今一度、復讐のために

「おい…何のマネじゃ?」
書庫から出て、執務室に向かうハーゴンたちの前にその行く手を阻むようにジタンが立ちはだかる。
その剣呑な雰囲気はただ事ではない。

「よくも…騙してくれたな」
「何の話じゃ?」
「俺達を犠牲にして、テメェたちだけで逃げようと思っていたんじゃねぇのか?」
それを聞いてハーゴンは無心ぎくりとしたのだが、勤めて平静を装う。
(そのテメェの中にワシは入っておらんがの…だが似たようなもんじゃ)
「何を言うかと思えば、いいか?不安なのは分かる、じゃがの……」
「だったらこれは何だ!」
ジタンはハーゴンへと何かを投げつける、それはセーラの首だった。
それを見て導師がひぃと声を上げる。
「調べたら傷のほとんどが背中についていた…どう考えても逃げようとしている所を強引に襲ったとしか思えない」
「俺達もああいう風にするつもりだったのか!答えろ!」
それを見るとハーゴンも流石に平静ではいられなかった。
「バカな…わしはそこまでしろとは命じてはおらぬ!」

確かにセーラを供物にしようと思ったことは事実である、だがそれはあくまでも後々のことで、
今この場で手を下すつもりなど無かった、万が一を考えマゴットにはイザというとき攻撃的に動けるよう、
軽い暗示をかけていたが・・・。

もしや…もうすでに自分の力を思うように操る事が出来なくなっている…だからほんの軽い暗示も、
思わぬ形でマゴットへと影響を及ぼしたのか…。
「それで、マゴットは…マゴットはどうした!…まさか」
答えを聞くまでもなく、ハーゴンは執務室へと走る、そしてその扉近くで物言わぬ骸と化したマゴットを見たとき、
「なんと…なんということじゃ…」
ハーゴンはふらふらとマゴットの亡骸に歩みより、その場にへたり込む
まぶたを閉じればここまでの数々の画策が甦ってくる、あと少し…あと少しで上手く行くはずだったのに。

ハーゴンは自分を呪わずにはいられなかった、確かに手を下したのはジタンだ、しかし元を正せば
策を弄した挙句の結果である、彼は人の心を操るのに長けていたが故に人の心を侮り過ぎたのである。

「このロンダルキアはワシにとっては……聖地などではなく死地でしかなかったのかぁ~~~」
するとハーゴンの身体からしゅうしゅうと煙が上がり、肌にはシワが刻まれ、その髪は白くなり抜け落ちていく
力の源であったシドーを失って以来、その肉体・魔力の崩壊を必死で食い止めてきたハーゴンだったが
この衝撃は大きかった、そしてついに力を繋ぎとめていた儚き1本の糸がぷつん、と切れたのだった。

「おっさん…」
後から追いついたジタンが見たものそれはただの無力な老人、ただ眼光だけは未だに鋭いままの姿だった。
実はジタンも不安だった、1時の感情に流され、人を殺めてしまった事に対する後悔。
だから彼は願っていた、自分の思っていた通り、ハーゴンとマゴットが自分を騙していて欲しかったと、だが。
その結果は皮肉なものだった。確かにハーゴンは自分を謀っていたのだろう、しかし…マゴットの亡骸のそばで
うなだれる姿は彼の想像していたものとはかけ離れていた。

「おっさん……そこまでしなきゃいけなかったのか?」
「ああ、必要ならばワシは神でも殺した、いわんやおぬしらごとき」
「騙したワシが…憎いか?殺したいか?」
そのハーゴンの呟きにジタンは答える事が出来ない。つい数分前まではそうだったのに。
(ちくしょう…おれこれじゃバカじゃないか…ちくしょう)

そんなジタンの内面の葛藤も知ってか知らずか、ハーゴンはジタンへと頭を下げる。
「だが、ワシはまだ殺されるわけにはいかぬ!ワシの全てを奪ったあの者にせめて一糸報いるまでは!」
「改めて頼む!この通りだ……お前の力をワシに貸してくれ!その後でならこの命くれてやる」
枯れ枝のようになった身体の何処にそんな気力があったのだろう?
しかもハーゴンが…この尊大な男が恥も外聞もなく血涙を流しながら土下座をしているのである。
その鬼気迫る姿にジタンは圧倒された。

