「な、何と言っていいかわからぬが…
案外、あっさり終わったでござるな…」
崩れ去り、消え失せた
ゾーマのいた空間をじっと見つめながら、
ライアンは呆然とつぶやいた。
「こういう事は、案外そう言う物なのだろう。
“我が事成れり”と言うのが気に入らんが、な」
勝ち逃げをされた気分だ。所詮自己満足の言葉だと割り切る事ができぬほどの、ゾーマの自信。
戦いの目標は勝つ事、負けぬ事。いかなる事があっても負けないと言う自信があるのなら、すでに事が成されていたのなら。
…最初から、奴の勝ちであったのかもしれない。だが。
「みんな、生き残った。一人も欠けずに…!」
ティナのつぶやきに、
エアリスが強く頷いた。
そうだ。生きている。大魔王と戦った者達が、みんな生きている…!
「ならば我々の勝ちだな、ゾーマよ…」
「当たり前だよ、ヤツがなんと言おうが、俺たちの…勝ちは勝ちだ」
ピサロの肩をぽんと叩いて
バッツが言う。その足取りは軽い。
「暢気な男だ…これからが大変だ。
全員を元の世界に帰さねばならん。このまま一生ここにいるわけにはいかんからな」
「少し休んでから探そう。さすがに少し疲れ…ん?」
バッツは自分の口から漏れる声に違和感を感じた。
声がわずかに震えている?
そんなに疲れているのか。駄目だな、少し休まないと、しかし、なんだか変だ。
脚もがくがく震えて、いや違う、足下が…。
「地震だ!」
誰かが叫んだ。
揺れる。柱が、床が、壁が天井が部屋が全部が。
「なんか…やな予感、するよね?」
「お約束…だしね?」
真っ青な顔をして、
エーコと
アニーが顔を見合わせる。
悪の居城。敵を倒した。その後に続くのは…。
「崩れるぞ…!」
押し殺した
エドガーの叫び。
それに呼応して、どんどん揺れは激しくなっていく。
目眩がするほど上下に揺さぶられ、自分が立っているのかどうかも分からなくなる。
ぴしり
と、イヤな音がした。
岩が軋む音。壁がひび割れる音。崩れ落ちる音。
ぴしり、ぴしりぴしりぴしりぴしりぴしりぴしりぴしりぴしりぴしりぴしりぴしりぴしり!
「逃げろ!」
今度は、
アルスの声。それが聞こえるか聞こえないかのうちに、全員がその場から駆けだした。
「
リディア!」
自分を呼ぶ凛々しい声に、リディアはぱっ、と顔を輝かせた。
ゼニスの話を聞いている時の、突然の地震。
訳も分からず
デッシュにしがみつき、混乱していた彼女の胸に、その声はとても明るく響き渡った。
「どうなってんだ!やったのか?!」
しがみついていたリディアを降ろしてやりながら、デッシュは走ってくる皆に向けて怒鳴った。
「やったさ!面倒な事になったがな!」
怒鳴り返すエドガー、その足下に亀裂が走る。
「どうすんだ!」
「逃げるさ!」
そう言って、エドガーはデッシュの肩をつかんだ。そのとたん、彼らの足下が、裂けた。
「へっ…?!」
ティーダの、多少間の抜けた悲鳴。
石畳の地面が一気に砕け散り、揺れが止まる。耳が痛くなるほど静かになる。
石畳の消えた足下には、真っ暗な空間が広がっていた。どこまでも深い、深淵。
壁が砕け、天井が消え、そして、深淵と戦士達だけが残る。
「ここは…」
バッツが唸る。そこには見覚えがあった。
エクスデスと戦った時の、無の空間。星々が煌めいてはいないが、そこによく、似ている。
見回せば、仲間達は全員近くに浮かんでいる。
(ここはいったい…何だ?)
最終更新:2011年07月16日 22:53