流血少女解決編SSその1『 三匹がいったり帰ったりして斬る!(だだし特に謎は解決しない)』


●キジも鳴かねばヒートウィーク

~ある日の学園広場~

「「お~~~!3000点!絶対取るぞ3000点!!」」

今、ダンゲロス後半戦締め切りに向かって全力疾走している私、熱月 雉鵠はひめぞの学園に
通うごく普通な女子高生探偵。
強いて違うところをあげるとすれば登場即投了クラスの禁(マジモンの)転校生ってところかな。
今日も今日とて仲間のヘッキーからお呼びがかかって旧校舎に向かって全力失踪中、
そんな最中、通りかかった広場をふと見るとベンチにひとり、壮年の男性が佇んでいた。

「「   ウホッッよい”想念体(Angelos)”  」」

そう思ってると(実際はハイテンションで響き渡る声で叫んでいた模様)男はため息をつき、

『―――――・な。』
「ふへ?」
一瞬で彼女の死線を横切った。そして背後から振り下ろされる拳骨。

    ご ん 。
「ィタ~!」
『やれやれ、あんまり、ふざける・な。』

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「ふざけてないよ!実際おじさん、年頃の娘さんがこんなお父さんなら自慢できるのにという
生きた標本ナイトミドルぶりじゃん!と熱月雉鵠はここぞとばかり自己の評価の正当性を主張します。」

雉鵠はひとしきり頭のこぶをさすった後、さっと片手を上げ『想念体』のおじさんに抗議を行う。
この『想念体』というのは通常の人間には感知できない不可視のエネルギー体の通称のことで、
主に観測目的や何某預言の伝達者として現れることから〈使者〉を意味するギリシア語"angelos"と呼ばれている。
未来や過去いたる場所に現れるが、時間軸あるいは次元が異なるため、幽霊や怨霊といったものと違い
現世に直接干渉してくることはない。
また本来、見えもせず聞こえもしない存在ゆえに無害である…と思われたが。

その前節は振り下ろされたゲンコツの事実により否定された。無害ではなかったようだ。
ベンチに居た男はしゃがみこんだままの相手を見、肩を竦める仕草をする。

『正確にはもう死んでる―――というか拳骨落しといてなんだが、なんで殴れてるんだ。』
「見れてるし聞けてる、ついでにふっとばしたりふっとばされたりもできるよ。
理由は企業秘密!寧ろ驚きはこちらだよ、この熱月雉鵠ともあろうものが、完全に虚をつかれたよ!
今どうやって私の横、横切ったの?」

雉鵠は上げた片手を振り下ろさず、そのまま反対の手でびしっと指さし、決めポーズを固定した。
どうも相当ノリのよい性格のようだ。

『こちらも企業秘密だ。ついでに存在含め見なかったことにしてくれるとありがたいが…』
「あー、でも男子禁制のひめぞの学園に堂々入り込んでおいて見逃してくれは通用しないと思うよ。」

ここで雉鵠は改めて男を見やり、マジマジと観察する。
年は壮年。背丈は中肉中背より少し上。そして一番、特徴的なのは装い。全身、白スーツ、
上の帽子から下の靴まで白一色なのだ。しかも似合っている。
なかなかこの国でこの手の衣装が似合う人間はいない。ナイスミドルと評したが、決して誇張ではない。
こんなのが胸に薔薇指して外車転がして来たらトンデモナイ事態になるだろう。

男のほうも もの珍し気に視線を座り込む少女に向ける。
年は十台前半。背丈はやや小柄だが、地毛は赤、白く染めた髪で後ろから見ると日の丸のような色合いだ。
感情は好奇心と警戒心がそれぞれ出ているが、好奇心の色合いが強い。あと胡坐はよせ。

(さて、どうはぐらかすか)

この事態、災難は男のほうである。まさか素で『視える』『触れる』人間に遭遇するとは思っていなかったからだ。
その上で好奇心丸出しの探偵少女をいなして『場所を開けて』もらわなければいけない。

「で、おじさんはこの場所で誰を待ってるの?」

その心を知ってか知らずか当然のように少女はツッコンできた。

●少女から綾鷹に出された示談の条件とは?

「僕は熱月雉鵠(テルミドール・じかん)。貴方は何を待っているの?」 

少女は問の後も、巡るめくスピードで言葉の矢を囃し立てる。

「ひょっとして信頼のおけるパートナー? それとも学園最強の使い手? 貴方の最愛の娘? 