重苦しい沈黙の中、ようやくジタンが口を開く。
「あんたのためじゃない…殺さなくても良かったのに、殺しちまったマゴットのためだ…」
「そうか」
ハーゴンもそれ以上の言葉は発さない、ただ。
「こっちへこい」
ハーゴンはジタンを連れてまた別の部屋へと向かう。
「導師、お前もじゃ」
その言葉で物陰から様子をうかがっていた導師も、はっ、と気がついたように後を追うのであった。 


それからしばらく経過して、ハーゴンの私室内。

「良いか、これの術式が完璧に解ける者でなければ連れてきても無駄じゃ、30分以内に解けぬ者は失格として扱え」
ジタンは数枚の紙を手渡されている、そこにはぎっしりと何やら難しい字が書きこまれていた。
どうやら魔法の公式のようだ。
「それと、これも持って行け」
ハーゴンが続いて茶ばんだ紙を渡す。それには地図が記されている。
「このロンダルキアの地下には縦横に通路が通っておる、そのマップじゃ」

「地上を歩くのとでは距離にして4倍は得が出来る、うまくやれば全土を十分回れるはずじゃ」
 ワシはもう少しは保つかもしれんが、おそらく明日の朝までの命、それまでに必要な知識を全て伝えねばならぬ。
 じゃからこの時計で0時になるまでに戻ってきてくれんかの」
 ジタンは手渡された時計を見る、現在15時、ということは後9時間しかない……。

一方。
「これは単純に魔力の強さや知識のみを問う問題ではない、ぶっつけ本番で儀式を成功させるには、
 特別なセンスが必要、つまりこれはそのセンスを計るのが目的、それに魔力は人数でカバーできるしの」

そう声をかけるハーゴンの隣で導師は先ほどから例の術式にかかりっきりだ、
白魔法マスターの彼がてこずるあたりが問題の難易度を物語っている。
「おい、お前は行かないのか?」
ジタンの言葉に導師は申し訳無さ気に答える。
「僕は残るよ…病人を放ってはおけないから、そうだ、君にこれを」
導師は星降る腕輪をジタンへと差し出す。
「君は足が速いからきっと役に立つよ、それとお願いがあるんだけど、ここのすぐ東の森に、
ティファって胸のおっきな女の人と、デッシュってちょっとちゃらちゃらした男の人がいると思うから
よろしく伝えといて!」

「ああ、じゃあもう行くぜ」
「無理をしないで!危ないと思ったら逃げてよ」
ジタンは導師の言葉に背中越しに手を上げて応じると、そのまま足早に部屋を後にしていった。

それを見送るハーゴン、全てはジタンがどのような魔法使いを何人連れてくるかにかかっている。
それによって儀式の内容、方法も、果ては結果までもが変わってくるだろう、
そのための準備は整えておかねば……頭を抱えながら問題に取り組む導師の隣で、
ハーゴンは震える手で書物のページを紐解いていくのであった。

【ハーゴン(呪文使用不能、左手喪失、衰弱・老化) 
 所持品:グレネード複数、裁きの杖、ムーンの首、グレーテの首、首輪
 第一行動方針:儀式の下準備
 第二行動方針:不明
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:神殿自室】

【導師(MP減少) 所持品:天罰の杖 首輪
 第一行動方針:問題を解く     
 第二行動方針:ハーゴンの看病
 最終行動方針:不明】
【現在位置:ハーゴンの自室】

【ジタン 所持品:仕込み杖、星降る腕輪、グロック17、ギザールの笛、グレネード複数
           試験問題・解答用紙複数(模範解答も含む)、時計
 第一行動方針:魔法使いを探す
 第二行動方針:サマンサとピサロの殺害
 最終行動方針:仲間と合流、ゲームから脱出】
【現在位置:神殿から外へ】


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最終更新:2011年07月17日 20:42
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