失態

クラウドはその人影にまず驚いた。
エアリスが生きてそんざいしているのだから、おかしなことではない。
だが、彼の格好、彼の仕種、彼の存在そのもの、それを前にしたとき、
「1stソルジャー・クラウド」の存在は彼そのままに、あるいは粗悪に、移したものに過ぎない。
そういった意味で、彼の存在はクラウドにとって禁忌としか言いようがなかった。

もっとも、そんな事情など、当の本人であるザックスには何も知りうるものではない。
彼にとってのクラウドは、友人の神羅兵。それ以外の何者でもないのだから。
だから、彼の最初の挨拶はこんな感じだった。
「よう、クラウド…だよな?久しぶりっつーか、生きてて何よりだ」
「ザ…ックス…?」

そのとき、リノアは隣のスコールの異変に気づいていた。
これまでまったく身動きしていなかったスコールが、クラウドを見ている。
クラウドを?彼に何かがあるというのだろうか?
言いようのない不安が、リノアの内を巡る。

「クラウド、知り合い?」
アリーナが尋ねると、クラウドはゆっくりと肯く。
あまり親しくないのだろうか、とも思ったが、ザックスは親しげな態度である。
事情がわからず、ただクラウドの出方を見守るのみだ。

「ザックス。セフィロスが、死んだ」
「…マジか!?」
クラウド踵を返し、背中に収めていた折れたマサムネをザックスに見せる。
ザックスはそれが本物のマサムネであることに唸り……

リノアは、あっと声を上げた。

クラウドにとって不運だったのは、そこにザックスがいて気を取られた事だった。
そして、洞窟の中ゆえに薄暗い事、ザックスのいる場所から離れていた事、
「彼」が敵意のない女性の隣りにいた事も、視野から外してしまった原因である。
それは致命的な隙だった。

「てめえっ、ナニやっている!?」
ザックスの声に、クラウドは呆気にとられる。
それが自分に向けられたものではないと気づいたときには、彼は既に背後に回りこんでいる。
クラウドはあわてて振り向こうとする。それに合わせて彼も自分の背後に回る。
そして彼はクラウドの背中に手をやり、「ソレ」を握った、
瞬間!

「ガッ!!」
強烈な振動にクラウドは腹の底から声を上げた。
背中の肉が弾け飛んだ様でもある。吹き飛ばされていく最中、クラウドは彼の手に「ソレ」が握られているのを見た。
以前、気弱そうな少年から譲り受けた、使い方のよくわからない武器「ガンブレード」をもつスコールの姿を。
「クラウド――――っ!!」
青い光の中に落ちようとする自分を支えようとするザックスの手。
消え行く意識の中で、世界から消えていく感触の中で、クラウドは意識を手放した。

リノアはその光景を呆然と見ていた。
スコールの手には、彼が愛用していたガンブレードがある。それだけで、頼りなかった彼の存在が引き締まった気がする。
「あんた、あんたはぁっ!」
旅の扉から漏れる青い光に照らされた彼の顔を見て、アリーナは拳を握った。
どこかヒヨワな、だが間違いなく勇敢な優男の顔が思い浮かぶ。
あの時ギルバートを殺し、そして今大切な人を殺そうとした!その激情がアリーナの理性を奪った。

アリーナがスコールに殴りかかる。
だが体調も悪く、視力もかなり失っている彼女の拳は、かなり心もとない。
ガンブレードの腹であっさりと拳の威力は流され、返すスコールの反撃がアリーナを捉える。

「ッ!?」
普段ならかわせたかもしれない。だが、酷使し続けたアリーナの体は、主の意思に答えなかった。
スコールと間合いを外そうとしたものの、ガンブレードの刃が閃き、
右の方から左の腹まで、強烈な衝撃がアリーナを体を切り裂く。
爆発するような音が響き、アリーナの体はボロキレのように吹き飛んだ。

