均衡は一瞬にして打ち破られた。
クーパーの放ったミナデインはヴァジュラとギガデインの光を飲み込み、
ジゴスパークの光を掻き消して
デスピサロを飲み込んだ。
凄まじい轟音と衝撃が巻き起こる。
大抵のモンスターなら存在そのものを消し飛ばす程の力だ。
そんなものを受ければデスピサロとてタダでは済むまい。
しかし同時に、これでもまだ死にはしないという確信もあった。
何とか助けたいと思っているのに、殺す気でないといけない。
それは矛盾だ。殺す気でかかって、ようやく足止めができるという状況は。
光が薄れていく。
その向こうに、やはりデスピサロの姿があった。
さすがに無傷とは行かないのか、纏っている衣服はボロボロだ。
乱れた銀色の髪を整えようともせず、顔を伏せて立ち尽くしている。
しかし、戦闘不能になったわけではないだろう。
一時的に動きを止めただけ。無尽蔵に湧き上がる魔力が満ちれば、再び動き出す。
だから。今がチャンスなのだと、
サマンサは思った。
傷の様子は思わしくない。力を込めるだけで激しく痛む。
辛いが……即死の一歩手前だったのだ、この短時間でこの状況ならば御の字だ。
不安そうに見つめてくる
エアリスと
エーコに、サマンサは顔面を引きつらせて笑みを浮かべる。
「コレで十分です。ありがとう」
「あの……!」
死なないで、と皆に訴えたエアリスが何かを言おうとする。
しかしそれは聞けない。彼女のいうことは理想でしかなく、現実は覆せない。
サマンサはデスピサロを見据えた。一歩一歩足を踏み出す。
――――答えは出た。
だから、「死ぬな」という言葉には従えない――――
そのころ、前衛では。
動きを止めたデスピサロを戦士たちが囲んでいる。
結局、時間を稼ぐということは後手に回らざるをえないということだ。
デスピサロが何をしても対応できるよう、準備している。
ただ一人、
アルスだけは必殺の機会を狙っていた。
一見無防備に見えるデスピサロだったが、いざ攻めようとなると隙がない。
必要なのは一撃必殺。その機会を探して、様子を窺っている。
「え……?」
最初に気付いたのは、
バーバラだった。
デスピサロは俯いたままで一体何をしているのか。
彼を取り巻く魔法力の流れをバーバラはよく知っている。
そんな筈はないと一度は否定した。あれは、自分にしか使えないものだ。
けれど、彼の口の動きが馴染みのあるフレーズを想像させる。
それは正しく、発動されてしまう……!
バーバラは思わず悲鳴を上げた。
周囲のものがそんな彼女に目を向ける。
ダメだ、今から唱えても間に合わない。
大体、あんな巨大な魔力に、自分の『アレ』が対抗できるわけがない……!
「バーバラ、どうしたんだ?」
問い掛けてくる
バッツに、バーバラは反射的に答える。
「みんな、逃げて!」
『え?』
突然の言葉に、一瞬呆然とする一堂。
その僅かの時間も命取りだ、バーバラは泣きそうになりながら叫んだ。
「『マダンテ』が発動しちゃう!」
最終更新:2010年03月09日 18:41