(AM:9:05)
「っ、 うえっ、何か今踏ん――って、おでんのパックぅ? …こんなとこに捨ててくなよ、クソ」
「なあ、」
前を歩いて行った少女を追いかけ、声を掛ける黒髪の少年の表情は渋い。
「どうすんだよ、学校」
「知りませんわよ」
「……。 ……」
応える少女。
彼は悪くないのだ。 通学路で通る公園で、すすり泣いていたクラスメイトを見かけて、どうしたのかと尋ねただけだったのだから。
彼らは高校生である。 だから、こんな時間にこんなところにいるのは、サボりになる。
二人でブランコに並んで乗って、喜ぶ年齢でも無い。
「親に連絡されても嫌だし、お前もほら、…親がアレだろ。
警官にでも見つかったりしたら面倒だし、とっとと行った方が――」
「知りませんわよ」
「…、西京 、」
「あんなひと」
泣き腫らした赤い目で、落ち着いたかと想っていた上品そうな少女は、また泣きそうな声で、確かにそういった。
その一言に呆然としていた少年は、目を伏せて、寧ろ笑っていた。
「……懐かしいな、お前がそういうの。」
「え?」
「あいつと仲良いクセに、悩みの相談は出来ない、って。どういう仲だっつー感じだよ。 ……でも、最近お前、俺にも悩みの相談しなくなっただろ。 でも今日、…久しぶりに、さ。」
「小さい頃は、可愛かったもんだけどなあ。 おとうさまがこわいのとか、誕生日に来てくれなかったーとかさ、ははっ」
「…―や、やめなさいな!…むかしの、話は」
落ち込む少女は、それでも少し、落ち着いた様子だった。
やがて、目を落としながら、昔を懐かしむように目を伏せて、ブランコを揺らしていた。
「……昔とは、もう、立場が違いますわ。 ただ、彼方になんでも頼り、依存する私とは違いますの」
「別に……依存なんてさ」
「都合の良い時にだけ、彼方を頼って。 ……そんな卑怯な人間に、わたくしはなりたくありませんの。」
立ち上がった少女。
見計らうかのごとく、到着した車がクラクションを鳴らす。
「では参りましょう、中村君。 ………あなたのおかげで、もう、泣き止むことができましたわ。 ありがとう」
「、 あ、 おい」
少し顧ながら、少年の方へ微笑みを向けた少女は、車へと向う。
そのまま、背を向けたままに呟く。
「今日のお呪い。 彼方は――無理に来られない方が、きっといいと思います」
「……何のことだよ。全く」
それを複雑な表情で見ていた少年は、去る少女の背中に、思わず溜息を漏らした。
「頼って欲しい、って言ってんのに。 ………やれやれだ」
「人の気も知らない、お嬢様はこれだから」
最終更新:2011年02月12日 15:54