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生徒会ss3




歌琴みらいSS後編【30点】


 その週の土曜日、みらいはとある心療内科で渡された問診票に記入をしていた。
ハルマゲドンの時に知り合った心理カウンセラーが普段務めている心療内科ということで、いい機会なので来てみることにしたのだ。
 ただの気休めにしかならないとしても、一応受けておきたかった。正直、こころだけではもはやどうしようもないレベルまで彼女は追い詰められている。
当のこころも、自分の力が及ばないことは重々承知していた。
 自分の番が来てカウンセリング室に入ると、数週間ぶりに見た男がいた。
「どうも、こんにちは。……はじめまして、ではないですね。歌琴みらいさん」
 何も言わずにこくんと肯くみらい。ハルマゲドン以来に対面したその男は、名を悠木悠といった。
 ハルマゲドンのその後について彼と軽く談笑をした後、すぐに本題に入った。

「それでは、相談内容についてお聞かせください」
 その言葉で、先ほどまでわずかに笑顔を見せていたみらいの顔が忽ち暗くなった。みらいは項垂れたまま、今までの敬意を話した。
 ”夢”だと思っていたことが、現実に起こっているということ。夢の内容が生々しすぎるということ。そして、かつてみらいが見た”昔のみらい”との遭遇について。
 そのすべてを伝えると、悠木はしばらくの間考え込んだ後、話し始める。
「……もしかして、歌琴さんはこれが魔人能力の仕業だとお考えですか?」
「!!……多少は、疑っています」
 悠木の発言は正鵠を射ていた。事実、みらいは自分の正気を疑いつつも、魔人能力の可能性も捨てきれていないでいる。
「まあ、この世界では『常識で理解出来ない事象は魔人が関係している』とまで言われますからね。疑ってもおかしくはありません。十中八九魔人の仕業と考えられます。
残りの一二は、貴方が正気でないということですが……まあ、その可能性はないものと考えた方がよいですね。確かに話は信じがたいものですが、
実際の事件とある程度リンクしてますし、魔人能力だと考えるほうが納得できます。となると問題は『誰』の能力かが問題なのですが」

 それに関しては、みらいも多少は考えたことがある。しかし、みらいの体験したことを引き起こせるような能力者はいないという結論になったはずだ。
 その旨を伝えたら、悠木は「その回答は想定内だ」と言わんばかりの顔をした。

「これは貴方の身の回りの人間に限った話ではありません。一度しか合っていない人間が貴方に能力をかけているかもしれませんし、テレビ越しに能力を発動する能力者がいても不思議ではありません。
それに、複数の人物が共謀しているという線もあります。まあ、あとは貴方が二重人格で、もう片方の人格が別の能力を持っているという可能性もありますね。これは実際にあった事例です」
 みらいは悠木の話に感心していた。同時に、そこまで考えが行き着かなかった自分の想像力の貧弱さを悔やんだ。
「あとは、能力者本人の無意識のうちに発動していたり、能力が暴走しているという可能性もありますね」

 悠木の言うことには、魔人の能力発動には様々な形態があるらしい。
 「無意識タイプ」は、本人の預かり知らぬところで勝手に能力が発動している、というものだ。
自動発動のようなものだが、厳密にはかなり違うのだという。みらいには違いがわからないが。
 「暴走タイプ」は、魔人能力が発現した直後と同じように、本人一人では能力の制御ができなくなる状態に陥るらしい。
しかし、暴走タイプのみの魔人能力者はごく僅かで、非常に珍しいのだという。
 「強化タイプ」は、既存の魔人能力がより強力になって発動するというタイプだ。
特に最近はこの手の能力者が多く、強化された時点で同時に「暴走タイプ」になることが多いらしい。

