黄金に輝くその不思議な腕輪に、時間の概念は無い。
どこからが過去で、どこからが未来なのか……。
つまり、現在という位置が、極めて不明瞭なのである。
その腕輪自体が、この大魔王の世界のように、時間軸というモノに余りにも無頓着で……。
『それ』は、大魔王の意思とは無関係に、時空を超えてこの世界にやって来た。
この世界には、『それ』に身を委ねた者が多く存在し過ぎた。
絶対に同一の時間に存在する筈の無い者達。
大魔王の作り出した世界に於いての、タッタ一つの欠陥……予期せぬ事象。
『それ』は
ゾーマにさえ気付かれる事無く、この世界に堕ちていた。
この世界が出来た時、『それ』は既に堕ちていたのである。
時間は大きく遡るが、魔導師
ケフカはサバイバル開始直後に、
まるで何百年もそこにあったかのような、
苔生したその不思議な腕輪を、岬の洞窟の奥深くで拾った。
『それ』に触れた瞬間、ケフカの脳裏に『3つ』の記憶が流れ込む。
その記憶は過去の出来事なのか、それとも未来に起る出来事なのか……。
とにかく『3つ』の記憶が、順にケフカに流れ込んだのである。
青い帽子を被った剣士。
彼は唯ヒタスラ、強さを求めていた。
その純粋過ぎる精神が、『それ』を引き寄せた。
『それ』に到達した時、彼は一抹の迷いも無く、全てを『それ』に委ねた。
揺れる荒野を走る亀裂、日光を全て遮る厚い暗雲……。
そして、その中心にいた剣士の身体が、不気味な姿へと変化してゆく。
皮膚が茶色に染まり、まるで甲冑のように硬化した。
側頭部からは角が生え、次第に全身が巨大化する……。
全ての変化を終えた時、彼は最早人間であった時の全てを失っていた。
突如、闇の中に二筋の光が射し込む。
厚い暗雲を貫き、空から二本の巨大な剣が大地をめがけ高速で堕ちてくる。
ズウゥゥ……ン……
彼の目の前に、怪しく光放つ、二本の巨大な剣が突き立った。
その剣の柄に刻み込まれた文字――『Esturk』。
魔の帝王と化した彼が口を開く。
「グゴゴゴゴゴゴ……我が名は……エスターク」
銀髪の魔族の男。
血のように赤い空と、シャンデリアのような玉座の周囲に広がる煉獄の奈落。
彼は人間に対する、余りにも深い憎悪から『それ』を手にした。
激震する魔界の中心で、
青い帽子の剣士同様の変化が彼を襲う。
そして彼も、『それ』に心を喰われた。
高司祭のような外見をした魔族。
彼は先の二人とは大きく違っていた。
彼の真の邪悪故なのか……それは腕輪以外には解らない。
とにかく彼は、主の居なくなった魔城デスパレスで、
『それ』に心を喰われる事無く、その力だけを己がモノにした。
音一つさえ立てること無く、極めて静かに進化を遂げたのである。
当然ケフカは気付いていた。
――青い帽子の剣士。
――魔族の男。
――司祭のような魔族。
その三人が、始まりの場所に居たことを。
きっと自分と同様、この世界に飛ばされているのであろう。
ケフカは魅了されていた。
三闘神の力にも匹敵する、その不思議な腕輪に。
「ヒョヒョヒョヒョ……」
ケフカは捜し求める。その三人を。
未知への渇望……。
彼は光の射す方向へと、ユックリ歩き出した。
【ケフカ 所持品:弓と毒矢(50本)と解毒剤、進化の秘法
基本行動方針:腕輪に対する未知への探求】
【午前中の位置:岬の洞窟付近】
最終更新:2011年07月17日 12:36