正体不明の学園理事長? 運命の渦に呑み込まれた哀れな堕天使? フランス映画の主演女優?  

 外宇宙から襲来した超越存在? 希望埼学園の集合意識? 12の月を司る部活のリーダー格?

はたまたはたまた…」

このままだと延々しゃべり続けそうだ。男は、簡潔に目的を告げる。

『私の名は安全院綾鷹。
待っているのは「仕事の相棒」だ。待ち合わせの場所に先につき相方の到着待ち状態でいる。
そしてお嬢ちゃんが座ってる今の位置が、相棒の指定ポイントそのものズバリになってたりする。
そういうわけで、その場所、”譲って”もらえると助かるんだが…』
「”譲る”ということは私に今”権利”があるという解釈でいいのかな。」

男にしては不用意な一言だったかもしれない。
譲るの一言にぞろりと少女の周囲の空気が変わったのだ。周りに不穏な魔モノめいた気配が立ち上った。

「例えばね、探偵がその活躍の場を”譲ってくれ”と言われたら、どう、こたえると思う。
譲る?無いよね、絶対ない。それはあってはいけない。
探偵とはそういう生き物じゃない。僕あるいは私も同じ、自分の勝ち得た席は絶対に譲らない主義なんだ。
無論、おじさんたちの事情も分かる。だから、ここはひとつ勝負をしないか、綾鷹さん?

今からここに来るであろう貴方の相棒の詳細を僕がピタリと当てる。外したら僕は潔く場を譲ろう。
でも当てたら、その相棒さんがもつ”相棒の権利”を僕に譲ってもらえないかい?」

そして無茶苦茶な要求をし始めた。口調まで心なしか変わっている。まあ、男も長い付き合いで
探偵というのはピンからキリまで変わり者ぞろいであることを、よく理解していたから特に驚きは
しなかったが。綾鷹は視線を宙に動かす。雉鵠は構わず、話を続ける。

「一つ目。
相棒の性別、女性。これはまあ妃芽薗学園である点を考えれば他の選択肢はない。

 二つ目、相棒との関係性。この学園在籍で顔見知りとなると貴方の交友関係はかなり限定される。
   、、、、、、、、、、
ねぇ、安全院さんのお父さん。貴方はここの元学園最強さんとは顔馴染みらしいですよね。

 三つ目、登場方法。
合流地点の表現を貴方は「位置」「指定ポイント」と三次元的に表現した。
広場という比較的、開けた広い目標。登場は空からここ目指して落ちてくるのだろうと予想している。」

「以上の3つの観点から踏まえて四つ目。手段の行使とその宣言。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
わたくし熱月雉鵠は今から上空に現れるもの全て、容赦なく未来に向かってふっとばすことをここに宣言する。
予告というやつだよ。
残念ながら、元相棒さんに関しては瞬殺御免、登場即永続戦線離脱の憂き目を担ってもらう。
なぜなら、この遂行をもって問いの答えは『熱月雉鵠』の一択に確定するからだ!

結果をもって仮定に返す。如何あがいても相棒の地位はこの熱月雉鵠がゲットするであろうこと旨、
雉鵠が本日午後3時20分にて貴方にお知らせいたします。」

空に立ち込める暗雲。
広場に発生するプラズマ。
ふはははは、さあ3000点に向け応援ポイント貯めるぞと、どや顔で高笑いする雉鵠。

CARCARCARCAR!

そして
その勝ち誇る雉鵠の背中に綾鷹の愛車(?)『デロリアン2015』が猛烈な勢いで追突した。

―CAR?――――――――――――――――――――――――――――――「「どやっ」」。
綺麗な放射線を描いて雉鵠は、植込みの木へとダイブする。
綾鷹はそれを見届けた後、視線を前に戻し、急停止した車体へと声をかけた。

『よう冥界ぶり。今回がスカウト後の初仕事だ。気張って頼むぜ。
ああ、その前に確認したいことが一つ。おまえの今回の転送の件なんだが…座標…設定…。
日の丸フラッグを目印にしろって指示が出てる? なるほど、やはりそういうことか…』
―――――――――――
―――――――――
――――――――
――――――
――――
意識ぐーるぐる。雉鵠のおめめは回っていた。
「ううう、無理ゲーだった。車を”相棒”とか呼ぶのやめろよ。アンタいつの時代の人間だよ!」
そして地面にバンバンと両手をセイウチのようにたたいて悔しがる雉鵠。

