プロローグ(‟傷跡の送り手“パーシリヴァル)

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プロローグ(‟傷跡の送り手“パーシリヴァル)『物語は常にシリアスにすすめたい』


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少年には秘密がある。

桜並木が色づく季節。
少年は軽やかな足取りで通学路を歩く。
空は青く、白い雲がゆったりと風に流されている。

希望崎学園に続く道路には朽ち果てたバリケード封鎖跡や錆び付いた立て看板が散乱していた。
かつて大規模な学園内抗争が行われた際の名残だ。

【この先、DANGEROUS!命の保証なし】

錆び付いた看板に書かれた文字から希望崎学園の事を戦闘破壊学園ダンゲロスと呼ぶ者も少なくはない。
最近は大規模な魔人抗争もなく平和な日常の空気が学園に漂っている。

舞い落ちる桜の花が、春という季節が少年の心を浮つかせる。
物語の様な出会いを夢見てしまうのは少年の特権だ。

だが、忘れるなかれ。
ここは暴力と恐怖が支配する戦闘破壊学園なのだ。

「うぇ、うぐ。ぐす、うえーん」

道端で座り込んで泣いている小学生くらいの男の子を不良たちが取り囲んでいた。

「だオラ!」「ンだコラ!」「黙れよクソが!」

だみ声でスラング混じりの威圧的なヤンキー言葉は日本語として認識し難く何を喚いているのか理解できない。
だが、その言葉は気弱な少年の心を挫くには十分だった。

晴れやかな気持ちは一転し、新学期早々後ろめたい気持ちを胸にこの場を立ち去ろうとする少年を責める事は誰にも出来はしない。

ただ顔を背けるだけだ。

仮面さえあればこの場を何とかできたかもしれない。
しかし、学校指定の通学鞄の中には騎士の仮面はない。
無力な少年は地面を眺め何事も無かったかのように通り過ぎれば無用な争いに巻き込まれる事は無いのだから。

そう考えて足を踏み出そうとした少年の横を一陣の風が通り過ぎた。

「こらぁ!貴方達!何やってるの!」

緑色の見慣れぬブレザー。
後ろで纏められた髪の毛が走るリズムに合わせて忙しなく揺れた。
その少女は凄まじい勢いで男の子と不良達の間に割って入ると拳を構える。
それは思ったよりもしっかりとした構えで何らかの武術の心得を感じさせた。
彼女が強がりではなく理由によっては不良と戦う事も辞さない決意を持っている事が解る。

心が、騒めく。
いかに少女がそれなりの腕前だろうと希望崎学園の不良三人相手では分が悪い。

少年は思わず走り出していた。
そんな勇気は持っていなかったと思っていたのに。

少女と男の子を庇うように少年は不良達の前に立つ。

少女は少年の方を見て一瞬驚いた顔をした後、微笑んだ。

「子供を虐めるとか、格好悪いと思わないの?」

少女の声は良く通り少年の心に勇気となって響く。
少年は不良達を睨み付けた。

「ま、待てやコラ!」
「何か勘違いしてンじゃねえのか!」
「俺達は何を泣いてんだオラ!って聞いただけだぞオラ!」
「どっか怪我してんのか?ドコが痛いンだコラ!って質問しただけだぞコラ!」
「男の子だろ、泣いてちゃカッコ悪いから黙れよクソが!って励ましてただけだぞクソが!」

不良が驚いた顔で抗議の声を上げた。
思わず振り返る子供が鼻水を啜りながら頷く。

「あのね、クマさんの風船。飛んでったの」

男の子が空を指さす。
赤いクマさん風船が折れ曲がった配電鉄塔の天辺に引っかかっていた。

「ありゃあ、届かねえなコラ」
「登るのも危険だぜクソが」
「魔人のケンカで破壊されてボロボロなんだぜオラ」

ボロボロの鉄塔には電気こそ通っていないが先端までは20mほどの高さがある。
見上げると鉄塔に反射する太陽が眩しい。

「任せて」

少女が鉄塔の下に進む。

「危ないぞコラ!」
「やめといた方がいいぞオラ!」
「登るのはクソヤバいぞ!」

少年の制止も不良達の意外と優しい言葉にも少女は止まらない。

「大丈夫。私、魔法が使えるから」

ふわりと風が巻き起こった。
少女のスカートが風に踊り、露わになった太腿の肌色が日光に煌めく。

気付けば瞬く間に少女は空を飛び風船を掴んでいた。

彼女は『魔人』だった。

『魔人』。

いつの頃からかこの世界に現れるようになった異能の持ち主。
およそ理屈で説明できない不思議な能力を持つ人々の総称。
多くは中学二年生の思春期ごろに己の妄想を肥大化させることで異能を発現する事が多い。

