スコールはただじっと、動かなくなった
リノアを抱きしめていた。
これが結末か。こんな物がこの物語のエンティングか?
ふざけるな、冗談じゃない。認めない。認めたくない。
がくがくとスコールの体が震え出す。
このゲームの中で、彼は久々にまともな人間のような反応を見せていた。
愛する者を失った人間の見せる、反応。
拒否。恐怖。絶望。そして空虚。
彼女が居なくなってしまうとき、彼は元に戻っていた。
冷徹な殺人人形ではなく、多少塞ぎ込みがちな普通の少年に。
彼女がそれを望んでいたから、彼女のために元に戻った。
彼女と会う前は、恐怖に駆られた。会った後は、彼女を勝ち残らせるために闘った。
なら、今はどうする?彼女も居なくなって、自分はどうする?
固い地面にリノアだったモノを横たえながら、スコールはその事について結論を下した。
否、結論は最初からでている。
スコールは
ガンブレードを振り上げ、そして空を切り裂いた。
その目は、リノアと会う前の、それに、戻っていた。
…生きていようが死んでいようが、勝利者は、リノアだ。
ど ん っ !
どんっ!と言う耳障りな炸裂音が
クラウドの身体を僅かに揺さぶった。
「っっ…!」
すでに外の騒ぎに半ば覚醒していたクラウドは、その音を聞いて跳ね起きた。
背中の酷い傷が抗議の絶叫を痛みの形で訴えるが、あいにく彼の痛覚はそれを通り過ぎてほとんど麻痺していた。
クラウドは訳の分からぬままゆっくりはいずり、手近の扉を苦労して押し開けて…これは夢か地獄か錯覚だと確信した。
アリーナと洞窟にいたはずなのに、なぜこんな所に…ミットガルにいる?
どうして
ザックスが死んでいる?どうして、どうして…
どうして、首のない女性の死体が転がっているのだ?
スコールはキッチンに放置してあった紅茶を手に取り、椅子に腰掛けた。
それは冷め切っている上に塩の味がしたが、文句は言わない。どちらにしろ、もう彼にそんなことを気にすると言う感覚は無いが。
これが、リノアの残した最後のモノ。このゲームの支給品と、彼女からドローしたアルテマの魔力。そして決心と想い出。
いろんなモノを彼女はゲームの中で遺した。そしてこれはその最後のモノ。
彼は紅茶を飲み干し、目の前のテーブルを見つめた。彼が守るべきモノ。最後のまともな感覚まで凍結させて、彼はそれを守り抜こうと決意した。
もう誰にも止められない。彼は愛する者を守るために全力を尽くすだろう。
薄い微笑みをたたえるリノアの首から上が、テーブルの上に静かに座っていた。
【クラウド(重傷)
所持品:折れた正宗
第一行動方針:?】
【現在位置:五番街スラム】
最終更新:2011年07月17日 17:15