遺伝子の定義と「一遺伝子一酵素説」

メンデルがはじめて「遺伝子」を定義したときには、それは、「生物の形質を決定する因子」とされた。
理論的な要請からの帰結ではあるが、その物質的基盤を問うてみれば極めて曖昧な定義であり、そのためもあって、「遺伝子とは何か?」という問いに対しては、現在をもってしても、さまざまな生物学者間で意見の一致を見ていない。

ビードルとテータムは、自身の研究結果とその当時の知見を集約させた結果、生物の形質がどのようなものになるのかが決まる際に重要なのはタンパク質、それも、タンパク質や糖・脂質などの他の物質の構造に大きく影響を与える酵素である、と結論して、「一つの酵素の合成を支配するものこそ一つの遺伝子である」という一遺伝子一酵素説を提唱した(1945年)。

しかしその後、1953年にDNAの二重らせん構造が明らかにされるなど、分子遺伝学のめざましい発展によって、一つの酵素に一つの遺伝子を単純に対応づけるのは困難であることが明らかになり、一遺伝子一酵素説の説得力は次第に衰えていった。

現在では、実際にタンパク質のアミノ酸配列を決定するDNA領域、つまりタンパク質をコードしているDNA領域(これを「構造遺伝子」と呼ぶ)や、RNAポリメラーゼが最初に付着するDNA上の領域である「プロモーター」などの制御領域(タンパク質をコードしているわけではない)など、タンパク質合成に関与するすべての領域を含めて「遺伝子」と呼ぶことが多い 。

ただし、メンデル遺伝学の領域では当然メンデル流の定義が、ビードルとテータムに関連する領域では一遺伝子一酵素説に基づく定義が使われるので、問題文の文脈を良く読み取りながら、どの定義を適用すればよいのか、ケースバイケースで判断する必要がある。
最終更新:2009年05月23日 15:19
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