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*GKによるSS #contents ***『識家の音楽会』 「よし、次はこっちの世界とあっちの世界を接合させて…………ふう!」 「えっと、この子の関係性を剥奪して、こっちの子に再付与して…………はあ」 「おいおい! またスズハラ機関が新しい『転校生』を作ってるぞ! なんなんだよ、一体……!」 ここは『サヘートマヘート』空間。 白痴のごとき末那識千尋を中心に据えて、その周りで識家のみんなが一生懸命毎日の仕事に励んでいる。 「ふう……識家の仕事は疲れるなあ。おい、こんなときは"アレ"だ……」 「あっ、"アレ"ね……!」 「いいな! 気分転換にはやっぱり"アレ"だよな!」 意気投合する識家。 阿摩羅識あらかは一度奥に引っ込んだかと思うと、どこからか太鼓を取り出してきて、 ボン、テン、ポン と叩きはじめた。 「イエェー!」 「ヤフー!」 そう、音楽会である。 識家では仕事に疲れたとき、みんなで音楽会を開いてストレス発散するのが倣いであった。 ボン、テン、ポン。 それにしても下手糞な太鼓である。 いや、しかし、技術に囚われず思いのままに太鼓を打ち鳴らす姿はパンクロックと言えるのかもしれない。 「そうだ、あたし、最近フルート始めたの」 今度は阿頼耶識そらがフルートを取り出す。 ぴー、ぷー、ぷふぃー。 これまた下手糞で単調な、実に雑音のごとき音色である。 しかし、これほど下手糞でありながらも人前で憚りなく演奏する態度は、やはりこれもパンクロックと言えるのかもしれない。 「イエーイ!」 「チェーキラー!」 なんとパンクなことだろうか。 どうしょうもない太鼓とフルートにもかかわらず、識家の連中はノリノリで踊り狂っている。 す、すると、どうしたことか――! 普段は白痴のごとくに鎮座まします末那識千尋までが、両手を空に彷徨わせ、まるで踊っているかのような姿を見せ始めたではないか。 それだけではない! あらかやそらのパンクロックにあてられたのか、千尋は「Fuck!」「Shit!」と、冒涜的な言葉さえ紡ぎはじめている! 「見て! 千尋ちゃんが踊ってる!」 「おお、千尋嬢にも音楽を愛する心があるのか!」 識家の連中もノリノリだ! 「あっ、そうだ。忘れてたわ」 今度は阿頼耶識ゆまが懐からヘッドドレスを取り出した。 メイドさんが頭に付けてるアレである。 「千尋ちゃん、ハゲだけど似合うかなと思って」 といって、千尋のハゲ頭にポンとかぶせてみる。 主家の令嬢に対する態度とも思えぬが、ゆまの稚気に識家一同はやっぱりノリノリだ! 「これはあざとすw 萌えーwwww」 「テラあざとすwwwww」 「マジあざとすwwww」 こうして識家のみんなは、下劣な太鼓とかぼそく単調なフルートの音色がひびく『サヘートマヘート』空間の深遠にて、冒涜的な言葉を吐き散らす千尋を中心に小一時間ほど踊り狂った後、ごはんを食べてから仕事に戻ったのであった。 ――ところで。 本来、『ルンビニー』世界に存在する者は『サヘートマヘート』空間に関与することは一切不可能なはずである。 だが、世の中には「見神」と呼ばれる体験が存在する。 この世ならざるものの姿を不意に垣間見ること。 それは『ルンビニー』世界においても起こりうる。 その男、魔人アブドゥル・アルハザッド、――後に「狂えるアラブ人」と呼ばれるかの男が識家の音楽会を目にしたのも、稀ではあるが、決して不思議なことではない。 そして、彼はその奇妙なヴィジョンを一冊の書物に書き記した。原題『アル・アジフ』。後の世に『ネクロノミコン』と改題されることになるその書は、アッシュの手を経由し、出鯉真名の手に渡り、彼女にこの世の理を気付かせる一助となる運命であるが、それはまた後のお話……。
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