だが、嵌めゲーを仕掛けるもの無理ゲーになくとは古事記にも書いてある諺。完全に後の祭りだ
フィスティバル状態。そんな悔し涙で滲む少女の目の前に差し出される手。

『残念だが、賭けはお前の勝ちだ。』
その手は綾鷹だった。

「へ?」
『同着と言いたいところだが、あの時点であのポイントに最も近かったのはお前のほうだ。
ならシンの相棒はお前っていうことになるだろう。ほら』
   CAR~!
横にいる”デロリアン2015”も言っている。っていうか喋るのカーよ、この車、スゴイナ。

『まあ2015年バージョンだからな』
「へへ、そうかこれは一本とられたかな。」

目に浮かんだ液体を軽く拭うと少女は男の手を取った。

「一緒に3000点目指そう!」
『そうだな。』
ユウジョウ!ユウジョウ!
世代と陣営を超えた熱い何かが二人の間に生まれた瞬間であった。
「しかしデロリアンって有名なアレだよね。つまりアレするアレ」
『ああ、時を飛べる。最初の目標地点は今から1万二千年前。悪いが全力で飛ばしていく。』

CAR~!
そして彼ら、鷹と鴇とカーと鳴くナニカ―は学園より姿を消す。
軽快なBGMと発生したプラズマと共に、地面にタイヤ痕と火花のみを残して。

ただ少女は状況に流され、確認することを怠っていた。そして忘れていた。

金色の鷹『綾鷹』とその愛車の目的を聞くことを。
そして何よりここで加算される応援ポイントは相手陣営のもので自陣営には全く関係ないものだということを。


●続!三匹が行ったり来たり帰ったりして斬る(英題:Back TO A-yataka2)

uuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu ZOOOOOOOOOOOOOOOOON!

プラズマの嵐を抜けた先は地上50mほどの何もない空間だった。
地面が遠くて赤い。
地平線が見渡す限り続き、乾いた風と青い空のみの空間。そして当然のように垂直落下するデロリアン。

「わっと!」
『おおっと』
CARCARCARCAR!

綾鷹がスイッチを入れると四輪全てが直角に伏せられ、車体は逆噴射によって姿勢を立て直す。
「ヒャハー、アメリカの車って飛べたんだ。」
『―――まあ2015年仕様だからな。』

どうやら2015年時、車には相当な夢の技術が詰まっているらしい。モータリゼーションの未来は明るい。
ただそのまま飛び続けるほどのパワーはないようで車体は滑空状態となり、そのまま地面へと着陸する。

CARCARCARCARCA~!

派手なドリフトかましながら回転し、地面にミステリーサークルを描きながら綾鷹たちは着地する。
目ぼしいものは無いかなと雉鵠は周囲を見渡した。

「おっ建物、発見。でも、遠近感おかしくない。」
『ああ、あれはバベルの塔だ。』

視線の先には巨大な建造物が立っていた。明らかに建造中で完成品には至ってない。
ただし大きさは桁違いだった。周囲に比較対象がないから正確な大きさは図れないか、1000mは軽くあるだろう

「いきなり凄いの見せてきたね、ちょっとゆっくり見てみたいかも」
『だが今まさに崩れる瞬間でもある。双眼鏡、使うか?』
「ちょっ!?」

綾鷹が放り投げた双眼鏡を慌てて受け取る雉鵠。
双眼鏡を目に当てて間もなく上層部が崩れはじめ…10秒、今度はずごーーーん と凄まじい音と爆風が地表を襲った。

「たまやー!」
『仕事の話するぞ。その後、塔作ってた連中は内輪もめしはじめ、ある一派がこの地を離れ、各地を流浪し始める。
そこで連中の隠している秘密を事細かに調べる。今回の目的の一つがそれだ。」
「ふんふん、で探るべき対象は?」
『隠しているモノ全てだ。できるか』
「楽勝、楽勝、問題なし。」

『なら手分けして調べる。
そいつらは最終的にはヒメゾノの地に行きつくことになるから。そこで合流するとしよう。』
「アイアイアサ!」


―――――――――――――――――――――――――そして500年後――――

『よ、調子はどうだ?』
「――――どうだじゃないよーーーー。どーんーだーけヒトを待たせるの~どよーーん」

気軽に声をかけた綾鷹に対して返ってきたのは大地に染み渡るような呪詛の声だった。
それでも例のあの変な決めポーズは忘れてはいない。なかなかガッツのある探偵だった。

「最終的にはって、極東の集合地点にたどり着くまで何世代経由してるのさ。
なんか地味に最古にして最長の探偵存在になっちゃたじゃない。」
『大丈夫だ。問題ない。おまえにとっては500年前の出来事かもしれないが、
私にとっては、そう昨日の出来事だ。』
「フッじゃないよ!余計性質悪いよ!――――――――――――――――もう!
まあ、こっちも別件で頼まれごとされてるから丸損ってわけでもないけどさ。」