 いずれのタイプの能力発動も、本人の意志とは無関係に行われるなので、警戒が必要です。と念を押された。


「なんにせよ、重要なのは『犯人の目的は何か』です。いまは大丈夫かもしれませんが、周りの人間を始末していってから、
最終的にあなたを殺す事も考えられます。そうなると、今までの手口からしてあなたを殺す場合も、能力ではなく物理的に殺しにくる可能性が高い。
だから、抵抗できずに即死……などという理不尽な死にゲーのようなことにはならないでしょう。……と、僕が言えるのはこの程度ですね」
「ありがとうございました」
 みらいは頭を垂れた。
「いえ、結局問題は何も解決してませんし、何もお役に立てなくて申し訳ありません」
「いえ、とても参考になりました。それにしても……」
 どうしてそこまで詳しいんですか? と尋ねる。ただの心理カウンセラーがここまで知ってるのは少し不自然だ。
「……いろいろあるんですよ」

 結局、はぐらかされてしまった。



 悠木の診察(?)を受けて、みらいは多少は肩の荷が軽くなった。他人に話したことで気分が良くなったのだろう。
悠木の言うとおり、問題は何も解決はしていないが、今現在直面している問題に、前向きに対処できるようにはなった。
これは、何も出来ずに怯えていたときに比べればかなりの前進である。

 部屋に戻ると、こころは大儀そうに謎の準備体操をしている。部屋に入っていくみらいに抱きつくと、みらいに「カウンセリングはどうだった」と尋ねた。
「少し気分は良くなったかな」
「あー、確かに、ここを出る前より表情も柔らかくなったよねー」
 こころには「写心撮映(マインドテイカー)」があるのだから、表情など見なくても精神が安定しているというのはわかるのだ。
それでも、あえて能力に頼ろうとしないのは、親友としての意地なのだ。

 それとはまた別に、みらいにはひとつ懸念があった。こころも犯人の可能性があるということだ。悠木の説明にもあったように、
本人が意識しなくとも能力が発現することもあるし、強化されている場合もある。強化されたらどのような能力になるのか、
全く想像がつかない。だから誰にでも犯人の可能性がある。もちろんこころだけでなく、みらいにも同じことが言える。
 しかし、こころの笑顔を見てるとそんなことはどうでもいいように思えてきた。こころがそんなことをするはずがない、と。


 数週間後、事態は急展開を迎えた。
 今度は、埴井葦菜が襲われた。殺されたわけではなく、喉をえぐられていた。正確には鋸のようなもので引き裂かれていた。
 埴井葦菜は、呼吸はできるがまともに喋ることができなくなっていた。

 今回もまたみらいは夢を見た。埴井葦菜を襲撃する夢。もう思い出したくもない。思い出せば、また前みたいに気分が沈んでしまう。

 埴井葦菜の命に別状はないらしい。しかし、喉を潰されたせいで、しばらくアイドル稼業は休止としなければならなくなった。引退ではなく休止で済んだのは、
この怪我を直せる魔人がいるからだそうだ。そんな魔人を見つけ出せたのも、悪鬼悖屋Sucieがコネクションを最大限に使って見付け出したからだ。
治療には少なくとも半年はかかるが、そのかわり傷は完全に塞がり、もとのように歌えるようになる。
 埴井葦菜のような”原石”はそういない。多少傷がついたとしても、ダイヤモンドはダイヤモンドなのだ。完全に修復できるのなら、新たなアイドルを探すよりいいに決まっている。
 この件は、犯人にとっては想定外で、知る由もない。

 このニュースはみらいにとってかなり衝撃的なニュースだった。自分が追い抜いてやろうと必死になっていた相手が、活動を休止するのだ。
 この間にシングルを出せれば、間違いなく一位に輝けるだろう。だが、それでは意味がない。埴井葦菜を抑えて一位になることに意義がある。
 埴井葦菜がいない間、みらいは何をするべきかわからなくなっていた。



