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**ひなまつり:柚原このみ 今日はひな祭り。 高校1年生にもなって何を言ってるの? ってよく言われるけど、好きなんだもん。 あーあ、どうせなら昨日の日曜日だったらよかったのに。 言っても仕方ないしね。 豪勢になるであろう今晩の夕飯に想いを馳せながら、軽くスキップを交えながら家に帰る。 家に着く頃には、恐らく自分の家から匂ってきてると思しきカレーの匂いがする。 今日は必殺カレーなのかな? 作ってるところ、私も見たかったなぁ。 でもお母さんが作る本気の必殺カレーはめったに食べられないので それだけでも心が躍る。本当においしいんだよ? 途中からでも教えてもらえるかな、必殺カレー…… 私は少し足を速めて、玄関のドアを元気にあける。 「ただいまー!」 「おかえり~」 リビングからピンクの髪をした一人のメイドロボが笑顔で玄関を覗き込んできた。 「あ! ミルファさんだ! 来てたんだ~、えへ~」 「ミルファさんだなんて、余所余所しい事言わないでよぉ。お姉ちゃんって言いなさい」 「あら、お姉ちゃんは私の役目よ。奪わないで欲しいわね」 冗談交じりのミルファさんの言葉に反応して、もう一人リビングから出てくる。 「あ! タマお姉ちゃんも来てたんだ!」 リビングから顔だけ出しているミルファさんを押しのけて玄関に迎えに来てくれる。 急いで靴を脱ぎ、久しぶりに会うタマお姉ちゃんに抱きつく。 「あらあら、いつまでたっても甘えん坊ねぇ」 クスクスと口に手をあてて笑うタマお姉ちゃんは相変わらず美人だ。 いつかこうなりたいなぁ。 タマお姉ちゃんに連れられてリビングに入ると、まずはミルファさんに目が行く。 「ふぇ!? ミルファさん……それ、こいのぼりだよね……?」 「……言わないで。もう散々、皆にからかわれたんだから」 悲しそうな顔をしてうつむくミルファさんはスカートの代わりに鯉のぼりを腰に巻きつけて立ってた。 たぶんこれは本気なんだろうなぁ。 「ほら、ミルファは放っておいて着替えてらっしゃい」 「はぁい!」 元気に返事を返して、自分の部屋に戻る。 着替えた後は、私もキッチンに向かうつもりでマイエプロンを持って部屋を出た。 これもタマお姉ちゃんに昔もらったお気に入りのやつだ。 あんまり身長伸びないからずっと使えるんだよ。 キッチンに入ると案の定というか、お母さんとシルファがキッチンに立ってカレーを作ってた。 「おかあさぁ~ん、シルファばっかりずるいでありますよ~!」 「だってアナタ、まだ包丁持つ手が危なっかしいんだもの」 「う~、またシルファを贔屓する~」 「もう……途中からだけど教えてあげるから泣かないの」 「まぁったく、泣き虫れすねぇ」 シルファにからかわれながらも皆で作るカレーは楽しかった。 味付けはもちろんお母さんだけど。 いつかは私も一人で作れるようになるもんね。 これはシルファと競争してる事。 最近、家にいるのをいい事におかあさんに色々教えてもらってるみたいだ。 夕飯の準備も整い、いつの間にか来てた雄くんも一緒に皆でトランプして遊んでたら 待ち望んだドアの音がなる。 「ただいまー」 その声にお迎えに行こうと思ったけど、タマお姉ちゃんに止められた。 すぐ横をお母さんがいそいそと通り過ぎて、玄関に走ってった。 家の中で走らなくても、と思ったけどお母さんの嬉しそうな顔を見てると言う気もなくなっちゃった。 「おかえりタカくん!」 「ただいま、このみ」 「あれ? なにそれ?」 「後でのお楽しみだ。皆来てるんだろ? 早くご飯にしよう」 お父さんとお母さんが腕を組んでリビングに戻ってくる。 「おかえり、おとーさん」 「おかえりタカ坊」 「……うー。やっぱり我慢できない! ダーリンお帰りー!」 「こら! バカミルミル! ご主人様はこのこのとシルファのものれすよ!」 「さりげなくシルファのとか言ってんじゃないわよ!」 「よっ、お疲れハーレム王」 キシシ、と雄くんが笑った。 そんな光景を見ながら、苦笑いを浮かべたお父さんが差し出したもの。 それは私にはちょっと遅いひな壇。 このひな壇が家族総出を上げての争奪戦となったのはまた別のお話。 やさしい両親と、楽しい家族に囲まれて私は幸せです。
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