狂ったマゴット

えっちらおっちらとジタンはイスを持って執務室の前に立つ。
いくらなんでも数回に分けて運ばなければ、とても人数分を揃える事は出来ない。
面倒くさい作業だったが、それでも余計なことを考えずに済むだけでもマシというものだろう。
ともかくジタンはイスを設置して、また会議室にとって返そうとしたのだが……。
ズルリ。
背もたれを持つ手に妙な感触を残してイスが廊下を滑る、いぶかしげにジタンが床を見る、そこには。
「これは…血?」
いかにマヌーサで偽装していても、扉の隙間から溢れ出す赤いものまでごまかすことはできない。
くんくんと鼻を鳴らすとやはりかすかだが血の匂いが漂ってくる。
この部屋にいたのは……マゴットとそしてあのセーラとかいう女の子だ。
「何があったんだ……」

そのまま扉のある場所を押してみる……簡単に開いた、と同時にむせかえるような血臭が溢れ出す。
何回嗅いでも慣れない匂いだ、ジタンは鼻をつまんで思わず目を伏せる、と同時に彼は見てしまった。
あのセーラの首無し死体を……。

いきなりの死体とのご対面、しかもついさっきまで確かに生きていたのに……その残酷な事実に、
耐えきれず”うう”とうめき声を上げてしまったジタンだが、次の瞬間には抜け目なく状況の確認を行う。
「なんて奴だ…逃げようとした相手を後ろから…」
ぱっと見ただけでも分かるのは、セーラの傷がほとんど背中側についている事だ、さらにおぞましい事実も分かった、
血痕の状況から見て、おそらく彼女は生きたまま首を刎ねられたということだ……。
そういえばマゴットは!?
ジタンは周囲を見まわすが、ハーゴンの呪文の効果か、視界がやや悪い…部屋の中に隠れてるのかもしれないし、
もしかすると先に逃げたのかもしれない。
外に探しに行きたいが、あともう少しだけ状況を知りたい、ジタンはさらに死体を調べようと自分の背中を、
廊下側から部屋側に向けたその時、部屋の奥の机の下に息を潜めて隠れていたマゴットがジタンへと、
襲いかかったのであった。

その回避し得ないかと思われた致命の一撃をジタンは紙一重で回避した。
視線を下に向けていたから助かった、それでもし床に映る相手の影を発見する事が出来なければ、
間違いなく彼もセーラと同じ運命を辿っていただろう。

「な!おまえはっ!」
次々と振り下ろされる鎌を床を転がりながら避けるジタン。
いきなりの攻撃に驚き慌てるジタンだったが、その正体を見てまた驚く、そうその姿はまごうことなく、
マゴットその人だったからである。

「おい!正気に戻…」
ジタンはマゴットに呼びかけるが、それは横薙ぎの鎌の一閃でさえぎられる。
今度も紙一重で避けたジタンは冷や汗を掻く、あと少し遅ければ首を斬り裂かれていた。
さらに容赦なく踏みこんでくるマゴットの斬撃を右に左に交わしながら、ジタンはあることに気がつく。
セーラの身体についた傷、あれは曲刃系の武器でつけられた傷だった、そう、例えば…
「まさか!お前がセーラを…」

その言葉にマゴットは答えない、ただクスリ…と笑っただけだ、その笑顔を見てジタンは確信した、
コイツは正気だ…素面でセーラを殺し、さらに今度は俺まで、ってまさか!

自分でこれまでわずかながらも感じていた様々な疑惑がここにきて一本の糸で繋がり始めた。
(おっさんは確かにこのゲームを壊すって言った…だけどもそれは俺たちのタメじゃない、
 あくまでおっさん個人のため、俺達は駒ってことか?)
いや、駒ならまだマシだった、今の状況ではどう考えても生贄としか思えない。
ハーゴンへの怒りがふつふつと涌いてくるが、とりあえずは今この場を切りぬけなければ、
生贄にされてからでは文句も言えない。


ここでマゴットの状態についてわずかながら説明させていただく。
実はハーゴンは余りに消極的なマゴットの性格に不安を感じ、万が一を考えマゴットにはイザというとき
攻撃的に動けるよう、あくまでも軽い暗示を何度かに分けてかけていたのだが、
力の源であるシドーを失った事により、ハーゴンはわずかずつであるが自らの能力の制御が利かなくなりつつあった。

それは彼本人にもわからない、微妙なものであったが、その微妙な狂いが積み重なり、
暗示は彼女の精神に過度の重圧を与え、そして蓄積された負担がある一点を越えたとき、
それは恐るべき形となってマゴットの精神を押しつぶしたのであった。

そう、今の彼女は活動的を通り越し、意識こそ明晰ではあるが、人間的な感情が麻痺した、
いわゆるソシオパスとなっていたのだ、今の彼女はハーゴンやアルスですらも平然と手にかけるであろう。
そしてまた、その開花したありあまる攻撃性をいかんなく発揮して、再びマゴットはジタンへと迫る。

しかし今度はジタンも反撃に出る、抜き放った仕込み杖で鎌を受けとめるとそのまま手首を返して
鎌の刃を天井に向けさせ、マゴットの力を分散させるとそのまま肩から体当たりをかます。
たまらずマゴットは手を離してしまい、スッポ抜けた鎌は壁に突き刺さる。
そして体勢を崩したマゴットの襟元を両手で掴むと、そのままジタンは背中から床へと倒れこみ。
その反動で相手を投げ飛ばすそう、柔道で言う巴投げだ。

だが、床に倒れこんだその時、ジタンの目に目を見開いたままのセーラの生首が入る。
この予想外の物体に動揺したジタンの手元が狂い、マゴットはあさっての方向へと飛んでいき
やはり壁に叩きつけられる。
駄目だ、これじゃ入りが甘い、来る。
そう考えたジタンは慌てて起きあがろうとするが、完全に起きあがったとき彼が見たもの…それは。

実はマゴットが叩きつけられたのは、死神の鎌が突き刺さった壁の真下だった、
鎌はその衝撃でそのまま下へと滑り落ち、そしてまさにギロチンのごとく、マゴットの首を半ば切断したのだ。
どう考えても致命傷だ、しかしそれでもマゴットはまだ立ちあがろうとする。
がたがた、がたがたとまるで壊れかけの自動人形のように、首から噴水のように血飛沫を上げながら…
その恐るべき光景に流石のジタンも動けない…だがそれも長くは続かなかった。
やがて、プツリ、という音と共にマゴットの首は完全に胴体から千切れて、手前に組んでいた
自らの腕の中に転がり落ちる、そのまるで自分の首を抱いているかのような奇妙な亡骸、
それはセーラの残した呪詛の成せる業だったのかもしれない。

ジタンは部屋の真ん中にへたり込んだまま動こうとはしない。
これからどうする、これ以上面倒に巻き込まれたくないならこのままずらかるのも手だ、
だがもし自分が逃げたとして、その後はどうなる?
またあの男は同じ事を繰り返すような気がする、それを関わりのないこと、と割りきるには、
ジタンは関わり過ぎていた、それとは別に騙されていたという怒りも、もちろんある。

「とりあえず騙してくれたお礼はしないとな…」
こうしてジタンはセーラの首を持つと、そのまま部屋の外へと飛び出していった。


【ジタン 所持品:仕込み杖、グロック17、ギザールの笛
 第一行動方針:とりあえずハーゴンに一言
 第二行動方針:サマンサとピサロの殺害
 最終行動方針:仲間と合流、ゲームから脱出】
【現在位置:神殿】

【マゴット 死亡】
【残り 54人】


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最終更新:2011年07月17日 22:06
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