と汚れに塗れた、右腕。
そこには、職人の誇りがあった。
カタヌキに最も必要なのは、心技体。
丈夫な体と魔人能力という、透自身が持って生まれた体。
日本最高のカタヌキ師である母親から仕込まれた、技。
そして、ヤスリが支え続けてくれた、カタヌキをやり続けるための心。
カタヌキの技の中に、透の右腕に、“家族”がいた。
気が付けば、透の目に涙が溜まっていた。
そうだ、俺はヤスリが大好きで、カタヌキが大好きだ。それが、全てだ。
俺は、ヤスリのお兄ちゃんで、母さんの息子で、カタヌキ師だ。
叶うことなら、お前と生きたかった。
でも、それはもう叶わない
ならばせめて、お前のことを思っていてもいいかな。
「俺はまだ、お前のお兄ちゃんでいてもいいかな……」
透は、上を向いた。お兄ちゃんは、泣かない。電車の削りカスに塗れた作業着の袖で、涙が出ないように、強く目を押さえた。
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ミケは、座り込む透を満足げに見つめた後、踵を返した。
電車は『オオーッ! オイラが、こんなにも美しくメタモルフォーゼかましてんじゃねえかウヒャッホーイ!』と叫んでいる。喜んでいるようで、よかったよかった。
『ん? どうしたの』
モーニングスターは、駅から立ち去るミケに、疑問を投げかける。ミケの足取りは、軽やかだ。
「……降参。だって、相手のために、がんばるのが、友達なんでしょ」
ミケは、どや顔で、鼻歌を歌いながら、ステップを踏んで改札口から出ようとした。
『いや、友達作るんでしょ? 友達になってほしいって、言わなくていいの』
ミケが、軽い足取りをギクッと止めた。ギギギギ、とロボットのように、再び透の方を向く。透は、未だ感極まっているようで、右腕を抱えて蹲っていた。
「……今から友達になってって言って、大丈夫かなあ」
『間違っても、またやり直せばいいでしょ』
モーニングスターが、やれやれといった風に、クスッと笑った。
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「ヤスリ。入るぞ」
古びた障子戸を開ける。夕暮れに照らされた狭苦しい6畳間には、質素な仏壇と、オリハルコン製のチューリップ。
そして、写真立ての中で笑う少女がいた。
仏壇に飾られた香炉には、ほぼ燃え尽きている5本の線香が立っていた。1本は、ミケ。2本は、ありすとめこ。そして残り2本はヤクザのお姉さんがぬん子と共に訪れて、立ててくれたものだ。
賞金を全て使って買い戻したこの家は、昔俺が住んでいた家だ。俺と、ヤスリと、母さんの三人で暮らしていた家。
結局、願いは叶わなかった。
ヤスリを生き返らせることはできなかったし、俺は相変わらずしがないカタヌキ師として細々と生きている。状況は何も変わらない。
俺は仏壇に線香をあげ、手を合わせる。今は、これが毎日の日課だ。
悲しくないわけがない。しかし、中途半端な俺は、それでも生きることをやめられない。
ヤスリのことを思い、胸の痛みに苦しみ、軽くなった肩を回し、罪悪感がふと頭をよぎる。
それでも、良い。ヤスリが全てでなくてもいい。兄として、ヤスリを思い続けられるならば。
だって俺は、ヤスリのお兄ちゃんだから。
ヤスリを、世界で一番愛しているのだから。
「透くん、そろそろ出よう」
坂上さんが、玄関ドアから声をかけた。今日は、少し遠い現場だ。坂上さんの車に、乗せてもらうことになっている。
「はい、今行きます」
カタヌキ道具を詰めた安物のトートバッグを肩にかけ、立ち上がる。
「いってくるよ。ヤスリ」
あなたが好きだと言ったカタヌキをしながら。
あなたが暮らしたかったこの家に住みながら。
あなたがここにいてほしいと願いながら。
俺は今日も、穏やかな日々を過ごす。