故郷

ザックスはもう何も語らない、自分を助けようとしていたのだろうか。
もうそれはわからない、とにかく、
「うっ」
……急に強烈な目まいを感じてクラウドは血を吐き出した。さび付いた刃を咥えたように
鉄の臭みが口の中に漂いだす。
雪景色が網膜に焼き付いてはなれないままだったが、ここはもう別の世界なんだと自分に言い聞かせる。
いや、ひょっとしたら、夢でも見ているのかもしれない、
クラウドは深手を負った体がまるで痛まないのを感じて、そう考えた。


重たい体をひきずって、砂煙の吹く暗い路地をクラウドはひた歩く。
夜、太陽がない、いやプレートだ、あれがあるせいで、光がとどかない。
上と下の世界をつくりだす巨大なプレートはどれほどの手間をかけて建造されたものなのか。
ミッドガルという手狭な世界はかくも広大で、腹ばいになって目の前に拡がっている。
クラウドはごちゃごちゃと連なるがらくたの景色をよそに、どこか遠くを思っていた。

目的地は近いようで遠い。
血が止まらないまま歩きつめたクラウドは、よろけながら瓦礫の山に突っ込んだ。
オイル臭を鼻腔にこびり付けながら、寝転がって暗い空を見つめた。初めて背中に痛みを感じた。
クラウドは口を半分開いて、わかったとつぶやく。
多分夢を見ているのではないとわかった。確かに今生きている、ここにいる。
でもなぜ行き先がエアリスの家なのか、それは自分でもわからない。彼女がここにいるとは思えない、
行っても何かが起こるわけじゃない。ただ思い出に浸るぐらいのことしかできないはずだ。
――それだけでいい
クラウドは起き上がった。足は自然と動いた。体は危機を告げていたけれど、クラウドが一途な想いを
貫こうとしているのがわかったから、あえて止めようとしなかった。
心だけで歩いていこうとするクラウドだった。

「ここが、5番街っていうんスか」
「そ、私の家もここにあるの」
列車の走っていない、線路を下りていって、エアリスたちは5番街にたどりついた。
空気が悪くて、いやな臭いが漂っている。ミレーユモニカは顔をしかめていた。
「ごめんね、私の家はそんなに酷くはないと思うから」
エアリスはミレーユたちと向き合った。
「いいのよ、生まれた処、住む処というのは自分の思い通りに選べるものじゃないから。
 エアリスさんにとってはこの場所、この空気こそが故郷なんでしょう?
 皆、心の中に自分の故郷をもって生きているもの……私もそう。故郷はかけがえのないものよ」
ミレーユの瞳にエアリスは何だか照れくさくなって、顔を赤くした。

「ここがエアリスさんの……」
モニカは焦眉にかられたような顔をして周りを見渡した。育ちのいい姫君は、初めてこういうところを目にした
せいで、少なからず動揺していた。
「ごめんね~、やっぱり、ここはあんまりいい景色とは言えないよね」
エアリスは思わず舌を出した。別段気にとめもせず、けろっとしている。
「いえ、私は……」
モニカがそう言いかけたとき
「そっか、モニカさんお姫様だったっけ。住む世界が全然違うって感じだよな。」
ティーダが出し抜けにそう言った。
「うん、ここに住んでいた人たちは貧しかったからね」
エアリスが同調するように言った。

「いえ!」
モニカはエアリスを直視して瞳を熱くする。
「私は、決してそんなつもりでは」
震えた声。モニカの顔が青ざめていた。

ティーダは手のひらで口を覆い、そわそわし始める。
ミレーユが傍に近づき、ティーダの肩を手でこづいた。
――もうちょっと言い方考えなさいよ
ティーダは頭を抱えて自己嫌悪してしまった。

モニカはうつむいて顔を上げようとしない。きまずい時間が過ぎていく。
ミレーユはどうしたものかとエアリスとモニカを交互に見る。
が、やがてエアリスに何の変調も起こらないことを悟ると、固くした身をほぐした。
「いいのよ、何も悪気なんてないことわかってるんだから。ね」
エアリスは笑顔だった。モニカに近づき、手をぎゅっと握った。
モニカは顔をそっと上げて、小さく素直に頷いた。

「いや、俺、もうちょっと気を遣うことにするよ。本当に悪かった、ゴメンな」
ティーダが頭を押さえながら皆を見渡して詫びた。
エアリスは手をふって応えたので、ミレーユは一安心のため息をつきながら、ふと横を見た。
……なに?
胸騒ぎを覚えて、ミレーユはそこに駆け寄る。
そしてくずれた瓦礫の傍で、ミレーユは潜めながらもよく通る声で言った。

「これ、血じゃない?」
ミレーユは片膝を立てて、そっと地面を払った。指をそっと舐めてみる。
「間違いないわね。それにまだ新しい……誰かがここを通ったのよ」
「血?」
ティーダは顔をこわばらせ、ミレーユの元へ駆け寄った。黒ずんだ路面を見つめて、視線を先へ先へと移す。
「この先には何があるんだ」


「私の家……」
遠くで、かたんとむき出しの鉄骨が音を立てた。



花の園はとくに傷もなく裏手に残っていた。スラムに咲く花がそう簡単にしおれてしまうはずがない。
呼吸が荒いまま女の子の家の敷地に入り込む。そのままクラウドは玄関のブザーを押そうとしてやめた。
待っている人なんて誰もいないのだ。



【ティーダ 所持品:いかづちの杖 参加者リスト 吹雪の剣
 第一行動方針:エアリスの家へ
 第二行動方針:アーロンを探す
 最終行動方針:何らかの方法でサバイバルを中止、ゾーマを倒す】
【モニカ 所持品:エドガーのメモ(ボロ)
 第一行動方針:エアリスの家へ
 第二行動方針:アーロンを探す
 最終行動方針:ゲームから抜ける】
【エアリス 所持品:癒しの杖 エドガーのメモ マジャスティスのメモ
 第一行動方針:エアリスの家へ
 第二行動方針:アーロン、クラウドを探す
 最終行動方針:このゲームから抜ける】
【ミレーユ 所持品:ドラゴンテイル 妖剣かまいたち 小型のミスリルシールド ロトの剣
 第一行動方針:エアリス達と行く
 最終行動方針:ゲームを覆してテリーの仇を取る】
【現在位置:5番街】

【クラウド(重傷)
 所持品:折れた正宗
 第一行動方針:?】
【現在位置:エアリスの家玄関前】

スコール 所持品:ガンブレード 真実のオーブ 妖精のロッド 月の扇 ドロー:アルテマ×1 リノアの首
 最終行動方針:リノアを勝利者にする】
【現在位置:エアリスの家】


←PREV INDEX NEXT→
←PREV エアリス NEXT→
←PREV クラウド NEXT→
←PREV スコール NEXT→
←PREV ティーダ NEXT→
←PREV モニカ NEXT→
←PREV ミレーユ NEXT→



最終更新:2011年07月17日 17:15
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。