兵器

「大丈夫ですか?」
「ああ、助かったよ」
アルスは回復魔法でとんぬらの傷を癒した。
それを確認してから、王者の剣を握りなおす。
「悪いけど、サマンサたちを頼みます」
それだけ言い残すとアルスはデスピサロ目掛けて突撃した。

歯を固く食いしばる。
デスピサロはゾーマを倒すため、助け合ってきた相手だ。
皆は何とかしてデスピサロを助けたいと思っているだろう。
特に元の世界で仲間だったサマンサは彼に絶対の信頼を置いている。
皮肉な話だ。
おそらく唯一、倒さなければいけないと思っているのが自分なのだから。

そう、デスピサロは倒すべきだ。
ライアンが言うように、魔族と人間が手を取り合うのは理想だろう。
しかし、その相手がデスピサロというのは承服できかねる。
アレは人間にとって敵だ。関る人間に必ず害を及ぼす。
だからこんな状況を抜きにしても、倒さなくてはいけない存在だと断言できる。

デスピサロの動きを止めようと、数人の戦士が攻撃を仕掛けている。
しかしあっさり往なされ、一撃として有効な攻撃を与えられない。
それも当り前だ。殺す気がない攻撃にどれほどの驚異がある?
だが、自分は違う。少なくとも、自分だけは違う。

乱れ飛ぶ真空の刃の間を突き抜ける。
下段に構えた王者の剣を、容赦の欠片もなく振り抜いた。
甲高い音が鳴って、死神の鎌の刃を打ち砕く。
だが幻の刃はすぐに元に戻り、結果としては攻撃を往なされたアルスが残る。

がら空きになったアルスの胴目掛けて、デスピサロは死神の鎌を振り落とす。
アルスはそれを剣で受け止めようとせず、デスピサロに体当たりした。

デスピサロは動じない。不動のままアルスを跳ね返し、鎌を再び薙ぎ払う。
アルスも動じない。もとより体当たりは体勢を整えるためのものだ。
王者の剣で攻撃を受け止める。さすがに力は強烈だが……!

「アルス殿……!」
ライアンはうめいた。
圧倒的な力に振り回されながらも、食いついていくアルスに感嘆した。
しかし同時に、アルスの殺気に困惑した。
あの勇者は、デスピサロを倒そうと、殺そうとしている。
少年はゾーマに対して並みならぬ敵意を持っていた、
それが今度はデスピサロに向けられている。

それをパパスアーロンと言った面々も感じた。
止めることは出来ない。そんなことをすればこちらは全滅する。
殺す勢いでなければデスピサロは止められないことを、アルスは身を以って証明している。

ならば、覚悟を決めるべきだ。
パパスとアーロンは、剣を握り直してアルスの援護に入る。
ライアンは吼えた。
「それしか……無いのでござるか、デスピサロ殿……!」
しかしその呼びかけにも、デスピサロは微かにも応じることはない。

「ねえねえ、ふたりとも、ちょっといい?」
「はぁ!? 今それどころじゃないっての!」
「なんだい、お嬢さん」
リュックに声を掛けられて、ティーダエドガーはそれぞれの反応を返す。
「うん、二人とも機械のこと知ってるんだよね?
 聞きたいんだけどさ、強い機械の武器っていったらナニ思い浮かべる?」

「ドリル」
即答するエドガー。
マシーナリとしてこれだけは譲れないらしい。

しかしリュックとティーダに、はぁ? という顔をされたので、コホンと咳払いした。
「そうだな、ミサイルやレーザービームはどうかな」
「電撃放射とかマシンガンとか。で、そんなこと聞いてどうするんだ?」
「うん。まあそんなところかな、やっぱ」

リュックは腕に嵌った黄金の腕輪を触れた。
刹那、リュックの体が淡い光に包まれる。
「お、おい……!」
光の中で輪郭が潰れて、一つの塊になっていく。
光の塊は膨張を続け、ついには見上げるほどの大きさになる。

「嘘だろ……」
呆然と呟くエドガーとティーダの前に現われたのは、
恐竜を思わせる巨大な機械だった。
あちこちに兵装が施され、その上にリュックが乗っかっている。
「オッケー、イメージ通り。そんじゃ、行くよ~!」
「うわっ」
前進を始めた機械の傍から慌てて離れる。
敵にやられるのもお断りだが、味方に踏み潰されるのはもっと御免被りたい。

「全く驚かされるな……しかし」
「まあ、あれならアイツにも通じる、かな?」
しかし何となく不安を隠せない男二人だった。


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最終更新:2010年03月13日 05:17
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