ここで追い詰めれば確実にアリーナを仕留められる。
だがスコールは踏みとどまった。パパスが剣を抜いて殺到してくるのを感じたからだ。
ガキィン!!パパスのアイスブランドとスコールのガンブレードが交錯する。
「少年、それが答えか!!」
スコールは答えない。ただ、全力でパパスの剣を押し返すのみ。
その力に、パパスはスコールが先程までの腑抜けた彼ではないことを認めざるを得なかった。

鍔迫り合いの後、パパスの剣を逸らしたスコールはすばやくその場から離れ、
「ス、スコール!?」
リノアの腰に手を伸ばして抱きかかえると、そのまま旅の扉の向こうに消えた。
元からそうするつもりだったかのような、まるで澱みのないプロの動き。
パパスはその後を追おうとしたが、
「………チィッ!」
以前の経験……双子と逸れた時……からして、このタイミングでは間に合わないと思い踏みとどまった。
自分にも目的がある、無闇な行動をして、あるはずの機会を逃すわけにはいかない。

それにしても、あのスコールの変貌振りはどうだろう。
無気力だったあの青年がまるで歴戦の戦士のようだった。
あの剣がソレをさせたのだろうか。風変わりな、扱いそうな剣だという印象しか、パパスにはなかったが。

それにしても、あのスコールの変貌振りはどうだろう。
無気力だったあの青年がまるで歴戦の戦士のようだった。
あの剣がソレをさせたのだろうか。風変わりな、扱いそうな剣だという印象しか、パパスにはなかったが。

パパスは剣を収めると、アリーナの元に向かった。
傷口を見る。すぐに、手遅れだということは見て取れた。
「…クラウド、は…?」
虚ろな瞳で尋ねる少女。
「何か、伝えたいことがあるかね?」
パパスは逆に問う。
「伝えたいこと、は…あるよ…で、も、ソレ、は…私が、私の口から、告げること、なんだ……」

「そうか」
パパスは何も言わない。彼女の思いが何であるかわかるがゆえに、答えない。
ベホイミを唱えた。何の意味もないただの気休めだけれど、
「ちゃんと、伝えなきゃいけないんだ…だから。私は死ねない…まだ、死ねない………」
それでも、何もないよりは、よい。どうせ最後が避けられないなら、安らかなほうがよい。
「好きだって。ちゃんと言うんだ……」
そしてそれっきり言葉を発しなくなる。

「過去を追及しても詮無き事だが……あの時少年は殺しておくべきだった。
 ワシの失態だ。許せとは言わん、だが次あったときは必ず仇は取る」

物言わぬ少女の瞼を、そっと閉じ、パパスはそう誓ったのだった。


【ザックス 所持品:バスターソード
 第一行動方針:クラウドを助ける
 第二行動方針:エアリスの捜索
 基本行動方針:非好戦的、女性に優しく。】
【クラウド(重傷)
 所持品:折れた正宗
 第一行動方針:次の世界へ
【現在位置:次の世界へ】

【スコール 所持品:ガンブレード 真実のオーブ
 第一行動方針:リノアをゲームの勝利者にする】
【リノア 所持品:妖精のロッド 月の扇 ドロー:アルテマ×1
 基本行動方針:スコールに着いていく】
【現在位置:次の世界へ】

【パパス 所持品:アイスブランド
 第一行動方針:旅の扉の前でギリギリまで待つ
 第二行動方針:バッツと双子を捜す、スコールを殺す
 最終行動方針:ゲームを抜ける】
トーマス 所持品:薬草×10 鉄の爪 手紙 碁石(20個くらい)
 第一行動方針:パパスについていこうと思っている
 基本行動方針:生き残る
 最終行動方針:トム爺さんの息子に一言伝える】
【現在位置:ロンダルキアの洞窟6F・旅の扉前】

【アリーナ 死亡】
【残り 32人】


←PREV INDEX NEXT→
←PREV クラウド NEXT→
←PREV ザックス NEXT→
←PREV スコール NEXT→
←PREV リノア NEXT→
←PREV アリーナ NEXT→死亡
←PREV トーマス NEXT→
←PREV パパス NEXT→

最終更新:2011年07月18日 00:40
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。