泪(なみだ)

きっともう会うことは出来ないだろう。ライアンの瞳から涙が零れ落ちる。
クーパーもまた、泣いていた。父の形見を抱いて、声を殺して泣いた。
ザオリクをかけようにも、父の体は死とともに無の世界に飲み込まれてしまった。
対象がどこにあるのかわからない状況でザオリクは唱えられない。
母に続いて、父まで失ってしまった。少年の心は絶望に満ちていた。

泣いている少年に、分身たる少女と祖父が歩み寄る。
少女も泣いていた、少年が泣いている意味を悟ってしまったからだ。
支え合うように寄り添う二人の子供を見て、パパスは真一文字に口を食いしばる。
子の為に自らを犠牲にすること。かつて自分が行ったこと。
それを息子が行ったことに、パパスはなんとも言えない気分になる。

バッツリディアもやってきた。不安そうに兄妹を見守る。
二人とも天涯孤独の身だ、その辛さを知っているからこそ、嘆くのもわかる。
しかし、これだけは言っておかないといけない、とバッツは思う。
「クーパー」
「バッツ兄ちゃん……お父さんが、お父さんが……」
「ああ。俺も父を看取ったから……いや、こんなこと言っても仕方ないな。
 クーパー、今は泣いてもいい。けどこれだけは忘れないでくれ。
 ――――お前は、一人じゃないってことを」

クーパーは涙に濡れた顔を上げる。
バッツは屈んでクーパーの高さに合わせると、その両肩を掴む。
「お前の体には、血と想いが流れてる。願いを受け継いでいるんだ。
 とんぬらさんはお前の中にいる」
「僕の、中に……」
「そうだ。それを忘れなければ、生きていける」
バッツの言葉にクーパーは小さく頷く。
頷き返しながら、バッツは思う。
今はまだ理解できないだろう、と。
しかし、クーパーは強いから、いずれ気付いてくれる、と。

そんな風景を、アイラはじっと見つめていた。
マダンテの影響で呪いの指輪は砕かれ、一度は混沌に帰った彼女だったが、
復活した時、元の姿に戻っていた。切り落とされた腕もだ。
彼を助けようと思っていたけれど、最後の最後まで助けられっぱなしだった。
それが、切ない。はぁ、と重い溜息をつく。

「ともあれ、これで終わりかな」
声をかけてきたのはエドガーだった。アイラは一瞥して答える。
「そうね……戦いはこれで終わり」
「後は、どうやって元の世界に帰るか、かな?」
「ええ。けれど今は――――」
難しいことを考える前に、休息が欲しい。
素っ気無いアイラの態度にエドガーは肩を竦める。

そんなエドガーを、デッシュは呆れた顔で眺めていた。
「エドガーの奴、ホント抜け目ないな」
「抜け目がないというより、節操がないだけだと思うけど」
エーコの評価は果てしなく辛い。
「最低限の気配りは必要だと思うけど?」
それに比べればエアリスの評価はやや甘い。

「とにかく、おつかれ様ってコトで」
やってきたティーダはやや小声で言う。
ティーダも母を亡くして父はあの有り様だからクーパーの気持ちはわかる。
ただ、かける言葉が見つからないので、こうして戻ってきたのだ。
死の螺旋は断たれた、か」
「けど、最後の最後まで、誰かが犠牲になるんだね」
アーロンリュックも渋い口調でやってくる。
誰かが死ぬことで一時の平穏を保つスピラと、結局は同じなのだ。
ティーダは呟く。
「だから、繰り返さないようにしないといけないんだろ」

「そうだ。巨悪を倒して、それで終わりってわけじゃないんだ」
アルスは剣を収めながら歩いてくる。
「生き抜いたからには私たちの物語は続いていくもの」
「元の世界に帰ったらどうなってるかはわかんないけどね」
ティナバーバラも集まってくる。

ゾーマが消えた今、もうこんな所に止まる理由はない。
ただ惜しむのは、折角出会えた仲間たちとの別れだ。
だからこうして集まって、語り合ったりするのかもしれない。

「歓談中腰を折るが、そろそろではないかな」
しかし、そんな雰囲気もお構いなしなのが、この老人だった。
「そろそろって?」
何となくゼニスの対応役になってしまったデッシュが問い質す。
ゼニスは素っ気無く答えた。
「この世界が崩壊するということじゃよ」
「はぁ!? ちょっと待て、それってどうなるんだ!?」
「さて。ゾーマが消えて、この空間は方向性を失っているのでな。
 どうなるかはわからん、しかし――――」

ふと気がつくと、世界があやふやになっていた。
それは次第に明確になっていく。視界が歪み、感覚が薄れていく。
何処にいるのか。隣に誰がいるのか。立っていることすら怪しい。
そんな状況で、ゼニスの声が聞こえてくる。


「――――方向性を与えてやれば、望む世界に通じる。
 行くべき場所を思い描きながら進めば、約束の地に辿り着くはず」


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最終更新:2010年03月06日 01:27
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