 この日、みらいは早い時間に眠った。いつもより早く寝て、気を紛らわそうと考えた。
眠れないかと思ったが、意外に十数分で眠りに落ちることができた。
 早く寝た分だけ、彼女は早く起きた。いや、起きてしまった。午前四時。普通ならまだ寝てる時間だ。
しかし、それほど眠いわけでもなく、完全に覚醒していたため、太陽が顔を出すまで何かをすることにした。
 なにをしようというわけでもないが、まずはこころの寝顔を覗き込んだ。ぷにぷにとやわらかいほっぺをつついてやると、かわいい反応をするので癖になりそうだ。
 次に、何か本でも読もうと思ったが何も無いのに気づいて、辞めにした。
 本当に何もすることがないので、みらいは洗面所へ向かった。顔を洗ったら一層眠気が飛んでしまうが、ここは開き直って飛ばすことにしたのだ。

 顔を洗っている最中に後ろから不気味な笑い声が聞こえた。すぐに洗い流して後ろを見たが、誰もいなかった。
既視感がある。だから、彼女はそのまま自分の部屋に駆け込んだ。
 鍵をかけたことを確認すると、安堵の溜息をついた。今度は大丈夫だろう、と思い無意識に鏡を覗き込んだ。

 ―――その瞬間、鏡の中のみらいは嗤っていた。

 みらいは驚愕し、その場で後ずさりをした。後ろの何かとぶつかったような感触。
 恐る恐る後ろを見てみると、かつてのみらいの服を着て、化粧して……そこにいたのは、まぎれもなく―――

「こころ……? 何を、やってるの……?」

 背後にいたのは、売れなかった頃のみらいの姿をしていた……こころだった。手には、血まみれの鋸。

「どう? みらいちゃん。私、似合ってるかな?」

 無邪気な声でみらいに語りかける。

 覚悟はしていたはずだった。こころだって、犯人かもしれないと、わかっていたはずなのに。それでも、こころは犯人ではないと信じたかった。

「私ね、昔のみらいちゃんが好きだったんだ。私はみらいちゃんのファン一号で、ずっと応援してきたのは、みらいちゃんも知ってるよね」

 みらいは一歩ずつ、出口に向かって後ずさりを続けた。

「確かに、みらいちゃんの業績はあまり芳しくなかった。それでも、真面目にやっていればいつか報われるだろうって、信じてた」

 ドアに背をつけたら、今度は鍵を外した。

「でもさ、みらいちゃんいつからか、執念で動くようになってた。あんな汚いおじいさんと寝ちゃうようになって、ああ、もう私のみらいちゃんはいないんだなって、確信したよ。
だから、私が今のみらいちゃんのアイドルの座だけもらって、本当のみらいちゃんを取り戻してあげる。だから今ここで……」

 どこからともなく取り出したアイスピックを振り上げた。



「死んで」



 その言葉が聞こえたとき、みらいは一目散に部屋の外へ逃げ出した。
「……逃さない!!」
 こころは、逃げたみらいの後を追った。


 逃げ出したところで、逃げるアテもない。どこに逃げればいいのかもわからない。
だが、ひたすら逃げるしか、みらいには道がない。
 階段を降りたところで躓いてしまい、勢い余って壁にぶつかってしまった。

「あ……ぁ……ううう……」

 みらいは悲痛な呻き声を上げる。背中が痛い。だけど、逃げなければ。逃げなければ、殺されてしまう。
 階段から響いてくる足音に反応して、彼女はよろよろと立ち上がり、痛みをこらえながら走りだす。


