いつから私はここに居るのだろう、瓦礫の山に囲まれ
私は膝を抱え蹲っている。
瓦礫は完全に外界との隙間塞ぎ、辺りはとても暗い。
しかし私はじっと待っていた、ここに居れば誰かが…
いや、あの人がやってきてくれる、そんな気がしたから。
そしてそれは現実となった
「千夜ちゃん?」
懐かしい聞き覚えのある声だ、その声の主が誰か間違うはずもない
私の姉、鮎阪日々々だ!
自分の手元さえ見ることが叶わないくらい暗かったのに、
お姉ちゃんの姿ははっきりと見える、あの頃と変わらない。
「お姉ちゃん!ずっと会いたかった!私、ついにやったんやね!」
思わず飛びつきたくなった私に、
お姉ちゃんは手の平を向け止まるように諭す。
「思い出して、C2バトルはまだ終わってないでしょ?これはただの夢」
「あ、ならお姉ちゃんは私の思い出の中のお姉ちゃんなんやね」
「まあ、そんなところ。アタシは千夜ちゃんの思い出の中に生きるアタシ」
私は少しガッカリした。
そうだ、これはいつもの夢だ、そして目の前のいるお姉ちゃんは
本物のお姉ちゃんじゃなくて、私の記憶が作り出したお姉ちゃんだ。
しかし、その元となった記憶は間違いなく私とお姉ちゃんの本物の記憶であり
会えた事がうれしい事には違いなかった。
「なんかお姉ちゃんの夢を見るのも久しぶりやな、
C2カードを手に入れる夢見たあの夜以来かな?
前は一週間に一回は見てたし、3日連続で見た事だってあったのに」
「ごめんね、アタシも本当はもっと頻繁に顔を出すつもりだったけど
作者が…遅筆とか怠慢とか……ね」
「作者…って…?」
「この物語の作者、…いやこの話はよそうか」
お姉ちゃんはなんだかばつが悪そうな表情をしていた。
「物語言うたら、お姉ちゃん、またお話し聞かせてよ」
私の思い出の中のお姉ちゃんは、よく夢の中で近くて遠い別の世界の話をしてくれた。
『勇者が軍資金集めるためトーナメントで戦う話』
『そのトーナメントで惨敗した男が弟妹とその友達に慰められる話』
『地獄に落ちた二人のやくざが黄泉返る話』
『きれいなチャラ男が世界をより善く変える話』
『夢の世界で女の子と竜が仲良くなる話』
『はかいしんとゆうしゃの切ない運命の話』
『恐ろしい殺人鬼がちっぽけな願いの為に色んな人に襲い掛かる話』
『友達の為に頑張って美味しい料理を用意した心優しい神父様の話』
他にもいっぱい。思い出の中のお姉ちゃんは、私の知らない色んな話を教えてくれた。
「本当に千夜ちゃんはアタシがする話が好きやね、
でも、今はここに語るべき物語はまだない。
それにもう時間がない、始まってしまう」
「お姉ちゃん、どっか行ってしまうん?」
「アタシはどこにも行かないよ、大丈夫。ここにいる」
お姉ちゃんは私ににっこりと笑って見せた。
ここが夢の中で、お姉ちゃんが思い出の中の存在だからだろうか
その笑顔はお姉ちゃんが最後に見せた笑顔によく似ていて
私はちょっと不安な気持ちになった。
「ごめんな、千夜ちゃんの願いを叶えてあげたいってゆう、
アタシの願いが千夜ちゃんを大変な目に合わせてしまって。
その結果オオカミに食べられ、お腹や頭を殴られ、…」
「お姉ちゃんが責任を感じんでええよ、これは自分で選んだことやし」
「ごめんな、複雑骨折せんかった?似た境遇の人間をナイフで八つ裂きにせんかった?
友達になった女の子を裏切って川に突き落とさへんかった?」
「や、そんな事は無かった…ハズ」
なんだかお姉ちゃんに言われるとそんな事が本当にあったような気がしてくる。
「ごめんな、今まで守ってあげれんくて、でも今度こそ……絶対に…」
そう言いながらお姉ちゃんは私をそっと抱きしめてくれた。
私の背丈は思い出の中のお姉ちゃんよりずっと大きくなったのに
私を包んだお姉ちゃんの体はあの頃のように、私よりもずっとずっと大きく感じた。
「ああ、もう時間が―――」
「お姉ちゃん私―――」
目を覚ました千夜は顔面じゅうを濡らしていた涙を拭うと、
部屋の片隅で身だしなみを整える友人にある提案をした。
大阪万国貿易センター
潮の香の漂う中、千夜はそこに建てられた記念碑をじっと見つめていた。
大阪に南港に存在する施設であるここは、嘗てある宗教団体によるテロの被害を受けた地であり
千夜の姉、日々々が亡くなった場所である。
一緒にやってきた友人たちは寂しそうな千夜の表情をじっと見つめ続けている。
やがて千夜は決意に満ちた表情をして、友人たちが自分の事を心配していた事に気付くと
にっこりと笑って見せた。
「や、なんか心配させたみたいでごめんね。もう大丈夫やから!