少女の魔人能力は飛行系だろうか。
空を飛びたいと願う中学生は多いため比較的メジャーな魔人能力だ。

そして希望崎学園はともすれば世間から差別される魔人達を積極的に受け入れている魔人の為の学園だ。
少女が希望崎学園の制服を身に着けていない所をみると転校生だろう。

「ヤベー、魔人だったのかよコラ」
「スゲェ、あの高さを一瞬だぜオラ」
「ナンパとかしなくてクソよかったぜ」

驚く不良達を後目に男の子に風船を渡した少女が驚いたような声をあげた。

「あ、いけない!遅刻!」

少女がグッと少年の手を掴む。
少年は驚きで顔に熱がこもるのを感じる。

「ゴメンね。転校初日で遅刻とか格好悪いし。でも、ありがとうね。助けようとしてくれて」

じゃあね。
と少女は学校に向かって走り去っていく。

残された少年は握られた手の感触を感じながらふらふらと学校へ向かった。

教室で友人たちが話題にしている街に現れた仮面のヒーローの事など頭に入るはずもなく。
教壇で担任が何かを話している事も少年の耳には入らなかった。
ただ手に残った温もりが暖かい。

「じゃあ転校生を紹介するぞ。入れ」

担任の声に思わず少年は顔を上げた。
見慣れない緑色のブレザー。
黒板の前に居るのは今朝の少女だった。

そして、このクラスで空いている席は少年の隣だけだった。

「走場ルルです。今日から宜しくね。あと名前、聞いてなかったね」
「僕は、盛瑠堂(モレルドウ)レッド」

少年には秘密がある。

そこに恋心という新たな秘密が加わった。

~~~~

ヒーローには秘密がある。

「グワーハハハハ。愚かな反乱奴隷どももこれで終わりじゃのう!」

某国上空。
超大国から購入した高度爆撃空母が醜悪な姿を晒す。

この国が誇る豊富な埋蔵量のレアメタルによる収入は一部の特権階級へと流れる。
軍部独裁からなる劣悪な税制と経済政策は、この国を末期の内乱状態に突入させていた。

爆撃機の照準は遥かな地上にある反乱軍の拠点をロックしている。

この国においては大統領より上位権力を有する国防軍大佐は太った体を揺らしながら手を叩いた。

「奴隷どもは健気じゃのう!愚かにも革命などと夢をみて現実を見ようとせぬ!」

グフフと湿った笑い声をあげ大佐は片腕を振り下ろす。

「ようし、爆撃せ…」

突如として爆撃空母が揺れる。

「なんじゃ!もっと優しく操縦せんか!」

攻撃指示を中断されて大佐は不機嫌な声を上げた。

「こ、攻撃です」
「なんじゃと!?ここの高度がどれほどだと…なんじゃアレは?」

外部モニターには空を飛ぶ甲冑騎士の姿が映し出されている。
その尻からはジェット噴射のような炎を噴き出しながら騎士は空を飛んでいた。

「な、なんじゃ、アレはーッ!?」

余りにも意味不明だったので二回言った。
甲冑騎士が尻から噴き出したジェット噴射が爆発を撒き散らし爆撃空母が大きく揺れた。

「が、外部装甲破損!侵入されます!」
「おい、なんとかしろ!この空母に幾ら金を払ったと思っておるんじゃ!」

爆発音が鳴り響くたびに機体が揺れる。

「親衛隊!はやく侵入者を!うぎゃー!」
「く、くさい!ゲボギャー!」
「た、助けてくれぇー!」

通信機から聞こえてくるのは悲惨な光景を想像させる悲鳴だけだ。

「に、逃げるぞ!脱出艇を用意するのじゃーッ!!」
「了解でありますーッ!!」

大佐の判断は早い。
あらゆる危機を素早く察知し避ける事で決定的な敗北から逃れる。
彼がこの国でのし上がってきた才能の片鱗であろう。
付き従う兵士たちも大佐についていけば生き延びられることを身に染みている為、緊急時の大佐の判断には迅速かつ適切に従う。

だが。

「逃げられるとでも、思っているのですか?」

大佐が怯えた目で声のする方向を見た。
指令室の扉がゆっくりと開く。
明かりが消えた通路の闇の中から一人の騎士が姿を現す。

奇妙な動きだった。
爆撃空母の中に甲冑の騎士が居るだけでも十分に奇妙ではあるのだが、見る者を怯えさせたのはその歩き方だ。
動作だけをみれば普通に歩いているように見えるが騎士は後ろ向きに進んでいる。
マイケル・ジャクソンが得意としたムーンウォークと呼ばれる歩き方。

騎士道においては敵に背を見せぬなどという事をまるで無視したかのように。
背中を見せつつ、その尻はフリフリと左右に揺れて敵を威嚇していた。

「う、撃て!何をしている!撃つのじゃ!奴を殺せーッ!!」

大佐の号令と共に自動小銃から無数の弾丸が騎士へと降り注ぐ。

しかし。

「【疾風(ウィンド)】!」

ブババババババーッ!!

騎士の詠唱とともに無数の破裂音が炸裂すると同時に巻き起こる旋風が弾道をそらす。
風は、尻から出ていた。

「お、おゲェー?く、臭い!?」

騎士に対して一番近い位置にいた兵士が泡を吹いて気絶する。

「【窒息(チョーク)】!」

騎士が詠唱を続ける。
プパパパパパ!

「ご、ごばあ!?」
「うぎゃー!く、くさ…い」

騎士に近い位置に居た兵士達が次々と倒れていく。

「ガ、ガスだ!きょ、距離を取れ!射撃を続けよ!排気急げッ!」

大佐が慌てて支持を飛ばす。

ゴゴゴゴ。
排気ダクト内部のフィンが回転し室内に充満しつつある窒息性のガスの廃棄を開始する。

「ふッ!無駄な事です!」

ぷりん!と騎士が尻を左右に振りながら指を鳴らした。
騎士甲冑のガントレットに仕込まれた特殊な機構がカチリと火花を散らす。

「【爆裂(エクスプロージョン)】」

室内の排気をしていたダクトが爆裂する。
もはや室内からガスを排除する手立てはなくなった。