 しかし、体力はそう長くは持たなかった。みらいは行き止まりにて、こころに追い詰められた。

「ほら、もう諦めて。大丈夫。私がうまくやってくから、心配しなくていいんだよ」

 一歩一歩、ジリジリと追い詰められていく。
 みらいは肩で呼吸しながら、逃げるタイミングを伺っていた。しかし、残り体力で逃げたところで、何が出来るだろうか。

 ―――もう、殺すか、殺されるしかないんだ―――

 みらいは覚悟を決めた。もう、本気でやるしかない。そして、それを悟られぬように。

 気づけば、こころはみらいの目と鼻の先だった。
 動かないみらいに対して、こころは無言でアイスピックを振り上げ、勢い良く振り下ろした。

 ほんの一瞬の出来事だった。
 みらいはこころが振り下ろした手をつかみ、そのまま腹に突き刺す。

 こころは何が起こったのかわからない様子で、しばらく棒立ちになっていた。
 その隙を突いて、みらいはこころを突き飛ばした。

 仰向けになっているこころの腹部に突き刺さっているアイスピックを、さらに深くまで突き刺してやった。
 こころの甲高い悲鳴が響き渡った。痛い、痛いと泣き叫んで、命乞いをしている。

「みらいちゃん、助けて、痛いよ、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛―――っ!」

 大粒の涙をポロポロ零して、必死に声を上げている。だが、みらいは聞く耳を持たない。
 もう一回、腹部にアイスピックを思い切り突き刺した。何度も、何度も突き刺した。

 そのたびに―――みらいは涙を流していた。

 叫び声が聞こえなくなり、みらいが疲れ果てた頃―――こころの腹部は蜂の巣になっていた。


【 幕 魔 ~負け犬たちのサーカス~】【40点】


○敗走
ついに切って落とされた生徒会と番長グループとの抗争、戦局は二転三転し、混迷、気が付くと生徒会は敗走の一途を辿っていた。

「何でこんなことに…何で」
シャギーの入ったレイヤーボブを揺らし、彼女、ヤモト・コキは一人地をかける。
状況は全くわからなかったが、こうなった時の自分たちのとるべき行動はきまっていた。この学園でよく使う、あの『合言葉』だ。

「…のところへ」

彼女は死を恐れぬ手芸者であった。

安息など無縁の抜け手芸者であった。

その抜け手芸の中、自らが道を開き開祖となり、後達の途を付けた手芸者(フルツワモノ)であった。

だが今は
「早く…安全なところに…」
歴戦のツワモノの姿はない。仲間を置き去り敵に背を向ける敗残の兵。そして一路、目的地にひた走る。
そこは事前に示し合わせた生徒側の再集結地点、そこなら安心、彼女たちの陣営の無効化能力者が鉄壁のフィールドを張っているはずだ。

「この扉を開ければ安全…」
ガサリ、嫌な音がした

だがそこは何時ものあの温かな空間はなく、出迎えたのは笑顔でなく、
暗い目をした異形の蜘蛛の女子、その鋭い前足は若い男の死体に喰らいついていた。

なんだこれは、そこは全然安全ではなかった、戦場の続きだった。温かくもなくていい匂いもなくて何時も笑顔もなくて何一つ安心の要素がなくて、
目の前のこいつは仲間だった男を殺していて男の仲間は既に敵に殺されていて…いて…いて…いて
混乱と瞬巡、そして、次に来たのは
「『アレ』をどこにやったぁぁぁぁあ」
憤怒であった。
安全だと思っていたのに、ここに来れば助かると思ったのに安全!安全!安全IN!!
湧き出た殺意の矛先は容赦なく目の前の相手に向けられる。
人は最初から手にしてなければ諦めが付く、だが一度与えられ奪われたら、或いは与えられたそれが偽りとしったら正気を保てるだろうか

かくて異形の蜘蛛人は狂い
      異邦の来人を噛み殺し、
                  血塗れた蜘蛛は手芸者の的にされる。

そして手芸者ヤモト・コキは背に甲冑の鈍い一撃を受け、崩れ落ちる。
運命は残酷だ。だがこれは本当に運命が仕組んだことなのだろうか。

○教室1
死体の山を前に両腕を手錠で拘束された、長身の少女
「なんでこんなことに、なっちゃったのかな」

累々と折り重なる悪意の連鎖に、ただ呆然と立ちすくむ。
無論、彼女はその狂乱の契機に、自陣営の謀略能力者の暗躍があったなどという『真相』は知る由もなかった。



○教室2
「どうしてこんなことに」
そしてところ変わり、待ち合わせの場所
安全院もまた愕然とする。ただ彼女は他の人間より、少しだけ『真相』に近い位置にいる。

まず、自分の臆病風が伝線したのではと可能性を考えた。
彼女の施した刷り込みの庇護下・影響下にいるものは、安全院の精神の影響をダイレクトに受ける。それが影響を与えたのではないかと。