次の試合が最後になりそうやしちょっと決意を固めときたかっただけやし」
それはカラ元気のように見えたが心配すれば
余計に千夜の負担になるであろうと考えて友人の一人、古巣多舌は笑顔を返して答える。
「じゃ、そろそろ帰って次の戦いの作戦をねろっか!」
「や、せっかくやしショッピングとかしようや」
「私はそもそも買い物がメインだと聞いたのだが」
「……ちよちゃん、一緒にごはん食べて元気出して」
少女たちは楽しそうに笑う。
そして
そんな少女たちの戯れを引き裂くかのように
突如けたたましい音があたりに鳴り響いた。
「え、まさかこれは」
それはC2カードの発する警告音。
ENCOUNTERED A TARGET ENEMY
DEFEAT YOUR ENEMY BY ANY MEANS.
「ええ!?C2バトル!?」
「って事は10分以上前から1km以内に敵が居たってことやんな!?」
「先手を打たれるかもしれないまずいな」
「……ちよちゃん、あの向こう」
千夜の友人の一人が海を指さしその場の全員がそちらを向き、目を凝らすと
なんと海面に小さな肌色の二つの山が突き出ているのが見える。
「ああ!!ヤバい!多舌ちゃん!おねがい!!」
「リムやん、しどっち、一緒に逃げるで!」
多舌と千夜は直ぐにそれが何であるかを理解し
千夜は来る敵に備え身構え、多舌は二人の友人と共に逃げ出した。
やがて肌色の山が徐々にせまり、岸と目の鼻の先まで近づいたところで
その山は一瞬海へと姿を消し、そしてそこから
大事なところにしじみの貝殻を着けて隠しただけという
際どい姿の巨乳少女が現れた。
尻技の伝道師となった彼は自分に恨みのあるヤクザを避ける為に
四十八の殺尻技『屁呼吸潜水尻』によって海路使いながら日本各地を転々としていたのだ!
千夜は恐るべき相手、ゴブリーとあいまみえた!!
「ムム、あなたが鮎阪千夜ちゃんゴブね」
「や、な、なあゴブリーさんちょと私の話聞いて欲しいんやけどさ…
私ら、全敗の危機にある似たもん同士、まずは話をちょっとしたいんやけどさ…」
「ふむふむ、興味深いゴブね」
千夜の言葉に耳を傾けながらもゴブリーは尻を左右に振りながら近づいて来る
このままでは危険だ、相性が悪すぎる。
千夜の能力は『語り』によって相手を魅了する。
そして魅了された人間は『千夜へ直接危害を加える行為』と
『千夜の語りの妨げになる行為』が出来なくなる、
しかしながらどういった行為がこの二つに該当するかは
千夜ではなく、相手の認識によって決まるのだ。
つまりゴブリーがもし尻技を『千夜へ直接危害を加える行為』『千夜の語りの妨げになる行為』
と思っておらず、『エッチなサービス行為』等と認識していれば容赦なく行使できるのだ!ヤダ!!
千夜はゴブリーの様子を見て大急ぎでその場から退却。
一応は大声でゴブリーへと語りを行い、なんとか攻撃をやめるようつつも船着き場へと向かう
そして漁師が乗っている手ごろそうな漁船の一つに到着すると船員に能力を使いながら事情を説明し
今まで稼いだお金のうち20万円を渡し、漁船を使わせてもうう事にした。
そして千夜は海へと逃げ、ひとまずゴブリーの追撃を凌いだ。
かのように見えたがそれは違う!
再び『屁呼吸潜水尻』を使いゴブリーが接近してきている。
しかも先程よりもスピードが速い!猛烈に屁をこいてブーストしているのだ!
「ヤバい!おっちゃんとにかくスピード出して!」
船体に衝撃が走る!
ゴブリーが屁でトビウオの様に跳ねながら体当たりをしているのだ!
更に尻をうまく海面にぶつける事によって跳躍して方向転換も行っている!
「おいおい、これはいくらなんでもマズいで!」
「おっちゃん、この船ソナーかなんかない!?」
操縦を行う漁師にソナーの場所と操作方法を聞いた千夜は
その装置をカチカチと動かし始める。
「ゴーブゴブゴブ、細かい制御が効かなくてうまく船に乗れないけど
このまま体当たりで船を沈めてしまえば勝ちゴブ!」
空を飛ぶゴブリーの姿辺り一面にまき散らされる屁の臭いに耐えながら
千夜は必死にソナーの装置を弄る。そして漁師も必死に船を蛇行させゴブリーを回避しようとする。
しかし徐々に衝撃が強くなり船体が傾き始める!