雉鵠はブツブツつぶやくと綾鷹に先行して歩いていく。
ちなみに彼女の外見上全く変化がない。日の丸カラーの後ろ姿もそのままだった。謎だ。
てくてくてくと歩き、やがて何もない場所で立ち止まると空間に手を突っ込み回し始める。

ふいっ

そしてガチャリという音とともに姿が掻き消えた、綾鷹は慌てたふうもなく後に続く。
進んだ先は、異次元。
何も変わらないままにすべてが異なる世界。太陽が黒く輝き、大地が白く渦巻いていた。
その渦の中から灰色の虹が立ち上り、虚空へと消え去っていっていた。

「彼らが隠していた”裏世界へのチャンネル”。今の妃芽薗がちょくちょく利用してる
空間の原型。あやっちが探してたのたぶんこれだね。
とりあえず、他の地域のも全部みつけといたよ。ハイ、各拠点の進入口の地図。」

投げた羊皮紙を空中で受け取った綾鷹は口笛を吹いた。
『流石だな。メインの五芒星全ての入口を見つけたのか。
――とすると「虹」の先の集約点も。』

頷く雉鵠。
各地点から発せられた「虹」は各点を結び五芒星の形をとっていた。その中心部に向かった
彼女が見たのは未完成だった地上とは異なる、完成された『塔』の姿だった。
違いがあるとすれば過去見た塔は地上から天へと延びていたが、この塔は天から伸び地上に
先端がつきささっていたことだった。

「ただね。」

人類が鉄器を発明したのは早くても現代から5000年ほど前。文字もない一万年も前に1万m越えの
建造物を作れる技術はない。そして天から地上へと伸びる塔という事実。
結論は考えるまでもなく一つだ。表の塔は天から降りてきた「誰か」が「教えた」わけだ。
彼らが持つ製造技術を。

「一つ不明瞭なモノがあった。」

ただ彼女が見たのはそれだけではなかった。もう一つ、裏にある塔の頂点、つまり
地上に存在したアレの存在。

「私が見た。”アレ”は何?」
『アレか。アレは――――アビメルムの悪夢だ。』

アビメルムの悪夢
分類:パラシトス(饕餮)
夢を介して現れるパラシトス 何層もの次元に渡って存在するものと考えられている。
アビメルムは魔人の「魂」、つまりはその心を蝕み糧にする。
特にアビメルムの受胎者はアパストル(使徒)と呼ばれ、アビメルムが安定して
魂を得るために、文字通り寄生される。
アビメルムによって蝕まれた魂は、怒りや憎しみなどの負の感情のみを生み出すよう
になり、負の感情は受胎者の心の奥底に蓄積される。その蓄積されていく負の感情は抑圧され、
受胎者の精神が崩壊するまで蓄えられる。その限界まで押し込められた負の感情によって、
受胎者の精神が崩壊したとき、それまでアパストル(使徒)と呼ばれていた受胎者は
バシリウス(王)と呼ばれるようになり、魔人として覚醒する。
このとき、生じた魔人能力は直ちに、術者と分離してシスマとなる。シスマは
次なるアビメルムとなるべく1つ下位の次元へと転移を図る。そこに転移したシスマが、
新たなアパストル(使徒)を選び出すというのを繰り返す事で、何層もの次元に渡って、
アビメルムが存在する事となる。
                     (ピクシブ百科事典 Sの眷族より引用)

「んーーー現物は初めてだけど知識としては前から知ってる。でもねー文献では大きさは20m
越えくらいのはずだよ。”アレ”はそういうものじゃなかった。」
『そのサイズは人の精神を仲介した場合の話だ。
バベルの塔の影が引き起こし、巻き起んだ『悪夢』はヒトとは違う高位の『Angelos』に
よるものだ。迷惑度は一味違う。』

