鈍い輝き。『人食い』の輝き。手の中で輝く
ナイフの怪しい煌めきに、
アグリアスは僅かに怯えのような物を感じた。
これだけは感謝するべきだろう。(これだけは許せることではない。)
(自分に死ねと言うのか。)騎士としての死に方を選択することが出来る。
まだ自分の中に捨てたはずの誇りが残っていたようだ。(余計な物が、まだ胸の中に残っている。)
騎士として、人としての誇り。それを捨ててしまった自分に生きている意味はない。
(生きたい。生きていたい。たとえ騎士でも人でもなくても、汚名を晴らすべく、それ以上に本能的に生きたいと願う。)
アグリアスは落ちていた
マンイーターを拾い上げた。
起きたときにはすでに身体は冷たくなり、満足に動くことすらかなわない。
死にかけた彼女は、冷たい刃を見つめながら生と死を同時に渇望していた。
騎士アグリアスは死を、アグリアスは生を。
雪の大地に膝を突き、人食いの短剣を両手で逆手に握りしめる。
震える。寒さでなく、生と死の要求の狭間の力で。
両手を振り上げ、その手が震え、止まる。
決心が付かない。生きるにも死ぬにも。死にたい、生きたい、死にたい生きたい死にたい生きたい
死にたい生きたい死にたい生きたい死にたい生きたい死にたい生きたい死にたい生きたい死にたい…。
震える脳裏を、血なまぐさい言葉が往復する。言葉のキャッチボールのさなかに、幾つかの顔が現れ消える。
ラムザ、
ラファ、そして…主君の顔。
その顔を思い出した瞬間。生きねばと思った。そして
ざくっ。
それ以上に死なねばと思った。
アグリアスの胸の真ん中に、冗談みたいにあっさりとマンイーターが突き刺さる。
あまり、血は流れない。痛くも、無い。
(……?)
疑問に思う。痛く…無い?
痛くないだけではなかった。体が軽い。力が漲る…!
「は、ははは…!」
自然と口から笑い声が漏れる。
そうだ、死んだ。騎士アグリアスは死んだ。死にたがったから殺してやった。
私は生きている。アグリアスは生きている。今、生きている…!
アグリアスは顔を上げた。目の前に、
ヘンリーが立っている。
「滅びろ…!」
アグリアスは胸のマンイーターを引き抜き、ヘンリーに向かって投げつけた。
ヘンリーの喉に人食いの刃が突き刺さり、あっさり死んで地面に転がる。
「ははは…!はははははははははははははははははははははははははははははっ!」
アグリアスは、笑った。
「はぁ……はははぁ、はぁ……」
胸にマンイーターを突き立てながら、アグリアスは笑った。
呼気が胸に空いた穴から漏れだし、その内その笑いも続かなくなる。
雪原にうつぶせに倒れ、それでも笑いが止まらない。
そして、
アグリアスが騎士アグリアスを殺してから数秒後
騎士アグリアスが、アグリアスを殺した。
【アグリアス 死亡】
【残り 36人】
最終更新:2011年07月17日 19:52