「大丈夫、言う事さえ聞けば、彼方の弟の無事は保証するわ……」
「………」
がたがたと震えている彼女を見るのは、初めてだったわ。
いつも他のクラスの不良に苛められている私を、怖れず助けに来てくれるのは彼女だった。その時でも怒ってはいたものの、怖さは微塵も感じられなかった。
肝試しの時にすら、お化けの類は嫌いだと言っていたけど、悲鳴は一切あげないで気絶していたもの。
とっても、意地っ張り。
そんな彼女が今は小さくなっている。
「わたし、だめなの、あの子が、いないと」
「ねえお願いっ、何でもするからッ、ねえッお願い返して、返してよお願い、ねえねえねぇ、私立派なお姉ちゃんでいるって約束したのッ、お願いねえねえ、弟がいなかったら、それすらも意味ないの、今までの、私の人生って、何だったのッ、ねえ 、 」
「せめて、姉でいさせて、 お、お願い ……ぁああぁあああ、」
とっても、笑えた。
いつも強気な彼女が、こんなに、無様で!
醜くて!
脆くて!
哀れ。だったわ。
強そうな狛井君の事も、少し危ない――というか、私達の側だと想うけれど、田井中さんですら、相楽ですら、悪い事をすれば直ぐに叱り飛ばして。毅然として正義の側に立つ彼女は、弟無しでは何も無いことが分かってしまったのよ。
何かに対する、愛。
私には、もう見えないもの。
だから、今の彼女が理解できないのかしら。
愛がないから。
最終更新:2011年02月12日 13:54