ヘンリーへの殺意

雄叫びとも悲鳴ともつかぬ咆哮を上げながら、アグリアスは走った。
返り血に濡れ、怒りに顔を歪ませ――その鬼女のごとき風貌に臆したのか、
ヘンリーは棒立ちになったまま動かない。
その胸めがけ、アグリアスの手に握られたマンイーターの刃が閃く。
もう、自分でもなぜこのようなことをするのかわかっていない。
ただ、彼女の中で1つの感情だけが駆け巡っていた。
それは、ヘンリーへの憎悪と殺意。
「誇りを踏みにじった報い、その血で贖え!」
アグリアスは狂気じみた叫びとともに、短剣を振り下ろした。

「!?」
しかし、確実に心臓を貫いたはずの剣先は、何の手応えも伝えなかった。
それどころか、目の前に立っていたはずのヘンリーは、煙のように消え失せていた。
狼狽を隠しきれずに、アグリアスはヘンリーの姿を捜し求める。
そして、その声は背後から聞こえた。
「イオ!」
「!!」
アグリアスが振り向くよりも速く、爆発が彼女の体を吹き飛ばす。
張り詰めた糸がぷつりと切れるかのように、
限界に達していた彼女の意識は、呆気なく閃光の中に沈んだ。

「この程度の幻影に引っ掛かるなんてな……買い被りすぎてたか?」
ヘンリーは、気絶したアグリアスを見下ろしながら呟いた。
種明かしをすれば、何のことはない。
アグリアスとリバスト、二人が鍔競り合っている時に呪文を唱えておいただけだ。
魔力の霧に幻影を映し出し惑わせる、マヌーサの呪文を。
いくらなんでも、危機が迫っている時に何の手だても打たないほど、彼は愚かではない。
だが、ここまで効果があるとは思っていなかった。
半ば呆れたような口ぶりは、そのせいだ。

「なんにしろ、お前の実力はけっこう評価していたんだが……残念だ」
この言葉は本心だった。
先刻の剣さばきを見るに、相当の訓練を積んだのだろう。
ヘンリーの腕前では到底勝ち目などないし、もちろん生半な剣士では足元にも及ぶまい。
単に、今回は相手が悪すぎただけで――
それにしたって、騎士道などにこだわらず、魔法を織り交ぜて戦っていれば
勝っていたのは彼女の方だったろう。
言い換えれば、それがアグリアスの最大の欠点だということだ。
騎士としてのプライドの高さゆえ、相手の弱みをつくことができない。
プライドを貶められた時、感情を抑えきることができない。
それでも相手に打ち勝てたのなら、まだ話は別だったのだが。

「騎士にはなれない、誇りも捨てられない、
半端な役立たずをいつまでも仲間にしとくほど、俺に余裕は無いんでね」
ヘンリーは言いながら斧を振りかぶった。
アグリアスは目を覚ます様子が無い。
このまま彼女の命を絶とうとした、まさにその時。
ふと、最初に説明されたルールがヘンリーの頭の中に浮かんだ。

『24時間以内に一人も死ななかった場合、全員の首輪が爆発する』

リバストが死んだのはたった今だ。
アグリアスを生かしておく気などさらさらないが、
見えないタイムリミットのことを考えれば、今すぐ殺してしまうのは得策ではない。
何せ開始から二日半が経過するというのに、まだ半数近くも生き残りがいるのだから。
万一のことを考えれば、猶予は長い方がいい。
「そうだな……騎士なら、最期ぐらい役に立ってもらわないとな」

数分後。ヘンリーは悠々と戦場を後にしていた。
アグリアスに止めは刺していない。マンイーターも残してきた。
九割方眠ったまま死ぬとは思うが、運良く目覚めることもあるだろう。
その時に生き残ることができるように……というわけではない。
あの短剣は、食料もランプも全て奪われたことに気付いたアグリアスに、
自ら死を選ばせるために残してきたのだから……

【ヘンリー
 所持品:食料多、支給ランプ×2(リバスト・アグリアスから回収)ミスリルアクス イオの書×3
     まどろみの剣 なべのふた スリングショット
 第一行動方針:とんぬら達を追う(遭遇すれば他のキャラも倒す)
 基本行動方針:皆殺し
 最終行動方針:全てが終わった後、マリアの元へ逝く】
【現在位置:大陸中央北西の湖よりの森】

【アグリアス@ホーリーナイト(アビリティ:時魔法)(負傷・気絶、朝まで放置されれば凍死確定)
 所持品:マンイーター
 第一行動方針:?
 最終行動方針:?】
【現在位置:大陸中央北西の湖よりの森】


←PREV INDEX NEXT→
←PREV アグリアス NEXT→
←PREV ヘンリー NEXT→

最終更新:2011年07月18日 06:52
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。