その言葉に、誰もがギョッと身を竦めた。
発言者の
ゼニスは一人、その場に座っていた。
上も下もない空間で、ただ悠然とした様子で、遠くを見ている。
慌てて
デッシュが駆け寄り、その胸倉を掴む。
「そりゃどういうことだ!? あんた一体何もので、何が目的なんだ!?」
「言葉の通りじゃよ。わしは
傍観者。故にただ行方を見守るだけじゃ。
さて、そのわしが何故この舞台にいるのか」
「言葉遊びはたくさんだ! ここは何処なんだ!? 何故ゾーマは滅びない!?」
「ここは破綻した世界の果て。そして、ゾーマが滅びない理由は」
「え?」
漏れる声。誰かが倒れる音。
無の世界に拡散して、そして消える赤い血の雫。
倒れているのは――――女性。
「ピ、サロ卿……?」
倒れている者の傍らに立つ、一人の青年。
銀の髪、整った容姿、手に死神の鎌。
その瞳は暗い。どこまでいっても闇しか映していない暗さがある。
「――――新たなゾーマが誕生するから」
「そんな……バカな」
呆然と
アルスは呟く。
確かに倒した筈なのに。倒した筈のゾーマがここにいる。
姿かたちは変わっても、その暗黒の魔力は変わらない。
「一人だけ生き残るというのは、そういう意味か……!」
エドガーは唇を噛む。情報は断片的だが、これだけはわかる。
殺し合いに生き残った最後に一人がゾーマになる、ということは。
「クソ、どっかで聞いたぞそれは!」
ティーダはうめく。
アーロン、
リュックも同じだ。
自身を滅ぼした存在に寄生し、成り代わる。
それは皮肉にも自分たちが倒すべき敵、シンの存在と酷似する。
『ゾーマ』は目の前にいる戦士たちを眺めた。
そのうちにある感情は、破壊、滅亡、殺戮。
それを成すことは極めて容易い。
器が魔の存在だった故に闇の力は程よく馴染んでいる。
何しろ本人すらもその力の根源が自分自身にあると勘違いしたほどだ。
それほどまでに、かつてのゾーマが注いだ闇の力は器と一体化している。
程無く、自在に操れるようになるだろう。
それで、計画は完遂する。
長い年月で磨耗し『疲れる』という感情を持つに至った古い魂は消え、
異世界から集められた強靭かつ絶望に染まった魂と、
ゾーマ自身の魂(しゅくふく)を加えることで、『ゾーマ』は新生する。
「ピサロ殿、正気にかえるでござる!」
ソレも古き名だ。膨大な絶望に押し流された古き存在だ。
今ここにあるのは無を望むだけの魔王。
それは、死と滅びを振り撒く存在。
【デスピサロ(ゾーマ化) 所持品:『光の玉』について書かれた本
行動方針:皆殺し】
最終更新:2011年07月16日 22:54