「わが古代魔法から逃れる術はありません」

仮面の中の表情は伺えないがどうしようもないドヤ顔の空気が騎士の声から醸し出される。

「な、何が魔法じゃ!屁ではないかーッ!!」

例え極悪非道で知られた国防軍であったとしても余りにも悲惨である。
完全武装した精兵が屁で蹂躙されたのだ。
大佐だって泣きそうな声で抗議したくなるというものだ。

「屁?何を失礼な事を、我らがブリタニヤの魔法技術の精髄を愚弄するのですか?」

ぷりん、と騎士の尻が大佐の方を向く。

「おのれ!その減らず口もここまでじゃ!所詮は屁!火炎放射用意!充満する前に引火させろ!」
「愚かな…【疾風(ウィンド)】」

ボボボボボ~!!
ぷぴぴぴぴ~!!

兵士が構えた火炎放射器から炎が放たれる。
騎士の尻からは風が巻き起こる。

「グハハハハ!引火!爆発!自らの屁で爆発四散して死ぬが良い!」

しかし炎は風によって吹き払われる。

「な、何ィ~!?ど、どういうことじゃ~ッ!?先ほどは爆発したではないかーッ!!」
「だから言ったでしょう?これは魔法なのです、と」

焦る大佐。
ジリジリと距離を詰める騎士。

「そ、そうか!解ったぞ!」
「おお、副官!どういう事なのじゃーッ!!」

副官の発言に大佐は一縷の望みをかける。
起死回生の策があるのか、と。

「屁、つまりオナラの成分なのですが」
「ふむふむ」

「主たる成分は口から入ってくるもの、つまりは空気が9割であり。体内で生成されるガスは少量に過ぎないのです」
「な、なるほど!で?どういう事なんじゃ!?」

「つまり可燃性の成分である水素やメタン、硫化水素はそもそも少ないのです」
「なるほど?いや、良く解らんのじゃが?」

「ですから、今のオナラはほぼ空気だったか、または非可燃性の二酸化炭素などを主成分としていた為に引火しなかったのでは?」
「じゃが先ほどは爆発したではないかーッ!」

「先ほどのオナラは可燃成分がメインだったのでは?」
「そんな屁があるわけなかろう。常識で考えなさいよ」

「だって屁で空を飛ぶのに常識とか言われても困りますよ!」
「ええい屁理屈は良いのじゃ!だからどうすればいい!この状況を打開する策はないのか?」

「屁の理屈だけに!さすが大佐うまいこと仰る!」
「バカ!お前バカじゃろ?!」
「【爆裂(エクスプロージョン)】!」

ドカーン!

「ぐわあああああああッ!?」

巻き起こる爆発!
吹き飛ぶ大佐と副官。

「魔法だと言っているでしょう」

倒れた悪の首魁を見下ろし騎士は呟く。

「見事だな、モレルドレッド」

仮面の騎士、モレルドレッドが振り向く。
指令室の入り口には別の仮面の騎士が立っていた。
モレルドレッドとは違いその仮面には大きな傷跡がある。

「パーシリヴァル様にお褒めいただけるとは光栄です」

騎士の礼に倣いモレルドレッドは深々と頭を下げた。

「若い騎士が育つのは良い事だ。先代モレルドレッドにも劣らぬ良い魔法の腕前よ」
「しかし父は闇の運命に囚われました。僕はそうはありたくない」

悔し気にモレルドレッドは応える。

「その心意気が大事なのだ。これで私も安心して次代に運命を委ねられる」

パーシリヴァルはハッと顔を上げた。

「パーシリヴァル様!」
「私にも運命の刻限の星が迫ってきている。闇に堕ちる前に引退するつもりだ。我が子が跡を継ぐことになるだろう」

「し、しかし」
「それ以上言うなモレルドレッド。私の魔光門(ケアスゲイト)は限界に近い。」

「僕はまだ貴方に教えを乞う事が沢山あります」
「門を閉じる力が弱まっているのだ。いずれ暗黒物質が現出するだろう。そうなってからでは遅いのだ。お前の父モレルドレッド、そしてランスカトロット卿の事を思い出せ」

ランスカトロットと先代のモレルドレッドはブリタニヤ魔法騎士の中でも最強と呼ばれた男達だった。
だが彼らは運刻星の魔に堕ちた。
漏れ出る魔力の暴走に飲まれてしまった。
運命の刻限を超えてしまったのだ。

「これが退き際なのだ、モレルドレッド。魔法騎士は自らの限界を知り自ずと退かねばならない」
「解っています」

「安心しろ。我が子はパーシリヴァルを継ぐに相応しい才能がある。実力で言えば私よりも上だ」
「まさか!無限砲(ブッパズガン)パーシリヴァルを超えるなど信じられません」

驚くモレルドレッドをパーシリヴァルは手で制した。

「無詠唱。知っているな?」
「過去の文献に示された魔法の秘奥の事ですか?常時無音で魔法を扱うなど出来るとは思えません。夢物語です」

「だが我が子はそれを成し遂げた。よってクーサー王より二つ名を授かっている」
「ブリタニヤ王から!」

「本人は全くと言って良いほど無関心であったが。 ‟傷跡の送り手“(スカーシッぺー)パーシリヴァルと呼ばれることになるだろう」
「shipper。荷主、運ぶ者という事ですか」
「うむ、そして俗語として腐れる者という暗喩も持つ。我が子とお前が協力してくれるのであれば。我ら魔法騎士にかけられた呪いを解く事も不可能でないと信じる」

ふわりとパーシリヴァルが中二浮く。

「墜落の軌道を無人の山中へと設定した。堕ちる前に脱出するぞ」
「はい!」

人知れずこの世の悪を断つ。
それがブリタニヤの魔法騎士の務め。

魔法騎士にも世代交代の時が近づいている。

だが。

口には出さないがモレルドレッドはもう少しだけパーシリヴァルと肩を並べて戦っていたいと思った。
それは父親への憧憬に似た感情であると。

魔法騎士モレルドレッドこと盛瑠堂レッドは理解していた。

ヒーローには秘密がある。

