骸はゆっくりと目を開いた。
もうすでに、喉と脳髄と瞳以外は完全に死んでいたが…それだけ生きていればむしろ十分だ。
目の前の茶色い髪の男…
バッツは、驚いたように後ずさりする。
無理もない。普通は驚く。
骸は…
ハーゴンは、顔面の筋肉を無理矢理動かして、笑った。
「おい、若造」
低く、重い声がバッツの耳にしばらくかかってようやく届く。
その声があまりにも弱々しく…そして、バッツは呆然としていて“聞く”と言う動作と感覚を一瞬忘れてしまっていたので。
「…生きてるのか。大丈夫……でもなさそうだな」
「もう死ぬ。その前に聞いておいて欲しい」
ハーゴンは穏やかな声でバッツに言った。彼の生涯の中でもっとも穏やかな声で。
淡々と語る。呪式の方法、扱えるであろう導師の存在。二人は残らねばならぬ事。もう一つ首が必要な事。
唯一、設計図と儀式魔法の詳細に“罠”があることだけは伏せておく。
「……分かったか?」
「悪いけど、俺はそっちの方面には詳しくない。半分も分かんなかった」
バッツはあまりと言えばあまりな返事を返す。嘘を付いてもしょうがないが。
ハーゴンはその返事を予想していたようで――バッツにしてみればかなり失礼な話だが――用意していたセリフを、吐き出す。
「ならば導師か、コレを理解出来る者に渡せ」
そう言って、傍らにまとめてある呪法の道具達を指さす。
「コレを使えば、何人かは生き残る。だがまあ使うも使わぬも自由だ。好きにしろ」
ハーゴンは平然とそう言いきった。己と多数の命を賭けた呪法をあっさり切り捨てることを許した。
どのみちゲームを破壊出来ればそれでいいのだし、いくら言い募ってもダメならばダメだろう。
「貴様に渡す。後は好きにしろ」
ハーゴンはもう一度言って、目を伏せた。
瞳が死んでゆく。喉も死んでいく。脳髄も死んでいく。
死にゆく中、ハーゴンは何人かの顔を思い浮かべ、そして。
(すまなかった)と詫びた。邪教の使徒たる自分が詫びた事が溜まらなく可笑しく、ハーゴンは笑った。笑ったつもりだった。
身体を痙攣させながら、文字通り“崩れ落ちていく”ハーゴンを見つめながら、バッツは静かに十字を切った。
邪教の徒に十字を切ると言う行為は…何というか、意図しない滑稽さを含んでいた。
ハーゴンだった存在は崩れ、埃のようになり、それすら散り散りになって消えていく。
ハーゴンが完全に“消えて”から、バッツは邪教の道具一式をふと見た。
脱出の手段…それをしばし見つめてからふいとそれから目をそらした。
それは確かに手段ではあるが、あまりにも…リスクが大きい。
二人が残らねばならない…つまり、最低一人、最悪二人は死なねばならない。
それはこの上ない争いの種であり、それを分からなかったハーゴンはの考え方にバッツは少し疑問を持った。
(彼はハーゴン自身が犠牲になる、と言う選択肢を選んでいたことまでには、さすがに頭が回らなかった)
そして、もう一つ…呪法に必要な、首。
こんな物を持ち歩いていたら、間違いなく誤解の種になる。誤解で人を殺すのはもうゴメンだった。
「悪いな」
バッツは小さく詫びた。
必要な物を拾い集め、導師の存在を頭の隅に引っかけてから、バッツは廊下に出た。
一度戻って、
ピエールと相談しよう。
【バッツ@魔法剣士(アビリティ:白魔法)
所持品:
ブレイブブレイド グレネード残り5コ
裁きの杖
第一行動方針:
クーパーの治療
第二行動方針:
アリーナ(アニー)、
とんぬら、パパス、
エーコの仲間(名前しか知らない)を捜す
最終行動方針:ゲームを抜け、
ゾーマを倒す】
【現在位置:神殿ハーゴンの部屋からピエールの元へ移動中】
※導師(または魔法使い系の人間)に会った場合、呪法のことを伝えるかどうかは不明(書く人にお任せします)
【ハーゴン 死亡】
【残り 37人】
※ムーンの首、
グレーテの首、呪法の設計図、儀式マニュアルがハーゴンの自室に放置
最終更新:2011年07月17日 20:47