その顕著な例が精神攻撃の扱いである。
絶対安全と刷り込まれた御茶会フィールドへの信頼は対象者から能力抵抗という選択肢を奪う。
はなから無効化されると『認識』しているので抵抗が出来ない。安全院がその能力の無効化に失敗すればそこで効果が発揮する。
精神攻撃の効果が同マス即死効果ならそのまま全員綺麗に即死するのだ。
今更ポロっとロクでもないこと言い出すなといわれそうだが、だってそういう仕様なんだもん全く訳が分からないよ。
…ともかく彼女の『安全神話』はそこまでの依存状態を全員に作り出しているのだ。

ただ、それだと仲間同士の殺し合いの連鎖まで説明が付かない。ゴクソツ不発までは『自分達の作戦上』有りえる話だからだ。
「あ」
ここで安全院は自分が学園内で施していた施策、それが裏目に出ていることを悟る。

彼女達自身のメンタルを自分が弱くしていたのだ。
偽りの安息は確かに、不安に怯える羊たちを癒し導くのに有効に働く。
だが強すぎる依存心は人の心を脆くする、死線を潜り牙を突きたてないといけない狼達にとって『安全と安息の約束の地』など害毒にしかならない。

『後のない』番長グループ。『いざとなれば安全なところに逃げ込めれる』生徒会。この差はかなり大きかったのである。
絶えず自分を見つめて(若干語弊があるが物理的にだ)一番彼女からの浸食が薄かった生徒会長のうつるとミラが死中に活を見出し唯一生き残り、残りが全員息絶えることになったこも何か暗示的な結果であった。
ましてや待ち合わせ場所が偽りのモノだと知れば…

心の中でカタカタカタと火をかけ過ぎたポットが湯気をだし音を立てる。
その様をどこか冷静に見詰めつつ
「それでも止まるわけには…今、止めるわけには…」
彼女は呟く。心の痛みは安全装置なのだ、何も感じなくなってしまえばそこで終わる。だがその終わりもまた近いことを直感していた。

過ちに気付いた時には、もう遅い。それは『安全神話』の共通項である。
(終)


歌琴みらいSSエピローグ【10×5=50】


 今回の事件を受けて妃芽薗学園は、入院中の写六こころに一ヶ月の謹慎処分を下した。尤も、謹慎処分は建前で実際は外部の人間に事件を嗅ぎつけられることを恐れているだけである。
 学園自治法があるといはいえ、この手の事件を嗅ぎつけ、執拗に取材をするマスコミは腐るほどいる。
 人の口に戸は立てられない。関係が無かったり名前を知らなかったとしても、「事件を起こした生徒がいる」という噂だけで、一般生徒は恐怖せざるをえない。
もしその犯人を謹慎してあるという事実があれば、気休め程度でも役に立つだろうと判断した。ゆえに、こころに謹慎処分を下したのだ。
 無論、根本的な解決にはなってはいないのは確かだ。


 歌琴みらいの話へ移行しよう。
 今現在、彼女は何をするべきなのかと頭を抱えていた。
 アイドル活動の方に支障はなかった。プロデューサーの死後、みらいはアイドルとしての活動を事実上休止していた。サード・シングルは未だに発売を延期したままであり、
ほとんどの活動に対して「諸事情により延期」としか回答できない状況だった。だが、共に活動してきたスタッフや、励ましの手紙を送ってくれる多数のファンのお陰で、
少しづつではあるが活動を再開し始めている。
 また、学校側もみらいのアイドル活動を半ば公認しており―――実際は黙殺しているだけだが―――今のままで何も問題はない。

