悪くない部屋だ、と
リノアは思った。
内装は質素だが趣味は悪くない…と言うか、ハッキリと良い趣味をしている。外の毒々しい街とくず鉄の山に埋もれているのはもったいないほどに。
昔、
エアリス=ゲインズプールと名乗る女性が母と共に住んでいた家に、リノアは居た。
柔らかなカーテンをそっとなでつけてから、外を見る。
大地はなく、くず鉄の山がある。青空はなく、鉄板の屋根がある。
ありとあらゆる“自然物”を排除したゴミ捨て場の中。そんな中に、この家は建っていた。
彼女らが現れたのは、この家の二階。元々エアリスの部屋だった部分だ。
ココに現れてから、
スコールはほとんど動いていない。ざっと辺りを見回してそれっきり、ベッドに腰掛けて動かない。
ガンブレードを右手に掴んで、うつむいて、どっしりと座ったまま動かない。
せわしなく部屋をあさくっていたリノアは、外の光景を確かめたのを最後に動きを止めた。
しばらく立ちつくし…スコールを見て…ふと、背筋に冷たい物を覚える。
分かっているし、死体はいくつも見たし、決意もした。
しかし、あの瞬間の宙を舞う女性の姿だけは、どうにも、思い出すだけで気分が悪い。
飛んでいた。ガンブレードのトリガーを喰らったにもかかわらず派手に臓物をばらまくような事もなく、ただふわりと舞うように飛んでいた。
ただ、その瞬間、“彼女が死ぬ”だろうと言う事ははっきり分かった。何というか、宙を舞う彼女の目を見て。
その前の金髪の男の時とは、何かが違った。あの男の方は、まだ決定的な何かが切れては居ないようだった。
怖かった。目の前で、スコールに、殺された人を見て、恐怖した。
スコールは、今はスコールじゃない。彼の意志はなく、ただひたすら殺すだけ。そんな存在。
自分だって…いつか殺されるかも知れない。スコールに限ってそんな事無いなんて言えない。
どちらにしろ、生き残れるのは1人なのだから最後には…。
最後には?
リノアはハッと我に返った。
そうだ。生き残れるのは1人なのだ。すっかり、忘れていた。
後何人生き残っているかは分からないが、最後に生き残るのは自分達だろうと、リノアは確信している。
何しろ、スコールがいる。ガンブレードを持ったスコールが居る。スコールは絶対誰にも負けない。
そうなると、残るのは自分とスコールの2人。生き残れるのは、1人。
どうなるのだ?スコールを殺すか?自殺するか?タイムアウトで2人とも死ぬか?
…全部違う。正解はすでに知っている。
そう、自分は、スコールに殺される。さっき不安に思った通りに。
それに気づいた瞬間、リノアはその場にへなへなと座り込んだ。
何だ。迷う必要なんて無かった。答えは最初から決まっていたんだ。
スコールはそうする。だったら、それでいいじゃない?
スコールは私のヒーロー。最高にかっこいいヒーロー。こんなところで死ぬはずがない。
なら私が死ぬ。当たり前の事。だったら、それでいいじゃない?
私はスコールが大好き。だから彼に付いてきた。人殺しだってする。彼のためにする。
彼のため。そうだ。彼のためだ。私は彼が、スコールが大好きだ。だから彼に付いていく。
スコールは優秀なSeeDで、私の大好きな人。だから…。
リノアは力抜けた膝を叱咤してゆっくりと立ち上がった。
「スコール、私、ちょっと下に行って食べ物探してくるね」
リノアはいつもの調子で軽く、手をパタパタ手を振って歩き出す。
すぐ其処にあるドアに手をかけ、まるで恐れることもなく開いた。
普通の家なら台所があるだろう。二つ前の世界でココアを振る舞ってもらった覚えがある。ここにも、そう言ったモノが残っているかも知れない。
リノアは平然と、下へと下りていった。
自分が死ぬ事など考えていないかのように。
あるいは、自分が死ぬことが当然であるかのように。
【スコール 所持品:ガンブレード
真実のオーブ
第一行動方針:リノアをゲームの勝利者にする】
【現在位置:エアリスの家二階、エアリスの部屋】
【リノア 所持品:
妖精のロッド 月の扇 ドロー:アルテマ×1
基本行動方針:スコールに着いていく】
【現在位置:エアリスの家一階へ】
最終更新:2011年07月17日 17:13