セリス・シェールはマランダ近郊の森の中、ひとり放送を聞いていた。
放送の中に自分の大切な仲間の名がなかったことに心から安堵する。
立ち上がって降りかかった水滴を払いつつ、何とはなしに辺りを見回す。
この帝国領は
セリスが生まれてから今までの大半の時間を過ごしてきた土地だった。
当然、土地勘も働く。仲間たちを探すには都合がいいはずであった。
それでもセリスは自分から動く気にはなれなかった。
この場所は『崩壊』していない。
自分が元いた世界では、
ケフカの手によって世界はいちど滅んだ。
今のこの世界は崩壊する前の帝国領を模している。
ここからでもはっきりと、機械に覆われた首都ベクタの姿が見えた。
視線を動かし、自らの両手を見つめる。
長手袋に覆われた両手はわずかな汚れも見えなかったが、セリスの目には
かつて自分が殺めた何千もの人の血で染まっているように見えた。
悔恨と自嘲の念が沸きあがってくる。
なぜここから動けなかったのか、なぜ仲間を探そうとしなかったのか、
ようやくわかった気がする。
負い目なのだ。
この土地は、かつての自分を・・・『常勝将軍セリス』を否応にも意識させてしまう。
乗り越えたはずの罪の意識。
ロックに出会い、本当の自分を見つけられた気がした。
あの『魔大陸』での闘いで過去の自分と決別できたと思っていた。
だがそれは偽りだったようだ。
(全然、吹っ切れてないわ、私・・・カッコ悪い)
こんな情けない顔は誰にも見られたくない。特に、ロックには。
とにかく今は次の世界に行くことを考えよう。
これ以上ここにいたら、気分がどうにかなってしまいそうだった。
いちばん近くの
旅の扉の出現地(マランダ)に向けて歩き出す。
その時だった。
―――逃げるのかい?
思わず、足を止める。
―――逃げるのかい?君の罪から
また、聞こえた。
聞き間違いようがない。タガの外れた甲高い声。
自分と同じく人工的に魔導の力を注入され、壊れてしまった男。
ひとつ間違えれば自分がそうなっていたかもしれない。
同じくこのゲームに参加しており、既に死んだはずの男。
「ケフカ―――あなたなの!?」
驚愕して辺りを見渡す。自分以外の気配は感じられない。
だがしかし。
―――君は本当におバカさんだねぇ。どんなことをしても罪が消えることはないのに
(やめて・・・)
―――許されることなどない罪を抱えて、君はこれからどうするんだい?
(お願い、やめて・・・)
―――耳を塞いだってダメさ。君はもう僕に気づいてしまったんだからね
「やめてェェェェェェェェェェェェェェ!!!!」
あらん限りの絶叫を残し、セリスは走り出した。
自らの罪の意識に捕らわれてしまったことに気づきもせず。
【セリス(錯乱) 所持品:
ロトの剣
第一行動方針:とにかく新フィールドへ】
【現在位置:マランダ近郊の森】
最終更新:2011年07月17日 12:46