 むしろ心配なのは、写六こころの件がである。先述したように、こころには謹慎処分が下されている。謹慎中も心配だが、それ以上に謹慎が終わった後が問題なのだ。
 もともと受動的に発揮される読心術のせいで、こころの周りにはあまり人がいなかった。その上、今回の事件で今まで以上に他人から避けられてしまうということは、火を見るより明らかだ。
 むしろ、今自分が行っていいのか、という想いが強かった。あれだけメッタ刺しにした後に、友達面しながら会えるほどみらいは鈍くなかった。



 気づいたら、また例の心療内科へと来ていた。
 心理カウンセラーの悠木悠ならとりあえずアドバイスくらいはもらえるだろう、無策で行くよりはベターだろうと尤もらしい理由はつけてある。
実際は決断を先送りにし、体よく他人に委ねようとしているだけなのだが。
 カウンセラー室にはいると、例のごとく悠木悠がいた。この心療内科の方針として、患者一人にはそれぞれ担当医をつけることになっているため、
休みなどで不在の場合を除けば基本的に同じカウンセラーが担当することになっている。
 悠木は話を切り出す。
「さて……今日の相談内容は貴方の”夢”の件ですか? それとも、解決後の”事後処理”ですか? ……おそらく、後者でしょうけど」
 見抜かれた。みらいは驚嘆しながら、黙って頷いた。
 悠木曰く、前回訪ねてきた時と表情やら仕草やらが変わっていたらしく、その変化から「また新たな問題が発生した」というサインを受け取れたそうだ。

 みらいは悠木に、あの暁の出来事を話した。こころがみらいを殺しかけたこと、みらいがこころに対して「悪意を持って」腹部を何度も刺したこと。
そして、こころが現在入院中であり謹慎中の身であるということも。
 なにか声をかけてあげたいとおもっているのだが、そのようなことをしでかしておいてずかずかと会いにいけない。
何をすればいいかもわからないし、なにかいい方法はないだろうか、と彼女は尋ねた。
「そうですね。貴方の言うとおり、こころさんをこのまま放置するのはあまりよろしくないでしょう。そのための和解手段は二つほど挙げられます」
 そのひとつ目として、悠木はできるだけその事件に触れないことを挙げた。お見舞い等にかこつけて適当な世間話をするのがいい。
これの欠点としては時間がかかる、事件の話を切り出すタイミングがつかみにくいなどがあり、悠木としてはお勧めしていない。
 二つ目は、さっさと事件の話を切り出すこと。しかし、こんなことができるなら相談に来ていない。
「無論、解決方法がたったこれだけというわけではありませんし、今挙げた二つもこころさんには意味が無いかもしれませんしね。何より……」
 悠木は一呼吸おいた。
「一番大事なのは『貴方がどうしたいか』です。それだけは、覚えておいてください」
 悠木悠の診察(?)はこれで終了した。結局、何も解決できていない。だが、カウンセリングはあくまで気分を晴らしたり、アドバイスをしたりするのが主な仕事であって、
対人関係をどうこうするのにおいては、結局当事者同士でどうにかしなければならないのだから、間違ってはいない。

 帰路の途中、みらいは悠木の言葉を思い出す。
「一番大事なのは『貴方がどうしたいか』」と彼は言った。そんなことは明解だ。こころと仲直りがしたい。そのために、こころと会って話をしなければならないなら、そうするつもりだ。
 こころと会わずに仲直りできる方法があるなんて全く考えられない。だから、答えはひとつしかない。


 翌日、みらいはこころが入院してる病院へと足を運んだ。適当な果物を持ってきて、お見舞いに来たという口実にするつもりだ。
 こころのいる病室の前についたとき、足が震えているのに気づいた。しかし、気づかないふりをして扉をゆっくりと開けた。

