社長室併設の会議室。
今日も馴染みのメンバーで、楽しい会議が始まる。
エンドレスナイン生成の為、天文高校での大量虐殺、それに付随するレネゲードの展開、ジャームの生成、バッドエンドメイカーへの信捧を深める儀式の形態。
「天使を魔力によって呼び出す。セフィロトの樹へと星幽体によって移動し、プネヴマを爆発的に……、」
オカルト的用語のみで構成されたこの話をしているのは、眼鏡の女。
綿貫由香利である。――FHが誇る研究セルのセルリーダーがこんな話をしているのを聞いたら、セルの研究員は卒倒してしまうかもしれない。
彼女は大真面目に、手元の資料を読み上げていただけだ。
「おいおい、俺に友達を手にかけろ、っての?」
座り心地の良さそうなアイボリーのソファーに沈みながら、「わざとらしく」、反論したのは金髪の少年である。
「望む所だろう?化物」
「――あはっ」
「そう作ったのはアンタだろ」
三ツ角元春は微笑みながら――狂気の、理性無き光を、既に双眸に湛えていた。綿貫を見つめ返してそう呟くも、彼女はそれを気にした風も無く、
「お前は最初に死ぬ。 そしてその後、校内で超常的な演出を以て、殺害を行え。それに仲間割れを誘引。服装にも指定が在る。…ピエロの仮面に中世ヨーロッパ貴族の服装が必須。」
「…ふざけているのか。」
「真面目な話をしている」
この部屋の主、西京寺孝三は疑わしげに彼女に尋ねるも、女の返答も矢張り本気のようで、溜息を吐いた。
「綿貫様。私はこれから信者を導かねばなりませんので、これにて」
「お、おおッ、子子子子様……お帰りですか、キミッ、お送りしたまえ」
「いえ、結構」
底の知れぬ、淀んだ瞳の男――子子子子十は、楽園教、というカルトの教祖たる男である。彼の教徒である西京寺氏は、去る彼の背中へ、せめて万歳を三唱するごとく、
「…楽園の扉、開かれんッ! 楽園の扉ッ、開かれん、 楽園の扉、開かれェェェーーーンんッッ! キ、キミもやるんだ、ほらッ」
血走った目で「聖句」を呟き、子子子子を見送りながらも、彼の最近の新しい秘書へと口角泡を飛ばした。恐らく、この秘書も長くは持つまい。
「……嗚呼、お前は観察と記録だけしていれば良い」
「………。」
それすらも見えていないかのようだった。綿貫が言った言葉に、少年がこくりと小さく頷く。
は、と小さく、三ツ角は鼻で笑いながら、
「へぇ。いいなぁ、かーんざクンは。手ぇ汚さずにお愉しみってか?」
「……」
金髪――とはいえ、三ツ角とは違い、純粋な血統のものだ。それに赤い瞳、英人の血を引いた神座蔵人は、絡まれても何も言わず、紅色の瞳を伏せる。
「人形相手に、人間らしさを求めるな。お前は人間的な歪みのモデルケース、こいつは人間ですら無い」
「…、そーかよ。 …そういや、コココ娘の奴は?」
「既に準備を始めている、とのことだ。お前達は明日に備え、今日は帰宅しろ」
「ヘイヘイ」
「……。」
面白く無さそうな顔は、終始会議中変わることの無かった三ツ角は、そのまま立ち上がる。
同じく、立ち上がった神座と共に、その帰路につく。
いつも無言ながらも、何処かひよこのようにちょこちょこと彼の背を追う神座は、きっと三ツ角の事を嫌いでも無いのだろう。それでも、別れ際まで会話も無い、味気ない別れになるのだが。
「三ツ角」
「……お?」
怪訝そうな顔で振り返り、返す三ツ角。
何せ、彼から話しかけてくるのは珍しい事なのだ。
前に、「ケーキが食べたい」、と唐突に言われた時は、「何なの」、と思った彼だが。
「僕は見ているだけ。誰も助けない」
「……あァ、そうだねえ。そのとーり、だからお前は誰も殺さずに、」
「誰も助けないのなら、僕もお前と同じ」
「…………」
理性が無い――化物の筈が、何処か苛立つ三ツ角に、
もこもこのマフラーを結びながら応える神座の表情は変わらない。
そうして、先にエレベータに入るも、――10秒ぴたりと静止して
「………」
「……先行け」
…待っていたのだろう神座を、しっしと手で追い払う三ツ角。
最後にドアを閉める前、神座は真剣な紅の瞳でじっと見つめ、
「おでん」
「は?」
「食べたい」
「………」
閉まる、エレベータのドア。
「……人形、ねぇ。 あれがかよ?」
一人ごちてぼりぼりと後頭部を掻きながら、エレベータのスイッチを、三ツ角は押した。
最終更新:2011年02月12日 13:55