蟲毒

「蟲毒というものを知っているかね?」
「孤独?」
聞き返したリディアゼニスは首を横に振る。

「ムシのドクと書いてコドクという。とある地方に伝わる呪いでな。
 多くの蟲を壺の中に入れて封をし、しばらく放置して共食いをさせる。
 そして最後に残った一匹を媒介にして術をかける」
説明を聞いてリディアは表情を硬くする。
「悪趣味な術だな」
デッシュも思わず眉を顰めた。

「しかし効率的じゃ。死は絶対であり、けして取り返しがつかない。
 それゆえに、死から最も遠い存在こそが最優であるといえよう。
 体力、知力、魔力はあくまで存在の一要素に過ぎない。
 例え力がなくとも、生き易いモノこそ、最も強い」
「それは……そうかもな。けどそれが、なんだって言うんだ?」

「初めはな、多分誰が一番強いのか、というところからじゃ」
「はぁ?」
「先程の、もしも世界が一つなら……という話じゃよ。
 それぞれの世界にそれぞれの人々が、戦士が、英雄が住んでいる。
 その中で最も強いのは誰か。そなたには答えられるかね?」
「無理だ。異世界の存在の強さをどうして比べられるんだ?」
「そうじゃな。どんなに話し合っても平行線になるだけ―――」
ゼニスはふう、と一息つく。


「―――だから、試してみることにした」


「え……?」
「なっ!? おい、爺さんそれってもしかして……!?」
ようやくゼニスが何を話しているのか気付いて、二人は慌てふためいた。
異なる世界、異なる時間軸から集められ、最も死に辛い存在を選定する。
それは。

まさしく自分たちを取り巻くこの状況、そのままではないか。

「そこで先程の蟲毒の話が絡む。最も優れた存在は最も呪いを受けし存在。
 力のある無しなど関係ない。例え誰も殺めなかったとしても関係ない。
 その時、その場所で生き延びたことが最強の証明」
「………」
呆然と、二人は目の前の老人を見る。
何故、そんなことを話す? 何故、そんなことを知っている?
何故、こんな所にいる? 何故、この老人は生きている?



「幾数多の命と怨嗟を浴び、ただ生きるだけで闇を背負う。
 故に、闇の中の闇。絶望を越える王。滅びの支配者。

 ――――大魔王 ゾーマ


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最終更新:2011年07月14日 23:15
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