 こころは窓際のベッドにいた。みらいが入ってきたことに気づかず、ただ外を眺めていた。微動だにしないその姿は、まるで人形のようだった。
「あの、こころ……」
 みらいの声を聞いた途端、こころは驚いた顔でみらいを見た。
「み……みらいちゃん、どうして……!?」
「えっと、ね。お見舞いに、来たの」
 言葉を途切れ途切れにしながらも、持ってきた果物を差し出した。
 こころは驚きを隠せないまま、目をあちらこちらへと動かしたあと、頬を赤らめて「ありがとう」と呟いた。
「あの、こころ、一ヶ月謹慎だって……」
「知ってる。学園の人が伝えに来たから」
「そっか……」
 その後の会話が続かなかった。会話のネタがないというのも理由の一つだが、それ以上に話を切り出す度胸がなかった。
 だから、遠まわしに訊くことにしたのだ。後になって、あまりよくない質問の仕方だったかもしれないと思うわけだが。
「その、さ。怪我は、どうなの?」
「んー。結構順調に回復してるよ。まあ、やっぱ魔人だからかな? 無駄に耐久力あってよかったなーって思っちゃった。あはは」
 こころは曇のない笑顔を見せた。その笑顔で、みらいは胸が締め付けられるような感覚に陥った。
 こころの方が辛いはずなのに。どうして平気でいられるんだろう。
 いや。それだけじゃない。彼女がしでかしたことは、もともと自分のせいなのに。

「ごめんね、こころ……」

 いつの間にかそんな言葉が漏れていた。彼女の怪我の事で謝ったのかどうかはみらい本人にもわからない。

 結局、その日は大して何も話さずに終わってしまった。二人の間には始終何とも言い難い空気が漂っていた。
 みらいが時間を確認し椅子から立ち上がると、無機物のようだったこころがみらいに対して身体を向けた。
「もう、帰っちゃうの?」
「うん。もう遅いしね」
「そっか」
 みらいの目にはこころが落ち込んでいるように映った。ここで何一つとしてフォローできない自分を厭わしく感じている。
「じゃあね、こころ」
「うん……」
 みらいが足を進めようとしたと瞬間、こころはみらいの袖を掴んでいた。
「こころ?」
「みらいちゃん……ありがとう」
 小さい声だったけれど、その声は確かにみらいに届いていた。
 みらいは急な事態に同様していたが、少しだけ照れくさそうに返事をする。
「えっと……あの、来れる日は、毎日来るようにするね」
 こころは何も言わず、微笑みながらみらいを見送った。

 それから、約束通りみらいはこころのもとへ毎日通うになった。無論、アイドルの仕事で多忙な日は行けないにしても、それでもこころを心配させまいと毎日お見舞いにいっていた。
退屈凌ぎにいろいろな本を持ってきたりしていたが、肝心の事件の話については一向に触れられずにいた。それどころか、まともに会話を交わすことも少ないままだった。
 にも関わらず、二人の仲は以前にも増して仲が深まったようにも思える。




 一ヶ月が経ち、こころの謹慎が解除されると、こころはみらいと同室になった。
 それもそのはず、みらいは学園側に直談判したのだ。当然ながら、最初は学園側は拒否をしていた。だが、みらいの熱弁という名のしつこい訴えに、終に学園側が折れて認めることになった。

 こころが扉を開けると、みらいが飛びついてきた。
「おかえり、こころ! 久しぶり!」
「あはは、ほとんど毎日会ってたでしょー。みらいちゃん」
 これがやりたかっただけで、特に深い意味はなかった。
 部屋の中で二人がいろいろと戯れていると、みらいの携帯の着信音が鳴り響いた。携帯を取ると、その場で電話に出た。
「もしもし、歌琴です」
 相手は所属事務所のスタッフだった。電話の内容は、延期していたサード・シングルの発売日が確定したということだった。
それに合わせて、録り直しをしないかという提案だった。当然。承諾した。プロデューサーの指示通りの歌には、もううんざりしていたからだ。
「はい。それでは失礼します!」
 朗らかな声で話しているみらい。電話を切った後、二人で喜んだ。