「アレ、あやっちのお仲間さんだったんかい。」
『私が所属する前の話だがな―――そこで、そこの部分をもう一度、洗い直してきたとこだ。
塔建設の数十年前、流れ星があの地域一帯に降り立った。記録では全部で7つ。
造反した”Angelos”は持ち逃げした叡智を人類に与え、共に栄えた。
そして表と裏からなる塔は当時の人々の夢と希望を一身に集めたが、最終的には立ち行かず
やがて一人が『事故』を引き起こした。
顕在化した悪夢に当時「カンパニー」から実行部隊が派遣されたんだが、第一陣あたりは傷一つ
付けれなかったらしい。ガチンコ勝負では連戦連敗で、まるで歯が立たなかったらしい。
ただ何せ”あの大きさ”だ。燃費のほうはとんでもなく悪い。最終的には
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
塔を崩し、不和をまき、名をつぶし、崇めること自体を禁止することによって「供給源」を立った。
そしてエネルギーが不足して動けなくなったところを封印処理してそのまま放置でジ・エンド。
後は野となれ塵となれ方式で解決済案件と相成ったわけだ。』
「ちなみにその7つの処遇は」
『4つ捕縛、1つ凍結、残り2つは逃げおおせて行方不明のままだ。」
「いろいろとザルすぎない?」
『この手の『事故』は当時は結構、頻繁に起こってたようだからな。
毎度その場しのぎの人海戦術のごり押しと洪水リセットで片づけているとこういうことは
まあ起きる。」

ふうんと適当に相槌をした少女は、あることに思い至り、ぴくりと体を反応させた。

「じゃ、もしあの凍結されている”アレ”が再度動き出したらどうなるの?」
『止められないと判断されれば、おそらく上層部、評議会の決議を経て、同じく凍結されていた
「洪水計画」が再発動する。それが実施されれば99%の人類は死滅するだろうな。』

●神は背で歌う~鮫氷しゃちに謎はない~

「鮫氷しゃち」は謎の多い存在だと言われている。

『モノクロの海』の能力原理はおそらく通常の人間には理解しがたいものであるし
また、その能力の虚数解を理解しても意味はない。
意味はない。理解しても倒しても無駄なのだ。

ただ覚えておく事実は一つだけ。
倒しても、また何処なく新たな”しゃち”が現れる。
倒されたほうも現れたほうも間違いなく偽物。一ⅰや白金某といった魔人もシャチ化した単なる犠牲者。
彼女は容易に己の分身を作り出す。安易に作り出す。

ふんふふんふん、スキップスキップ。

鮫氷しゃちは街並みを楽し気に散策していた。
彼女の趣味はテーマパーク巡りと人間観察。好奇心旺盛で享楽的な彼女は有史以来、
お祭り騒ぎは大の大好物だ。特にテーマ―パークが好きだ。

ただ楽しいだけの回ったり落下したりする乗り物、縁日でもないのに毎日パレードを繰り出す夢想感。
特に今の東京は世界NO1最強のシンデレラを決める格闘大会が今まさに最高潮を迎え
全域総テーマパーク状態となっていた。

今日も今日とて ふんふふんふふふん である。

今も某アイス屋のサーティワンワールドレコードとポッピングフカヒレを特盛カップでほおばって
いたのだが、何か感じたのか、手元のスプーンを止めると周囲に素早く視線を走らせた。

(…?)

一瞬感じた違和感にざーーーーーーーと周囲の異常を探ったが妙な形跡は感じ取れなかった。
少なくとも20km圏内にはおかしな存在はいない。
昔さんざん追手がかかったときも上手く掻い潜った自分だ。監視者がいれば必ず気づく
たぶん、また、あの女王様がなんか仕掛けたのであろう。異次元の穴が開いたり転校生が召喚されたり
巨大怪獣が沖で暴れたり、それと対峙するため缶娘たちが出動したりとてんやわんやな状態が続いている。

しかし綾鷹、綾鷹ねぇ。その名前、どっかで聞いたような―
そんなことをつらつら考えていると向こうから全身白づくめの少女がやってきた。こちらを見つけると
大きく手を振る。

「ああ”ぷらずま”。ここにいたのか」
「ん? 庵しゃん。バケツ効果はばっちりですね。じゃあ、いきましょう」

そう、あれは庵 白彩、今の私のパートナーだ。
そう、今のしゃちは”ぷらずま”だった。
そう、当たり前の話だった。代理が働いている間、彼女がしゃち自身である必要など何処にあるだろう。
そう、だから無駄なのだ。人身御供を立てながら、しゃちの本体は無限の人海に紛れている。

