延長戦第三試合SSその2


「ここはどこだろう」
 雨月は気が付けば、古臭い木造校舎の一室にいた。
 見渡せば、白骨標本や人体模型が置かれていることから、そこは理科室のようである。
 しかし、何よりも重大なことがある。
「……僕は誰だろう」
 雨月は呆然と天井を見上げた。
 記憶が無い。
 自身が何者なのか。
 その情報だけがすっぽりと抜け落ちている。
 しかし、空虚というわけでなく、思い出せそうで思い出せない。どこか歯がゆさを雨月は覚える。

「いらっしゃい」

 雨月が振り替える。
 そこには白いパーカーを着た少女がいた。

「君はいつからいたのだろうか」

 先程まで、気配を感じていなかったため、雨月は首を傾げる。

「ずっと」

 白パーカーの少女は、抑揚なく答える。

「私は案内人」

「そう。なら僕が何者か君は覚えているかい」

 雨月は尋ねた。
 しかし、

「なぜ、あなたがここにいるの?」

 少女は雨月の問に問で返した。

「それは、僕が聞きたいんだけど」

 雨月はやれやれあと首を振った。
 しかし、少女は首を振ると同時に、宙空から斧のようなものを取り出した。

「まるでマジシャンだね」

 雨月はぱちぱちと手を叩いた。
 そんな雨月に対して、少女は斧を振り上げ、向かってきた。
 雨月はすんでのところで避ける。

「ここは蠱毒。既に転校生として目覚めたものは、ここにはいらない」

 少女は雨月を見て言う。

「これは夢。記憶の欠落は、あなたが、本来、この異界にいるべきではないから。一睡の夢の中の出来事に過ぎない」

 そして、そう続けた。

「ご親切にどーも」

 雨月はにっこりと作り笑いを向ける。
 刹那、少女の姿が消える。 

「あれ」

 そう呟いたとき、雨月はベッドにいた。
 目覚まし時計がジリリと鳴っていた。


最終更新:2016年08月22日 23:54