~~~~

少女には秘密がある。

「父さんな、魔法騎士辞めようと思うんだけど」

父親が真面目そうな顔で娘である走場ルルに告げた。

「あっそう?辞めたらいいんじゃない?次の就職先は決まったの?」

良い事だと思った。
今時魔法騎士とか父親としてどうかと思っていたのだ。
だが娘としては親にニートになられるのは困る。

「あ、いや。お前が跡を継いでくれるなら父さんはそのサポートに徹しようかと」
「ヤダ」
「え?いやだってお前」
「ヤダ!父さんが騎士を続ければいいじゃない!」
「父さんはな!もう限界なんだ!」
「自分が嫌な事を娘にやらせるのってサイテーだと思う」
「違う!騎士が嫌なんじゃないんだ!父さんの尻はもう限界なんだーッ!!」

魔法騎士は呪いにかかっている。
世界を滅ぼしかけた魔法大戦の教訓である。
過度な魔法を制限する為に魔法騎士は尻から魔法を出す。

この魔法軍縮の呪いのおかげで世界から魔法騎士の数は激減した。

恥ずかしいからである。
どんなに強くても尻から魔法を出す事に憧れを抱く者はなく。
魔法騎士は一部の一族のみが継承する事となった。

とブリタニヤ魔法大辞典には記載されていた。

其れとは別に魔法の行使によって尻を酷使する事で魔光門(ケアスゲイト)が限界を迎えてしまう事もあった。
魔法騎士たちはこれを運命の刻限と呼び、その刻が近づく事で空に輝く星の事を運刻星と呼んだ。

「尻が限界に達するような職業を娘に継がせようとするなあああああッ!!」

ボゴメキャバキィッ!!

