そんな
サマンサを前にしてなお、
ゼニスは平然としていた。
冷静という以上に、この状況ではむしろ気味が悪い。
「さて、わしの目的は何であろうな。何故このゲームに巻き込まれたのか。
このゲームで何をさせたかったのか、それはわからぬ」
「その割りには……随分と、訳知りではないですか」
「わしは傍観者なのだよ」
「傍観者……?」
「人の手の届かぬ高みにあって、ただ世界を観察する者。
誰よりも知識を手に入れたが故に、その手に何も掴めない者」
「だから、このゲームのことも知っていた、ということですか」
「存在することだけは。しかし、わしは全知ではあるが無能なのだ。
わしにとっては物に触れるのも大地を歩くのも、何もかもが目新しいのだよ」
ふう、とサマンサは一息をつく。なるほど、コレは常人ではないことが良くわかった。
できれば関りたくはないが、それでも今は利用するしかない。
「ならば貴方が知りうることを教えなさい。
ゾーマは、どうすれば倒せるのですか」
「ゾーマは絶対無敵じゃよ。倒すことは出来ない……全員の魂を吸ったのなら、の話じゃがな」
「どういうことですか……? あのゾーマはまだ完全ではない、と?」
「このシステムは最後に残った一人がゾーマを倒すことで成立する。
そのため、古いゾーマは
参加者が一人死ぬごとに弱体化していくのだ。
最後の一人になったら時点では、女子でも縊り殺せるほどにな」
そう言われれば、自分たちが戦ったゾーマは最初に比べて酷く弱体化していた。
全てが予定調和だったということか。
「ここには20人残っていよう? その分、あのゾーマは完全ではないのだ」
「しかし、90余の魂を吸っているのなら、
単純計算で私たちの4倍以上の力を持っていることになる」
単純な戦術論では戦力が3倍以上になると覆せないという。
状況が絶望的であることに変わりはない。打開するためには策がいる。
それもとびきりの奇策が。
「何か……いい方法はないの? あのイケメンの目を覚ます方法とかさ」
エーコの質問に、ゼニスは頭を振る。
「ない。わしは知らぬ。しかし」
『しかし?』
サマンサ、
エアリス、エーコ、
デッシュ、
リディアが唱和する。
「そなたたちは、それぞれの世界でそれ以上の不利を覆してきたのではないのかね?」
全員が息を飲む。ゼニスの言う通りだった。
絶望は身近なところにあり、何時だって立ち向かってきたのだ。
ならば、今回もそれをするだけである。
「まだ絶望するのは早い。
ほんの僅かでも良い、あの青年が我を取り戻すことができれば。
ゾーマの呪縛を己の力で破る切っ掛けさえ作ることができれば、状況は変わろう」
最終更新:2010年05月29日 23:35