規則他正しい連続音。杖が反応している。
ティナの魔力で作り出した対冷気の防護壁の中でまどろんでいた
アルスは、それを聞いて飛び起きた。
「誰か来る!」
エドガーとティナを急いで起こし、自分も一発頬をはたいて眠りに落ちかけた脳を覚まさせる。
むっくりと起き上がったエドガーはさっそく髪を整え始め、ティナのために気をつかい出した。
アルスは周囲に意識を拡散し、向かってくる者にいつでも対応できるよう気構えした。
辺りは静かなものだった。朝になっていることは陽射しからわかるが、放送の時間にはまだ至らないらしい。
「アルス、今反応があったばかりか?」
岩の横に立てかけてあるレミラーマの杖を横目に、アルスは答える。
「うん、つい今……あれ、消えた」
反応は消え、杖はいつも通りの、もの言わぬ棒切れに戻ってしまった。
「おかしいな」
アルスは杖を握りしめてみた。ピッ、杖は再び光をたたえて反応し始めた。
「よし戻った。間隔からしてまだ遠くにいるみたい、あ、また!」
杖はまた無言になってしまった。杖を睨んでいぶかしんでいるアルスを見ながらエドガーは
「ふむ、丁度ぎりぎり範囲内のところをうろついているんだな」
と的確な事実を言ってアルスを唸らせる。
ティナも体を二人の方へ動かして様子をうかがっていた。
「魔法は解くわ」
解除の呪文を呟くと、淡い光の防護壁はとたんに色を失い、空気と混ざり合うかのように消えた。
足元が痺れるほど冷たい。魔力が消えて、今まで羽根布団のようだった白い雪が、重く足に取り付き
べたつく粘着質なものに変わった感じがする。
杖の反応も変わった。音のする間隔が狭まっていく、何者かはこちらに近づいているというわけだ。
「いつでも来い」
剣を抜き、向こうのごつごつとした岩場を、そしてさらに遠くを睨んだ。
アルスはエドガーより一歩前に出る自分を、誇らしいものだと思いたかった。
最終更新:2011年07月17日 01:13