ぴちゃ。ぴちゃ。ぴちゃ。
 その行為は、愛を確かめる行為。未来を作る行為。
 だが、今その行為を行う二人に、その様子は感じられず。言葉も交わさず、ただただ相手の肉体を貪るだけの行為。
 精巧な体つきをしたその男の、周りに散らばる衣服。脱ぎ捨てられたその服は、その年代が着るには高価すぎる。
 女は、少女と表現するべきと思えるほどの華奢な身。しかし、纏う色香は少女では醸し出すことはできない。
 ずちゅ。ずちゅ。ずちゅ。
 淫靡な音と、高揚と快楽の喘ぎのみが部屋に響く。暗い部屋の中、二人ただただ求めあった。そこに愛はなく、肉欲のみの感情。


「何か、飲むか?」
「冷たければ、何でもいいわ」
 行為を終え、飲み物を注ぐ男。女の手にも、冷えた酒の入ったコップが渡る。
 男は一気に中身を呷った。
「なぁ、聞きたいことがあるんだが」
「あら、契約には”質問は一切しないこと”と書いてあったはずだけど」
「知ったことか。そうは言われても興味は湧く。なんだったら、あんたはそのまま聞き流せばいいんだ。それだけで、もう1時間はできるようになるかもしれないんだからな」
「……へぇ」
「なんだってあんたはこんなことをする? 確かにあんたと寝るだけで、ウチの組に多量の援助をしてくれるっていうのは魅力的だ。けどその友好路線が不思議でしょうがない。下から取り入らなくてもウチ程度の組、あんたの力なら、上を押さえてまるまる持ってけるはずだ」
「……」
「それに、あんたの噂はよく聞いている。組織の慰み者程度のガキが、その組織を丸ごと飲み込んじまった、ってぇ話。そいつは今もその組織を自分の物として使ってる。しかも、飲まれる前よりいい組織になっちまってるっていうな。……そいつの特徴は、ありえない緑色の眼」
「……二つ、訂正よ。」
 女が口を開く。
「ひとつ。その組織を乗っ取ったと言われるガキは、当時20歳だった。立派な成人」
 男はしまった、と思った。この女は年下に見られるのをかなり嫌う。こんな外見だが、自分より年上だ。
「もうひとつ。別に組の拡大の根回しではない。ただの趣味よ、これは」
「……趣味、だぁ?」
 男の顔が疑問に歪む。自分と一晩寝るだけなのに、結構な金が動いているのは知っている。その金額が、到底自分に釣り合わない量だということも。
「そう、趣味。私を日常に繋ぎとめる、お手軽な儀式」
 女はグラスを呷ると、それをボードに置き、男の首に手をかける。
「常識という名の衣服を脱ぎ、欲望という名の肉を曝け出す。だけど、その肉に守られている理性は投げ出さず」
 口づけを交わす。長いようで短い時間。
「そしてそれに見合わぬ別の欲をぶつける。そこにあるのは好奇、執着、隔意、嫉妬……言葉に表すには多すぎる、様々な感情」

「その感情が、私をこの世に引き戻すのよ」

「……わけわからねぇな。俺には全然話が見えてこねぇ」
「わからない? それは結構。超えし者にしかわからないわ、こんな気持ち。つまりね」
 女は、にたりと笑って告げる。

「灼けちゃってるのよ、この頭は。絆を求めるあまりにね」




(……つまりイカれたビッチだよなぁ)
「殺すわよ」

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最終更新:2010年11月26日 22:55