走場留一郎の顔面にルルの右ストレートが突き刺さる!

「ゴッパァ!?見事だ娘よ」
「いい加減にしてよね、せっかく転校してお父さんの仕事の事を知らない場所に引っ越したのに!」

「ふふ、だがルルよ。魔法騎士の運命からは逃れられぬ」
「何が魔法騎士よ。オナラを操る魔人が適当なこと言ってるだけじゃない!だいたい自分の能力を子孫に受け継がせようとか思った先祖をぶん殴ってやりたいわ!死ねばいいのに!」

「ご先祖が死んだらお前は生まれていないぞ!話を聞け!ルル」
「ヤダ!」

「昔は正義のお父さん格好良い。ルルも騎士になるって言ってくれてたのに…」
「気絶するまでぶん殴って話を終わりにしても良いんだけど?」

「ごめんなさい。話を聞いてくださいお願いします。お小遣い1000円増やすから」
「聞く」

真面目な顔をして留一郎はルルに向き合う。
ルルは嫌そうな顔で父親の方を向いた。
お小遣い1000円アップは魅力的だったのだ。

「お前は周囲にばれないように魔法を使うすべを身に着けた」
「逆に音出して能力使ってるのデリカシーの欠片もなくない?」

「ぐっ。父の尻は最早精密なコントロールができんのだ」
「昔から音出しまくってるじゃない」

「うぐぐっ!いや、今はそのような事はいい。お前は優れた魔法使いとなった」
「オナラなんて最悪だと思ってるけどね」

「だが使い勝手は悪くなかろう」
「高い所の物取ったりとか不良に喧嘩で勝ったりはできるけど最悪なのは変わりないよ」

娘の言葉に対してキラリと留一郎の目が輝く。

「ようするに、だ。尻から魔法が出るのが嫌なのだろう?」
「オナラでしょ!?魔法とか言い張ってるだけでしょ?」

「その呪いが無くなるとすればどうだ?」
「え?」

ルルの目が驚きに見開かれる。

「元より呪いの解除は我らの望むところだ。つまり父さんとルルの利害は一致する!」
「オナラじゃなくなるって事?この馬鹿みたいな魔人能力が」

ばさりと留一郎が地図を広げた。

「願いの叶うダンジョンがある」

ルルの目がすっごく胡散臭い物を見るような感じになる。

「ま、まて。これはな意外とバカに出来んのだ。見ろ、全国からダンジョン踏破者の願いがかなった喜びの声が記載されている」
「お父さんの話を真面目に聞こうとした私がバカだった」

立ち上がって自室に戻ろうとするルルを留一郎が引き留める。

「待つのだルル!待って!本当なんだって!お前!将来的に恋人ができた時とかの為にも呪いが無い方が良いだろ!」
「…聞く」

ルルは椅子に腰を下ろす。
確かに将来的に恋人とか結婚とかそういう事になった時オナラは嫌だ。
仮に恋人が受け入れてくれるならいいけれど、子供が出来た時に子供から最悪な目で見られるのは明らかだ。
だって自分がそうなのだから。

その為なら僅かな希望にすがるのも仕方ない。

「このダンジョンには他にも願いを叶えたい者達が潜っているという。それらを倒して最奥に到達すれば願いが叶うのだ」

胡散臭い事この上ない話だ。
だが、本当だとすれば。

やらない理由などないのだ。

「わかった、やる」
「娘よ!尻の明日の為に頑張るのだ!」
「お父さん、それだからお母さん家を出てったと思うからやめた方が良いよソレ」
「うごあッ!?」

娘の一言で父親は床に崩れ落ちた。

少女には秘密がある。
できれば秘密のままこの世から消し去りたい願いの為に。

走場ルルこと魔法騎士パーシリヴァルはダンジョンへと挑むのであった。

『物語は常にシリアスにすすめたい、尻はアスだから!』

終わり


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