 みらいの所属している事務所は、あのプロデューサーの力が強く、ほとんど独裁状態だった。
当然ながらそれに対して反発していた者も多かったが、そういった者の多くは事務所内でも雑用程度の仕事しかさせられてこなかった。
 だから、プロデューサーが死亡して以降はその路線を取らなくなっていた。やつの悪趣味のために働くのは御免被るという者たちが、多数派を占めるようになっていたためである。
 みらいもその流れに則り、少しづつ路線変更をしていくのだという。それは、小さい頃に目指していたアイドルに近づけているということを意味していた。

「みらいちゃん、あのさ、今日一緒に寝てもいいかな?」
 就寝直前、こころは大胆な提案をしてきた。
「こころ!? 急に何を……」
「みらいちゃんが毎日来てくれたのは嬉しかったけど、やっぱり一人はすごい寂しかった。今日だけで、いいから……」
 こころはもじもじと照れくさそうにしながら言った。
「駄目、なんていうわけないでしょ」
 照れくさかったのは、こころだけではなかったが。
「えへへ。ありがとう、みらいちゃん」
 二人は、同じベッドの中でぎゅっと手を握った。

 歌琴みらいは考える。
 まだ、彼女には解決していない問題がある。埴井葦菜の件だ。
 こころが襲った二人と違い、埴井葦菜には顔を見られているのだ。だから、埴井葦菜を説得に行こうと考えていた。
無論、最悪の事態も想定はしている。最悪、と言ってもそれは本来行われるべき処置なのだが。
 できるだけ早いうちに行っておかなければならない。

 しかし、だ。今ここで、ささやかな幸せを享受するのは、問題ないだろう。
 今だけ、こうやって二人で一緒に寝るくらいならいいよね?
 この幸せを止める権利は誰にもありはしないのだから。


写六こころ(しゃろく-) 女性
妃芽薗学園二年生

幼い頃、読心術をやっていたテレビを見て、自分も真似をしていたらいつの間にか魔人として覚醒した。
彼女の能力ゆえ、誰もができるだけこころを読まれないようにしたいと思うようになったため、周りの人からは避けられていた。
その中で唯一こころに近づいて手を差し伸べてくれたのがみらいだった。だから、彼女にとってみらいは今でも唯一の親友である。

能力名 写心撮映(マインドテイカー)
周囲五メートル以内にいる人物の心の声や記憶、無意識の意思を読むことができる能力。
この能力は受動的に発動されているため、彼女が制御することはできない。

このSS内では、彼女の能力は「無意識化」し「暴走」し「強化」されていた。
強化後の能力は、読み取った心から得た記憶や感情をもとに自分と読み取った心の対象者の記憶、感情を共有する効果。
そして、それを外側にも反映するため、外見も共有することになる。
また、共有中の自分が何らかのアクションを起こしたとき、それによる結果の修正が可能になる。
つまり、今回の事件でこころが逮捕されていないのは、その能力で証拠を隠滅していたためである。
修正に時間がかかるものもあり、それは物によって時間差がある。例えば、血液だと最低でも2日はかかる、など。

要するに、強化後はかなり都合のいい能力なのだ。



SSラジオ放送『 妃芽薗学園、明日の天気 』【1点】


8月27日夜 妃芽薗学園の天気予報をお知らせします。

学園内、血の雨、

ところにより流星雨、

のち、


「 ロォォォォォドォォォ・ローーーーーラだぁぁぁぁああ!!!」


フハハハハハッハハハ!!!

一般生徒は無用な夜間の外出は避け、ヒハyの中でガタガタ震えているようにWRRRRRRRRRY!


以上、転校生からのお知らせでした。





ε:傘をさしても無駄無駄無駄無駄ァ────ッ!!!