万事休すか!?
「さあ、とどめゴブ!」
ゴブリーが最後の一撃と言わんばかりの勢いで海面から飛び出そうとした
しかし、次の瞬間異変が起こった!
ゴブリーが宙に浮いた瞬間、その身体が突然何かに巻き上げられたかのように
真上に飛ばされたかと思うと海面にたたきつけられた!
恐るべき巨大なナニワダイオウイカがゴブリーの体を捕らえたのだ!
ヒャッハー!触手レイプの始まりだ!!
その前に何故突然ナニワダイオウイカが現れたのかについて説明しよう。
先ほど千夜が船の装置を弄っていたのを皆さんは覚えているだろう。
あれは船のソナーを利用して海底に潜むナニワダイオウイカに
モールス信号を使い海物語を語り、そして
『続きが気になる場合はゴブリーを凌辱し尽してね』
元々千夜の能力は人外の生物に対しても効果がある。
しかしながらそれはその生物が千夜の『語り』を理解する必要がある。
ある程度千夜自身に懐いた動物であれば普通に喋るだけでも効果を発揮できたりするが
そうでなければ効果は殆ど発揮されない。
最初の戦いでニホンシンリンオオカミに貪り食われた千夜は
動物をけしかけられた際に対抗できる様に、ありとあらゆる動物に対する
意思疎通方法を事前に学んでいたのだ。
そしてイカをはじめとする頭足類は皆さんご存知の様に、
ある個体が試行錯誤してビンの蓋を開ける様を他の個体が見ると
その個体も学習してあっさりとビンの蓋を開けれるようになる程に賢い生物である。
そしてありとあらゆる生物の賢さは脳の大きさにある程度比例すると言われている。
ただでさえ賢いイカで尚且つこれだけのサイズのナニワダイオウイカである、
かなりの知能を持っているからモールス信号での会話も理解できるし
当然ながら千夜の願いもかなりの精度で理解可能なのだ!
やがて度重なる触手プレイによって蹂躙されているゴブリーの姿は徐々に
本来のメタボ体形のゴブリンに変わりつつある。
千夜はイカに向けて漁船の照明装置をカシャカシャと動かす。
『ありがとう ダイオウイカさん つぎはそいつを陸に叩きつけて』
マンメンミ!ダイオウイカが海面に出たため、今度は照明装置を使い
イカ言語モールス信号を送っているのだ!
そしてイカが岸を目指し始める。
しかしそこで異常が発生した!
突如イカは悶え苦しむような動きを始めた!
千夜は双眼鏡を使って様子を確認する。
イカ目がけて何者かがモリを飛ばして攻撃している!
「はっはっはー大きな獲物が現れよったでー!!」
「オラァ!オドレラァ!キバらんかい!死ぬ気でいくで!!」
大阪魔人漁業組合の皆さんだ!
沢山の漁船が対巨大海洋生物用銛射出装置を使って攻撃を行いながら
沖から集まり、イカを徐々に岸へと追い込んでいく。
「あっちゃーダイオウイカさん、ホンマごめんなさい…」
こいつ謝ってばっかだな。
やがて追い込まれたイカは沿岸施設の一つである
対巨大海洋生物用ハープーンを打ちこまれ、その巨体を岸へと打ち上げられた。
(や、でも目的は達成できそうやし、いっか)
イカだけに?
千夜はせめてもの償いとして、引き続きイカ言語モールス信号を使い
イカへの感謝と謝罪、そして海物語の続きを語った。
そして千夜は大急ぎで船を岸に着けると
ズタボロの肉塊と化したゴブリーの元へと慎重に近づき
尻からハミ出たC2カードを摘み引き抜いた。
「ゴブッ!!」
ゴブリーは小さく悲鳴を上げ放屁した。
千夜はゴブリーがまだ生きていた事と屁の気絶しそうな臭いに
慌てて飛び退きながら引き抜いたとてつもなく汚れたカードをビニール袋に入れた。
こうして千夜は最後の戦いをなんとか勝利した。
やがて地元の漁師達によりナニワダイオウイカのイカ焼き(イカを棒に刺して焼く奴じゃなくて
二つの鉄板を備えたプリントゴッコみたいな装置に挟んで作る小さめのお好み焼きみたいなやつ)
が振る舞われ、千夜とその仲間達、地元の漁師、そして治療を受けたゴブリーも
みんな仲良くイカ焼きを堪能し舌鼓をうちましたとさ。ヒンナヒンナ。
めでたしめでたし