砂漠の砂一粒、亡者の地獄で目当ての金貨一枚を探しあてるようなそんな苦行は誰も望まない。
目の前の少女も新たなしゃち候補の一人だった。彼女は自身のあり方や腕に自信がなく、心の隙間に
たやすくつけいることができた。その手管として今の”ぷらずま”という姿があるのだ。
 過酷な戦いに心折れるかと思っていたが意外にも戦いの中、成長し、己のアイデンティテーを
確立しつつあるので、どうやら鮫氷しゃちになる運命からは逃れそうではあったが…。
だが、しゃちは気にしない。次の目星(ターゲット)は既に見定めてある。昨日遭遇したあの子、
十束学園の人工魔人ちゃん。
そこそこ強くてむちゃくちゃ心の弱いあの子。彼女なら私の良いパートナーになってくれそうだった。














見飽きることなき

愛おしくも

愚かな人間たち

享楽の日々、流れる雲は今日もただ白く美しい。

それでも空虚はぬぐえない

原始の海にまぞろ、今は真の名さえ、溶けて消えてしまった。

それでも救いは現れない。なぜなら我らは主に背を向けた。決して赦されることはないのだ。

かつて六対の翼をもちた赤き蛇は鳴く。

以津真天
嗚呼、以津真天と。



そして… 彼女は黄金の鷹と遭遇する。

●…して…運命のベルは鳴る。
『調査終了だな』
「御見それしました。で、この後どう始末つけるん?」

男は車に身を傾けると紫煙を揺蕩わせた。

『―特に何も。
過去の出来事、それは今の土台に過ぎない。それを今の人間がどのように利用しようが、
それはもうヒトの歴史だ。それ以上は言われていないし、干渉する気はない。』
「でた、大人なドライ対応。」
『無論、報告後に各人それぞれの思惑は出る。後はこれを読んでる奴に期待するよ。』

(…そしてその各人とやらを焚き付ける気まんまんだ。というか今回、あやっちの
使命って私が世に出す「調査報告書」の精度高めることも含まれてたんじゃないかな。
例えば人類への警告とか釘指しとかを考えて…。まあ煽るだけの結果で終わりそうだけど)

『らしいな。オレも無意味という意見には賛成だ。』

いや、だから普通に探偵の思考読んでくるのはやめてほしい。
しかし、どうやら今回の話はここで終了のようだ、ならば最後は大人の話になる。

「じゃ、報酬。」

綾鷹の前にずいーと鴇の可愛らしいおててが突き出された。散々こき使われたのだ
当然の要求だった。綾鷹は紫煙を揺蕩わせ、遠くを見やる。

『そうだな、アークエンジェルにでも…』
「報酬!」
『・・・探偵、それは真実の配達人。』
「報酬!!」
『或いは明日の出来事…』
「お駄賃!今すぐ!プリーズ!協力したんだから」

ぷーと頬を膨らますと、おててを再度突き出す少女。
天を仰ぐサラリーマン。彼の負債は半端なかった。

『ああ分かった。だた払える範疇でだぞ。』
「ぐへへへ じゃ、いっちょ体で払ってもらおうか、ぐへへへ」

     ごつん。

『殴るぞ。』
「だから、げんこつ落した後で言わないで。じゃ、体が駄目なら名でいいよ。綾鷹さんの名前教えてよ」
『鳥頭か』
「だから、どこかの都知事候補と一緒にしないで。ほら本名のほう。安全院家に婿入りする前の名前のほうあるでしょ」

パタパタ手を振る。
意味は了解したが、意図を解せず綾鷹は首をひねる。

『?――そんなもの調べれば一発だろう。』
「だ・か・ら、そういうのは本人の口から教えてもらうのが粋でいいんじゃないか。最後の〆ってヤツ。
それとも宮仕えが長くて、ハードボイルドの心意気忘れちゃったの?」

男は改め、まじまじと少女の顔を見やった
少女はにやりと笑う。男はあきらめたように煙を打ち消した。
『全く。                                 大した奴だ。
     真実は事実という積み重ねの先にある。
それが私が真野一族を出るときに捨てたオレの名だ。これで満足か』
「シンの事実で、真野事実(まのじじつ)か。ハハハ、それは実に探偵らしい、よい名前だね。
大満足。ではでは――」

そして、いつものように少女は手をピッと挙げた。誇り高く曲げることなく。
その探偵少女の賞賛と別れの挨拶に、元探偵は帽子を軽く浮かすことで、別れの挨拶と替えた。

                        「 熱月 雉鵠の回山倒海 」了
                                                 「 安全院綾鷹の人間関係R "BACK TO A-YATAKA"」了



最終更新:2016年08月15日 22:52