「ピサロ殿! 正気に戻られたか!?」
「ひとまず、な」
口元だけで笑みを作ってみるものの、口調はどこか苦い。
デスピサロの姿は見るからに瀕死で、貴公子然とした様子は欠片もない。
それでもなお、態度はふてぶてしいのは、彼のプライドが為せるわざだ。
「まだこの身は
ゾーマの呪いが蝕んでいる。こうして我を取り戻したのも、
ゾーマがこの体を捨てて、新しい器に移さんとした隙をついただけだ。
時が経って傷が癒え、魔力が満ちれば私は再びゾーマになってしまう」
デスピサロは正面を見下ろす。
そこには、自分に
天空の剣を突き立てている
クーパーの姿がある。
やはり、と。デスピサロは思う。天空の勇者は自分を殺さんとするものだった。
この場合、仕方ないことではあるが、それでも皮肉なものだと思う。
デスピサロは懐中時計を取り出した。
戦闘のせいで全体的に形が歪み、蓋が壊れて半ば空いている。
おそらくは、時計の針も止まってしまっているだろう、自分の終わりとともに。
それを、
ライアンに向かって放り投げる。
「その懐中時計をロザリーに渡してくれ」
「ピサロ殿、それは」
「ゾーマは私が連れて行く。二度と巫山戯たことができぬように封じる」
サマンサが、ゆっくりとデスピサロの脇に並ぶ。
結局、デスピサロの内に入り込むことはできなかった。
しかしそれでも、
「そういうことだ。すまないな、サマンサ」
「ご安心を。今ならば正しく間違えられましょう」
この人について来てよかった、と思う。
「天空の勇者、剣を抜け」
「………」
呆然とこちらを見上げるクーパーに、デスピサロは不適な笑みを浮かべる。
クーパーは一瞬躊躇した後、剣を一気に引き抜いた。
ボタボタと胴体から血の塊が吹き出るが、倒れることだけは何とか堪える。
「ピサロ殿!」
「後は頼んだぞ、ライアン」
薄れていく意識と、身を縛るゾーマの呪縛と、
隣で呪文を唱えるサマンサを感じながら、デスピサロはゆっくり瞼を閉じる。
この結末は実に不本意だ。ロザリーに再開できないのは無念極まりない。
しかし同時に、不思議な安堵がある。
考えるのは、自分の死を知ったロザリーはどうなるかということだ。
泣くか。それとも耐えるか。どちらもロザリーらしいので判断がつかない。
ただ、あれは優しいから、悲しんでくれると思う。
そして、最後の最後で人間を仲間と認め、信じたことを。
「――――ロザリーは、きっと誉めてくれるだろう」
そうして、デスピサロとサマンサは消えた。
【サマンサ 死亡】
【デスピサロ 死亡】
【残り 18人】
最終更新:2011年07月18日 08:23