探し人が見つからず、落胆した
マリベル達を、
セーラが出迎えた。
「どうでしたか?」
「全然ダメ。影も形も見つからなかったわ」
「……そうですか。確かに、先ほどお見かけしたのですけれど……
もう、別の場所に行ってしまわれたのかもしれませんわね」
我が事のように肩を落とすセーラに、
ピエールは優しく言葉をかけた。
「いや、あまりお気になさらないでください。…ところで、
フローラ様のご様子は?」
「静かにお休みになっておられますわ。当分は、お起きにならないでしょうね」
いかにもお姫様らしい、育ちの良さそうな笑顔で、セーラは言った。
ピエールとビビは、そんな彼女を完全に信用しているようだ。
だが、マリベルは……セーラの態度に胡散臭いものを感じていた。
何と言うか、全てが大げさで、芝居がかって見えるのだ。
最も、ビビやピエールに相談したところで笑い飛ばされるのは目に見えてるし、
だからこそ二人と同じように、セーラを信頼する、という態度をとっているのだが……
「あら、マリベル様」
当のセーラにいきなり話しかけられ、マリベルはビックリして飛びあがった。
「は、はい?」
「スカートが、随分汚れてしまってますわ。
幸い、まだこの家には服がありますし、どうでしょう。お着替えになっては?」
「…………」
セーラの言うほどではない気もしたが、良く見ると確かに裾が擦りきれたり、土埃がついたりしている。
「……そうね。じゃあ、お言葉に甘えて」
「私の家ではありませんけどね」
クスリと笑いながら、セーラはクローゼットから幾つかの服を出した。
あまり好みではないが、文句は言っていられない。
「じゃあ、この真中の服、お借りするわ」
「フローラ様が寝ていらっしゃるから、気をつけてくださいね」
「わかってるわ」
そしてマリベルは、着替えの為に奥の部屋へと入った。
それから十数分後――放送が、流れ始めた。
それと同時に、マリベルは部屋から飛び出した。
「ぴ、ピエールさん……大変! フローラさんが!」
「!?」
3人が慌てて部屋の中に入る。
ベッドの上、眠っているようなフローラ――その身体は、既に冷たくなっていた。
「マリベル、一体何があったの!?」
「わからないわよ! ちょっと様子がおかしいと思ってたけど……触ったら、冷たくなってて……」
「そんな……フローラ様……」
困惑するビビとマリベル、愕然とするピエール。
そしてセーラは――
「……貴方が殺したんでしょ」
『!?』
「だって、私が見たときはフローラ様は生きていらっしゃったもの。
そうよ、貴方が殺したんだわ! 他に誰もいないんだもの!」
セーラの手には、
ブレイズガンが握られていた。
その銃口をマリベルへと向け、狂ったように叫ぶ。
「近づかないで!」
「冗談じゃないわ! 何であたしがフローラさんを殺さなきゃいけないのよ!」
「ウソをつかないでよ、この殺人鬼! そう言って、私も殺すんでしょう!」
「セーラ様、落ちついて……!」
「あたしは殺してなんかない! 殺したのは……」
「来ないで……来ないでよぉおおおお!!!」
ダンッ! ダン、ダン!!
ピエール達の制止も間に合わなかった。
氷の弾丸は、正確にマリベルの胸――心臓の位置に当たっていた。
そのまま、壁に激突し、マリベルは動かなくなる。
「あ……あ……私、一体……」
セーラは放心したように腕をだらりと下げる。
放送は、既に終わっていた。
少しの間、凍りつくような沈黙が流れた。
……そして、ついにピエールとビビは気付かなかった。
セーラの瞳に、恍惚の色が浮かんでいたことには。
「……ピエール様、行きましょう。
フローラ様の埋葬をしないと……雨が降り始めると、大変ですわ」
呟いて、セーラはフローラの傍に寄った。
その言葉に、ピエールとビビも我を取り戻し、彼女を手伝いフローラの体を担ぐ。
そして3人は、ぽつぽつと雨の降り始める表へと出ていった。
……残された部屋の中、マリベルの身体がぴくりと動いた。
肩がわずかに上下する。目が、きょろきょろと辺りを見まわす。
「……ふーっ。死んだふりってのも、中々辛いわね」
けろっとした表情で呟くと、彼女は手早く元の服に着替え始めた。
「全く、とんでもない女だわ! このマリベル様を罠にかけようなんて!」
フローラの死には、着替えはじめる前から気がついていた。
そしてセーラへの疑惑を確信に変え……万が一に備え、知っている限りの防御呪文を唱えておいたのだ。
「……さてと、あの女が帰ってくる前に……」
脱いだ服にシーツやそこらへんにあったものを詰め、人の形に整える。
そして被っていた頭巾を乗せて、仕上げにヒャドを胸の辺りに三発。
「私が生きていることを知れば、あの女……絶対殺しに来るでしょうからね」
近づけばすぐに見破れるダミーだが、それでも時間稼ぎにはなるはずだ。
「
旅の扉が出るまで、バレなきゃいいんだけど……」
マリベルはそっと窓から外に出た。
あの女を今、倒すことはできない。やれば間違いなくピエールやビビを敵に回すことになる。
それだけは絶対嫌だったし、何より――
マリベルは、ポケットの中のメモを握り締めた。
街の片隅に落ちていた、首輪に関するメモ。
『殺す』、『殺される』以外の第三の道は、おぼろげではあるが既に見えているのだ。
(絶~~っっっっ対に! 皆と一緒にフィッシュベルに帰るんだから!)
一人決心を固め、彼女はこっそりとマランダを後にした。
【セーラ 所持品:
癒しの杖 ブレイズガン
第一行動方針:ピエール一行を殺す
最終行動方針:
レオンハルトを捜索】
【ビビ 所持品:
ギサールの笛
第一行動方針:フローラを埋葬する
基本行動方針:非好戦的、自衛はする】
【ピエール 所持品:
珊瑚の剣 爆弾岩×10
第一行動方針:フローラを埋葬する
第二行動方針:とんぬらを探す】
【現在位置:マランダの街】
【マリベル 所持品:
エルフィンボウ エドガーのメモ
第一行動方針:セーラから逃げる
第二行動方針:
メルビンか
アイラを探す
基本行動方針:非好戦的、自衛はする】
【現在位置:マランダ北の山脈へ】
最終更新:2011年07月18日 07:42